第二話・水
そこにあったのは大きな水溜まりでした。池でも湖でもなく、水溜まりに見えるなんとも不思議な水場でした。
広さはだいたい10メートル程度でしょうか、奥はコンクリートの高台のようになってます。そして、周囲が大きめの溝で囲われていて、なんらかの治水が施されているようなのです。しかしその水は浅く、土の底が見えるほどで、わざわざ手を入れなければならないほどのものには見えません。
ただ、わずかに水面が波立っているようにも見えます。絶えず水が涌き出ているのか魚がいるのか。
とにかく私はその場所にわざとらしさを感じたので、もしかしたらわざわざ保護しているのかもしれないと思いました。
「昔は水が流れ落ちてきていたんだがなぁ」
父がしみじみ言います。
「滝になってたの?」
「まぁ、そんな感じ」
特に川が繋がっていたりするようには見えません。ただ、この場所の周囲はちょっとした崖になっています。そうした高所から水路が繋がっていたのかもしれません。
「ほら」
父が水の方を指差します。遊んできたらいいという意味でしょう。
しかし囲っている溝が子供にとっては深く幅があるので水のあるところまで簡単には行けません。跳ぶと水に落っこちてしまいそうです。
ですが、奥にあるコンクリートの高台を回り込めば『水溜まり』まで行けそうです。
「あっちから行ってくる」
私が言うと父も着いてくるようでした。
高台を越えると予想通り簡単に水に近づけました。
そして、やはり水は少し波立っています。見ていると不思議な感覚がします。
水に寄ってみると、それは波というよりむしろ脈動のような……
「コラ! 近づくんじゃない!」
さきほどの管理の人の声です。私達に向かって叫んでいます。
「やっぱりなにかまずかったのかな?」
父の方を見ると、父は水に目を向けたままです。
私だけもう一度管理の人の方を見ます。ひどく焦っているようです。
そして、私は信じられないような言葉を聞きました。
「その水は、生きているんだぞ!」
次の瞬間、目の前の水がばしゃりとはねました。まるで、人がこちらに手を伸ばしたかのようでした。




