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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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怪しい降霊術

 大学のサークルで知り合ったA先輩と同学年のBと俺の3人で集まった時のこと。


「なな、この話知ってる?」


 先輩の1LDKで宅飲み会、A先輩が3杯目のビールを飲みきってそう言った。

 俺は一滴も飲んでいないが、Bもだいたい同じ量の酒を飲んでいたから話半分で聞いていた。


「夜の3時に、鏡合わせして、写った自分に声、かけたらダメってやつ」


 A先輩は若干舌が回ってないようで、話が聞き取りにくいが言いたいことはわかった。都市伝説的な降霊術、みたいな儀式のことだろう。もはや深夜の飲み会の恒例行事だった。


「あーけっこう有名なやつっすよね。やると鏡の奥から幽霊か何かが出てくるとかいう」


 Bは軽いオカルトマニアでこの手の話にはよく食いつく。A先輩もそれを見越してこの話題をしたんだと思う。俺は少し離れたところで、相づちを打っていた。


「さすがB!よく知ってるな~。でさ、それやってみようかなって思ったんだけど、どう?」


 ここまで予想通りの展開。A先輩はホラー好きだからBと相性がいいらしい。ちなみに俺は好きでも嫌いでもない。


「いいっすけど……鏡はあるんすか?」

「あるある!やるためにもう一つ買ったから」

「マジっすか!さすがっすね」

「これならあいつにも会えるかもしれないしな」

「そうっすね」


 どうやらA先輩は洗面所の鏡と向かい合わせで小さめの鏡を買って、壁に貼り付けたようだ。よくやるなぁ。


「じゃ、早くやりましょ。俺はそろそろ眠いっす」


 俺はあくびをした。


「わるいわるい、それやったら今日はお開きにするか」


 A先輩は聞き分けがあっていい人だ。




 とまぁそんなこんなで3人は洗面所に移動した。


 洗面所に大学生3人は結構な狭さ。だがA先輩とBは気にせず儀式の準備に取りかかった。


「先輩、この鏡小さくないっすか?」

「え、これじゃダメ?」


 新しく買ったという鏡は四角い化粧用の置き鏡を無理矢理ガムテープで壁に押し当てたものだった。


「いやダメっていうか、洗面所に人がいたら鏡隠れちゃうじゃないっすか」

「あー……たしかに」

「どうしよ――あ、こうすればいいんじゃないっすか?」


 Bはバリッとガムテープを剥がして鏡を手で持った。そしてそのまま胸の前に持ち上げて洗面台の鏡と向かい合った。


「ナイス、B。それなら大丈夫だ」


 酔ってるくせに頭が回るのは凄い、ってほどでもないがこれで儀式は出来そうだ。


「Bは儀式のやり方知ってる?」

「いや、詳しく知らないっす」

「おっけー。さきに、説明するわ」


 A先輩はすでにアルコールが抜けていた。はきはきした口調で話し始めた。

「まずは午前3時に鏡を向かいあわせる。そんで鏡の中の自分に『こんばんは、お元気ですか? 私は死んでいます』っていうと何かが写る、らしい」

「なんか、正にそれっぽいっすね」


 Bはありがちな降霊術だと言いたいんだろう。総じてオカルト話とはそんなものだ。


「まあな。でもそれでもいいだろ? 死んだ奴に会えるならさ」

「いつもっすけど、やる前はなんか緊張しますね……」


 そう言われると窮屈な洗面所にただならぬ空気が満ちている気がしてきた。時刻は午前2時55分を過ぎている。もうすぐで儀式の時間だ。



 秒針の音だけが聞える。みなが黙り込むと時の流れが遅く感じる。





――5分経った。時間だ。


「よし始めるぞ」


 A先輩が口を開いた。


「…………」


 鏡を胸の前に持つBは、大きく息を吸った後、鏡の自分に例の言葉を喋った。



「こんばんは、お元気ですか? 私は死んでいます」




 さあ、どうなる?




 合わさった鏡には無限に奥が続くばかり。どれだけ待っても、隅から隅まで探しても、不思議なものは何も写らない。




「…こんばんは、お元気ですか? 私は死んでいます」


 Bはもう一度、言った。





 ……鏡の虚像に変化はない。



 どうやらこの儀式は偽物だったようだ。




 A先輩とBはがっくり肩を落とした。


「まー本当だって心から信じてたわけじゃないけどさ…今までもそうだったけど、こういう儀式ってぜんぶ嘘かもな」

「そんなことないっすよ。絶対あります、本当の降霊術が」

「……だよなっ。わるい。また今度探して用意してくるわ」

「俺も探しときます……すんません、眠いんでさきに寝ます」

「ああ、いつもありがとな。おやすみ」



 Bはリビングに戻ってソファに戻った。



「俺も寝るか……」


 鏡を洗面台に置いてA先輩は名残惜しそうに寝室へ向かった。





 洗面所に残った俺。




 脳裏に浮かぶのは、死者に会うため真面目に儀式を行なう2人の姿。 






「……俺はずっと側にいるんだけどなぁ」



 透明な涙が頬を流れ落ち、床に当たる前に消えた。




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