出会いは唐突に。或いは男と共に。
第1話
『 出会いは唐突に。或いは男と共に。 』
(この第1話は第3者視点でお送りいたします。)
「・・・ここが、地球、か。」
男がいた。
都心も都心、大都市の真ん中に男がいた。
男は執事服のような服を着、手には白い手袋をはめている。
(ふむ、これからどうするか。
能力がある世界とはいえ、あまり本気は出さないほうがいいな・・・。)
男は考える。
(あまり目立たない能力、それでいて使い勝手がよく、この世界で職としてつかえそうな能力がいいな。)
そう自身の思考に没頭していた男だが、唐突に聞こえてきた声に強制的に現実に引き戻された。
「おい、キミ、すまないがココがどこだか教えてくれないか?」
声に引かれ顔を向けると、目の前には見た目30歳前半の男が立っていた。
男はスーツに身を包み、手には高価そうな鞄を持っている。
「・・・すみません、私も先ほどここにきたばかりでして、ちょっと場所まではわかりません。」
そう男---執事服を着、白い手袋をはめた---は言った。
「なんだ、そうなのか。
それはすまなかった、だがどうするか・・・。
急いでいるんだが迎えの車が来ないのだよ・・・。」
男は心底困ったかのようにそう言った。
「・・・すみません、力になれなくて。
私もこれから職を探そうかと思っているんですが、どこでどうすれば職を見つけられるのか、さっぱり見当がつかないもので、どうしようか悩んでいたんです。」
男は答える。
「キミも困っている側の人間か・・・。
まったく、どうしたものか・・・。」
そう言った声を境に、会話が途絶える。
スーツに身を包んだ男と、執事服を身に纏った男はただその場に佇む。
「そうだ。
キミ、一ついいかね?」
男は何かを思いついたかのようにそう言った。
「はい、なんでしょう?」
執事服の男は少し戸惑いの混じった声でそう言った。
その反応に気をよくしたのか、いたずらを思いついた少年のように表情を崩しながらこういった。
「キミ、職は私が提供しよう。
だからキミは私が望む場所へ行く方法を探してきてくれないか?」
執事服の男の顔が驚きの色に染まる。
その表情を見て男はさらに顔を崩す。
「・・・それは、私に職を提供する代わりに、あなたの目的のために働け、ということでしょうか?」
男が気を取り直して答える。
「まぁ、そういうことだ。
どうだね?
悪い話ではないだろう?」
「・・・確かに、それが事実であるならば、ですが。
で、どちらまで行きたいので?
先ほども言いましたが、私は地理に明るくないので、あまり役には立たないと思いますよ。」
「大丈夫、とはいえないが、キミは能力者だろう?
その能力で何とかならないのかい?
見たところ、移動系の能力のようだが。」
男は平然と言う。
「・・・何故私が能力者だとお思いで?」
男は訝しげな表情でそう言った。
隠そうとしているようだが、少し動揺の色が見え隠れしている。
「なに、簡単なことさ。
キミはこの辺に来たばかりだといった、だが着たばかりの人間がこのあたりの地名すらわからないというのは些か変だ。
故に能力によってこの地にきたのではないか、と考えたのだよ。
その反応を見るにどうやら正解だったようだね?」
男は顔を崩しながらそう言った。
「・・・なるほど、あなたも能力者のようだ。
普通あの短時間でその結論に行き着くのは早過ぎる。
大方、時間系、それも自身に干渉する能力のようですね。」
「ほう、思ったより認めるのが早かったね。
それと、確かに私は能力者だよ。
この短時間でそれを見抜いたのはキミが初めてだよ。」
執事服の男は能力によってそれを知ったのだが、それを知るはずも無い、そして執事服の男の能力を移動系だと考えていた男はそう言った。
「ええ、お褒めに預かり光栄です。
いいでしょう、職をいただけるのなら私がそこへとお連れいたします。」
執事服の男は軽く礼をしながらそう言った。
「おお、本当かね?
私の名は『黒崎 清』」
そういいながら右手を差し出す。
「なるほど。
私の名は『逆神 隆』、短い間ですがよろしく。」
そういいながら隆と名乗った男は右手を握る。
黒崎と名乗った男は、
「ああ、とりあえず急いでくれ、時間が無い。」
そういいながら隆の手を握り返す。
「わかりました、ではどちらまで?」
「そうだな、取引会社の会議室まで、だ。
我が社の者がもう行っているはず・・・、急いでくれ。」
黒崎と名乗った男は、そう、言った。
この瞬間、隆のこの世界での能力が決まったのだった。