第5話 嵐の前の嵐
「はよーっす」
入学から二週間が経ち、各々仲良しグループが出来上がった頃合いだ。そして俺は朝から元気に声を掛けてきた兎樹とよく一緒にいる。
「おはっ。兎樹はいつも朝から元気でいいな」
同じ班の亀子や鶏ともつるむがなぜか兎樹と一緒にいることが多い。まあ亀子は女友達といる方が楽しいだろうし、鶏は1人でいるのが好きらしいから必然なのかもな。と思っていると
「鷹也は珍しく悠々セーフじゃないか。」
いつものように意地悪っぽく言ってくる。兎樹のこのノリにも慣れ、俺らの挨拶みたいなものとなっていた。
「まあな。たまには俺も早起きくらいするさ」
などと話していたらホームルームが始まった。
「さて!今週末にはもう林間学校が始まります。みなさんは行く準備始めていますか?私はまだ全然出来ていないんですよね…」
ウキウキしながら楽しそうに話しているきとーせんせー。クラスを受け持つのは今年が初めてらしく教師として泊まりでどこかに行くのは初めてだそうだ。そりゃ楽しみなのはやむを得ないか。聞いてるこっちもウキウキしてくるな。
「色々と提出しなきゃいけない書類は全部今日が期限だから気を付けてね~」
俺は忘れないように全部渡された次の日に提出したから大丈夫だな。あれ?フラグになってないか。なってないな。うん。
と、そんな浮かれたホームルームを終え今日も一日学校生活が始まった。
のだが放課後、事件が起こる。
いつも通り授業を受け、ようやく放課後になり俺は兎樹と一緒に帰ろうとしていた。だが……
「おい兎樹。少し机の中が汚くないか?」
そう。兎樹は片づけが苦手らしく机の中がぐちゃぐちゃになっていた。ロッカーは逆に物がほとんど無く綺麗なんだが、学級便りなどの手紙類は読まずにそのまま机に放り込んでいるから汚い。
「あはは……やっぱり汚いと思う?さすがに俺もさ、そろそろ片づけしなきゃかな~って思ってたんだよね」
当たり前だ。奥まで入らない教科書類が飛び出しているじゃないか。
「机の中を整理整頓してから帰るぞ」
「ですよねー……」
嫌そうな顔をしながら始める兎樹。普段からきちんとしていればこんな事にならなくて済むのに。でも他のことに関しては普段の適当な態度からは想像できないくらいしっかりしてるからしょうがないか。ギャップ萌えってやつでモテそうだな。本人には言わないけど。
「いらないプリントあったら渡して。まとめてリサイクルかごに入れてくるから」
「鷹也はおかんかっ!ってのは冗談でありがたいです」
ハニカミながら言う兎樹。今回ので反省して改善してほしいが、反省しなさそうだなぁ。
自分が原因だったと鷹也が気づくのはだいぶ先だったりする。
かれこれ5分以上片づけ作業をしている。もう教室には俺と兎樹の2人しかいない。
そして机の中からはプリント類、教科書以外にパンの袋、飴の袋、駅前で配ってるティッシュ……と色々出てきた。
そしてついに事件の時が……!
「おい……兎樹……このプリント提出しなくていいのか……?」
「へ?どれどr……あああああ!!!やばい!今何時だっけ!」
そのプリントとは林間学校へのペット同伴許可申請書であった。
ここ一週間くらいずっと柏とあれしてこれして~って話していたのに、まさか提出してなかったとは思わなかったよ。
「今は15:50だよ。提出期限は?」
「16:00」
これはギリギリ間に合うのでは?
「急いで書いてだして来いよ!」
「お、おう」
ボールペンを急いで出し書き出したが突然止まる兎樹。
「鷹也!この保護者の欄書いてくれないか」
「そういうことか。いいよ!」
俺も早く、なるべく綺麗に書いた。
「切り取りは職員室でやればいいか。兎樹、今何分?」
「53!」
「走って行くぞ」
別に俺は行かなくてもいい気がしたがノリで先陣を切ってしまった。教室から職員室までは7分あれば余裕なはずなんだが……
「おい、鷹也!あれを見ろ!」
おいおい……なんで外廊下をヤギが横断してるんだよ!
「昨日、先生が明日の放課後に飼育小屋の動物を健康診断に行かせるからこの廊下は通れないって言ってたような……」
俺は昨日遅刻ギリギリでそんなことを聞く余裕なくて覚えていなかったのが悔やまれる。
「兎樹、遠回りになるけど反対側から行くぞ」
「お、おう。あ!残り4分!」
「ギリギリ間に合うかだな」
廊下を突っ走って反対側に行って当たり前のことに気付く。
「そりゃこっちも通るわな」
2階ルートを通ることにする。別棟に職員室ってめんどくさいなって痛感する。
そんなことを考えていたら職員室が見えてきた。ポケットからスマホを取り出すと 15:59 と表示されてる。
走ってる勢いそのままにガラッとドアを開けて2人で大きな声で
「「きとーせんせーいますか!申請書提出しに来ました!」」
息を切らせた男2人が突然来て、職員も驚いてる様子だ。
何事かと亀塔先生が来てくれた。
「16:00期限のペット許可申請書を提出しに来たんですが、セーフですか?」
落ち着き始めた兎樹が事情話し始めている。
「あはは。そんなことだったの?別に今日中なら大丈夫だったのに」
おい……俺の労力を返せ。
「鷹也、睨むなって。帰りにジュース奢るから許せって。」
今回ばかりはさすがに反省してるようで許すことにした。
「あっ。この保護者の欄を書いたの鷹也くんね。バレバレだけど今回はしょうがないから見逃してあげますかね」
えっ。俺の字ってそんなにわかりやすいの。驚きと安堵に飲まれながら先生とは別れ、さくらたちの待つ俺たちの教室へと向かった。
教室に戻る時に外廊下を見てみたら今度は牛が横断していて通れなかったので断念した。この学校どんだけ動物がいるんだよ。
教室に戻ると待ちくたびれた様子の柏は兎樹のかばんの上で寝ていてそのかわいさに俺は癒された。
俺はいつも通り頭の上にさくらを乗せ、兎樹は眠っている柏を抱きかかえながら教室を後にした。
2人で近くの公園に寄って、さっきの言葉通りメロンソーダを奢ってもらい、2人で綺麗な夕日の方を向き春の心地よい風に涼しみながら乾杯をした。
こんな何気ない日常もきっと数年後いい笑い話になるんだろうな。
もう少しで林間学校!なにが起こるかわくわくするぜ。
次はいよいよ林間学校編突入します!