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第二十四話・混和する視線

 置換体、この強力な怪物を一撃で仕留められたのには理由があります。

 理陰への理解と『虚空(こくう)打ち』と呼ばれる完全にコントロールされた特殊な打撃。これらを合わせることで、あらゆる箇所へのあらゆる打撃の威力を、任意の箇所で任意の瞬間に集中して炸裂させることができる市見術の奥義『血吸い満月』。ダイはその下準備を整えていてくれたのです。

 私は最後のトリガーをひいただけ。

 一人では勝てないだろう相手なら、私のために自分を犠牲にして私が勝てるようにすべてをなげうつ。ダイはそこまでしてくれたのです。


「ご苦労様」

 振り返りません、鏡美の顔を見たくありませんでした。私は無視してダイのもとへ向かおうとします。

「勘違いしないでね、貴方たちはお咎めなし。あるのは責任者の小野道によ」

「なにがしたいの?」

「なにも」

「どうするつもり?」

「どうって、まずは置換体(これ)の回収と、客に少しの混乱があるから捕物帖だったとお触れを出すわ」

「はじめから小野道さんを陥れるつもりで?」

「さあ」

 鏡美が半ば無理矢理に私に鍵を押し付けました。

「ここ、ホテルだって言ったわよね。いい部屋とっといたから、ダイくんと1日休んでいくといいわ」

「……強制なの?」

「ご褒美よ。明日送っていくわ」

「その方が都合がいいんでしょ」

「そのダメージでフラフラされたくないだけ。世話させることのできる病院もあるけど軽々しくカードは切りたくない。わかる? あなたたち水間憑き、『支配体』だって安全性は保証されていないのよ?」

「……」

 私はなにも言わずに去ろうとしました。そして、そのとき、鏡美の声が微かに聞こえました。

「……これで輪油も浮かばれる。いい子だったわね、輪油」

 私は友達を、完全な被害者だった輪油を、一撃で仕留めたのです。


 ・ ・ ・ 


 広い部屋でした。大きなテレビにクラシックな調度品、きらびやかな電灯。

 シャワーを浴び、体の傷をみました。食欲はありません。

 あの怪物から解放されたときダイは微かに震えていました。恐怖からか、体力的なものか。

「ごめん」

 ベッドの上から聞こえる弱々しい声。

「なにもできなかった」

 怖れている声。

 失うことを恐れる声。

「守れなかった」

 私は首で否定しました。

「辛い思いをさせて、ごめん……」

 きっとダイも私と同じ気持ちなのです。

 私たちには、私たちだけ。

 私はベッドに上るとダイと向き合いました。ダイは目を伏せたままで私を見ません。

「ダイ……」

 私も緊張していましたが、ダイはもっとのようでした。

 その姿を見ていると、どうにも弱々しくて、小さい頃のままのように思えました。

 薄暗い中ダイに近づきます。力んでいるのがわかりました。

「大丈夫」

 私の精一杯の言葉でしたが、ダイはそれで覚悟したのか動きを見せました。

 ですがそれは私の手をとり、そこに唇を触れさせるだけのものでした。それがダイにとっての精一杯。精一杯の愛撫(あいぶ)だったのです。

 途端に私はダイがいとおしくなりました。少年のようなその顔と、それに合わない筋肉で膨れた体。

 私はダイの手を私の頬に持っていきました。ダイの手が私の顎を辿ります。そして、唇も、自分の手を追いかけるようについてきました。

 そしてようやくダイは私の瞳を見たのです。

 肌に触れ、しっとりとしていながら滑らかな肌目(きめ)を感じながら、さらに伸びた手は自然と体を走り、カサカサとした毛の感触の奥にとても熱いものを見つけていました。

 記憶の中の小さなダイとはうってかわって大きくなったダイのその広い肩に顔を埋めると、ゾクリとした高揚が全身を支配して、耳元で聞こえる声と吐息が背筋をくすぐります。

 そうして、私を被おうと決死の戦いをする人の腕に庇護欲を感じながら、私は弟を受け入れたのです。

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