The Secret Tree
【リトルモンスター】
恋人同士の少年と少女がいた。
少年はまさに平凡であったが、少女は少し違った。
少女は、何においても完璧すぎる人間であったのだ。
2人の日課は、川辺へぶらりと散歩をしにいくことだった。
「私は疲れというものを知らないの。だから教えて」
少女が言うと、少年は立ち止まり少女に向き合った。
「それは、ぼくに対する嫌味?僕はそんな君が嫌いだよ。僕たちどうやら気が合わないようだね」
驚く少女を置いて、少年はスタスタと帰ってしまった。
少女はその日の夜、胸のあたりのもくもくとしたものが気になって寝られずにいた。
少年とどうやったら仲直りができるのか。また怒らせやしないか。少女は仲直りのやり方がわからなかった。
翌朝、少年とまた川辺で出会った少女だったが、少女は結局一晩中寝られず、疲れきっていた。
「ほら、これが疲れというものだよ。昨日はごめんね。君はなんにも悪くないよ。僕は君が大好きだよ」
そうして2人は笑いあった。
ある日、いつものように川辺を散歩していると少女が言った。
「私は怒るというものを知らないの。だから教えて」
少年は立ち止まり少女に向き合った。
「君はどうしてそんなにみためが悪いんだろう。おまけに頭も悪くてのろま。良い所が一つもない。どうしようもないね」
少女は驚いたが、少しずつのどのあたりがずくずくしはじめた。
少女は生まれてから一度も、みためがわるいなんてのは言われたことがなかった。しかもよく気が利いてよく働く、賢い少女なのだ。
そんな人間としての少女のプライドを、少年はボロボロに言ったのだ。
「どうしてあなたがそういうふうに言うの。あんまりだよ」
少女が大きな声で言った。
「ほら、これが怒りというものだよ。本当はそんなことちっとも思っていないよ。僕は君が大好きだよ」
そうして2人は笑いあった。
ある日、いつものように川辺を散歩していると少女が言った。
「私は悲しみというものを知らないの。だから教えて」
少女は立ち止まり少女に向き合った。
「いいよ。教えてあげる。だけど少し準備がいるんだ。準備をしてくるから、また明日、ここで会おう。もしも明日までに準備が終わらなかったら、また明後日、ここで会おう」
「わかった」
翌日、少女は少年に会いに川辺へ来たが、少年は来なかった。
翌々日も、少年は少女に会いに川辺へ来たが、少年はまた来なかった。
その翌日も、またその翌日も、一年たっても、十年たっても、百年たっても、少年は少女に会いに来なかった。
「そこのお嬢さん」
これといって特徴のない猫が少女を呼んだ。
「毎日毎日、誰を待っているの」
「私の恋人よ。いつもこの川辺で一緒に散歩をしていた男の子。でも全く会いに来てくれないから、探しに行こうかと思っていたの」
「その子なら知っているよ」
「今どこにいるの?」
「とうの昔に死んでしまったよ。自分のお腹にナイフを刺して」
少女はただただ立ち尽くすだけだった。
少女の瞳からは、涙が溢れていた。
少女にはいつも少年が居た。百年あっていなくても、少女は少年が寄り添ってくれる日が来ると信じていた。
でも今は、居ない。
「ああそうか、これが悲しいというとのなのね。でも私、涙の止め方を知らないの。あなたに会いたい。でも、会いに行く方法も知らないの。誰か教えて」
猫は少女の側にひょいと来て、少女に向き合った。
「涙は無理矢理止めてはいけないよ。僕が側にいてあげるから、会いにいく方法はあなたが探すんだよ」
「わかった」
少女は猫を抱きしめた。
そうして少女は一日中、泣いていた。その翌日も、またその翌日も、一年たっても、十年たっても、百年たっても泣いていた。
千年たったある日、少女は深い深い眠りについていた。
「あなたの唯一の欠点は、僕だったんだね」
猫はそう言い、少女の鼻にキスをした。




