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プレリュード

 天使との対話は何によって可能となるか?

 一つの器と、

 純で清らかな水、それから。

 月の光があればよい……。

 私は金魚鉢を抱いて、いくらかの新芽を出した切株に腰掛け満天の夜月を眺めている。

 今夜の月はいつもよりも私に近い。

 色も少し違っていて、その白さにはブルーが濃い。

 その白とブルーの円は、水で満たされた金魚鉢の水面にその姿を映している。

 金魚鉢の中では白勝ちの桜錦が孤独に泳いでいる。

 静かに、波を立てずに。ゴールドフィッシュは金魚鉢の中を漂う。

 浮遊し、舞う。

 微動もしない水面に月光。

 その奥、金魚の遊泳。

 鉢には模様など一切なく、ガラスとして、透明。

 私の周りの空気は湿っていて冷たい。

 私の吐息も温かくはないだろう。

 ブルーの月は一度雲に隠れた。

 しばらくして、再び鉢にその姿を落とす。

「ごめんね」私は謝った。

 金属的で群青な、私の髪が煌めいた。

 同時に水面がうっすら光を放つ。

 ふと、金魚は舞うのを止めた。

 そして体を横たえ、水面にゆっくりと浮かび上がった。

 ああ、死んだのね。

 私がまた、殺したのね。

 なんて悲しいの。

 私は一筋の涙を流した。

 そして私は鉢の縁に口を付けて満たされた水を飲む。

 白勝ちの桜錦の命を奪った水を飲んだ。

 飲み干して。

 鉢の底の金魚の死骸をじっと見つめた。

 一度瞬きをして。

 月を見上げた。

 濡れた唇を触り、私は水と、月夜を感じてる。

 風が横から吹いてきて背筋が震えた。

 今夜は寒い。

 本当に寒いわ。

 風が夜の森を揺らし、雲を動かしてまた月を隠した。

 夜が暗くなる。

 天使は今夜も私に何も囁いてくれない。

 悲しいわ。

 今まで囁いてくれたことなんてないのだけれど……。


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