第九話・闘争者
私たちを助けてくれた男は水間との距離を測っています。
すぐに理解できました。
その間の取り方はまったくもってまともにそれと対峙しようとしている動きであると。
「逃げないと……」
私の精一杯の言葉でした。自分と男に対しての、です。
心配と疑問、恐怖と戦慄。同時に起こる感情に押し潰されそうになりながらも、私はしっかりと目にしました。
男が襲いかかる水間と掴みあったのです。
レインコートや靴は水間に沈んでいます。手です。手だけが水間に触れることができているのです。
あとは、顔。どうやら顔も濡れるのではなく水間に触れています。
つまり男の素肌、生身の部分は水間に触れることができるようなのです。
そしてその顔は……
「こっち!」
友人が私を引っ張ります。
はたと気付き、ガタガタの膝を奮い立たせて私はその場を離れました。
隣には友人と、そして男と一緒に来たもう一人の男が水間に襲われた方の友人を背負っていました。
「脱いでよし!」
友人を背負った男が叫びます。年老いた声です。
聞いたことのある声。
それでいくつもの確信と疑問と、逡巡が起こりました。
ですが、それを差し置いて、私の胸は水間と戦う男の心配でいっぱいになりました。
「ダイ!」
呼び掛けるのでも、注意をひきたいのでもありません。私は本格的に水間と戦うことになるらしい展開に対して、咄嗟に名前を叫んでいたのです。
急に現れ水間と戦うその男は、弟のダイ、璃右大でした。
水間をなんとか剥がし、レインコートと服、靴まで脱ぎ捨てたダイの姿は、腕と足が大きく露出したものでした。
スポーツマンかアスリートか、なにかの競技者と言えそうな姿でダイは構えます。格闘の構えです。
私は思わず足を止めてダイと水間を見つめます。
記憶の中にあるダイは比較的おとなしく、華奢で、どこか冷めたところがありました。
しかし今眼前にいるダイは違います。体は鍛えられ、背も伸び、そしてなにより気迫に満ちています。
次の出来事に私は面食らいました。
ダイが真正面から水間の、人間なら頭部にあたるのではないかと思わしき部分を殴り付けたのです。
本当に、普通に、なんのためらいもなく、工夫もなく、単純に殴ったのです。
少しの空白がありました。
水間から戸惑いのようなもの、そう、まるで、信じられないことがおこったかのような、明らかな動揺を感じました。
そしてダイの溜め。
そこからリズムよく蹴りと再びの拳。
水間が斜面にへたりこむかのように形状を変えます。
ダイは水間に向かってラグビー選手のような勢いで突っ込みます。
水間はそれを待っていたかのように大きく花開きました。
それは、高い波が砕けるかのような、タコが獲物に襲いかかるかのような、おそらくは水間にとって一つの究極の戦法と思われる形態なのです。それでダイを迎え撃ちます。
私は無心でその光景を眺めていました。




