1-揺らぎ
文化祭の出し物は私立案のたこ焼き屋に決まった。今日からその準備が始まる。今日は看板とか飾り付けを作る。それと買い出しになった。
美穂はクラス委員で文化祭で使う費用を預かっているので買い出し班に荷物も多くなるので男手として祐介も買い出しに。私は元々クラスにある備品を使って飾り付けを作る班になった。
「ねぇねぇ佐島君って鈴音ちゃんと美穂ちゃんどっちと付き合ってるの?」
同じ班の女の子が唐突に聞いてきた。私達3人は高1から一緒に居るのでこの手の質問は何度かされている。私はやっぱりそういう関係に見えるものなのかなぁと毎回思いながら笑いながら否定する。
「どっちとも付き合ってなんかないよー私達はただの友達だよー」
「えーでもさぁ男女の友情って成立無いって言うじゃんどうなの?そこの所」
この子は佐倉さんクラスで1番のギャルだやっぱり恋バナが好きなんだなぁ。
「えー私は男女にも友情ってあると思うよほら私達が証拠」
ちょっとめんどくさいなぁって思いながら返事をする。
「ふーんでもさぁやっぱり友達だと思っていたらいつのまにか好きになっちゃうとかあるんじゃないの?ほら今も佐島君美穂ちゃんと2人で買い物行ってるじゃない?文化祭マジックってやつで気になり始めたりするんじゃないの?鈴音ちゃんは気になったりしないの?」
…心が少しチクっとした。この話が続くのは嫌だなって思ってたら
「うぜぇ…」
同じ班の男の子が呟いた。名前は井上 透
女の子が不機嫌そうに少し睨みながら
「人が話してるの勝手に聞いていきなり何?」
と男の子に向かって言った。
「うるせぇんだよ。くだらない話してんじゃねぇよ…三嶋だっけ?お前らの関係もうぜぇ…」
男の子はそう言いながら席を立って教室から出て行った。私は呆気に取られて言い返せなかった。
「はぁ?何あいつこっわーきっもー」
女の子が怒って大きな声で言った。
「あの…ごめんなあいつ中学の頃色々あってさ」
同じ班の男の子小田君が謝ってきた。
「はぁ?だからなに?てかなんなのあんた?」
佐倉さんの怒りの矛先が井上透から小田君に変わった。
「うーん…あんまり人にする話じゃないんだけどさ。」
小田君は声のボリュームを落として話始めた。
「僕、透とは中学から一緒なんだけど、透には幼馴染の女の子がいてさ本当に仲が良かったんだ、それこそ三嶋さん達みたいな親友同士って感じだった。透にとっては本当に親友だったんだけど、女の子の方は違ってさ透に恋してたみたいで、中2の文化祭の時に付き合って欲しいって告白したんだ。」
佐倉さんの顔が怒りから真剣なものに変わって行った。私も真剣に話を聞いた。
「でも、透は断った。ごめんそんな風には見れない俺達友達だろ?これからもこの距離で行こうぜって」
…私の心はモヤモヤした。
「でも…振られた女子と振った男子じゃ友情は続かなかった。それどころか周り女子からも好きでもないのにずっと一緒とかありえないとか言われ始めて、振った女の子の友達から嫌がらせを受け始めたんだ。透にとって男女の友情なんて有り得ないものになってトラウマになっちゃったんだ。…だからごめんあんな言い方は良くないと思うけどあいつの気持ちもわかって欲しいんだ。」
佐倉さんは何も言わなかった。
私はだんだん腹が立ってきた。
「だからなに?あいつが経験した事で私達の関係まで悪く言われる筋合いなんて無いんだけど。」
私は席を立って出て行った井上透を追いかけた。
「三嶋さん!」
「鈴音ちゃん!」
2人は私を呼び止めた。それでも私は井上透に文句を言いたかった。
井上を走って追いかけた。階段を下りている井上を見つけた。
「おい!」
走ってたから興奮しているのか、怒りが強かったのか分からないけど思ってた以上に大きな声がでた。
「なに?」
井上は私を見上げながら睨んだ。
「あんたが昔なにを経験したかなんて知らないけどさ、それで私達の関係バカにすんなよ!」
私は井上の目を見ながら言った。言ってやった。
「なんだよ、お前それ言うために追って来たわけ?めんどくさいなぁうざいよ」
溜息をつきながらその場を去ろうとする井上を私はまた追いかけて腕を掴んだ。
「言いたい事だけ言って逃げるなよ」
「離せよ!」
井上は腕を上げて私の腕を振り払おうとしたけど、私は離さない。
「あんた私達の関係に嫉妬してんじゃないの?かっこ悪」
私は馬鹿にしたように笑って言った。
ガッ!っと井上の腕を掴んでいた私の腕を井上は強く掴んで来た…痛い。
「なんなんだよ!お前は!?」
井上は怒鳴りながら私を睨んだ掴む手に込められた力がどんどん強くなる。
「痛い!離して!」
井上の力は強い腕を振り払おうとしたけど全然だめ。
「おい!なにしてんだてめぇ!」
「祐介!」
買い出しから戻ってきた祐介が怒鳴った。
「っちぃめんどくせぇなぁ!」
井上は私の腕から手を離し。私を睨んだ後祐介の隣を通って階段を下りていった。
「鈴音ちゃん!大丈夫!?なにがあったの?
腕痛くない?」
美穂が凄い焦って駆け寄って来てくれた。
私は笑顔を見せて、「大丈夫だよ!」と答えた。
「…嘘つけ泣きそうじゃねぇか。痛いのか?怖かったのか?」
祐介はそう言うと、私の手をとった。
「腕見せろ」
「…うん」
「痣になってんじゃねぇか。保健室行くぞ」
「鈴音ちゃん…」
「神崎わりぃ先に荷物教室に持ってってくれるか?」
「うん置いたらすぐに行くね。」
祐介は怒っていた。声からそれはわかる。
美穂は私を本気で心配してくれている。
「ごめんね美穂」
「私はいいから早く保健室に行っておいで」
「うん」
私は祐介に痣になってない方の手を引かれながら保健室に向かった。
「失礼します」
保健室のドアを開けて祐介が先に入った。
「はーいどうしたの?」
保健室の先生が答えた。
「こいつの腕見てやってください」
私は椅子に座って先生に腕を見せた。
「っ…どうしたのこれ?」
「ちょっとクラスメイトと揉めちゃって」
「…今湿布を持ってくるわ」
先生は冷蔵庫に向かって行った。
「なにがあった?」
祐介が冷たい声で聞いて来た。
「…別にあいつが文化祭の準備サボろうとしてたから止めようとしただけ。」
嘘だ。でも祐介には理由を知って欲しくなかった。
「…そっか」
納得した様子は無かった。私が何かを隠してる事には気がついてるみたいだ。でも祐介はそれ以上なにも聞いてこなかった。
ガラガラと扉が開く音がして。
「鈴音ちゃん!」
美穂が入ってきた。
「大丈夫なの?」
「うん今、先生が湿布持ってきてくれる」
「はーい持ってきましたよ。冷たいけど我慢してね。」
「ありがとうございます。ごめんね二人とも心配かけた。っツメタっ!」
「よかったぁ。でも今日は無理しないでね」
「そうよ、湿布は貼ったけどまだ痛むでしょうから無理せず安静にしてなさい。」
「はい。ありがとうございました。」
3人で保健室室を出た。
祐介は黙ったまま。美穂は、本当に大丈夫?とか今日帰り私が鞄もつよ?とか心配の声をかけてくれた。
「2人ともありがとうね!」
私は笑顔で2人に声を掛けた。