☆打ち上げに向けて☆
龍輝「ありがとな、みかん!おかげですっかり元気になった!」
龍輝は腕をブンブン回しながら礼を言う。
蜜柑「あまり無理をしちゃいけませんよ!私のソーディアまだレベル1ですし、完全には回復
できてませんから」
大河「そうよ龍輝。子供じゃないんだから落ち着きなさいよ」
子供のようなツートップが、いや実際に子供なツートップが、ここにきて成長していた。
龍輝「よぉし!大勝利したし、剣崎にも再会したし、今日は大河の家でバーベキューだな!」
大河「なんでウチなのよ?」
龍輝「ノリだよノリ!でも、最適じゃないか?」
大河「――ダメ。無理。ウチは無理・・・その、邪魔が多いのよ色々と・・・それに、初めて
招くのは龍輝だけが・・・」
語尾を小さく濁す大河が一瞬見せたその表情は儚いように見えたが、一般の家庭とは次元が違うのは事実なわけだし、執事やメイドさんが大変だろうとも思い、龍輝は納得した。
龍輝「じゃあ、剣崎ん家ならいいやろ?高校の卒業祝いしたし!道具は俺が買ってくるけん!」
剣崎「まぁいいけど」
という事で、今晩は剣崎の家の庭(正確には剣崎家の敷地ではない)で、バーベキューをする事になった。
橋を戻り解散した。
みかんは、宇治がどうしても送りたいと言うから任せた。少々不安でもあるが、恐らく大丈夫だろう。悪人ではない。みかんにも、異変があればすぐに連絡するように、大河が念を押していた。
剣崎は愛車のヴィッツで帰った。
自然と龍輝は大河を送る事になる。
――大河に袖を掴まれた。
龍輝「どうした?」
大河「・・・買い物。・・・行く」
龍輝はこのままバーベキューの道具や食材を買いに行くのだ。もちろん、食材は皆がそれぞれ持ってくる事になっている。
龍輝「あぁ。俺はこのまま買い物に行くよ」
大河「知ってる。そうじゃなくて、その、私も・・・」
龍輝「うん?お前もこのまま買い物に行くのか?家にいい肉ありそうなのに?執事さんとかに
聞いてみたらどうだ?厨房のコックさんとか?」
龍輝の袖が思い切り下へ引かれた瞬間。龍輝が下へ引かれた瞬間。龍輝の顔が低い位置に移動した瞬間。その目の前に。
大河「バカッ!私も一緒に買い物に行きたいって言ってんの!!・・・買い物なんてした事な
いんだから・・・そのくらいわかれえっ!!」
全力でキレて照れる桃色の鬼が存在した。
龍輝「お、おう、ま、まぁ落ち着け。そうだな。うん、いいぞ。俺も1人より2人の方が好き
なんだ。よく母親と買い物行くしな」
大河「そ、そうなんだ・・・よかった」
視線を落とし泳がせ、しみじみに言って。急に視線が合う。
大河「・・・なに、あんた。マザコンなの?」
龍輝「・・・依存してはいない。ほ、ほら、母子家庭だから・・・」
大河は右手人差し指を自分の顎にあて、
大河「ふぅ~ん・・・」
と言い、
大河「まぁいいんじゃない」
と、首を傾けて見せた。
大河「家族の仲がいいのは素敵な事よ。なんで気まずそうにしてるのよ?虫でも食べてるの?
近寄らないで気持ち悪い」
それは、平和な日常が戻ってきた証でもあった。
河川敷の駐車場に停めていたタントに乗り、そのまま大河とホームセンター【ミスターマキシマム】を訪れた。
龍輝「ちょうど岩鉄戦でお金入ったし、バーベキューセット2つくらい買えるな。でもその前
にペット見よう・・・ぜ・・・?」
龍輝はここに来る度にペットを見ていた。毎回違う猫や犬がいて、可愛いのだ。が、今はそれどころではなくなった。
龍輝「・・・迷子だ!」
大河がいないのだ。初めての買い物で迷子になりやがった。龍輝は探す。
でも、それは困難を極めた。なにせあいつは。大河は非常に小さいのだ。ちょっとした物の陰にでも隠れてしまう。それ程だ。――正直、あまり時間もないのに。
龍輝「ここは1つ。迷子センターに・・・あうちっ!」
脛に走る激痛。自ずと下がる視線の先に。
大河「誰が迷子よ?――あとこれ・・・どうかな?」
胸の前でカップ麺を持った少女がいた。
龍輝「そっか、一緒にカップ麺食べるって約束してたもんな。それに、初めてにしてはいいの
選んだな!」
大河「そ、そうなの?・・・えへへ」
はにかむ少女の手に包まれていたのは、まろやかチーズカレーヌードル。正直久留米人の龍輝からすれば、とんこつを食べてほしいのだが、そのカップ麺は龍輝のお気に入りの1つでもあるのだ。だから龍輝は念の為に、自分がとんこつラーメンを買う事にした。
そして、バーベキューセットを2つ持って、レジに向かう。
大河「・・・1つ、持とうか?」
龍輝「平気だよ。ちゃんと鍛えてるからな。それよりお前はカップ麺をしっかり持っててくれ」
大河「うん、わかったっ」
妙に素直なそいつは、おもちゃを買ってもらう子供のような顔をしている。なんて幸せな気持ちにさせてくれる奴なんだ。そいつを見ながらふと、そんな事を思っていた。
レジに着くと。
大河「なにあれ?ピッピッてしてるけど、なんにもなってないわよ?」
龍輝「あれはスキャナーっていってな、商品のバーコードを読み込んで、その商品がいくらな
のか、とかを判断して、合計金額を出すんだ」
大河「そうなんだ。楽しいのかな?」
龍輝「人によるだろうな」
軟禁され世間からかけ離れた生活を送っていた事で、ここまで影響が出るんだと、改めて胸が痛む。でもそれと同時に、様々なものに新鮮な反応で、純粋に感動している姿には、胸を打たれた。すると、目の前で事件発生。
お客「なんかぁ!?はっきりせんかっ!あぁ俺が恥かく!!」
お客さんのおじさんが、胸に研修中という札をした、女子高生くらいの店員を怒鳴りだしたのだ。状況は、見ればすぐに理解できた。どうやらおじさんが出したお金が足りないのだ。でも、それに研修中の店員は気がつかずに処理をしようとして。でも、レジの機械はそんな事許してはくれず。それで、頭が混乱した店員は、どうしたら良いかわからずあたふたしていたのだ。それで、龍輝と大河が後ろに並んだものだから、おじさんは自分のせいでレジが止まっている。自分が後ろの客を止めている。他の客の視線が気になる。とかで、キレだして、店員を怒鳴って、自分への視線を、店員のミスへと向けようとしているのだろう。
逆の立場だったら、龍輝も同じ事をしたくなる。そう思った。他のお客さんへの気まずさから、怒りで自分を誤魔化したくなる。そう思った。――まぁ実際、できないのだけれども。しないのだけれども。自分の良心が、人見知りが、それを封じ込めるのだけれども。
それに、こんなに格好悪いものはない。一般人へのアンケートでも、店員に偉そうにする男性や彼氏はかなり嫌われている。それに、こういう男は龍輝も大嫌いだ。故に、言ってやる。
龍輝「どう見ても自分がミスってるよな大河。恥ずかしくないのかな」
大河「・・・。あんた、それ、直接言えば?」
龍輝「・・・・・・」
龍輝は口籠った。だって、人見知りで引っ込み思案なんだもん。聞こえるか聞こえないかの声で大河に言うのが、やっとだったんだもん。キレたり興奮したり追い込まれたりしないと、そういう必要性が絶対にある状況じゃないと、なかなか他人に意見できないんだもん。
――龍輝は、並ぶレジを変えた・・・・・・。
店を出て車に荷物を積んでいると。
大河「あ、いけない!龍輝、早く戻らなきゃ!」
龍輝「どうした?忘れ物か?」
大河「お肉!買い忘れたわよ!」
すぐにまた店へ戻ろうとする大河。
龍輝「待てって。ここにはお肉売ってなかっただろ?お肉はエミエールってとこで買うんだよ、
俺は」
大河「そ、そうなんだ。ふぅ~ん」
食材が売っていたかどうか。それすらもわからない程に、ホームセンターは未知の世界なのだろう。いや、この世界のほとんどが。屋敷の外のほとんどが。こいつにとっては新鮮な場所なのだろう。龍輝はそう思う。
エミエールへの移動中。
助手席で、ずっとカップ麺を持っているそいつは、
ずっとニコニコしているそいつは、
作り方を見ているそいつは、
「本当にお湯を入れるだけなんだ」と感動しているそいつは、
「あんたの粉とかあるのね。豚の骨なんて美味しいの?」なんて言っているそいつは、
――酔った。
エミエール駐車場。
龍輝「ほら、大丈夫か?」
大河「・・・うん、なんとか」
龍輝「お前がずっとカップ麺見てるからだぞ」
大河「だって、本当に酔うなんて初めてなんだもん。こんなに気持ち悪いなんて・・・」
それすらも初体験なのかよ。子育てってこんな感じなのかな?なんて思う龍輝は、頬が緩む。
龍輝「待ってていいぞ。すぐに戻ってくるから」
と言ってみるが、青い顔で、
大河「なんでよ。行くに決まってるでしょ・・・ぅっ・・・」
と言いついてくるので。ゆっくり歩いてやった。
なのにそいつは少し回復してくるなり、
大河「なんでお肉がすでに切られてるの?調理の前か食べる直前に切るんじゃないの?白いと
ころ少ないお肉ばっかり。あ、これはうちのに近いかも!」
なんて言いやがる始末で。持ってきたのは、この店でもかなり高いお肉で。
龍輝「し、霜降りか。残念だが、さっきお金使ったし、これは買えんなぁ・・・はは」
生活レベルの差に必死で堪えているのに。
大河「そうなの?これで足りるかな?」
そいつが見せてきたウィンドウに表示された金額は。バーベキューセットで奮発した龍輝を。
龍輝「・・・ぅはぁ~・・・」
膝から崩れ落ちさせた。なにも出てはいないが、血反吐を吐いた気分だ。吐いた事はないが、そんな気分だ。
大河「えっ、ちょっとどうしたの?足りなかったの?ねぇ大丈夫?」
龍輝「・・・い、いや余裕だ」
その金額はあまりにも大きかった。パッと見ただけでそれがわかった。だから、数える前にダウンした。
大河「よかった。じゃあ遣って!私お金なんて滅多に遣わないから!それに、お金で解決する
んじゃないけど、あんたには・・・色んな感謝があるからね!ガソリン代も兼ねて!ね?」
と、真っ直ぐな笑顔で言われたからには、断れない。たぶん、これは断ったらいけない瞬間だと思った。断ればこいつは、少なからず悲しい表情になるはずだ。もちろんきちんと自分も払うし、割り勘というやつだ。まぁ、少し大河の方が多めに払う事にはなるが。きちんと聞いたら、それはそれでいいらしいし、寧ろ、少し恩が返せると喜んでくれたくらいだった。
そして、そのまま剣崎宅へ向かった。




