第十二話・血族
「左々さん、自分たち名前についてご両親からなにか聞いていますか?」
少し改まって当主の方が聞きました。
「なにか、ですか?」
「はい、特に左右の字について」
「なにも……」
「市見左津名と市見右炉」
いつか聞いたことのある名前、市見。
巡る予感に取り残されそうになる思考を私は必死で保ちました。
「その次が市見右綱、その次が市見左象矢と市見左立」
「市見……」
「水間狩りを行ってきた者達の名前です」
「みんな私達のように、名前に……」
「はい。お二人の家は市見の遠縁になります」
「では、水間と私達には」
「もともと縁があります」
正直に言って、そこまで予想外のことではありませんでした。
あの水溜まりでの経験が一つの証拠です。親が自身の家に関わることを我が子に子供のうちに体験させておくことはごく普通のことです。
ふと横を見てみるとダイと目が合いました。
落ち着いた眼でした。どこか寂しげにも見えました。しかし、なにか言葉を発するわけでもなく、静寂の気配だけを漂わせていました。
「もともと、市見は水間を用いる技法を持つ集団でした」
当主さんの話は容赦なく続きます。
「先ほど申しました通り、水間はヒトから生まれます。市見はそれを知っており、また、それを死者を蘇らせる技法として応用できると考え、さらにその類推から水間を一種の超越者と考えていました」
「もともとは、水間をうみだす側だったんですか?」
「そうです。それがどうして退治する側にまわったのかはわかりません。ですが、水間を生み使役せんとする技法があり、その後にそれを駆除せんがための技法が編み出され、以降そちらが主流となった。記録からそう考えられています」
「『置き換え』に成功した水間同士に子をつくらせてはいけないそのなにかしらの理由に気がついた、から?」
「おそらくはそうでしょう……私達とあなた方は血の繋がりはありません。あなた方は市見の血を、我々は市見の術を引き継いだのです。あるいはわざと分割して残したのかもしれません。普段は隠し、その気になれば再び統合できるように。なにかがあるのは間違いありません」
「率直に、水間を退治する方法とは?」
「……それは、水間をその身に宿すこと、です」
「え? あの、ですが、それは」
「水間に憑かれるということは、通常ならばその人の死を意味します」
「死なない方法があるのですか?」
「はい。血縁の近い水間を使えば可能となります」
「……血え……ん!?」
わかってきたと思ったその話は、浮き彫りになった途端、にわかに心を毛羽立たせる忌まわしさを帯はじめました。




