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第二十六話・はじまる凶事

「あれは、いったい……?」

 鏡美の澄ました表情に一瞬だけ渋面が混ざりました。

「『下賎なる者』ども。はるかな昔からこの国の裏で暗躍していた集団よ。この国の、この世界の真の権力にならんと虎視眈々と狙っている忌むべき存在たち」

「権力に……」

「権力になりそこなった者達、そして、そのおかげでヒトになるのを免れた存在たち」

「ヒトじゃ、ない?」

「さあ、それすらよくわからないわ。でも、市見の目指したものと同じものを目指しているなら、ヒトを超越した何かに関わろうとしていることだけはわかるわ」

「市見はなにをしようとしていたの?」

「……市見の名、左右の名、それらを合わせようとすること。つまり、上でも下でもないこの世の、右でも左でもない真ん中、彼らが目指していたのはこのナカノツクニそのもの。この世をクニユズリ以前の世界、カミの世界に還そうとしていたの。そうしてヒトすべてがカミに戻ると本気で信じていたのね」

「わからない」

「あなたたが知っておくべきなのは、水間憑きは絶対にその運命から逃れられないということ。奴らはそれを利用しようとしている」

「……私達は、死ねない」

「そう。生きているうちはあなた達の中にいる水間に反発できる。でも、死んだら違う。死んだ瞬間、あなた達は置換体になる」

「今まで改めて聞いたことがなかったけど」

「自分達がそうなったとき?」

「ええ」

「別の支配体、つまり水間憑きに狩らせるわ」

「やっぱり、私達以外にも……」

「うすうす気づいていたんでしょう? 水間憑きによる狩りは一度はじめると永遠に同じことを繰り返すの、しかも失敗は許されない綱渡りだわ。終わらせるには、すべての仕事を終えた後、水間憑きが()()()()()()退()()()()ことに同意して、『火を使う』なり『自ら渇く』ことでようやく終わりになる」

「私は、たとえそうであっても」

「幸せ? 本当に? まぁあいいわ。それで、今日はあるものを見せるために呼び出したの。呼び出したのはたしかに私なの」

 鏡美がモニターを取り出します。

 大事な内容ということですが、その様子は心底面倒くさげで無関心を隠そうともしないものでした。


――あらゆる存在はまるで神のたとえ話である。一切の永遠は絶対の矛盾に過ぎず、今ではおとぎ話で語られる場所にしかないものだ。そこは既に過ぎた場所。その名もなき場所を、人は既に開拓しつくしている。しかし、人が持つ唯一の永遠なるものの残滓(ざんし)、『性』。限りある永遠。それこそが人を率いてかの場所に再び導くだろう――

 画面の中でも黒い影が語っている映像でした。どことなく知っている人のような気がしましたが、もう私の感覚は麻痺しはじめていました。


「ご苦労様シントーカルトさん。今の誰かわかった? あなた達が先生と呼ぶアイツよ。『下賎なる者』の子分にすぎないクセに黒幕ぶってて笑えるでしょ?」

 わずかに目眩がした気がしました。

 そこから鏡美のする話にどう反応したのか自分でも思い出せません。ですが、その内容だけは覚えています。

「用事はつまり抵抗せずにエナを譲れってこと。でもそんなこと心配しなくていいわ、こいつ、今から殺しに向かうから」

「止める必要も同情する必要なんてないわよ、あなた達の運命を弄んだのはアイツらだから。今回のことを計画したのは『五人組』、文字通り五人の人間で構成されているグループ」

「メンバーはとある人物……つまり『下賤なる者』を代表として、私と、市味術を受け継いでいたあのご当主、内調の小野道、そしてあなた達の父」

「そして……かつて、私の前に所属していたのは、今はもうこの世にはいない私の母」

「カスみたいな人達だったわ。先生は名誉のため、当主は金のため、小野道は地位のため、あなたの父は女のため」

「女というのは、そう、あなた達の母よ。だからあなた達の父は少し違うと言えば違う。でも、だからこそ最低最悪だわ……あんなのが私の父親だなんてね」

「気づかなかった? 腹違いの姉妹よ、私たち。あなた達の中にいる水間も含めてね。皮肉にも『五人』に翻弄された五人の兄弟なのよ、ダイくんとあなた、そして私は」

「私は加害者じゃない、むしろ被害者。私たちの父は私の母を捨ててあなた達の母をとった。『五人』のメンバーに(そそのか)されてね。そして、あなた達の母を失ってからは、その女をよみがえらせるためだけにあなた達を売ったのよ」

「教えてあげるわ。水間の危機はあなたたちが吹き込まれていたほどのものじゃない。あなた達が相手にしたほぼすべてが『五人』によって管理されていた()()()よ、輪油を汚したアレも含めてね。すべては全能物質エナのため。このせいで内調が公安に目をつけられてるぐらいよ、ほんと馬鹿馬鹿しいわよね」

「目的のためにはあなた達姉弟が結ばれる必要があったのだけれど、あの男には自信があった。なぜなら、死んだあなた達の母、私と私の母を捨ててまで選んだ女は、あの男の妹だったから。あなた達も自分と同じく肉親に惹かれるだろうとあの男は踏んでいたの。そして、その通りだった」

「もうわかった? 私は『五人』を心の底から怨んでいた。小野道も、あの当主も、あなたの父も、私が殺したの。そしてこれから先生を殺し、最後にーー」

「『下賎なる者』どもを殺す!」

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