gun×ガン
銃。gun。
それは遠くから相手の息の根を一瞬で仕留めることもできる。
それは近距離で懐に潜り込み相手の動きを止めることもできる。
しかし、それらは全て剣と一緒に戦いサポートとして相手をしているからだ。どちらかが相手を引き付けている間にどちらかがトドメをさす。二つで一つの戦い方となる。
しかし、この世界には様々な理由で周りとは馴染めず一人になることもある。だが、人間は一人では生きていけない。そこで一人の人間が手を出したのは同じく一人の人間だった。
同じ銃の使い手。
スナイパーライフルとハンドガン。
異色の二人組。
そんな二人の話。
―――――――――――――――――――――――――
今日もこの訓練場では様々なコンビが訓練している。
その中にランキング一位のコンビがいる。
剣の使い手のマサルと銃の使い手のコウタ。
この二人は数々のクエストをこなし期待通りの結果を残してここ数年のランキングのトップに君臨している。
そんな二人が今日も向き合って互いを相手にとって練習している。
「いくぞマサル」
「こい!」
コウタが引き金に手をかけ、マサルに銃口を向けて引く。サプレッサーを付けているのか音はそれほど出てはいない。だが、ものすごい勢いでマサルに向かっていく。
マサルは腰に差してある剣に手をかける。そして、引き金が引かれた瞬間、目の前で剣を振る。それはまるでただ剣を抜いたかのように見えた。しかし、その剣は弾を捉えマサルの後ろで二つに別れた弾が地面へとはじけた。
周りからオォォと感嘆の声が聞こえる。結構な人だかりだ。それもそのはずランキング一位のコンビが訓練場に現れるなんてそうそうない。基本はモンスターを討伐しに外に出ている。今回は顔見せのために現れたところ練習風景を見てみたいとのことで周りの声に応えて見せている。
「マサル、また腕を上げたな」
「コウタこそ間のとり方が上手くなった」
互いに研鑽しあっているところに練習場の所長がやってきて二人を裏に引き下げていく。それに伴い周りに集まっていた人たちもこの場を離れていく。
しかし、そんな時にその場に残るやつが二人だけいた。その二人は男女でなにか言い争いをしているようにも見える。
「ケンジ見た?あんなふうにあんたもやるのよ!」
「無理だってわかってるくせにそんなこというなよ…」
男の名前はケンジ。スナイパーライフル使いの後衛型。あの練習を見て少し落ち込んでいる。そりゃあんなハイレベルの練習を見たら感嘆するか落ち込むかのどちらかだろう。
「そういうお前だってアリス。お前もあんなこと出来るのかよ?周りも見えてないのに」
「見えてるわよ!あんたなんかに言われたくないわよ!」
女の名前はアリス。ハンドガン使いの前衛型。アリスはあの練習を見ても見なくても自分は一番だと思っている自信家だ。
「そうやって尻込みしてるから周りからガンなんて呼ばれるのよ!あんたが悪いんだからね!」
「それはお前が練習中に誰と組んでも勝手な行動をとり続けるからだろ!」
ふたりともなにを〜!!と睨み合っている。
そう。この二人は周りからガンと呼ばれている。
ケンジはスナイパーライフル使いだと言ったが止まっているものに当たることは少ない。動いているものも普通の人と変わらないくらいだ。これは遠距離型の後援タイプとして致命的である。もちろん周りと組んでも邪魔者扱いされるだけである。
アリスはハンドガン使いの前衛型と言うものの後衛のことなんて一切考えずに行動する。猪突猛進なんて言ったら聞こえがいいが戦場に出れば自己中心的な行動しか取らない。加えて本人は全く悪気なんてない。自分が一番上手いとすら思っている。だから、アリスもまた周りと組んでも邪魔者扱いしかされない。
こうして邪魔者どうしの二人が組んだのがこのコンビ。周りからガンと呼ばれるのもうなずける。
この二人は結成してから何ヶ月か経つもののいまだにクエストをこなしていない。互いの息があわずにクエストをこなすほどではないのだ。
二人が言い合っているところにあるコンビが現れた。レイとタロウだ。この二人はなにかあるたびにケンジとアリスをバカにしてくる。
「おい、ガン達〜!おめぇらま〜だクエストにも行ってないのかぁ?俺達はもう10回はクリアしてきたぞ?なぁ、タロウ?」
「あぁ、レイの剣はとても援護しやすくて助かるよ」
そんな二人をみてケンジとアリスは眉をひそめる。
「また来たわよ、あの二人。ほんとに暇ね」
「あいつら他にやることねえんじゃねえかな」
アリスとケンジはいつも誰かしらにこうやって僻まれ続けているがレイとタロウの二人だけはほぼ毎日のようになにか言ってくる。
もはや日常化しすぎて慣れを通り越して呆れている。
「うるせぇ!俺たちだってもっとレベルが上がればなぁ!」
「上がってないから言ってるんじゃない」
「ぐぬぬぬ!」
「レイ、今日はもう行こう。練習の続きだ」
こうして少しの反論すら出来る仲になっている。
レイとタロウは練習の途中だったにもかかわらずこいつらを僻みにだけに来た。というわけではなく本当はマサルとコウタのランキング一位のコンビを見に来ていた。その時にケンジとアリスを見つけたから挨拶代わりにと僻みに来たのである。
レイとタロウは練習をしにまた出口へと向かう。出口から一歩出た時レイはこっちを振り向いて言った。
「おまえらがクエストをクリアするのはいつになるかなぁ?もしかしたらクリアする前にまた解散してただでさえガンなのにそれ以上にガンになるのかなぁ?楽しみだぜ」
「わかったから僻みなんて言ってないで早く練習に行ったら?」
「ぐぬぬぬ!覚えてろよ!」
アリスが一言言い返すだけでレイはいつもぐぬぬと声をあげて悔しそうな顔をして去っていく。当のアリスは何も思っていない。というか何も考えずにそのまま言っているだけである。
このやりとりを見るたびに互いのコンビの相方はいつもため息をついている。
今回もまたタロウとケンジはため息をついて相方を見ている。なんとも微笑ましい光景。
「アリス、そんなことしてないでクエストに行こう。ほんとにあいつらの言う事になりかねない」
「うっさいわね!わかってるわよ!」
ケンジはまたため息をつく。アリスはあのやりとりの後は必ず機嫌が悪い。困ったものだ。
そんなことを考えつつクエストを受注しに向かう。
◯
「これなんかいいじゃない!報酬も高いし、やりがいがあるわ!」
アリスはそう言って壁に貼ってある紙をみている。しかし、そのクエストはCランク。討伐クエストなのだが、これはランキング100位以内の人が受けるようなクエスト内容となっている。
そんなものを受けたらこの二人の命はいくつあっても足りないだろう。
「そんなもの受けられるわけ無いだろ!もっと簡単なEランクのやつにしとけよ!」
Eランクは採集や護衛などの簡単なクエスト。報酬は低いが命の危険はない。
「いやよ!そんなの簡単すぎて私の出る幕じゃないわ!せめてFランクとかにしましょ!」
「お前は…ほんとうに……」
ケンジはここでもため息をつく。この二人は何度も言うようにクエストを初めて受注する。それなのにいきなり討伐だとか命知らずにも程がある。それなのにアリスは自分ができると思い込んでいるためにそんな判断が出来ているのだろう。
「あっ、おい!アリス!」
アリスは自分のランキング以上のクエストを探して数分。ある紙を壁から引き剥がしてクエスト受付に持って行った。それは討伐クエスト。しかも、Dランクの。街から少し離れた森にいるモンスターを倒すというやつだ。
「どうせならこれくらいから始めないとしょうがないわ!」
アリスはそう言って無い胸を張った。
ケンジは建物から出て行ったアリスを見てまたまたため息をついた。
(ハァ……なんでこいつと組んだのだろう……)
ケンジは心の中でそう思っていた。
しかし、現実は違ったのだ。互いにガンと呼ばれてどのパートナーにも選ばれず、しかも剣の使い手なんてケンジたちに近寄りもしなかった。だからひとりぼっち同士のアリスと組むしかなかったのだ。
アリスも誰と組んでも即日解散。全く馬が合わず一人でクエストに挑戦しようともしていた。しかし、そんな時に現れたのがケンジだった。
それを二人が知っているか知らないかはまた別の話。
◯
場所は街から少し離れた森。
その入り口に立つ二人は作戦を決めて……
「ちょっとケンジ!あんたが前に出たら意味ないじゃない!その銃身は飾りなの!?」
「おまぁえ!言っていいことと悪いことがあるぞ!俺はバカにしても銃をバカにするんじゃねえ!」
いなかった。
作戦はおろか後衛であるはずのケンジが前に出て長いスナイパースコープを覗かずに打っている。アリスの言う事もわかる。
しかし、それは通常の場合だ。
ケンジは最初きちんとルール通り後ろにいて後衛に努めていた。しかし、前衛のアリスがケンジが狙っていたモンスターへの射線に横切る横切る。一度までならぬ二度三度。もはや後衛の意味をなしていなかった。だから、ケンジは痺れを切らしてアリスのいない前に出て敵と戦っていたのだ。
とまあいつも通りの言い争いが始まる。
「ケンジ!あんたはいつもいつもそうやって言ってるくせに止まってるものにすら当たらないじゃない!だから、ガンなんて呼ばれるのよ!」
「うるせぇ!アリス!お前だってな、組んだパートナーからコンビ解消までのスピードを極めすぎてもはや組めなくなってるじゃねえか!お前こそガンって呼ばれてお似合いだよ!」
「なんですってぇ!」
「言いたいことでもあるのかぁ!?」
「「ぐぬぬぬぬ!」」
「「ふん!!!!」」
二人にとってもう慣れたものである。そりゃあほぼ毎日のように、多い日は一日に三回以上こうして罵倒しあっていれば自然と口も滑らかになる。
でも、すぐに仲直りする。なぜならお互い言っておいて案外心に響いているからだ。
◯
そうやって進んできてから数十分。
モンスターが観測されたという地点に二人は来ていた。
ここは森の奥地。モンスターが蔓延り、入ったら最後二度と出ては来れないと言われている。そんな所にランキング外の二人が初クエストであるDランクのクエストに来ている。
実を言うとこれはDランクなどではない。こんな奥地に来るのはAランク並のクエストじゃない限りはこんな場所にまで来ない。誰かの陰謀なのか、単純なミスか。それは二人は知る由もない。
「さて、ケンジ。入るわよ!」
「これ本当に行くのか?なんか今日はやめといたほうがいいんじゃないの?」
「うっさい!そんな弱気なこと言ってないで行くわよ!」
ケンジは内心とても怖がっているのをなんとか飲み込み森の奥地へと足を進める。
◯
ここの森の名前はルベンド。このルベンドの森はEランクからAランクまで様々なクエストを受けられる。それだけモンスターが生息している。入り口の方には初心者冒険者向けのモンスターが、今回のような奥地にはランキング上位じゃないと倒せないようなモンスターまでいる。
そうここルベンドの森は森としてはどこよりもランキングを上げやすく、奥地へと行かなければ始めたての冒険者でも死ぬことなんてない。
奥地へと行かなければの話だが………。
「ケンジ右から二体!左から三体!私は左を殺るからあんたは右殺って!」
「相変わらず雑な命令だな!」
ケンジは右からくる二体の四足歩行のモンスターに狙いを定める。距離は200メートルを切っている。これ以上近づかれるとスコープでは倒すことは難しいだろう。
ケンジはそう考えて急いでスコープを覗く。頭に狙いを定めて引き金を引く。銃は音をたててモンスターの頭へと一直線。しかし、モンスターの頭には当たらなかった。
モンスターは引き金を引く直前に隊列を変えたからだ。
心の中で舌打ちをしてもう一度覗きこむ。まだ150メートルある。横に並んでいたモンスターが隊列を変えて一列になったところにもう一度引き金を引く。
ドシャッ!という音とともに頭が弾ける。前を走っていたモンスターが森の中で倒れ込む。しかし、すぐに後ろを走っていたモンスターがソレを飛び越えてこちらへと走ってくる。
スコープを覗き何発か撃つが俊敏でしかも一体だけだと逆に当たらない。
ケンジはクソッと嘆息を吐いてはいるものの焦りを感じてスコープを覗かずに撃つ方法に出る。
右、左、右。
モンスターが左右に大きく移動しながらこっちに向かってくる。残り50メートル。
ケンジの焦りからくる動悸はどんどん激しくなる。今や心臓の音なのか発砲の音なのかわからない。弾も残り何発なのか。
ガキッッ!!
スナイパーライフルの弾が乱射からなのか引っかかった。薬莢がうまく抜けずに挟まっている。
ケンジはスナイパーライフルを地面に置いた。
それでもモンスター構わず突き進んでくる。
ケンジは腰に挿してあったサブの武器であるハンドガンを手に持った。距離はもう20メートルもない。
ケンジはさっきと同じく何度も撃つ。手は震えて弾は大きく外れモンスターに当たる気配なんて無い。
モンスターは残り10メートルのところで飛んだ。
ケンジはそれでも弾を撃った。
すると、奇跡的に一発だけ足に当たった。
空中で足を撃たれたモンスターは勢いが死んで放物線を変えながら落ちていった。モンスターはそれでも目は生きていてすぐにでもケンジを殺しそうな勢いだ。
バタバタを足や体を動かしているのをケンジは腰を地面について見ていた。
そして、トドメを刺そうとハンドガンを構えるが弾が無いことに気づき慌てて落ちているスナイパーライフルを拾い薬莢を取り除きモンスターの近くまで行く。
「グワァギャァ!!!!!!」
モンスターはまだこっちを見て喰おうとしている。
ケンジはスナイパーライフルの先をモンスターの頭にめがけて撃った。
(死ぬかと思ったレベルじゃねえ、奇跡的に一発当たったから良かったけど本当だったら死んでたな)
ケンジはこんなとこにいられねえと思いその場をあとにした。
「アリスのほうは大丈夫か?」
ケンジは急いでアリスの方へと向かう。
◯
時はアリスがケンジに命令をしてからケンジがモンスター二体を相手取りに行ってすぐ。
アリスも三体と対峙していた。
「さて、私に敵うかしら?」
アリスがそう言ってるのは自分を奮い立たせるためである。本当はこんなに多くの敵と戦ったことなどない。初めての対戦だ。あの四足歩行は見た目は犬っぽくて足が速く敏捷性が高い。
そんな相手に自分を奮い立たせることでなんとかしようと思っている。そんなことは意味があるかなんてアリス自身も不安に思っているが。
アリスはハンドガンを両方の腿から抜き構える。
フーッと体の内から口を通り大きな息を吐く。
モンスターは今も近づいてきているがなぜか落ち着いている。
それはまるで嵐の前の静けさのよう。
モンスター三体が走って向かってくる。
一発、右の銃から威嚇として撃つ。モンスターは何事もなかったかのように気にせずにこっちに向かう。
二発、少しモンスター同士が重なったところに目掛けて左の銃から撃つ。後ろを走っていたモンスターの体に命中する。そのモンスターはよろめき近くにある木に当たる。その勢いで上から太い枝が落ちて刺さり屍となった。
モンスター達はそれを見ているのか見ていないのかわからないが脇目も振らずにこっちに向かってくる。
もう一度威嚇として撃つ。
威嚇射撃のおかげなのかモンスターは動きを止めた。
しかし、それは一体だけ。
左右に展開していたモンスターは右側のモンスターは動きを止めたが左側は臆せず向かってくる。
一番厄介なフォーメーションだ。二体のモンスターの動きを同時に見ていないといけない。
そうこうしているうちに左側のモンスターがアリスに全速力で走ってくる。これは猪突猛進と言う言葉が一番当てはまるであろう。
アリスは一度右のモンスターから目を切った。
そして、正面左から走ってくるモンスターに何発か弾を撃ち込む。
手が震えているのか全くモンスターに当たらない。
さっきのモンスターの死に方を見て嫌な想像だけが頭をよぎる。
「ハァッ、ハッ!」
アリスは息が荒く大きくなる。肩で息をしているのかさっきから手ブレが止まらない。
アリスはモンスターと対峙して以来一歩も動いていない。それなのに極度の緊張からなのか足も手も震え息はあがり口は渇く。
そんなことなど知ったことではないと言わんばかりにモンスターは迫ってくる。
もう距離なんて無い。アリスはもう一度二丁の拳銃を向けて発砲する。
右。左。上。下。
その中の一発が奇跡的にモンスターの足に当たる。モンスターは左後ろ足を撃ちぬかれて体勢が崩れる。
アリスはまだ意味もなく発砲している。
「い、いや…!もう来ないで!」
モンスターはもう息を止めて動いてなどいないのに撃つ。
撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。
ガチッガチッ
銃は弾切れを起こして引き金を引いても動かない。
モンスターは見るも無残で顔の形など残っていない。
アリスにはそれを見てなのか緊張から開放されたのか急に気持ち悪さが襲う。
アリスは草の近くに行き吐瀉物を出そうとするが腹の中から込み上げてくるものはなく空気だけが出てくる。
落ち着いてからアリスは立ち上がり周りを見渡す。何か音がする。
それはケンジかもしれないと思いそっちの方を見つめる。
しかし、こちらを見る目には血走った捕食者の目しか見えない。
「まさか……さっきのがまだ………」
そう。さっき威嚇した時に止まってこっちを見ていた少し利口でこっちとしては最悪なモンスター。
こっちを見ながら近づいてくる。アリスはもう弾も無く動くことさえままならない。
モンスターは走り出す。ターゲットに向かって一直線に。
「待、待ってよ…!もう無理じゃない!」
アリスは声を出す。それは届くはずもないのに。
「ケンジ!ケンジ!助けてよ!いるんでしょ!」
声は届かない。聞こえるのは草をすごい勢いで掻き分けて進んでくる音だけ。
「なんでよ!なんでなのよ!」
アリスは腰を抜かし地面にへたり込んでしまった。
モンスターは近づいてアリスの目の前に現れた。そして、アリスに向かって飛んだ。
口を大きく開き涎を垂らしつつ全身で食べ物に向かって。
その時聞こえたのはひとつの銃声。
目を開くとモンスターが頭を撃たれて死んでいる。
今度は別の方から草を掻き分ける音が聞こえてくる。
「大丈夫かアリス!」
それはスナイパーライフルを担いだケンジだった。
「ケンジ……」
アリスは呆然としてケンジを見ていた。
そして、ハッ!!としたアリスは咄嗟にケンジの服で涙と鼻水と涎を拭いた。
「おい!お前俺で拭くなよ!」
アリスはほっとした。
「まったく!助けに来るのが遅いのよ!」
そして、いつもの口調でケンジを罵る。でも顔は赤く少し微笑んでいるような。
「おいおい。あんだけ助けてと呼んだのはお前じゃないか」
「まさか…!聞こえてたの!?」
「もうバッチリ。てかその声でやっと場所がわかったんだからな!」
アリスはさっきよりも顔を赤くして睨んでくる。
「今すぐ忘れて!その海馬をすぐに消し去って!」
「いや〜、もう無理だねー」
ケンジは笑いながらそう言った。アリスはポカポカとケンジの胸を叩く。しかも、だんだん強く。
「ちょ、強い強い。アリスさん?」
アリスはそのまま顔をケンジの胸に埋めた。アリスの顔は見えないけどケンジは何かを察してそのままでいる。
「私ね、もうダメだと思ったの。初めてモンスターとも戦うし弾は当たらないし。でもね、ガンだって言われててすごい嫌だったの。だから、見返してやりたかったの。だから、だから」
アリスはいつもなんかとは違くて肩を震わしている。
「それでこんなクエストなんか受けたの?」
アリスは首を縦に振る。
それを見てケンジは答える。
「だったらそれは検討違いだな。確かに俺はガンと呼ばれて誰にも相手にされてこなかった。でも、お前がいたじゃないか。お互い誰かの足を引っ張ってきたかもしれないけど俺達で足は引っ張らないだろ?」
アリスはまだ顔を埋めているが震えは止まっている。
「しかもな、誰に何と言われようとも俺はパートナーを失うほうが嫌だよ」
ケンジはそう言ってアリスの肩に手を置く。
アリスは埋めていた顔をあげる。そこには笑顔があった。
「そうね!私達は何と言われようと私達だけで頑張りましょう!」
そう言ってアリスはいつもと変わらない元気を振りまく。
彼らは初めてこうして二人で5体のモンスターを討伐した。
◯
「おっ、とと!」
アリスは足をもつれさせる。
「大丈夫か?さっきのやつでやられたか?」
「いや、腰を抜かしたからそのせいかも」
んー、とケンジは少し考えてからかがんだ。
「ほら乗れよ。治るまで乗せてやるよ」
「え?キモいんですけど」
「じゃあ、歩くか!?」
うそよ、とアリスはケンジにおぶってもらった。
ケンジには見えないがさっきよりもアリスは顔を赤くしている。
「………もうバカなんだから」
誰にも聞こえない声で呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
「…なんでもないわ。そんなことより乗り心地が悪いのはどうにもならないの?」
「へーへー。それはすいませんねぇ!」
◯
数十分後。
「こいつ…俺の背中で寝てやがる」
なにか寝息が聞こえると思って後ろを見ると目をつむって背中でアリスが寝ていた。
「まぁ、あんなことがあったらしょうがねぇか…」
ケンジはつい一時間前くらいのことを頭に思い浮かべる。
ケンジがモンスターを倒し終わってアリスを探している時何発もの銃声が聞こえた。しかも、乱射っぽい。
今この場で銃声が聞こえるのはアリスしかいないと思いそっちのほうへ向かった。
見えたのはモンスターが走っている所。
急いでスコープを覗いた時にはアリスの五メートル前。なにか叫んでいたのが聞こえたけどなんて言っていたかはわからない。
けれど、覗いた瞬間に引き金を引いた。したら顔に命中。アリスは生きていた。もう腰は抜けて顔はボロボロ。見るのも痛いくらいだが生きていた。それだけで良かった。
そして、背中で寝ているアリスの顔を見る。
「…こうしていれば普通に可愛いんだけどな」
アリスは街に着くまで背中で寝ていた。
着いた時アリスの顔が赤くなっていたのは………
―――――――――――――――――――――――――
何日か後。
「ケンジ!今日はこれ行くわよ!」
「お前…!またッ!」
アリスは性懲りもなくクエストを受注しているが持っているクエストはこの前よりも簡単なクエストだ。
「おい〜ガンども!クエストをひとつクリアしたからっt……!」
「「うるさいっっっっ!!」」
「ぐぬn…」
ここは銃と剣の世界。
パートナー同士でバランスを取っている。
しかし、銃と銃でもバランスは取れる。
たとえガンでもガン同士が組めば打ち消しあえる。
バランスは取れていないかもしれない。
けれど戦えないわけではない。
今日もまたクエストをクリアしていく。
「おいアリス!行かないのか?」
「さぁ、行きましょう!私達のクエストへ!」
皆様こんにちは。初めて書いてみました。
今まで見るだけだったのが書いてみるとネタは浮かぶが言葉が出てきません。日本語を勉強しなければと思います。
誤字脱字等々あればご指摘をよろしくお願いします。
今回は短編ですがいつか長編も書きたいです。いつになるやら……