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第十四話・私たち

 妙でした。気配は私たちの部屋に来るまでに数を減らし、結局顔を出したのは一人だけだったのです。

 特に、抑えているにも関わらず微かに聞こえる小柄で軽い足音が気になりました。おそらくそれは女性です。そして、その音を出している人間を、私はよく知っている気がしたのです。

「えー、はじめまして。名乗れませんが、よろしくどうぞ」

「名乗れもしないので?」

 ダイがやや鋭い目で睨み付けました。

 その人はずいぶん大きな体格をしていたのですが、ダイの様子に驚愕し、たじろいだ様子でした。

「えー、知られても問題ないのですが、自分からは名乗れないのです。仮に小野道(このみち)とでも呼んでください」

「小野道さん、これは国からの仕事と考えてもよいわけですね?」

「共同プロジェクトですよ。突き放すようですが、そちらのお家の使命でもあるはずです」

 使命。市見の使命。私と、ダイの、使命。

 どうしても割りきることができず、私はその言葉にひっかかりを覚えました。

「ご当主が今おっしゃられた通り協力は惜しみません。ですが、基本的にはサポートということになります。ですのでこちらからなにかを強制するということもありません」

 ダイはいくつかの質問をぶつけました。

 とにかく、重要なのは水間の数を減らすこと、犠牲者を出さないこと。それが目的なのは間違いないようでした。

「なぜ隠れていたんですか?」

 一番の疑問でした。

「特に隠れていたわけではありません。ご家族のことですので我々なりに気をつかったのです。璃右大さんもご存じの通り、こちらのご当主も一線はひいておられます。二人の気持ちが大事だということがは我々も重々承知しているのです」

 妙な言い回しだと思いました。

 なにかがあります。

 檻の中の動物を観察するような、研究記録をつけるようななにか。

 様子を見守りたいということは、つまり、目的があるからに他なりません。それも、水間だけではない私たちに対しての、です。

「このあと、もっと大切なお話がお父様からお二人にあるかと」

 しばらく静かにしていた当主の方が言葉を発し、二人は部屋を出ました。

 そして、ほどなくして父が部屋に入ってきました。


 父と話をまとめるような経緯の話し合いをしました。

 水間という驚異は年々増加きており、なんとしても対抗しなければいけないこと。

 対抗するには水間をその身に宿した『水間憑き』でならなければならないこと。

 『水間憑き』として戦えるのは現在私たち姉弟しかいないこと。

 そのために多くの()()を出したこと。

 そして、母亡くなったのはそれが理由だということ。


 私は諦めにも似た気持ちで話を聞いていましたが、ふと、父の様子が変なことに気がつきました。

 私たちをじっくり見据えたかと思うと目を伏せたり、落ち着いているようで落ち着いていない、まとまりのない様子でした。

 ダイもそうです。緊張が伝わってきます。意識しているのにそちらを見ることができないときのような、皮膚感覚に集中している様子です。

 

「二人に頼みがある。常識はずれもいいところで、嫌悪感をもつだろう……いや、今の時点でもすでに……だが、とても大事なことなんだ」


 なんとなくですが、私にはわかっていました。

 しなければいけないこと。これから命じられること。

 それは、たぶん、誰もが眉を潜めること。 

 私たち姉弟二人の、本当の意味。


 父からの頼み、願い、いえ、命令。

 それは、私とダイ、つまり姉弟で――


――子を成すこと。


 これも、使命。

 市見の、使命。

 私とダイの、使命。

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