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Baby class  作者: 涼木夕
2/12

ホームルーム

 短い手足をヨタヨタ動かして、ざっと見40人弱の赤ちゃんがわらわらとひとところに集まっている。みな一様に裸で薄毛をほわほわたなびかせ、ぽってりしたお腹がくっつきそうな距離でペチャクチャ楽しそうに喋り、笑い合っている。


 なんだ、なんなんだよ。この集団はーー。 


 夢なら覚めてくれとギリリと指を噛んでみたものの、歯茎の感触がダイレクトに伝わってきて慌てて歯列を探る。しかし悲しいかな探れども探れども歯は一本もなく、周りの赤ちゃんの綺麗な歯茎を見せて笑う口元を複雑な気持ちで観察した。


「あのう、ここはF-良クラスで合ってすますか?」


 突然、同伴していた赤ちゃんがはす向かいにいる赤ちゃんに声をかけた。


「あ、はい。合ってますよ」


 振り返った赤ちゃんがニコリと答えてくれた。小さな鼻の付け根にくしゃっとシワを作って、目が無くなる笑いかたは本当に可愛らしかった。自分も笑ったらああなるのだろうか。


『はい。注目。みんな集まりましたね。静かにしてね。はい、お喋りやめー』


 拡声器から聞こえていたハスキー声の持ち主がどこからかするりと姿をあらわした。小さなころころ集団に紛れない大人の女が。小麦色の肌にベリーショートの髪型がよく似合う、快活な若い美人だ。20代中盤くらいか。今は拡声器は使ってなく、地声を張って話している。


『みんなここにいる訳は既に知ってますね?先ほどアナウンスした通りです。誰1人パニックになっていなくて嬉しく思います』


 し…知らないんすけど?ーー。


『みんな亡くなった年月、国、人種はまちまちです。ただ、亡くなった年齢は30代でまとめられているの。死んだ瞬間、理由を覚えてはいなくとも、それまでの人生や母国語などはある程度覚えているはずです』


 えー、死んだの?ーー。


『しかし、ここF -良クラスに選ばれた方は、日本の関東地域に転生することが決まってます。その為、みんな日本語が分かるし、私も日本語で話しています』


「えっとえっと、日本語の記憶アリマス。つまり自分は、日本人ダタノデショカ」

 我が身に降りかかっている超重要事項がチャキチャキと連絡事項のように過ぎていき、焦りすぎて変な日本語で1人ゴチてしまった。

「どしたの?ブツブツ言って?生前は何語使ってたの?」

 だから日本語!てか、生前て!やめて生前!ーー。


 大丈夫すーー、小さく手刀を切って、心配してくれた同伴赤ちゃんに曖昧に笑ってみせる。

 ほらね、かわしかたが、これ日本人でしょ!日本人しかしないでしょ!手刀!記憶も日本語だし!ーー。


 ふと、手刀を作った小さな手を見て、ああ、死んじまったのかなと目を瞑る。なんでーー、いったい何してたんだっけ?ーー。


『はい、そこ!感傷に浸らないでね。そんな時間はないですよー。さっきアナウンスしたでしょー』


 聞いてないですよー!ーー。


 快活な若い美人と目が会ったので、心の中で反駁する。きっと、自分が目覚める前にそのアナウンスがあったのだろう。だが聞いてないんだから、そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。


 うん、やはり日本人だったのは疑う余地もなしとーー。


『みんなは覚えてなくても、さまざまな通過儀礼を経ていまここにいます。輪廻転生ね!深く考えないこと!考えたって思い出せないんだから、どうせ。三途の川も閻魔大王も覚えてないでしょ?』


 にわかに赤ちゃんたちがざわつき始めた。眉をひそめたり、ヒソヒソ話す赤ちゃんもいた。


『だからいーの。終わったの!静かにしてね。あ、ほら気分転換に景色換えましょうか?白い空間だと息が詰まると思ってさっき空をだしたんだけど、どう?教室にも出来るわよ』


「オ・レ」のリズムに合わせて手をパンパンと二度叩くと、周りの白い空間が懐かしい教室に換わっていた。ちなみに、「オ・レ」とは実際に彼女が口に出して言っていたリズム音だ。


『ここは典型的な小学校の教室。天井は雨が降る心配はないから無しでもいいし。オープンリーフ青空教室!なんてどう?他に体育館でも、会議室でも、どんな仕様にでもできるけど?』


 もう一度「オ・レ」のリズムで元の空間に戻った。白い空間に、天井だけ気持ちの良い晴天がひろがっている。


「このままでいーでーす」


 前の方に居る赤ちゃんがちぎりパンを精一杯伸ばしながら発言した。ただ、もみじまんじゅうが頭を越えていないのが惜しかった。あれでは頭が痒いときにかけないんじゃ、あ、自分もか。どーしよ。


『了解です。じゃあ空もこのままにしておきますね。ちなみに、分かりにくいけど、そこのラインが隣のクラスとの境界線なので、越えないようにね。一応ライン近くに靄を作ってるので、ごく至近距離なら隣も見えるけれど、お行儀が良くないので覗かないようにしましょうね』


 チラと確認すると、確かに5、6メートル先らへんの地面に細い溝がみえる。


『はい、ではここからが本題ですよー!よぉく聞いて!みんなにはここで、授業を受けてもらいます。赤ちゃんとして転生するには、いろいろ学ばなければならないのですよ。今はそれなりの身体能力、言語能力があるけれど、授業内ではそう甘くないから覚悟してね』


 授業?赤ちゃんて生まれる前に授業受けるの?何の?


『あ、ちなみに生前の性別と今の性別が同じとは限りません。今の性別は転生する性別です。ま、あんまり気にしなくて大丈夫!』


 前に並んでいた赤ちゃんがバタバタ倒れていくので、周りの赤ちゃんが驚いて助け起こしていた。


 大丈夫、ただ確認しただけだから。哀しいかな男の性なのーー。


「生前のさ」小さなため息と一緒に短く吐き捨てた。

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