第二十二話・獣と獣
私の居た場所からダイの居る場所へはかかなり距離があることがわかりました。建物内の、さらに隔絶されたエリアを想定すると、どうしても遠回りになるのです。
しかし、それはあくまで人のいる場所を避けるならば、です。今の私には関係ありません。
たとえ『置換体』との戦いにどこの誰が巻き込まれようが、それで被害がでようが、私の知ったことではありません。
折り返し階段の間を飛び、1フロア丸ごと超えていきます。曲がり角があれば壁を三角とびの要領で加速していきます。人の居る場所に出ても速度を下げず、まったくの反射神経だけで人を避け、ただ目標へと向かいました。
おそらく客や鏡美達の間では騒動になっていることでしょう。
まだ見えてこそいませんがダイの近くにアレがいることが気配でわかりました。私の心はかき乱され、全身が煮えたぎるように熱くなりました。
「おおオオッ!」
私の咆哮です。
この先、曲がったところの大きな通路にダイがいます。
私の筋肉はしなり、呼吸が入るとともにさらなる速度で駆け、通路に入るやいなや、もはや眼には引っ張られた像と化した二人の状態を感覚のみで嗅ぎ分け、飛びながらの後ろ回し蹴りで目が合う前に置換体をダイから引き剥がして吹き飛ばしました。
背中にダイの気配を感じます。しばらく人間を超えた筋力で組み合っていたせいでしょう、かなり体力を消耗しているようです。
「姉さ……ぁ……」
怯えている。ダイの息でわかります。あえて顔は見ません。今少しの時間がダイには必要だと思ったからです。
「大丈夫」
荒い息のダイに声をかけつつ、かつての友達を観察します。そしてそのおぞましさに気分を害しました。
見た目にはたしかに輪油の面影が残っています。しかし、面影が残っていることが無理やりに男性に作り変えたかのような違和感を強くしているのです。
どこかから入手した仕立てのよいスーツは濡れそぼっており、激しい動きのせいでところどころが千切れています。しかし、汗ではなく、なにか分泌物のようなものではないかと思われる粘性が体から流れるソレにはあります。
そして、トラウザーズを押し分けるように、上部から人間には見られない器官が顔を出していました。
青紫色のイソギンチャクのようなチューブを、人の歯のようなものがまばらについた歪なとうもろこし状のポリープが出入りして蠕動しています。それがどういう働きをするのかはもはや想像もつきません。ですが、私の中に発生した嫌悪感は即座に怒りへと変わり、ダイにそんなものを使おうとしていた事実に理性がきかなくなっていました。
置換体の顔には笑顔が浮かんでいました。形を変えただけの嘘の表情です。
(こいつ、まだなにか勘違いを……!)
瞬間的に距離をつめた私はその顔面を全力で殴りつけました。
置換体はバランスを崩し、後ろのコンクリートの壁へ、反響音がするほどの音をたてて激突しました。
私はそのまま手を開き頭部と体を握りこむと、振り回しながらここへ来たのと同じ速度で走り出しました。そして、体勢が悪く、足がついてこない置換体のあらゆる箇所をあらゆる場所にぶつけました。
階段を下へ向かって飛び降り、わざとその途中に落下します。置換体に全体重をかけて階段に押し付けたのです。そして、下敷きにした置換体の上で逆立ちのままさらに跳び、上へ振り上げた置換体をさらに自身ごと地面にぶつけました。
人間なら下手をすれば重体です。ですが、置換体は、いいえ、私たちは……
そこで置換体と目が合いました。笑みは消えていました。あの不気味な器官もひっこんでおり、私を妙な体勢から無造作に押しのけた時には、もうすっかり雰囲気が変わっていました。
そして、私は笑ったのです。
私と置換体の目的がようやく一致したからです。
目的は、『敵性の除却』




