第八話・到着
べたりともぼちゃりとも違う、ドサリという重量のある音とともにそれが友人に覆い被さりました。
不気味なピンク色の『水塊』が、明確な意思をもって友人にのし掛かったのです。
私は必死で彼女たちの近くまで行こうとしました。しかし、足がすくみ、震え、うまく歩けません。
そのうち、声にならない声がもう一人の友人から発せられました。
見ると、水間にからめとられた友人が引摺られはじめていたのです。
それは、友人をそれがいた水溜まりに引きずり込もうとしていたのです。
浅くて狭い、なんの変哲もない水場、それがそいつのまぎれもない巣なのです。
友人は必死にもう一人の友人の体を引っ張ります。また、水間を引き剥がそうと二人はもがきます。
二人の努力は無駄でした。
水は水だったのです。
指も、手も、腕も、足も、全てが沈み通り抜けてしまうのです。
なのに、不思議なことに、水間の腕力は明確に友人に伝わっています。
私の足は進もうとする力と逃げようとする力でもつれ、ぐちゃぐちゃの歩みで、それでもなんとか二人のもとまでたどり着きました。
そして、友人の体を引っ張ろうとしたき――
そいつは――
私の方に――
飛びうつってきました――
水間は私に気づくと一瞬動きを止め、友人に絡みついたときよりも遥かにはやく強い勢いで私にしがみついてきたのです。
今でも忘れません。
表面の生ぬるさ。
中の冷たさ。
脂肪のような質感。
耳元で聞こえるゴボゴボという音。
全身をくまなくミミズに嗅がれているような不快感。
手足の内側に垂れてくるそれの、発するはずのないはずの匂い、生臭さ。
口腔や鼻腔、体中に侵入しようとうかがう試行錯誤のそれ
不快感と恐怖で生皮を剥がれたかのように刺激される全身の神経
諦めすら浮かんでこない混乱の中、私はただ友人の無事だけ祈りました。
何か音が聞こえた気がしました。
声をあげて、近づいてきて、なにかをする音。
そして、不意に、体に浮遊感を感じたかと思うと、私は圧迫から解放されていました。
思わず地面にへたりこむ私が見たのは人の背中でした。
全身をレインコートで覆った男と思われるその人。その人が水間から私を助けてくれたに違いありません。
触れられないはずの動く水からどうやって私を助けたのか、それはすぐに明らかにされました。




