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第二十五話・真理へ

 帰化植物の生い茂る原っぱを私は『私』と歩いていました。


 あるとき、久しぶりに父から連絡がきたかと思うと、ご当主が亡くなったことを知らされました。

 原因はわからない、神妙な声で父が言っていました。

 そして、それからしばらくして、その父も亡くなりました。

 不思議なことに、例の輪油が搬送された病院でも死因がわからなかったのです。

 ダイと私は本当にハリボテのような葬式を済ませると、ほどなく二人だけの生活をはじめるようになりました。

 水間狩りの頻度は明らかに落ちていました。

 本当にごく稀に、置き換わり前の、しかも放っておけば自壊するようなものを相手にするぐらいでした。

 そして、鏡美からの連絡が来て私は彼女とこの場所で会うことになったのです。

 この場所とは、かつて水間の集合体と闘った水源のある管理施設です。

 しかし、そこに現れたのは鏡美ではありませんでした。

 そこで待っていたのは私の姿をした誰か。私の姿と声を持ち、私のことを知っている何者か。

「少しばかり歩こうではないか」

 それは私の声で言いました。

 私は驚きながらも不思議なことにまるで警戒心が沸いてきませんでした。そして、正体をつきとめるべく彼女につきあうことにしたのです。


「我は、我々は、『下賎なる者』」

 風がやみました。

 私の顔をしたそれは、まるで今いるこの空間を切り抜いたかのように世界を静止させてしまっていたのです。


「下賎?」

「高貴に対して下賎。聖に対する俗」

「……」

「水間の正体を教えてしんぜよう」

「……ヒルコ、ダイがそう言ってた」

「左様、イザナギイザナミからうまれた存在。クニとは別の存在」

「ただの神話では? 水間と同一視するとしてもそれはせいぜい民俗学の範疇で……」

「カミの質を受け継ぐクニに生れたカミならざるヒトと、クニという質を持たないヒトならざるカミ」

「どういうこと?」

「ヒトが死してクニからいなくなったとき、ヒトの肉はカミの質に還るのだ。それなるが水間」

「水間の目的は人間になること、でしょう。決して神だとかそういうものではないわ、結局はそういうモンスターよ」

「否」

「水間が怪物でないとして、だからどうしたと? 人間の害になるーー」

「クニとしてのヒトとカミとしての水間をあわせさらなる先祖がえりを起こしそれを仮初めのイザナギイザナミとし、その二つをかけあわせて再びの国産みを行うことが目的だ。クニとしてのヒトがどういったものになるか、そなたはにはわかるであろ」

「……待って、目的? それにその話って」

 私は思わず自分のお腹に手をやりました。

「我々の目的だ。水間を使役しようとしていた市見どもがうってかわって水間狩りに傾いたのも同じ理由だ。『置き換え』に成功した水間同士から生まれるのは、ヒトの死をもってカミだけが残った肉を支配し、自らの死を取り除いた完全な水間、すなわちヒルコ。水間の目的は()()()()()()()()()()()()()()こと、自らを還元すること。それは完全なる不完全であるが故の特性」

「私と、ダイは……」

「しかし、水間を宿せし血縁の者同士の間にできるは世界で唯一無二の純粋なるスピリト。大八島、六島に続く最後の島、それはヒトの原形質。完全なる不完全であるヒルコの完全形、それは完全なるエナ」

「エナ……? いったい何が生まれるというの?」

「特定のなにかではない、不特定のなんでもだ。この星のなにもかもを産み出せ、操れる。この星のすべてをつくりかえることすらも。それが完全なるエナ、星のエーテリック」

「『下賎なる者』……この国で、神話に関わる忌むべき存在……あなたたちは、まつろわぬカミの……!?」

「その答えは無意味。意味を持つのはそなたの(たい)

 私は首を振りました。私の拒否を聞きいれる気配は『私』にはありません。

「すべては、やがて我らのものとなる。それまでよく生きろよ」

 『私』がうっすらと笑いました。

 そして、電撃のような衝撃が全身を襲い、その場で私は気を失ってしまいました。




「会ったのね」

 私を起こしたのは鏡美でした。

「奴らに」

 その瞳はなにもかもを知っているかのようでした。

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