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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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今年は赤

 うちの実家の近所には小さいが古くからそこに建つ神社がある。

 私が他県に移り住んだためもう長いこと行っていないが、珍しく公園がない地域だったから小学生時代はよく鬼ごっこやかくれんぼをするのに境内を使わせてもらったものだ。


 神主のおじいちゃんがとても優しく、遊ぶ許可だけじゃなくて、よくせんべいとか飴を貰ったのを覚えている。



 その神主さんから昔聞いた話がある。


 境内は本殿と横の事務所、入口に鳥居があって参道脇には大きな樹齢300年以上というイチョウの木が生えている。いわばこの神社の御神木だ。太い幹が途中から3又に分かれ、枝が半球状に生えた立派な木だ。


 生い茂る葉っぱは秋口から黄緑から鮮やかな黄色に染まっていき、昔から地域住民の季節を知らせる鐘代わりだった。

 毎年冬の始まりにはいっぱいの落ち葉が境内の地面を埋めつくす。

 その幻想的な光景は人々に愛されていた。


 このイチョウに一度、危機が訪れた。


 20年前、大型の台風がやってきて本殿や事務所の屋根や装飾が剥がれ飛び、あまりの強風でイチョウの木は分かれた3本の幹の内3本も折れてしまった。


 9月の、まだ葉が青々とした時期だったのに台風一過の数日間で全て落葉してしまった。


 色が霞んだ御神木は生気を失ったように見る影もなかった。

 イチョウの木はついに枯れてしまった。


 しかし長年この地を見守ってきた木だ。簡単には処分できない。


 地域住民とも話し合い、何度も議論をした結果、結局そのままにするのは危ないと判断して枯れたイチョウを伐採することになった。



 1週間後、業者を呼んでいよいよイチョウを切り倒す日が来た。

 神主や地域の人達が集まって手を合わせた。



 作業員のチェーンソーが回転する。

 刃が樹皮に切り込んだその瞬間、周囲の人々から驚きと騒ぎ声が上がった。つられて作業員もチェーンソーを止めた。


 イチョウの真下、地面を覆っていた緑色の落ち葉がみるみると鮮血色に滲んでいったのだ。


「あああ! うえ、うえ!」

 誰かが指を指して言った。

 見上げると、明らかに枯れ果てた枝先から一斉に新芽が開こうとしていた。



 神主は急いで伐採をやめさせた。




 そうしてイチョウの木は今も元気に境内で葉を付けているのだという。




 けれど今でも数年に1度、黄色ではなく真っ赤な落ち葉で境内が覆われるのを神主さんは目撃するそうだ。



 決まってその年には大きな災害や事件がその地域を襲うため、神主さんは地域住民へその旨を知らせている。



「今年は“赤”だぞ」と。

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