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見果てぬ夢
「徐…」
「徐…」
福建省閩侯県の町に小さな屋敷があった。
灌木と石塀に囲まれた平屋の家の奥から
「徐…」と名を呼ぶ声がした。
「母さん。」
「ああ、其処に居たのかい。」
時代は1811年(嘉慶16年)
青年の名は林則徐と云った。
町の中心を白い土の道が都に向って延々と続いていた。
この道を行くとやがて街道に繋がり、
皇帝のお住まいになる都に続くのだ。
都は遥かに遠い…北京 紫禁城宮殿
其処には万乗の君と唱われた
皇帝がお住まいに成られる。
徐は街の小高い丘の上から
遥かに聳える山々の彼方に続く世界を眺め
父の果たせなかった科挙の合格の日を
夢見る日々であった。
「目出たい日だよ」
「…。」
「今夜は親戚中が集まってお前の事を祝ってくれるよ。」
「何だか恥ずかしいよ。」
顏を赤らめて俯く息子を実に誇らしげに思う母は、
「何も恥ずかしがる事は無いさ、お前の実力なんだから。」