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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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他人のこい

 朝は四時起床、夜は1時就寝。

ブラック企業ではないけれど決して楽な仕事ではない。

女性職員は昔から、そして未だに少ない。男社会の中で女は今日も仕事に励む。


大変な仕事だが、世の中に無くてはならないもの。女は十分すぎるやりがいを感じていた。


幼い頃から周囲の女子とは違い、この仕事にひたすら憧れていた。

五年前に専門学校を卒業ようやくこの仕事に就けた時は長年の夢が叶った瞬間だった。




 ただ、一つだけ。

就職してから初めて気づいた、というか体験したことがあった。



それは朝か、夕方から夜の時間帯に遭遇する機会が多い。

普通に生きていれば、この目で見ることはほとんどないであろう出来事。



人がこいに落ちる瞬間だ。



女も、今年で二十八歳。楽しくやりがいがあるとはいえ、仕事ばかりの人生でふとした時に疲れを感じることもある。

これまで学生時代からこの仕事をやるためだけに恋愛も部活動も、ろくにしてこなかった。


過去に後悔がないといえば嘘になる。



けれど、女は現状に満足していた。


初めこそ他人がこいに落ちる様子を見て、嫌な気持ちになることもあった。


しかし人間どんなものにも順応していく。


今ではその姿を目にしても、ため息一つくらいで済んでしまう。


これもあまり褒められた対応ではないが仕方ない。


なぜなら、他人のこいが女の仕事の進行度にも影響してくるのだ。


ため息一つくらい許して欲しい。

女はそう思いながら今日も業務に勤しむ。




朝から順調に、何事もなく進んでいく。



かと思いきや先程の思いがまるで予知のように、



高校生の男女がこいに落ちる姿に遭遇してしまった。


二人が落ちる瞬間、女と目が合った。



高校生は不気味なほど口角を上げて、笑顔だった。




ドンッ、

と強い衝撃を受けるも、女はすぐさま平静を取り戻して対応にあたる。





「――えーこちら、〇線□□車両。△△駅にて人身事故発生のため、緊急停止しました。至急処理をお願いします。」





女は溜息をついた。






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