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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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雨宿り

 某所に旅行へ行った時のこと。

 俺と友人は夏でもないのに突然の雷雨に見舞われた。

バチバチとアスファルトに打ち付ける音の中、大急ぎで荷物を抱えて雨宿りできる場所を探した。


 ちょうど目的地からの帰りで長距離を無人駅まで歩いていた途中で、しかも当日の天気予報では降水確率が10%だったから雨具も持っていなかった。街中ではなかったため民家もなく、周囲には深い木々が生い茂る山ばかり。

 お互い半ば諦めていたら、友人が「あそこ!いくぞ!」と遠くを指さして叫んだ。

 視界を遮る滝のような雨粒のせいで見えづらかったが、確かに道の先の山肌にはぽっかり空いた穴があった。水を吸って重くなったリュックと靴に体力を消耗しながらもなんとか無事?にその穴に転がり込んだ。


「はぁ……おい……大丈夫か?」

「いやいや、全然ダメだって……うわっカバンの中まで濡れてるよ」


 見たところスマホやカメラは一応無事だった。

 俺たち自身は着衣水泳後くらいになっている。

 一度服を脱いで絞ると、水分が出るわ出るわ、靴下もそして下着までもびしょ濡れだった。


「雨、しばらく止まなそうだな……」

 絞りきった服を着直す友人が呟いた。

 外を見ると雨はさっきよりも強まった気さえする。


「天気だからしょうがない。でもさすがに参ったね」

「ああ。――ところでこの穴ってなんだろな、洞窟……ぽいけど人口だよな?」


 壁面は硬い石でできているが、ツルツルした半円で奥まで掘られた人工物のようだ。何かのトンネルにしては小さい気もする。

 俺はこんなことを思いついた。


「ひょっとして戦争中の〜みたいなやつかも」

「防空壕とか軍施設の跡、ってこと? 確かに有り得るな」


 当時は全国各地に空襲から逃れるための防空壕が掘られたはずだし、旧日本軍が作った地下施設や軍需倉庫もこんな穴にあったのを本で見た事ある。


 少し奥へ行ってみたが、何がある訳でもなくどこまでも空虚な穴が続いているような感じがした。


 俺らは雨宿りの時間つぶしとして、この穴の謎を議論しあった。





「――にしても、全然雨止まねぇな」

「あ、たしかに。」


 穴に入ってから1時間は経った。

 俺は話に夢中で頭から抜けていた。今座っているところからは外の光は差し込むが、少しカーブしていて景色までは見えない。

 でも、バチバチッという雨が地面に激しくぶつかる音はずっと聞こえている。



「この時期にこんな長い時間ゲリラ豪雨なんて初めてだよ」

「だよな、俺も聞いたことない 」

 秋真っ盛りの今の時期。山間だから天気は変わりやすいけれど、スコールが起きる地域ではないし、さすがに違和感があった。

 俺は首をひねった。



「……なぁ」

 同じく考え込んでいた友人が口を開いた。

「ん、なんかわかった?」


「いやさ、今鳴ってる音って、なんて聞こえてる?」

 変なことを聞いてきた。

「え? ……『バチバチ』って聞こえるけど…」

「あー……」


 口を閉じないまま黙り込んでしまった。


「おい。なんなんだよ、音がどうしたんだ?」

「…………この音、本当に雨の音か?」

「はあ?」

「お前は『バチバチ』雨粒が叩く音だって言ったけど、俺にはそう聞こえないんだよ」

「じゃあなんて聞こえるんだよ」


 数瞬の後、友人は言った。


「バタバタバタバタ……って大勢の人の歩く音」


「そんな、まさか――」


 そう言いつつ俺は耳を澄ました。



 バタバタバタッ



 今度は確実にそう聞こえた。


「おい! ヤバいって!」

「お、落ち着け」

 騒ぐ俺を抑える友人。


 でも俺はこれ以上この穴にいたくなかった。



 なぜなら――


「この音、穴の奥から聞こえるんだって!!」


「えっ」

 一瞬で青ざめる友人。



 バタバタバタバタバタバタバタバタッ


 さらに激しさを増した行列の足音がこちらに向かってきた。



 パニックになった俺らはかろうじて荷物を抱えて外に逃げ出した。


 そのまま山道を抜けるまで走り続け、体力を使い切った。



 やっと乾いてきた全身は汗まみれになった。



 空はすっかり晴れ渡っていた。






 後でその場所の歴史を調べたら、どうやら戦争末期に疎開先だったこの地にも空襲があり、一夜にして小さな村は焦土とかした。

 実はこの村を囲む山に軍の極秘施設が作られており、空襲はそれを狙ったものだった。

 巻き添えを食らった村人と疎開してきた人達はあの穴――防空壕へ我先にと逃げ込んだが中は既に破壊された施設から逃げてきた軍人で埋め尽くされていた。

 軍は村人達を力ずくで防空壕から追い出し、その結果多くの村人と疎開人たちが犠牲になった。




 俺と友人が聞いた大人数の激しい足音は、そんな空襲と軍の板挟みになって逃げ惑う民衆の悲痛な音色だったのかもしれない。







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