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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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おもいプレゼント

「――あれ、誰かいる」


 土曜日、丸1日の部活が終わって凍えながら帰宅すると、玄関扉の前に俺と同じ制服姿の女子がいた。

 20時を過ぎた夜に女子高生1人が自宅前にいる状況、思春期の俺は中々にドキドキした。



 止めていた足を動かすと、向こうも俺に気づいたらしい。

 明るい笑顔だが、ちょっとぎこちない。

 相手が廊下の灯りの下まで来ると、同じクラスの阪木だとわかった。


「く、工藤くんこんばんはっ。部活帰りにごめんね、ちょっと渡したい物があって」


 真っ赤なマフラーに口元を隠しながらそう言った阪木の手にはアパレル系っぽい紙袋が握られていた。


「ぁ、うん」

 ぎこちなく返事をした。


「はいコレ! 良かったら受け取って下さい!」


 勢いよく突き出された両手。俺は袋を受け取らざるを得なかった。



「あ、ありがと……」

「それじゃ!」


 たったそれだけで彼女はそそくさと去っていった。


 てっきり告白でもされるのかと思ったが、ひょっとすると袋の中に手紙でも入ってるかもしれない。



 複雑に高鳴る鼓動のまま、自宅に帰ると早速自室で袋を確認した。


 中身は、恐らく手編みのマフラーだった。縫いの甘さと少し歪んだハートの刺繍がそれを物語っている。色は深い赤色、茶色も混ざった様な変わった色だ。そういえば彼女は真っ赤なマフラーをしていたなから、さり気ないペアの意味もあるかもしれない。


 入っていたのはそれだけだった。とはいえ、このプレゼントを俺にくれたということは、まぁそういことなんだろ。さすがにそこまで鈍感ではない。


 しかし「付き合って下さい」も「好きです」とも言われていないし、今後どうすればいいんだろう。そもそも阪木とはクラスが同じという以外接点がまるで無い。彼女のことは好きでも嫌いでもない人だった。


「とりあえず、月曜日に話してみるか……」


 そうして月曜日を待ちながら土日を過ごした。





 そして週が開けて学校が始まる。


 貰ったマフラーをつけてクラスに行くと何やら騒がしい。

 肝心の阪木はまだ来てないようだが……遅刻だろうか。それとも俺と顔を合わせるのが恥ずかしいとか……それはないか。


 悶々と考えていると担任が入ってきた。

 少し息を切らせ、眉間に力が入っている。


「みんな、おはよう。ちょっと真面目に落ち着いて聞いてほしいことがある」


 いつになく重苦しい口調でHRが始まった。



「3日前の夜、阪木が、家で自殺したらしい」



 クラス中、一気に静けさが広がった。


 間を置いて泣き出す生徒や慌てるやつが出た。



 当然俺も驚いた。土曜に会った時はプレゼントもくれて、なんともなさげだったのに、どうして……?




 次の日から事件について随分と噂話が出回った。


「阪木って自分の部屋で首切って死んだっだって」

「なんか死ぬ時に首にマフラーしてて、それが血で真っ赤に染まってたらしいよ」

「遺書もないし、家族もなんで死んだのか分からないって」



 嘘か本当かわからないがどこかから流れてきた情報で学校中が騒然となった。

 あちこちから耳に入る噂を聴いて、俺は誰にも言えず頭がおかしくなったかと思った。



 あの時は気に留めなかった、担任の言葉。



「3日前の夜、阪木が自殺した」



 月曜日の"3日前"、つまり金曜日ってことだ。




 俺の家に阪木が来たのが――土曜の夜。




 そして照れながら渡してくれた深赤色のマフラー。




 自ら首を切り裂いてマフラーを濡らしながら死んだ阪木。






 震えながらよく見れば、俺が身につけているこのマフラー、乾いた血の色に似ていた。




 首元から仄かに鉄っぽい匂いが鼻腔を刺激した。




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