第十七話・性能
巨体な水間を前に、私は一つの特殊な視線を感じていました。
それは先生のドローンの、そのまた奥からくるものです。
なにかいる。
その隠された事実よりも、今この瞬間を物珍しげに観察されていることに苛立ちを感じました。
「姉さん……」
ダイの心配そうな声でふと邪魔に思う気持ちが薄れました。
「大丈夫」
少しだけ明るく答えて、私は軽く駆け出しました。
ビュルリという液体の射出音とともに水間がこちらに腕を変形させた触手を伸ばします。
私はそれを避け、手刀で、わざと引っ掻けるようにして撫で抜きました。鋭い擦過によって水間の触手が千切れ、傷が広がります。
ダイが肩にあたる部分を狙っていることを背中越しに感じたので、私はその反対の足を狙い、さらに懐に潜り込んで肘を叩き込みます。
大きく水間の体がひしゃげ、バランスが崩れました。
そのまま体の脇をぬけ、私は背後から貫手で腹部を狙います。タイミングはダイが肩を同じく貫手で貫くのと同時です。
ドス、と、音こそ鈍いものの効果は明らかで、水間は反撃することも避けることもできずにダイに理陰を破壊され崩れました。
ですが私もダイもそのまま次の箇所を狙いました。
明確に理陰を潰したのに、水間はまだ大半を残していたのです。
単に大きいから、というのもあります。ですがそれだけではありません。
さらに形の歪んだ水間がついにその正体を現しました。
ぐちゃぐちゃの水塊からいくつもの頭らしきもの、体らしきものが生えてきたのです。
その巨大水間は、複数の水間が合わさったものだったのです。
複数の体の部品を生やした水間を、私とダイは即座に破壊、大きな弱点とはならない理陰でも片っ端から潰しはじめました。
一撃では倒せないこと、統制を失いはじめたこと、拡散し逃亡することに傾きはじめたこと。つまり、驚異の意味合いが変わっていたのです。
一撃ニ撃では倒せなかったものの、もうその巨体には、状況を覆す関わるだけの力はありませんでした。
私達は水の周囲を駆け回り、ついには周囲にただの水を散らすことに成功します。
「ここもな、例によって様々な水路の流入先だ」
先生が解説します。
「しかも、人間自らが保護している」
ダイの補足です。
「そう、偶然が偶然を呼び、いつしかここは水間の楽園になっていたんだ」
「仕事で人がくるはずです。なぜ襲われなかったんでしょう」
「襲われなかったわけじゃない、警戒していたんだろう」
「水間が混ざりあっていた理由はなんでしょう」
「長期戦に備えたんだ。生活用水に処理されれば水間は死ぬ。来る人間は警戒している。他の人間は入れないようになっている。天国だが、牢獄だったわけだ」
「だが、諦めず、隙を伺おうと、そして、いざとなったら力ずくで、と……?」
「そこまでの知恵が本当にあったかはわからん。だが、おそらくは……」
恐ろしいことでした。
水間は人に入り込むのです。あの巨体の水間が、あるいは一人の人間に潜り込んだかもしれないのです。
果たして、ギリギリまで、体の許す限りにまで水間が入り込んだ人間は、どんな姿になったのでしょう。
いや、そもそも、完全に置き換わったモノは、いったいどんな存在になっているのでしょうか。
その答えは、ある人物がもうすぐ持ってきます。
「誰がモニターしてたんですか? あのドローンで」
私は先生に問いました。
「……ワシ、という答えを聞きたいわけではないようだな」
「はい。小野道さんですか?」
「うむ……」
「あの人隠れて観察なんてしませんよね、必要なら直接見にきますし」
「……」
「少なくとももう一人、この件に関わる担当者みたいな人が彼らの中にいるはずです。その一人はなぜかかたくなに姿を隠しています。意味なんて特にないのに」
「たまたま……」
「テストしてるんですよね――」
私はどこでもなく話しかけました。
「――私達の性能」
少しの沈黙の後、先生の電話が鳴りました。




