★第二世界という名の牢獄(後)★
龍輝は高良山を愛車で下っていた。
龍輝「うぉ!?」
突然、目の前が眩しくなった。熱を感じる程の、重たさを感じる程の光が降り注いできた。ただでさえ狭い山道。前も見えないのではさすがに運転なんかしてられない。どうせみんなも運転なんかできるはずもない。だから、すぐに車を停めようとした。が、サングラスをしている人が堂々と運転してくるかもしれない。という危険予知をしたから、眩しさで開けられない目を、糸よりも細いくらいだが頑張って開け、車をできる限り端の方に寄せ停車した。
龍輝「ふぅ。」
と息を吐き気持ちを落ち着け、いざ恐る恐る目を開ける。突然降り注いできた光が何なのかわからず、戸惑いながらも目を開ける。何もわからない状況でただただ目を瞑っているのも、案外怖かったというのもある。すると。
龍輝「・・・えっ・・・?」
そこは、
龍輝「俺の部屋・・・?」
なぜだかわからない。が、部屋にいるのだろう、という事だけは、目を開けて辺りを見渡せばわかる。あまりに訳のわからない出来事に、龍輝は固まった。思考も止まり、呼吸すらしているのかわからない。変な汗も出てくるし、恐怖すら感じる。・・・・・・そして、やっと、頭が働きだした。
(ブゥ~ン)
その途端に、目の前の空間にテレビの画面のようなものが出現した。何が起こるかわからないと、龍輝は、蝸牛が這うのよりも遅く身構えた。動いたのがバレないように。
(緊急速報 緊急速報)
文字が映った。どうやら、ただの画面だったようだ。
龍輝「なんだよ。驚かせんなよな。」
やっと安堵できたのも束の間。
龍輝「いや待てよ。緊急速報って全然落ち着いてられないんじゃねぇのか!?」
一瞬緩んだ顔が、また引き締まる。汗も出る。今までの状況からも容易に想像できた。
この画面による放送は現実からのようだ。だが、音声は途切れ途切れでよく聞き取れない。字幕があるのでそれを読む事にする。
(落ち着いてご覧下さい。皆様は現在、先程居た場所から一番近いご自宅へ突然ワープしたと思いますが、どうぞご安心下さい。そのワープは、私達、第二世界運営会社によるものでございます。何故かと申しますと、現在異常が発生しておりまして、現実と第二世界の移動が一切不可能な状況となっております。原因は只今調査中ですので、皆様のご安全の為に、一番安全となるご自宅に緊急ワープさせていただいた次第でございます。大変申し訳ございませんが、復旧の見通しも起っておりませんので、そのままご自宅から出ないよう、何卒ご了承下さいますようお願い申し上げます。尚、状況が変わり次第、その都度、放送にてご連絡致します。第二世界運営会社現実本社)
放送は終わり、ふわふわというには重く浮かぶ画面は消えた。また、何もない部屋にぽつんと立つ事になった。
龍輝「とんだ災難だな。こっちに来たばかりだってのに。まだ知らない事ばかりだし、これからだって時に。部屋から出られないなんて。しかも、何もない。・・・そうだ。携帯ならある。ゲームでもするか。」
溜息をつきつつ唯一現実から持って来れる携帯に手を伸ばした瞬間、携帯が鳴った。初めて聞く音だ。こんな音設定した覚えもない。龍輝は考えたが、やはりこんな音設定した覚えはない。確かに案外、全ての音を把握していない人も多いのかもしれない。細かく設定して、グループで呼び出し音を変えてみたり、1人1人呼び出し音を変えてみたり、好きな人だけ呼び出し音を変えてみたり。そして、連絡を待っててドキドキしてみたり。好きな人からの呼び出し音が鳴って喜んでみたり。その逆で、嫌な人から連絡が来て、携帯を手に取る前にテンションが下がったり。だが、その結果、普段連絡を取り合う事がなく、鳴る事がない呼び出し音は、聞く事もないのだから、いつの間にか忘れていたりする。でも龍輝には確信があった。この何かをお知らせしてくれるような、ゲームで聞くようなピコンピコンという音は知らないと。ポッケモンが瀕死直前になったら鳴るあの音とは違うこの音を知らないと。
携帯を手に取り画面を開いてみる。落とした時に悪用されない為に設定しているパスワードも解除する。そこには見慣れないアイコンがあった。
龍輝「何だコレ?まぁ押してみない事には何もわかんねぇか。」
押してみる。すると現実世界ではありえない事が起きた。
龍輝「!!!・・・ビックリしたぁ!すっげぇ~な、これ!!」
携帯から空間に向かって画面が出てきたのだ。ディスプレイとでもいうのだろう。そのディスプレイにはいくつかのメニューがあった。装備、剣能力、アイテム、マップ、などだ。もちろん、始めたばかりの龍輝のメニュー画面には、何もなかった。と思いきや、アイテムという所が光っている。そこを押すとアイテム画面が開いて・・・・・・。
龍輝「うわぁ!?」
その腹と喉に力が入って口先はとんがるようにして出した声の原因は。いや、出てしまった声の原因は、アイテムの中にあった。そもそもアイテムなど無いはずだ。所持しているはずがない。何も手になど入れてないのだから。なのになぜ?大量の食材がある。というより、大量であろう数が表示されている。牛肉×180個、豚肉×180個、鶏肉×180個、キャベツ×24玉、タマネギ×48個、トマト×90個、などなどだ。それだけじゃない。お金もある。150万円。
龍輝「何もしてないのに、サービスが良すぎるんじゃないのか?いや待てよ。運営からだとしたら何かしら連絡があるはず。連絡も何も無しで、一方的にこんなに送ってくるなんて事はさすがにおかしいだろ。」
いくら考えても疑問は膨らむばかりだった。何も無いこの部屋が疑問で埋まっていくようだった。
そして、半年が過ぎた。
あれから、半年前のあの日から、何も変わってはいない。ただただ部屋に閉じこもり、運営からの連絡なり放送なりを待っていた。
だが、なかった。何も。現実では家族も心配しているだろう。でも、連絡はできないし、くる事もなかった。さすがに気がおかしくなりそうだ。寂しさ、孤独。重くのしかかっていた。纏わりついていた。部屋に溢れていた。泣きたくもなった。いや、軽く涙を浮かべていた。でも、龍輝はわかっている。ここで泣いても暴れても、何もならない事を。だから我慢した。その感情を無視した。忘れようとした。でも、やっぱり、泣いた。少しだけ、ほんの少しだけ、泣いた。そうでもしないと、自分が壊れそうだった。
そして十分程が経った頃、決意した。涙を拭った。
龍輝「このままじゃいけない。腐っていく。駄目になっていく。今ならまだ進める。見ないと。知らないと。この世界で何が起こっているのか。どうすればいいのかを!」