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第三話・現出

 父がとっさに私の体を引っ張りました。水が足元の地面に落ちて染み込んでいきます。

 私は呆気にとられました。視界に()()()()()()()()()()()()()()()()をとらえていたからです。

 まるで蛇かミミズのように辺りをうかがっているその『水』の様子が、私にはひどく気味悪く感じました。


 父が私の前に一歩でると、その『水』はチャプンと()の中に潜りました。逃げたのです。

 気の抜けた私を連れて父が管理の人の所に戻ります。

 私はこわくてこわくて腰が抜けてしまいそうでしたが、なんとか一歩一歩進み、もとの場所に戻ることができました。


 父と管理の人がなにかを話し合っています。管理の人はとにかく怒っているようでしたが、その内容はわかりません。

 私は混乱の中にありましたが、確かめなくてはならないという強い使命感に襲われていました。

―――さっきの()()を確かめなくては――――

 長い枝を見つけると、私はそれを拾って溝の近くまで行きました。

 私のしようとしていることに気づいたのか、父と管理人は言い合うのをやめて私を見守っています。


 私は手を長く伸ばし、水へ枝を突き刺すと大きくかき混ぜました。

 まったく普通の感覚です。水の抵抗があり、しかしスムーズに動きます。

 ですが、ふと水が固くなりました。ゲルではない明らかな固形物の感覚です。

 その固形物はどことなく肉質で、悪寒がするもののなぜか妙な高揚を感じる柔らかさを持っていました。


「あ……う……うぅ!」


 私は思わずうなり声をあげました。

 木の枝が引っ張られたからです。

 そして、枝を引く者が姿を現したからです。


 枝の刺さったあたりが桃色に染まっていきました。

 それはとてつもなく鮮やかなピンク色で、血液の混ざった膿みによく似ていました。

 絵の具が広がるようなものとは違います。ピンク色の何かが高速で増殖するかのようなくっきりとした出現です。


 手を離れた枝がずるりとピンク色に呑み込まれると、そこにこんもりとした山ができました。

 種から双葉が顔を出すかのようにピンク色の山が起き上がります。


 女です。

 『水』の姿形は立ち上がったピンク色の泥でしかありませんでした。

 かろうじて人型だとわかるぐらいで、あとの全てはぐちゃぐちゃのどろどろです。

 しかし、どうしようもない絶対的な直感でもってそれが女、しかも少女なのだとわかりました。


「『すいかん』だ」


 父が私を後ろに下がらせながらそう言いました。

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