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それは合歓木の下のにわとり

作者: 井上あかり

可愛いと思うものを詰め込んでみる!

趣味丸出しで恥ずかしい。

かなり奇妙な物語です。

 あれはどれくらい昔の話だったでしょう。


 貴方は咲き誇る合歓木の下でにわとりを抱えて立っていましたね。


 いつ会えるか判らない人を待ち続け、貴方は毎日そこに居た。


 誰かが貴方に吹き込んだんですよね。


 『にわとり』を抱えてその合歓木の下に居れば、待ち人が現われる。

 そしてにわとりが朝一番に鳴けば、貴方の想いが成就する。


 ――という嘘を。


 人を疑う事を知らない貴方は喜んで、にわとりを抱えて来る日も来る日もただ待つようになった。


 連れてきたにわとりは随分と大人しかった。


 それはきっと、嘘を知らない貴方の気持ちが伝わったからなのです。


 少なくとも、協力しようという気持ちがにわとりの心に芽生えたからに違いありません。


 汗をぬぐいながら優しくにわとりを撫でていた貴方の手は、その想いは、とても美しかった。


 合歓木が実を成して一年の務めを終えようとしていた頃。


 それでも貴方の目的は果たされなかった。


 その頃になると貴方の腕の中に抱かれたにわとりは少し退屈になっていたようです。


 垂れ下がる合歓木の種を見上げては、ついばもうと首を伸ばしていました。


 雪の降る寒い日。きらきらと氷の霧が降り積もる中に居ても、貴方は待っていた。


 それにしても、通りを行く人が貴方の胸元を見て驚いていたのは傑作でした。


 にわとりが、セーターの中に居ながら首を出しているのはやはり驚くでしょうね。


 まるで生きたネックレスを身に付けていた様に見えた事でしょう。


 にわとりは風邪をひいて鼻水を垂らしていましたが、随分と安心してその場に居た事を覚えています。




 それでも暖かくなる頃には、さすがの貴方も疲れを隠せなかった。


 貴方は心が折れかけたのでしょう。



 だから、にわとりを手放し――今度は紐を付けて貴方の近くを遊ばせるようになった。


 気付いていましたか? にわとりは時々貴方を見ては首を傾げていましたよ。


 貴方の腕の温もりを失った事と、少しばかりの自由を手に入れた事とを天秤にかけていたのです。


 合歓木が再びその花を咲かせた頃。


 その木陰が心地良いことを覚えた貴方は座ってうたたねをしていましたね。


 にわとりも心地良さそうに、貴方からまったく離れようとはしませんでした。


 ただ、にわとりが座っていたのは貴方の頭の上。


 その様子は、さぞかし微笑ましい光景に映ったことでしょう。




 私は貴方を一年間見てきました。


 貴方はとても我慢強く、決して待ち人の事をあきらめるつもりは無い事が判りました。


 私は貴方の想いを成就させてあげたい。そう思っています。




 ――ただ。

 貴方が一つだけ大きな間違いを犯していた事に気が付いて欲しかった。




 ――私達雌鶏は滅多に鳴かないんですよ。




 さて、貴方は待ち続けた。

 私が貴方の事を理解するには十分な時間を頂きました。


 だから私は貴方の事を伝えるために、知り合いの雄鶏を連れてきます。


 近い内にきっとここに戻って来ます。

 だからどうかそれまでお元気で。


 そして彼がたどり着き、ときの声を張り上げたあかつきには。

 私は貴方のそばであらためて貴方との友情を育みたいと思います。


 にわとりですが、どうぞよろしく。


 貴方とはきっと友達になれると思いますよ。

 どうか、私が貴方の待ち人である事を願っています。


 もし、私が待ち人で無ければ、一緒に探しに行きましょう。


 貴方の友人より。


                               にわとり

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいいお話ですね。 友情を謳っていますが、きっと恋なのでしょうね。 [一言] 風見鶏に恋する鶏の歌を思い出しました。 面白かったです。
2017/05/23 12:40 退会済み
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