☆第4クォーター 参戦☆
龍輝「あいつら・・・っ!!」
大河「アジトにでも帰ったんじゃなかったのっ!?」
松森率いるフード3人組。そいつらは再び姿を現すと、容赦なくみかんを連れ去る為に行動を開始する。
松森「そんじゃみかんはん。ワイらと一緒に来てもらうでぇ」
真っ直ぐ、みかんに迫る松森。
だが、その間に迷わず割り込み、剣を構える者が1人。その剣は小刻みに震え、決して格好良くはないかもしれないが、それでもその行動は格好良い。そいつは、
宇治「み、みかんちゃんは渡さないぞ・・・!!」
宇治だ。
本人は必死に抑えているが、足も震えているのだ。それは服のおかげで辛うじて見えないのだが、やはり剣は丸見えだ。
松森「なんや宇治はん?あんさんも来るか?ま、ホテルやなくて戦場やけどな。それとも・・・」
松森は剣を抜く。その剣は鎌のような形状を成していて、不気味なオーラを纏っている。
松森「・・・ここで死ぬか?」
その鎌状の剣にじと~っと舌を這わせ、ニタァっと笑う松森。
松森「ここでも。街エリアでも死ぬんやで。――この、ダークシャドウによる闇属性の攻撃なら
なぁ・・・!」
その言葉に、龍輝一行は耳を疑う。絶対安全なはずの街の中。少なくとも、命の保障はされているはずの、街の中。なのに、それなのに。その、闇属性というやつは、人を殺すというのだ。街の中でさえも。
宇治「う、嘘だっ!」
震える喉から途切れそうな言葉を投げる。
松森「ひゃひゃひゃ・・・それは、自分で体感した方が早いんとちゃうかな?」
松森はダークシャドウを構え、宇治に接近する。
龍輝「おい、ヤバいんじゃないか・・・!?」
大河「うん。闇属性なんて初耳だし、あいつが言ってる事が本当なのかもわかんないけど、も
し本当なら大変ね・・・宇治が、死んじゃう・・・!」
どう見ても宇治が勝てる相手ではない。そう判断した龍輝は、宇治の加勢に向かおうとするが。
岩鉄「――おらあっ!」
岩鉄がそうはさせてくれない。
岩鉄「俺だんを無視すっとかぁ!?お前だんは俺だんに殺されるったいっ!!」
少しでも宇治の方へ加勢に行こうとして岩鉄らから気を逸らせば、それこそ殺られるかもしれない。岩鉄、水菜、岩溶の攻撃は、いつでも襲える、そんな状況なのだ。
ただ、そうしないのは、松森らとの挟み撃ち作戦の為だろう。
先に龍輝達を再生エリアに飛ばしてしまえば、みかんと宇治は自分達が逃げる事だけに集中する。最悪、自害行為をし、再生エリアに逃げるかもしれない。そこは人が多く、岩鉄達にとっては避けたい場所なのだ。
そして、龍輝達をフィールドに引き摺り出したとしても、挟み撃ちが解けた瞬間にみかんと宇治もフィールドへ逃げるかもしれない。そうなれば、広いフィールドだ。もしかすれば見失うかもしれないし、ワープアイテムなんかを持っていた場合、勝ち目を完全に見失えば、龍輝達も一緒にワープしてしまうかもしれない。
そんな可能性があれこれ増えてしまう。
故に、この挟み撃ち状態をキープしているのだ。そうすれば、龍輝と大河はみかんと宇治を気にかけるし、みかんと宇治は龍輝と大河を気にかける。その結果、どちらかだけが逃げる可能性は、自ずと減るのだ。そして更に勝機を僅かでも匂わせていれば、尚更、龍輝達は逃げないのだ。
単純に見える岩鉄だが、悪党として頭を張っているだけの事はあるし、戦闘慣れしているのだろう。まぁ、松森の作戦かもしれないが、なんのミスもなく、こなしているあたり、やはりプロの悪党だ。
宇治「う、うわぁ・・・く、来るなぁっ・・・っ!」
後退りする宇治。が、その足はもはや宇治の足ではない。恐怖のあまり、思うように動きはしない。
松森「どないしたん?そんなとこに座り込んで・・・」
宇治は思いっきり地面に尻を落とした。
松森「――ほな、さいなら・・・」
ダークシャドウは不気味に黒光りしながら宇治を襲う。宇治の頭上へ、容赦なく、空を裂き。
龍輝「宇治っ・・・っ!!」
大河「そんなっ・・・っ!!」
龍輝と大河の視線の先。
蜜柑「いやぁあああっ!!!」
蜜柑の眼前。
その時が訪れた。
宇治は目を瞑って、歯を食い縛る。
宇治「――ダメだっ――死ぬぅ――っ!!・・・・・・?」
が。
――松森の凶器は、受け止められていた。
宇治の前に割り込み、松森から守ったそいつによって。
松森「・・・なんや?」
宇治「し、師匠っ!!」
宇治が師匠と呼ぶこの人型のもの。――どうみても人形だ。シルバーの鎧を纏った人形だ。
宇治「師匠も来て下さったんですね!ありがとうございます!」
??「まぁ、あんなに頼まれたんやけん、様子くらい見に来るやろ」
そいつは喋った。と、龍輝と大河とみかんは一瞬思ったが、その声は別の方から。宇治の視線も、別の方を向いている。
そこにいたのは。軽くウェーブした天パとは違うくせ毛の短髪。柔らかい輪郭をした面。シルバーに輝く防具。そして、手にはコントローラー。
龍輝「――っ!?」
剣崎「、久しぶりやん」
龍輝の呼びかけに親しげに返す青年。龍輝を名字で呼ぶ青年。
大河「え、あんたの知り合いなの?」
龍輝「あ、あぁ、高校時代からの親友だ」
宇治の師匠は、龍輝の親友でもあった。
大河「・・・親友なんて・・・いたんだ・・・」
遠く、視線を落とす大河。大河にとって、友達と呼べるのは、最近知り合った龍輝とみかんだけ。故に、親友という響きは、大河にとって羨ましくもあり、とても切ない気持ちにさせるものでもあった。
龍輝「俺も友達は少ないからな。3人の親友の内の1人だ。あ、いや、お前も入れたら4人か」
大河の視線がぐんと戻り、その瞳に龍輝を反射する。相変わらずぽかんとしてはいるが。
大河「・・・私も、親友なの・・・?・・・友達以上、なの・・・?」
龍輝「ああ。もしかしたら、それ以上かもな!なんてな、はははっ」
大河「・・・そっか。よかった。嬉しいかも。いや別に・・・でも、急に親友って・・・」
なにやら大河は瞳を輝かせた後、俯いてしまった。桜を散らしたような頬と唇が、小さく動いていた。
龍輝「それにしても剣崎が来るとはね。びっくりしたやん」
龍輝は気の許せる親友に、方言で語りかける。
剣崎「それはこっちもやし。まさかイデアリアで会うとか思わんやったし」
龍輝「確かに」
そして、
剣崎「まぁ、話は後じゃね?まずはこの場をどうにかせんと」
龍輝「そうやね。じゃあそっちは頼んでいい?剣崎」
剣崎「はぁ、仕方ない」
剣崎は松森へ向かって構える。その得物を。
大河「ねぇ龍輝?」
龍輝「なんだ?」
大河「あんたも方言話すのね。私の前でも方言でいいのよ?」
龍輝「いや、いいんだ。方言はそんなに好きじゃないし、標準語への憧れもある。だから、大
河とは標準語で話せて楽しいんだ」
そう言って、大河へ笑顔を落としてやる。
大河「そうなんだ。変なの。・・・でも、相手してあげなくもないわよ」
大河は、龍輝の笑顔を、照れながら左頬で受け取る。そして、
大河「――ていうかだけど、あのあんたのお友達、なんでコントローラー持ってるの?まさか、
あれで戦う気なの?」
急に切り替わった表情で思った事を素直に訊いてくるのだ。
龍輝「いや、俺もこの世界での剣崎の事は知らん。けどまぁ、さっき見た感じでは、あれがあ
いつの能力なんじゃないか?」
大河「・・・お友達も変なのね」
龍輝「・・・おい」
――ズシィン・・・・・・。
岩鉄がロックブレイカーを地面に突き刺した。
龍輝「どうしたんだ?俺達もそろそろ始めるんじゃないのか?」
龍輝は内心ホッとしながらも、それを隠し強気に出る。
岩鉄「まぁそんな焦らんであいつらを見とけ。今にお前の友達が死ぬけんなあ!ブワッハッハ
ッハ!来んけりゃよかったとになあ!」
あくまでも、みかんを捕らえるまではこの戦況を崩す気はないのだ。
松森「剣崎とか言うてはったなぁ。・・・覚悟はできてるんやろ?死ぬで?」
松森は冷徹に澄んだ熱のない瞳で剣崎を見据えると、ダークシャドウを怪しく光らせる。
剣崎「・・・・・・。まぁ、殺せるならね」
サッと剣崎へ迫る松森。軽い得物を使うだけあり、身軽で素早い。
そして、その松森の攻撃を受けるのは、剣崎であり剣崎ではない。そいつは、やはり先程の剣を持った人形だ。人の形をしたごくごくシンプル過ぎるくらいの人形だ。そして、剣崎とお揃いのシルバー防具を身につけているだけだ。
松森「――おかしな能力を使いますなぁ剣崎はん。それ、なんていうん?」
剣崎「ソーディア・テクニカルマスターを使っとるだけやけど」
松森「なるほどでんなぁ!おもろいやんけ!そのコントローラーでこの人形を操作して戦っと
るんやろ!」
その人形は剣崎が操作していた。どうやら操作系能力のソーディアマスターらしい。
大河「ねぇ、聞いた龍輝?あんたのお友達も、ソーディア使ってるって」
龍輝「あぁ、正直驚いたけど、納得もできる」
大河「え?そうなの?」
大河は龍輝を見上げる。親友がソーディアを装備しているというのに、龍輝の顔は冷静だった。なんというか、まぁそうだろうな、という感じなのだ。
龍輝「今の戦闘スタイルからしてもわかる通り、あいつはゲーマーなんだ。ブニョブニョをや
らせれば十連鎖なんて余裕で敵なし。パネドンをやらせても止まらない連鎖で敵なし。
スマッシュシスターズをやらせれば、上へ飛ばされメテオで落とされ、また上へ飛ばさ
れメテオで落とされ、まるでドラゴンキューブ状態で即撃破される。攻撃しても、ゼツ
でかわされスマッシュでやられる。そんな感じで敵なしゲーマーなんだ」
大河「(・・・ゲーム・・・1人でしかした事ないよ・・・)」
軽く、小さく、唇を尖らせる大河。
龍輝「まぁそんな感じでゲームは極めるタイプなんだ。だから、ソーディア使ってても当然か
なって。それに、あの能力はあいつにピッタリだなっても思うんだ。普通に戦うより強
いに決まってる」
大河「そうなんだ。――確かに押してるかも。動きが不規則で人とは違う感じだし、松森も苦戦
してるって感じ」
松森「――ちょいと面倒やなぁ。動きが全然読まれへん」
すると松森はタンっと跳ね後退する。そして、
松森「はん、はん、3人で行くで。仕事は早う済まさんとなぁ」
煌月「そうじゃな」
丸山「そうね」
3人で剣崎を襲う。
煌月は小太刀二刀流。
丸山は戟のような大剣だ。
剣崎「それはないやろ・・・!」
剣崎は明らかに押され始める。敵は3人とも近接攻撃なのだ。いくら高速にコントローラーを操っても、手数が足りない。
特に煌月の手数は常人の数倍だ。
丸山の攻撃は重く、人形がいちいち弾かれる。
松森は隙あらば人形を抜け、剣崎を狙っている。
大河「――龍輝・・・」
大河のその一言でわかる。
龍輝「――あぁ・・・」
助けないと、剣崎が間も無く敗れるという現実が、容易に想像できる。いや、もはや想像ではない。確かな少し先の未来だ。
が、龍輝が一歩でも踏み出そうとすると、
岩鉄「行くんなら好きにせい!そん代わり、俺だんも容赦せんけんな!後ろから総攻撃たい!」
岩鉄に有無を言わさず止められる。
総攻撃なんて冗談じゃない。もしかわせても、その後は間違いなく乱戦だ。みかんを守りながらなんて、到底勝てっこない。ただでさえ不利な現状なのだから。
その時、
煌月「なんじゃ!?ぁあぁっ!」
煌月が弾き飛ばされた。
松森「――チッ。なんや?またお友達かいな・・・?」
そこに参上したのは。
魅音「ふん。お友達だと?馬鹿を言うな。僕は警察ギルドの客員剣士、だ」
クールな黒髪をさらっとそよ風に靡かせ、その華奢で美形な青年は剣を構える。レイピアとダガーという組み合わせだ。
魅音「――来い。僕が相手をしてやろう」
剣崎「俺もやるけど」
魅音「ふん、好きにしろ。だが、足は引っ張るなよ」
剣崎「そっちがやがな」
剣崎&魅音のタッグ結成の瞬間だ。
松森「なんで警察ギルドの犬が・・・」
そう松森が漏らした言葉に、魅音は冷たい視線をギラつかせる。
魅音「警察ギルドの犬だと?勘違いするな。僕は警察ギルドの犬なんかじゃない。力を貸して
やってるんだ。あの無能な連中にな!」
すると魅音は突っ込んだ。華麗に流麗。一閃一閃が美しい剣術だ。
魅音「それともう1つ。ここへは僕しか来ない。安心してかかって来るんだな!」
魅音の手数は止まない。突きを多めに取り入れたスタイルだ。そして、レイピアとダガーの攻撃バランスも実に美しい。
剣崎「飛ばしすぎやろ。あぁ怠い」
剣崎も続く。という表現は間違っているだろう。魅音も剣崎もガンガン攻めるのだ。続くや援護は存在しない。2人が凄まじい手数で攻め込むのみなのだ。
松森「なんやこいつら・・・!スキがあらへんっ!防ぐんで精一杯や!」
2対3。なのに、手数で押すのは、剣崎と魅音。
剣が剣を弾く甲高い音は鳴り止まない。まるで1つの音のように繋がる。
キキキキンッギギギギンッキキキキンッギギンッギギギギンッ!!
そして、それが聞こえなくなった時は、勝敗が決した時にほかならないのだ。
魅音「どうだ?僕のソーディア・ローンウルフの閃きは?貴様には見切れんだろう」
松森「辛うじて見切れてるから防いでるんやろ・・・!」
魅音「ふん。これが全力だと思うなよ。僕にはまだ、上がある!」
すると、顔を苦くした松森は、なにかを投げつけた。下へ、地面に向かって小さいものを。それは、弾けると同時に、眩いばかりの光を撒き散らす。
魅音「くっ――!!目くらましか」
直様敵との距離をとる魅音。至近距離で受けたので、視力を一瞬失っているようだ。
剣崎「逃がさんし!」
が、剣崎はあまり食らっていない。剣崎は人形を操作して戦っているので、敵との距離をそれなりにとっていたのだ。しかも、人形で光をそれなりに防いでいた。
そして、見つけていた。
閃光弾を投げ、弾けたと同時に逃げる松森の姿を。
松森「――っ!・・・おっと危ない。けど、どうやらここまでは届かんみたいやな」
魅音が目を擦りながら前方を確認する。
魅音「――おい、どうなった?奴はどこに消えた?」
剣崎「ん~松森は逃げた」
その言葉に眉を寄せる魅音。
魅音「なんだと?貴様は見す見す逃がしたのか!」
剣崎「仕方ないがな。こっちの能力は範囲が決められとるんやし。あそこまでは届かんがな」
魅音「ふん。使えないな」
剣崎「はぁ」
魅音「おい、溜息をつくな」
大河「・・・なんだか、絡みづらいのが入ってきたわね」
龍輝「・・・まぁ、味方寄りだから、いいんじゃないか?強いし」
大河「・・・そういう事にしましょうか」
龍輝「・・・あぁ」
素直に心強い味方だとは思えない龍輝と大河。
蜜柑「すごいですね!これなら勝てるかもしれませんね!」
宇治「そうだね!みかんちゃん!」
素直に心強い味方だと喜ぶ者もいた。言うまでもなく、みかんと宇治なのだが。




