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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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藍色のドレス

「頼む、俺の家のライトを替えてくれ……!」


 切迫した電話を受けたのはその日の昼前だった。


 友人の林はアンティーク家具にこだわりがあるやつで、つい数日前にも100年以上昔の吊り下げ照明を買ったばかりだった。俺も「めちゃくちゃ綺麗だろ」って自慢を聞かされた。


 だから林が言っているライトはそれのことだろう。

 どうして変えなきゃいけないのか? しかも俺が。


 理由を話したがらない林の態度に少しむっとしながらも俺は昼飯を食べてから家に向かった。




 駅から徒歩4分、見えてきたマンション。

 あいつはそこのワンルームに住んでいる。


「来たぞー」

 オートロック玄関でそう言うと食い気味に扉が開いた。

 余程何かに焦っているらしい。



 エレベーターで5階まで上がると、目の前に林が立っていて驚いた。

「うぉっ! なんでいるんだよ」

「いまはあの部屋にいたくないんだよ! 早くライトを外してくれ!」

「わかったから、何でなのな説明しろって!」


 こっちが殺されそうなくらい引きつった顔だったから肩を掴んで揺さぶった。

 落ち着きを取り戻した林が事の顛末を話し出した。



――アンティークだからもちろん中古品な訳で、今回の照明はネットオークションで購入した。

 たまに不良品もあるから掲載された写真や出品者情報を吟味した上で10万強で競り落とした。


 届いた物はすぐに設置して試す。ぼんやりと橙の光が部屋全体を照らす。元から部屋にある家具との相性もいい。いい買い物をしたと満足した。


 ところがその日の日没少し前。

 外光が弱くなって暗いから壁のスイッチでライトをつけた。


 瞬間、ライトの真下に朱色のドレスを纏った日本人の女性が出現した。



 以来、ライトをつけている限りずっと女性が部屋に出てくるという。




「はぁ……」

「信じてねぇだろ!?」

「いやいやそりゃ…そうだろ」

「いいから!ライト外してくれよ!」


 あまりにしつこく必死に訴えてくるから、俺は林の部屋に入った。ドアを開けるとふんわり歴史の臭いがした。


 中は昼間だけど薄暗く、普通なら明かりがあった方がいい。けれど、お気に入りだったはずの照明は天井にぶら下がったままだ。


 照明に近づけば、彫刻を施した木製の基部に質素な電球がついている。

 うん、林が気に入るのも理解出来る。とはいえ使わないのはもったいないとも思う。

 玄関で半開きのドアから覗く林を後目に、興味本位で俺は壁のスイッチを押した。


「っ、やめろ!」

 林が叫んだがもう遅い。


 部屋中に暖かな光が広がった――――



 俺の後ろには藍色の女性が佇んでいた。



「うわ!!」



「はや、はやく、けせ消せ!」

 林の声が遠くで聞こえた気がした。


 俺は女性から目を離せなくなっていた。



 照明の真下から動かない女性。


 整った顔立ち……煌びやかな衣服……吸い込まれるような瞳……



 艶やかな唇が動いた。



「ポォワャ」



 上手く聞き取れなかった。



 が、その美しい顔は意味不明な言葉を合図に、豆腐の様に崩れた。


 ボトトトッ、床に血肉が流れ落ちて骨だけになると、重力に負けて壊れると同時に灰になって消えた。



「え…………」


 俺はいきなりの出来事で反応できなかった。




バチン!


 部屋に薄暗さが戻った。


 振り向いたら林がスイッチを叩いていた。


「ライト!!」



 やっと我に返った俺は引っこ抜く様に天井の照明を外した。




 血肉も骨灰も後には藍色のドレスがただ残るのみ。






 林に話を聞いたが、あの照明がいったいどこで誰が使っていた物かは結局わからなかった。



 でも出品者に問い合せたところ、

「あれは財産差し押さえになった旧家からの品です」と回答があった。







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