春日遅遅
一話に比べて長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただけると幸いです!
あのまま僕は学校まで一直線だった。色々気になるところはあったけど、それ以上に逃げなきゃいけない気がしたからだ。
教室に入り机の上に左の頬を置き、だらんとした姿勢でさっきまでの状況を冷静に思い出していた。
桜の枝から女の子が降ってきて…僕に(故意ではないにしても)パンツを見せつけ、最後に名前を聞いてきた。
まず初めの部分からオカシイ。僕が見た時桜の枝に女の子はいなかった。じゃあ、どこから降ってきたんだ?もしかしたら彼女は人並み以上の身体能力を持っている、とか得体の知れない能力を持っているとか。
だとしたら、僕は滅多に出来ない経験をしたのではないだろうか?
そう思った瞬間に僕の目の前に特大ボリュームの胸が現れた。
「なーに朝から難しい顔してんのっ?」
僕は考えているところを邪魔されたので不機嫌そうに応えた。
「いや…別になんでもないよ」
「また、どうせくだらない事考えてたんでしょ〜?あれ、当たりっぽい?」
「あーそうだよ!お前からしたら全然くだらない事だよ!」
「うわ〜怒った!怖い怖い」
さっきから僕にちょっかいを出してくるこいつは僕の幼馴染の萌黄麗。陸上部に所属していて、必要以上に元気だ。
ポニーテールで顔はかなり整っている上に巨乳で男子からも女子からも人気がある。苦手なものは勉強くらいしかない、恐ろしい奴だ。
幼稚園から中学まで毎年同じクラスで、やっと離れることが出来ると思ったら、必死に勉強して僕と同じ高校に進学して高校でも同じクラスになった。腐れ縁てのは中々切れないもんだね。
「朝から夫婦漫才かよ〜楽しそうで何よりだねぇ。」
「おはよう!紫!夫婦漫才じゃないぞ、麗がちょっかい出してきただけ。」
「おはよー村木君。ちょっかい出した訳じゃないんだよ。朝から飛鳥が気の抜けた顔してたからさ、つい、ね?」
僕達を夫婦呼ばわりしたこいつは村木紫(ゆかりって女子っぽい名前だけど男だ)。中学で知り合って一気に仲良くなったお調子者。普段はひょうきんな事ばかり言ってるけど、勉強がすごい出来る。明るくて社交性があって誰とでも仲良くなれるタイプだ。
「それで飛鳥は気の抜けた顔して何考えてたんだ?」
「あぁ、えっと…」
「うるせえ、うるせえ!出席とるぞ!」
担任が教室に入ってきたせいで僕達の会話はここで止まってしまった。
授業中も僕は朝の事ばかり考えていた。そのせいで教師の、数学は偉大だ!という話も英語で世界を統一する話も全く入ってこなかった。
ぼーっとしていると時間はあっという間に過ぎると言うけれど今日の時間の速さは格別だった。
そして、帰りのホームルームも終わり部活にも所属していないので帰ることにした。
学校から駅まで爆速で自転車をこぎ、電車内で寝ていると、僕の降りる駅まで着いた。駐輪場でまた自転車に乗り自宅まで約8分。その道中も今朝のことを考えてしまっていた。
そして、あの公園に差し掛かった。彼女は居た。ベンチにぽつんと座り、目には涙を浮かべていた。
「あの、どうしたの?」
思わず声をかけてしまった。
「あなたは、今朝の…!実はこの地域は来たばかりでっ、知り合いも行く場所もなくてっ、淋しくて…うわぁぁぁぁん!」
「えっと、とりあえず僕の家来る?お茶くらいなら出せるから。あっ、変なことするつもりはないから安心して。」
思わず言ってしまった。この状況でこのセリフはマズかったかもしれない、なにか別のことを言わなk
「良いんですか⁉︎ぜひ連れていって下さい!」
ついてくるのか…
そうして、僕は彼女を家へ招き、お茶を一杯出した。かなり興奮してたみたいだけど、そのお茶を飲むと丁寧に自己紹介をしてくれた。
「先程は取り乱して申し訳ありませんでした!私、薄桜と申します。〝和色〟という概念が形を得た結果の姿です。」
「え?君は人間じゃないの?」
「はい!私みたいに色が人間の姿になった存在を『和色撫子』って言うんですよ!」
かなり突拍子のないことを言ってるな、この娘。
「うーんと、にわかには信じがたいんだけど、その和色撫子は何かできるの?」
「他の娘は分からないですけど、私はこんな事ができます!」
そう言って薄桜は右手を出した。掌の上には桜の花びらが浮いている。
「それっ!」
桜の花びらはその声と同時にどんどん彼女の掌から出て来た。
「とりゃっ!」
彼女がそう言うと花びらは消えた。
思わず拍手した。そして僕の拍手に照れてる薄桜を見て確信した。
こいつ、本物だ…
僕は驚きを隠せなかった。それと同時に喜びがこみ上げてきた。ずっと今みたいな漫画っぽいものに憧れてたからだ。
「それで、なんで君はこの世界にいるのっ?」
少しテンションが上がった感じで聞いた。
「和色撫子の一番を決めるためです!私達が身体や意思を手に入れた時、真っ先にどの色が一番美しいか、って事になって最後の数人までは決められたんですけど、そこから先がなかなか決まらなくて人間界で戦って一番強い娘を一番美しい色にしよう!という結論になって、私はここにいます!」
なんでこっちの世界なんだよ…とは思ったけど、僕としてはそっちの方が面白そうだから聞かないことにした。
「何かルールとかはあるの?」
「私…ルール説明の時に居眠りしちゃってて…確か相手に降参させれば勝ちなんですけど…細かいルールはよくわかんないんです…確かRGB値がパラメータになってるって言ってた気が…」
どうやらこの娘は少しドジみたいだ。
僕は手元のケータイでRGB値を調べてみた。
RGB値っていうのは配色の分量らしい、赤がこれくらいで青がこれくらい…みたいな。
薄桜のRGB値は
・R 253
・G 239
・B 242 だった。
他の系統の色に比べて異様に高い。彼女の情報は本当なのだろうか?
「僕に何か出来ることってないかな?」
「もし良ければ私と契約してもらえませんか?」
待ってました!特にこういう展開憧れてたんだよ〜
「もちろん!契約するとどうなるの?」
「私がえっと…あなたの苗字の桜をもらいます。そうすると私はとっても強くなります!」
「え?つまり、僕は契約すると原飛鳥になるってこと?」
「はい!戦いが終わるまでですけどね。あっ、その分桜色の空間に入れるようになります!」
なるほど。今朝彼女が入っていたのはその桜色の空間ってやつか。降ってきたのは…きっと彼女がドジしたんだろう。
「よし!契約しよう!なんか面白そうだし、僕もその戦いに巻き込んでよ!」
「良いんですか!お家に招待するだけでなく契約まで…本当にありがとうございます!では…」
「えっ、ちょっ…」
薄桜は僕の唇に彼女の唇は重ねてきた。舌も絡めてくる。とても慣れた感じだった。
5秒ほどすると彼女は唇を離した。これが契約の儀式なんだろう。
「どうでしたか?私のファーストキッス兼契約は?」
いや、ファーストキッスかよ、僕もだけど…
「あの…突然始めるとビックリするから…」
「でも、これで桜色の空間に入れるはずです!私が桜の花びら出すので入ってみてください!」
そう言うと薄桜はまた桜の花びらを出した。
少し緊張しながらも、僕は桜の花びらに触れた。
…何も起きない。
「何も起きないんだけど…?」
「あーーーー!ごめんなさい!契約はこの書類にサインするだけだったんでしたです!本当にすみません!さっきのキスは忘れてください!」
「いや、良いんだけど…薄桜こそ、よかったの?
ファーストキッスが僕となんかで?」
「えっ⁉︎まあ、飛鳥さんカッコいいから…その…別に嫌では…むしろ…そんなことより、ちゃっちゃとサインしてください!」
念のため書類を全て読んだが、怪しいことは書いてなかったので僕は『桜原飛鳥』とサインした。グッバイ桜原飛鳥、よろしく原飛鳥。
「はい!これで、契約完了です!それでは今日からよろしくお願いします!」
「もしかして、ここで寝泊まりするの?」
「もちろんですとも!私は飛鳥さんの名前の一部をもらったので私とあなたは一心同体!周りの人も別になんとも思いません!」
それで良いのかな?でも、それもそれで面白そうだし、契約もしてしまったから仕方ないか。
「念のため言っておきますと、私、色なので生殖機能はありません!だから、襲っても意味ないですからね〜」
「別に襲わないよ!」
そして、僕達の戦いは始まった…
読んでいただきありがとうございました!
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