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第二十三話・降魔

 突き入れた拳は避けられ、蹴りは飛びのかれる。私は置換体の本気の動きに翻弄されていました。

 すばやく、容赦なく、遠慮がない。置換体は自身の肉体に対して無理のある動きであってもなんの躊躇もなく行います。掴み、捻りつぶすことを考えた本能的な動きを骨格すら考慮せず行う。それこそ置換体の強さの大きな理由の一つです。

 見た目の関節はあてになりません。()()に近づくことは、その強大な筋力と予想できない動きで完膚なきまでに粉砕されるということなのです。

 正直に言ってしまうと、体力という点まで考慮に入れたとき、単純な身体能力では置換体には勝てそうもありません。ですが同時に見えたものもあります、戦法です。やはり置換体には技術という観念は存在していないように思えました。やはり市見術しかありません。私とダイを縛り、しかし、なによりも頼る剣。

 私がわざとらしいほど大袈裟に構えるとヤツの目付きが変わりました。

 知っているぞという目、さっきのダイを思い出している目です。

 その微かに愚弄を含んだ表情の変化が私は気に入らず、さらに怒りがこみ上げました。

 ダイを思い返してみれば私の不利は動きません。ですが、私は、私自身の勝利こそ動かないと知っていました。それをダイの戦い方と()()との直接接触戦闘で把握していたからです。


(狙うは、やはり理陰……)


 『置換体』は人の肉体を生ける水が奪い取ったもの。その身体の頑強さは私達を上回っており、理陰と呼ばれる急所の盾になっています。その盾を突破したければ一撃ではとても無理で、何十もの強烈なインパクトでもってようやくダメージが通るかといったところです。

 そして素早さ。ケモノのごときスピードとケダモノじみた挙動は本能的で、だからこそ理陰の潜む箇所を狙いにくくしています。そこを狙い続けるのは針の穴に糸を通すようなものです。

 ですが私が狙うのは一撃です。もう一撃でよいのです。


 私はそのわざとらしいほどの構えから、さらにわざとらしい力の抜き方で構えを解きました。そして、自ら服を緩めると、諦めたかのように腕を下ろしました。

 置換体の気配が変わります。警戒しつつもこちらを伺うような視線を向けてきました。私は無表情にそれを受け止めます。

 少しずつそれは近づいてきました。首を前につきだし、私を嗅ぐかのように覗きこんでいます。

 私は壁まで下がるとそこにもたれ、そして、足を開きました。

 それを見た置換体はなにか甲高い奇妙な声をあげ、私に小走りで近づいてくると、そわそわとした動きで私の身体に触れ始めました。ねとねととした生ぬるい粘液質な分泌物を全身に湧かせ、それを塗り込むように私の皮膚を撫でています。

 そこにある置換体の意識はあの時と同じものでした。輪油を襲ったすいかんに私も襲われた時、私に向けられた私を侵食せんとするネガティブな熱意、それとまったく同じでした。

 蛇か蜥蜴に這いずり回られる方がまだマシな不快さに全身を震わせながら、この()()がこんな風にダイに触れたということの方がはるかに許せず、そして、今またしても顔を出し始めたあのトウモロコシを生やす紫のイソギンチャクを痙攣させていることを、今この瞬間にでも後悔させてやりたく思いました。


 あと少し。


 もうあと少し。


 気味の悪さと苛立ちに耐えながら、口にするのもおぞましい器官の動きを見ていました。厳密には、連動する体のわずかな(うごめ)きを見ていたのです。それが一撃で仕留めるために重要な部分を浮き彫りにするからです。

 そして、歯のついたトウモロコシのようなその長い長い器官が完全に露出しきったとき、私の目に一撃の要となる部分がしっかりと映りました。

 私は改めて歓喜の笑みを浮かべました。

 私の体に集中しているらしい置換体の、その無表情でありながら、強張り、目の見開かれた置換体の顔面をがっちりと掴みあげ、私はその耳に目いっぱい憎しみをこめて呟きました。


「くたばれ」


 掌を開き、親指だけを突き出し、服が(めく)れて露出している(へそ)を少し下に向かって、その親指を叩き込みました。

 すると、置換体の体内でバツンという大きな破裂音がして、置換体はそのままガクリと倒れこみました。

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