表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
52/100

曖昧模糊

 幼い頃の記憶って、本当に体験した思い出なのかテレビや本の内容が混ざった偽の思い出なのか分からないことがありますよね。




 私の実家、ごくごく普通の住宅地にあるんだけど、その2軒右隣に年季の入った木造家屋があったんです。


 別に近所付き合いがあったとか、仲のいい友達がいた訳じゃなくて、家が近いから知っているだけでした。


 ある日、その家の前を通って友達の家へ遊びに行こうとしました。


 いつ見ても地震があったらすぐ壊れそうなボロボロの家、廃墟感もあって怖いなと思っていました。

 それでも気になる怖いもの見たさで通る度に、どんな人が住んでいるのか少し観察していたんです。


 そんな話をたまたま友達としていたらクラスに必ず1人いるようなやんちゃっ子のA君が「その家に肝試しに行こうぜ!」と言いだしました。


 初めは私も止めようとしたんですけど、流れに押し切られて結局週末に行くことになりました。ただ、人数が少ないと怖いとなって3人加えた5人で入ることになりました。


 大人の今からすれば単なる不法侵入なんですが、子供にとっては大きな冒険で恐怖と興奮が入り交じった高揚感に全員が包まれていました。



 ブロック塀と鉄柵の門扉で覆われた家。チャイムもなく、人の出入りは誰も見た事がありませんでした。友達の親によると「お婆さんと夫婦と子供の兄妹が住んでいる」らしいのです。


「いいから行くぞ」

 小声でA君が先導しました。

 通行人やお隣さんに見られないよう門扉を乗り越え5人が無事に中へ侵入成功したんです。


「おい裏側に回ろうぜ」

「こわいなぁ」

「ねえ帰ろうよ…」

「バカッまだ来たばっかりだろ」

「シーッ! 静かにー!」


 まとまりのない私たちでした。

 でも入ったからには何か収穫が欲しいという気持ちは全員あったと思います。


 ひとまず忍び足で家の裏側まで歩きました。


 裏は縁側と庭になっていました。雑草は肩くらいまで伸び放題、窓ガラスは何枚も割れていました。


 私たちは草むらに身を隠しながら縁側方面に近づきました。

 縁までたどり着くと、縁側から奥にある部屋の破れた障子を見つけました。全員で行くと見つかるかもしれないので、私とA君が先に家に乗り込んだんです。


 ギィィギィ、どれだけ注意しても床は音を鳴らします。

 腰を低く頭を屈めて下の方の破れた障子からそーっと中を2人で覗きました。


 電気が通ってないのか、部屋は薄暗く、隙間や穴から外光が入って辛うじて様子が見えました。


 奥の方に2人、人影がありました。


 背が中学生くらいと小学生低学年位の人でした。


 この2人が例の兄妹なのかなって思いながら見ていたんです。

 そしたら急にその2人がこちらに向かって歩いてくるじゃないですか!



 私とA君は口を抑えて穴から少し顔を逸らしました。


 でもどんどん足音が近づいてきます。


 本当にバレたかと思って心臓が飛び出そうでした。




 するとぴたっと音がやんだんです。


 それでもしばらくじっとしてました。



 足音がしなくなってから1分は経った頃、私とA君は見つめ合ってもう一度中を覗こうと決めました。



 物音をたてないように、ゆっくり破れた障子に近づいたんです。



 意を決して覗き込むと、そこには鶏頭の子供が2人でこちらをギョロり睨んでいました。


「わぁぁぁぁぁーーー!!!」


「キャァァァーー!!」


「「「うわぁー!!?」」」


 私が叫ぶと同時に隣のA君も、そして草むらで待機していた3人も絶叫して、全速ダッシュで門まで走りました。


 私が最後尾で逃げる途中、後ろから「ココックォッ!」みたいな奇声が何度も聞こえました。


 門扉を乗り越え、近くの公園まで倒れそうになりながらも走りました。

 真冬だったのに全員が汗だくでベンチに座り込んだのを覚えています。





 この話を成人式の時に再開した当時のメンバーに話したことがあります。


 でも、みんな「何かから逃げて公園まで走った」ことは覚えているのに、何をしたのかは全く覚えていなかったのです。


 一緒にあの鶏兄妹を見たはずのやんちゃっ子A君も、「そんなのあったっけ?」という始末。




 あの家をその3年後くらいには取り壊されてしまい、住人がどうなったから分かりません。



 証拠もなく、その場にいた人の記憶も曖昧だから、私は自分の記憶が間違っているんだと言い聞かせています。




 でもこびりついて無くならないんです。



 血管の浮き出た鶏冠を頭につけて感情のない目でこちらを見つめる兄妹の顔が――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ