第三十話・眠りの果て
私はときどき思います。私にとっての大切なもののすべては、もしかしたらなにもかも幻想に過ぎなかったのかもしれないと。
それは、鏡美のことや『下賎なる者』のことも無関係で、家族や人生、運命や宿命すらも無関係なことです。私は、私の在る意味を、結局は見つけられないままだったのだと思います。
「大丈夫?」
ダイの声でふと我に返りました。
『完全なるエナ』は何もかもを返してくれたわけではありませんが、しかし、もっとも大切なものを手元に残してくれました。
私にとっての居場所は最初から最後までここにしかありません。
父に連れられ、あの水溜まりでこの世にあらざるモノと会ったときに、私は私の終わりをきっと予感していたのです。
そう、今の私は終わった後の世界を生きています。幕の下りた後の舞台をただ歩き回っているのです。
それは私自身が望んだことで、弟であり、子であり、夫である男の横に立ち続け、ヴェールの向こうに存在する世界のために永遠を戦い続ける。それこそが、私が私自身を完結させるための唯一の方法なのです。
眼前にある貯水池から、かつてのときとは比べ物にならないほどの数のヤツらを感じます。そして、その強さも以前のものとは比べ物になりません。
『下賎なる者』どもは、計画が失敗したこと、完全なるエナを入手することができなかったこと、まして、エナオイドなるモノに自分達以外の者がたどり着いたことを脅威に感じ、方針を変えていたのです。
その方針とは、なにも難しいことではありません。自然に任せるようになっただけです。つまり、すいかんを管理せず、ただばら蒔くだけばら撒いて、完全なるエナが出来ることを待つ、ということです。
私たちは今日を戦います。やつらと闘います。すいかんの力を用い、その裏にある嘘偽りの神話を現実に構築せんとする『下賎なる者』どもと。
終わりを棄てた鏡美の代わりに、そして、もう一度終わるため、真に終わらせるために。
だから、もし、この世界のどこかの水辺で、雨でもないのに重苦しいレインコートを着たそっくりな二人組を見かけたら、どうかそっとそこを離れて、そして、忘れてください。
それは影。私たちの影。終わりなき世界を終わらせようとする、水鏡に映った私たちのあわれな幻影なのですから。




