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はじまり

 


 

 ――ドクン!


 鼓動を!


 ――ドクン!


 鼓動を……


 ――ドクン! ドクン!


 刻め!


 ――ドクン! ドクン! ドクン! ドクン!


 ――ドクン!!!!!!!


「■の鼓動を!」




 -- 


『時は20XX年!』


『場所は日本! 東京都某政令市! 坂の多さが売りの土地!!』


 ビーガガガ!


『近い未来、先進国からの地位の脱落に伴い、日本政府がどこからか捻出した国家予算相当の資金を投入し世界中から優秀な教諭、教授をかき集め、最新の設備をこれでもかと揃え作り上げた幼年から大学まで一貫教育をする超、超超エリート学校! カッコ編入歓迎カッコトジ!! スカウトあるよ?』


 ドーン! ブーンブーン……


『その名も、誇道こどう学園!!!』


 ゲーム、オーバー


『倍率は例年100倍以上! テストは超絶難問! 面接は鬼畜!』


「ちっ」


『しかし! 入ったらばそこは桃源郷! 学問だけではない! 芸術を養う目を鍛えることも必要と贅を凝らされた門! そして通路! 駐車場!』


 下手糞な舌打ち。ゴソゴソとポケットを探る手。指先が、ちゃりんと小さなコインを弾く。 


『そこから続くクラスまでの道のりすべてが超一級品!!!』


(金が……)


『壁に掛かるはゴッホの画か!? はたまたモネか!!』  


 時計の太い針がだいぶ斜めに傾いている。そろそろ帰れと言うことか。


『耳を澄ませばどこからともなく聴こえる! 心震えるピアノの音色!』


(でも、あそこには……) 


『さぁ!! クラスルームに入ってみれば! なぁんだこれは!!?』


 ぐい。引っ張られる袖。


『きわめて平凡な部屋である』


「ユキ」


『なんでも、常識的な場において、常識的な視野を養うのもまた教育の一環だとか。あとそもそも授業ごとに移動が多いし。普通で良いだろっていう』


「ねぇユキ、もう帰ろう?」


『しっかぁぁっぁぁ! し! 移動後の部屋は格別だ!! 先に言った、最新鋭の設備! パソコン? そんなものあたりめーだ! 一人一台ごとにスーパーコンピューターだがな!』


 幼馴染の火夏かな。ともに高校1年生。


『あらゆる職業に対応するため、あらゆる機材! ノミから最新医療機器まで! いいぃぃやああそれだけじゃあない! すべての生徒に最低1億から、株取引からマンション経営まで”練習させる”ために用意されている! 無論! 損失保証! もちろん税金、で!』


 ここはユキと呼ばれたツンツン髪の少年が、ある時期毎日のように通うゲームセンター。


『最初は反対もあった! いや、反対しかなかった! けれど人間とは常に現金なものであーる!』


「ねぇ、もう気にし過ぎだってば」


『圧倒的な成果を見たのである!!!!!』


 火夏は努めて優しく言う。


『学力ならば! 世界トップクラスのみ集め行われる知能のオリンピックで総なめ!!!』


「”鼓動”がちょこ~っと、うまく弾まなかっただけじゃん」


『技術ならば! あらゆる分野の技術革新!! ひとたび論文を発表すれば歴史が塗り替えられ! 救えぬ命も救ってみせる!!』


「う、うるせえな」


『経済!! 成績不振で少々やけっぱち気味な生徒が地方留学した際に気まぐれで行った地方活性化の成功!! 一次産業の復活!!! 魚ぎょぉおおおおお!!!!』


「またそんな汚い言葉遣いして」


『はぁあ! はたまた芸術!? 絵画も映画もどんとこい!! いや、行った!! コンクールにひとたび出れば喝采どころか涙涙のすすり泣き!!!』


 チラリと火夏が目を逸らす。どこを見ているのかとは聞かない。知っているからだ。


『こうして! 学生の身でありながらも成果を出していったのであるからして! 国民すべてがこの学園を支えようと気持ちを一つにしたのである!!!!!!!』


「……」


『再びの躍進を夢見はじめる日本国民! すべてが順調!! たまりません!!!』


 じっとこちらを見ている女。メイドの倉田さん。言葉遣いに反応して、一瞬だけ険しい顔をした彼女。


『――だがしかし! 学力向上も! 技能習得も! それは表の創設理由でしかないことは、設立当初、まるで知られてはいなかった!!!』


「倉田さんにあとで叱られても知らないよ」


『鼓動!』


「うるせえって言ってるだろ」


『それは心臓の収縮運動にして! 特に脊椎動物がただそこにあるだけで奏でる神秘の楽器リズムである!!』


 ヤレヤレと肩をすくめる火夏。同い年とは思えない。どう見ても保護者――とまでは行かないまでも姉か、先輩と言ったところ。


『子は母の胸に抱かれ! 鼓動を聞き癒され眠る!』


「あとでアイス買ってあげるからいい加減……」


『すてきなすてきなピュア・クラシック!! だがその鼓動に!』


「――だから!」


『っっ! うひゃあえええううええい(訳:あるとき)!! とんでもない! こと! が! 確認された!!』


 キッと睨みつける。にしてはどうにもなり切れていない目は、いつのまにか火夏の背後に回っていた倉田の姿を捉えることで下を向くことになる。


『それは――刻む鼓動が本人の秘める想いを具現する”ビート・ドライブ”!!』


「ぼっちゃま」


『さる事件をきっかけに発現が確認! 当初は一部の人間の間でだけ知られ研究されていた鼓動の奇跡!』


 倉田と言うメイド。年は二人とそう変わらないだろうに、能面のような表情に、けして崩れないと思わせる姿勢のよさが相まって、火夏よりずっと大人びて見える。

 実際1つ年上というのもあるが。


『それは! あぁああまりにも強い力!!! だったため! 公表するには慎重に時期を見極める必要があったのでああああある!』


「わかってる」


『しかし数年前からそれが一般市民の間でも爆発的に発現! ついに知られるところとなった!!』


 雪成は、まだなにも言われていないのに返事をする。


『まるで鼓動が共鳴したかのように! 広がりは想像を絶するスピード!!!』


「わかってるさ、さぁ帰ろう。それでいいんだろ」


『春先、まるで示し合わせたのかのようにあるものは火の玉を具現させ! あるものは人間発電機!!! あまりぃにでんじゃらあああぁぁぁああす!?』


「はい。家庭教師をすでに待たせております。至急戻らねばなりません」


『警察も対応しきれない!! どうしよう!??? ――皆が絶望に沈みかけたその瞬間!!』


「なんだって、そんな。……俺なんか、勉強したって。ちっ」


『――現れたのは一人の少年。誇道学園の生徒だった』


「……!」


『手をかざすなり、彼は言う』


 舌打ちにまたも眉毛を吊り上げる倉田。


『鼓動よ、静まれ』


 その様子に「ふぅ」ひとつため息をつく火夏。これはいつのものことだ。


『何が起きたのか。けれどその通り、事態は収まり事なきを得た。――まさしく奇跡だとその場に居合わせた人間は口々に語る』


「ぼっちゃま」


『……学園は、声明を発表。これは以前より発表されていた某博士の研究テーマと合致すること。「対応するスベを我が校は持っている」こと』


 語気を強める倉田に「まぁまぁまぁまぁ倉田さん」と火夏が宥め透かすのもまたいつものことである。


『世間からすればあまりに都合の良すぎる用意だが、それでも国民はみな信じた。過去さまざまな功績がここにきて利いたのである』


 そうだ。いつも、これだ。


『口をそろえて「さすがは誇道」』


 憤懣やるかたないといった調子で二人の女性を背後に引き連れ帰る――にしては片一方には呆れられ、もう一方には”THE 監視”の気配しかないので、侍らせているとは誰も思うまい――道すがら雪成は心の内でボヤいていた。


『否定する者、疑うものなど誰一人としていなかったと言っても過言ではない』


 それにしても妙に行儀のいい歩き方なのは先ほど肩をいからせ歩いていた所、やはり倉田に叱られた為だろう。


『そんな、若干の胡散臭さがないわけでもない誇道学園だが、ますますの躍進を見せるだろうことは間違いないことは誰の目からも明らか』


「もう、うんざりだ!」


『……声明から数年』


 などと言えたらどれだけスッキリするのか――とは言うもののこれは本人にいえば反論するだろうが、一方で受け入れてしまえとささやく声もまたあり。その事実が彼を余計にイラつかせる。


『まさに今こそ学園は、最盛期を迎えようとしていた』


 すべては雪成のため。


『集められた鼓動が互いに高めあい鳴動する様は――』


 別に、そう本人が言うわけじゃない。だが圧倒的なまでの愛を一身に注がれ続ければ否応なく理解できる。


『――鼓動なきモノすら焦がれるほどに』


(どうせ)


『この物語は』


(どうせ俺を見ちゃ、いないんだ)


 なんて。

 物語では大抵このようなとき、背後に誰かを見ている。たとえば優秀な兄など、あくまでお家への恩義のためであるとか。


 そういった物のために倉田が働いており、そのことに対して主人である雪成が怒るなんてのが物語の黄金パターンである。

 なぜ私個人は愛されないのか、と嘆くのが。


 が、倉田は違う。いや、倉田だけではない。

 そのことを雪成は理解している。

 十分すぎるほどに。


 彼は愛されている。

 愛されすぎている。


 そして、尋常じゃないほどに甘やかされいる。それも現在進行形で。



『そう。この物語は、鼓動の力と運命に翻弄される少年の――愛と誇道の物語である』




 ■



 ブーン


 車が電気自動車となって久しい現在。排気ガスにむせることもなく横断歩道前を陣取ることができるのは、地球を汚染しつくさんとする人類の反省の色を少し窺わせる。

 ただそれでもオゾン層に穴は開いたままであるし、公害問題は枚挙に暇がない。


 帰り道。


「でさー、そこのミャック、つぶれちゃったんだってー」 


 早口にまくし立てる火夏と彼女より少し小さくいかにも反抗期然とした目つきを作る少年雪成。そしてメイド姿の美女。


 基本的にこのあたりはゲーセンなど学生たちが遊ぶ施設がポツポツある以外は割りと閑散としているといっていい。なにせ学園が来るまでは市のホームページに「坂の多い素敵な街」とあるほどにシンプルイズベストだった街。


 学生に必要なアイテムはすべて学園で用意してあるものだから特にそういった方面で発展するでもなく、全寮制であるためアパートが栄えるでもなく。

 ちょっとした息抜きも必要だとあえて禁止もされていないカラオケやゲーセン、その他は栄えていそうなものだけれどそれらも栄えてはいない。

 その理由は学園の設備だけでなく講師も一流なため、遊びに熱中するような生徒がほぼいないという事情から。


 ――だもんで目立つ。

 メイドは。


(そもそもなんで外出中もメイド服なんだ)


 いい加減長いことメイドを背後に連れ立ってきた雪成も、純和風なこの土地柄にはさすがに合わんだろと忘れていた羞恥心を取り戻し、なるだけ見ないよう努力している。

 いわゆる他人のふりと言う奴である。  


「ほら、いろいろ問題あったじゃん? 確認不足から豚の背油挟んだ事件とか」


 そんな努力を知ってかしらずか。

 火夏は雪成と、背後に控える倉田にも、積極的に話しかけている。


 一応書き加えておくが火夏はおしゃべりと言うわけではない。ただ隣にいる人間があからさまに落ち込んでいるときは積極的におしゃべり役を買って出るだけの配慮が出来る――

 つまりはいい子なのである。  


 それを受け取る身である雪成といえば話半分に聞くどころか、先の理由もありやや鬱陶しそうな態度をとり続けているのだから救われないのだが。

 これでは保護者と被保護者の関係、どころか引きこもり少年と諭すカウンセラー。


「……」


 倉田はだまったままそんな二人のちょうど間、3歩後ろに保ったまま美しい姿勢で付き従うのみで火夏の言葉に答えるでもない。――のようにも見えるが、前を歩く雪成の周囲に注意を払いつつも合間合間、火夏の言葉がひと段落するたび小さく頷いているのがよほどするどく観察したらばわかるだろう。



 横断歩道前。


「私、好きだったんだけどなー、あの店舗限定のヘビーチリペッパー&わさび山椒バーガー」


 あはは、と無視されても健気というか。もはや慣れっこで気にも留めてない風に火夏は続ける。壁にボールをひたすら投げてはキャッチ、投げてはキャッチを髣髴とさせる。


 それをどれだけ繰り返しただろう。


 あとは横断歩道を渡りその先に坂をぐんぐんと登れば学園。そしてそのすぐ裏手にある大きな建物こそが目的地。

 雪成が住居である。


 なんとまぁでかい家で、ここからあとはなだからな坂を登るだけとは言ったものの、それでも数百mはあるし、住居やそこそこの林その他もろもろある。にも拘らず学園と並ぶように聳え立っているのがわかる。

 マンモス校といえる学園相当の大きさの戸建ては異様でしかない。


 学園は私有地にある。

 では誰の私有地かと言えば言わずもがな、それこそが雪成の家。すなわち鼓動家の土地にあるわけで、ある意味学校もまた雪成の家といえば家であるが、そんな風に思えるほど優等生でもないので実感はまるでない。



「ふぅ」と一息つくと、両手の指を交互に絡ませ伸びをする火夏。


 「うー…ん! っと……それにしても、ここの信号ってやたら長いよね。車、ほとんど通らないのに」


 バーガーの話は信号が変わるまで持たなかったらしい。

 パァーと特に車の流れが激しいわけでもないのになぜか聴こえてくるクラクションの音に反応し、なんとなくといった調子で眺め、 


「ね? ユキ――」


 同意を求める。

 いやだな、と言った調子で同意を求めた割には愛嬌に満ちた、それはもう、見ているほうが楽しくなってくるような魅力にあふれる表情を作る。


 今でこそこんな反抗期丸出しな顔を作っているわけだが。今よりずっと小さい頃、雪成はいたずら好きのかわいらしくも優しい少年だった。

 火夏などはその被害に幾度もあったわけだが、そのたびに倉田が今と変わらず、けれど年相応に丸い顔で(当時はさすがにメイド服など着ていなかった)ピリッとした空気を出すものだから「鬼さんこちら」と鬼ごっこが始まり、気づけば一緒に手と手を取り合って鬼ごっこだかかくれんぼだかが始まるのが常であり、

今思うと倉田には申し訳ないが、それが火夏にはとても楽しい思い出の一つとなっている。


 時々思い出す。綺麗で楽しい思い出。

 火夏の目に映る雪成と言う人物の根っこの部分。それは今でも変わらないと彼女は信じているし、だから彼女はこうして……


「ユキちゃん!?」


 ――突然、振り向いてみれば何の前触れもなくグラリ、いや”ぐにゃり”と揺れ倒れかける雪成。

 糸の切れた人形という表現があるが、実際は軟骨をぬいたイカ。


「っ!!」


 瞬間、一陣の風が火夏の頬をかすめると同時、雪成の体を倉田が全身で支えている姿が火夏の目に映る。

 ひざがアスファルトに掠りさえしていない。



「ど、どうし、いったいなにが」


 急転直下。

 混乱する火夏。

 照らす夕暮れ。


 見下ろす信号だけが、変わらず赤い顔を見せている――




 

雪成

 身長159センチくらい。ツンツン頭。

火夏

 雪成より大きい。スラッとした健康美。ショートボブ。

倉田さん

 二人の中間くらい。黒髪長髪。基本だよね。

 細すぎずしかし太すぎず。胸もおっきい。


それはそうと

ナレーションと物語が同時進行ってのをやってみたんですけどどうですかね。

小説だと読みづらいだけ?


5/22

こっそり身長訂正


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