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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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雪山へ

 吹雪く斜面。容赦なく体を押し返す寒風。自然の中に1人身を置くと、都会と比べて孤独をより強く感じる。


 1月、標高が2000mを超える山岳。ベテランでもまず1人で登ることはない。理由は当然危険だからだ。


 だが俺はこの山に登り続けて7年経つ。あらゆる登山道を踏破してきた。どこが危ないかも把握している。経験も知識もあるが最近は加齢の影響で体力が落ちてきた。もう今年で山を登れなくなるかもしれない。だからこそ急がなくては。目的を果たすまでは山登りはやめられない。



――手袋の中でも手はかじかみ、足先は着込んだせいで汗をかいて徐々に体温が奪われていく。鼻から入る外気は粘膜、喉、気管、肺の順に体内を冷やしてくるし、判断力も鈍る。脛の中程まで積もった雪が俺の目的を阻む。そこから伸びる灰色の木々に視覚を惑わされる。



「っっっ!」


 突然腰から下が重くなった。

 何が起きたのか気づくまで10分の1秒だったが、圧倒的に遅かった。

 俺の身体は落ちたら大怪我では済まない崖から落下し始めたところだった。崖先から飛び出した雪の塊を踏み抜いてしまったようだ。


 吹雪で白っぽい視界に映る雪と木の風景はやけにゆっくりとした映像だった。走馬灯のようなものが見えるわけでもなく、手を伸ばしても届かない加速度的に離れていく目の前の景色を追いかけるしか出来なかった。



(あいつもこんな風だったのかもな)


 脳裏に文章が流れたその時、全身にかかる重力が相殺されて俺は宙に浮いた。


 伸ばした左腕の先は崖から体を突き出した誰かの手に繋がれていた。深くフードを被りゴーグルとマスクをしている登山者だった。

 彼は片手で重装備の俺を一本釣りの如く上まで引き上げてくれた。おかげで俺は彼を飛び越し斜面の雪のクッションに勢いよく落ちた。



 ともかく命拾いした。どこの誰か知らないが感謝と謝罪もしなければと、後ろを振り返った。




 そこに居たのは割れたゴーグルとマスク、破れたフードを深く被って横たわる、7年前にこの山で行方不明になった登山仲間の亡骸だった。



 俺は急いで衛星電話を使い救助を呼んだ。




「俺と友人を回収して欲しい」と。





 この話は下山した後、葬儀を終えてから他の登山仲間や遺族の方に伝えた。



 皆真剣に聴いてくれて、思い思いに受け止めていた。




 話をしながら、いい歳した俺は涙と嗚咽が止まらなかった。





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