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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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トイレ待ち

 俺は月に何度も腹痛になる、胃腸の弱い体質だ。


 腹痛はいつも突発的で場所を問わない。自宅でも会社でも出先でも、原因不明で腹の調子が悪くなる。


 一人暮らしの自宅ならいざ知らず、仕事中にどうしても席を外せない時はなるべく我慢をしていたが、一度30分くらい我慢していたら視界が緑色に染まってひしゃげてきたので周りに事情を説明してトイレに駆け込んだ。



 そんな訳で、トイレに籠る時間は多い。


 1回腹痛が落ち着いても、しばらくするとまた痛くなることも少なくないため完全に治まるまで便座の上でうずくまるのだが……。



 時折、外出中にトイレの個室で俺が腹痛でグロッキーになっているのにも関わらず、トレイ待ちができる。


 早くしろよ、と思う扉の向こうの気持ちも分かるが、こっちはこっちで声も出せないほど死にそうになっているからそっとして欲しい。




 ちょうどこの間、似たような厄介な状況に陥った。



 俺がいつものように急な腹痛に襲われてトイレで悶え苦しんでいたら、外から聞こえてきたすり足の音が扉の前で止まってコンコンとノックをした。


「はいって、まーす…」


 俺は腹に力を入れないよう慎重に声を振り絞った。



 けれど、またコンコンコンと扉を叩かれた。



 さっきの声じゃ小さくて聞こえなかったのかもしれない。俺は脂汗を滲ませながら声を張った。


「入ってまーす」


 さすがにわかってくれただろう。



 コンコンコンコン。

 まだノックをしてくるではないか。



 痛みで思考もまとまらないのに追い打ちをかける音に、俺はイラつき足で扉を蹴った。




――外にいる人の気配がふっと消えた。


 俺も悪いことをしたなと思ったが向こうも俺の事情を察してくれればいいのに。



 面倒に巻き込まれたが、何とか胃腸の調子も落ち着いてきて、全身に無意識に入っていた力みが抜けていく。

 それに伴って頭を占領していた腹痛時特有の自虐的な思考も晴れていく。



 身体が正常に戻ったところであることに気づいた。




「……ここ、俺ん家のトイレじゃん」



 頭の先から血が減って、熱かった体温が冷えた汗で一気に平熱以下に下がった。




 腹痛は治まったのに、その後1時間はトイレから出られなかった。





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