☆第3クォーター ビリビリ☆
岩鉄「お前らあっ!!」
追いついた岩鉄は怒号で橋を揺らす勢いだ。
岩鉄「よう待っとったな!やけどっさい!勝てると思いよっとか!?くらすけんなあっ!!」
龍輝は華麗にシカトを決め、MY PHONEからウィンドウを開き操作する。
岩鉄「なんば無視しよっとかあっ!!」
龍輝「ちょっと黙ってろ。お前をぶっ飛ばす準備中だ」
その龍輝の挑発に、岩鉄は再度怒鳴ろうと空気を吸い込んだ――その時。
龍輝の左腰と背中に水色の光の粒が集まり、形を成し、長剣になった。
岩鉄「なんかそれは!?ブワッハッハッハ!そんなに長い剣ば腰に装備したら、抜けんやろ!」
分厚く突き出た腹を更に突き出し、唾を撒き散らしながら、大笑いする岩鉄。
岩鉄「いかんいかん、爆笑してしまったバイ!」
そんな岩鉄に対し龍輝は、左腰の長剣【ソーディア・ ブレイズリート】を、右手でゆっくりと抜いてみせる。
龍輝「まぁな。確かにコツがいるよ。それに、どう足掻いてもてめぇみたいな短い腕じゃ抜け
ねぇだろうな。俺みたいにスタイルが良くないとなぁ」
龍輝はナルシストではないが、客観的に見ても、自分は多少スタイルはいい方だと思っている。よく、手や足が長いね、と言われてきたし、そのリーチの長さはバスケやサッカーでも有利に働いていたからだ。
そして、右の頬を上げ顔を歪ませる岩鉄に、龍輝はソーディアの鋒を向ける。
龍輝「それに、爆笑ってのは大勢が笑う事を言うんだ。1人で爆笑ってどうやるんだよ?てめ
ぇのそれは、大笑いって言うんだよ。まったくバカそうな顔して本当にバカなんだな」
岩鉄は歯を食いしばり、息を荒くしている。
大河「ぶっ飛ばしましょ、龍輝」
傍らの大河も【ソーディア・】を左腰に装備し、いつでも抜けると言わんばかりに柄を握り締めている。
龍輝「あぁ、もちろんだ。ここなら殺しちまう事もない。思いっきり、再生エリア送りにして
やろうぜ!」
龍輝は大河を横目で見る。自信に満ちて、軽く微笑んで、準備はいいか?と。
なのに大河は突如。
大河「当たり前でしょ。でも・・・」
蜜柑「勝てるんですか?結構強いですよ」
大河「やっぱり・・・」
後ろのみかんとこんな事を言い出した。
呆れた龍輝は、顔を歪ませ口をぽかんと開けた。
龍輝「はぁ?お前今ぶっ飛ばすって言ってただろ。それにもし強くてもな・・・」
大河「勝つしかない!・・・でしょ!」
大河のその言葉。態度の変化。心のベクトル。それらに驚かされる。バスケをやらせれば、いや、スポーツをやらせれば、良くも悪くもその切り替えの早さに、敵も味方も翻弄される事間違いないだろう。が、龍輝は、信頼する者には合わせる事もできるのだ。案外、合わせるのも好きなのだ。
龍輝「まったく、その通りだよ!大河!」
龍輝は背中の初期装備の長剣も抜き、左手に構える。
蜜柑「あの・・・(大丈夫ですか?なんて言えない。私の為に立ち向かってくれてるんだもん)
お気をつけて!でも、絶対に勝ってくださいね!負けないって私、信じてますから!!」
みかんの優しい想いが、龍輝と大河の背を支えるように押してくれる。
大河「もちろんよ、みかん!」
龍輝「あぁ!ずっと下がって、安心して待っててくれ!それから宇治。もし俺達が敵を漏らし
たら、その時は頼むぜ!みかんを、お前の大好きなみかんを、守ってやれよ!」
宇治「は、はい!もちろんです!僕に任せてください!」
ガチガチで頼りない素振りだが、それでも宇治は力一杯に、親指を立てて見せた。
蜜柑「もう、龍輝さんったら・・・」
宇治の後ろで、みかんは頬を桃色に染めた。
龍輝「あぁそれから宇治。もう1つ頼みがあるんだが・・・」
龍輝がそう言い背後へ振り返った時。宇治へ伝え始めた、その瞬間。
大河が叫んだ。
大河「ちょっと!仕掛けてきたわよ!」
龍輝は一瞬岩鉄をチラ見し、その距離、その速さを確認してから、宇治へ伝えるべき事を伝える――。
龍輝「――じゃあ頼んだぜ、宇治」
宇治「はい!」
その瞬間、龍輝を大きな影が覆う。
大河「龍輝!後ろ!!」
龍輝「あぁ!わかってるよ!・・・!!」
龍輝は両手の長剣から炎を噴出させ前方へ滑空。
岩鉄「食らえい!っ!!」
風をぶっとく薙ぎ払う轟音とともに、地面が抉れ、コンクリートが乱れ散る。
岩鉄「・・・ぁぁああ!妙な事ばしやがってぇ!」
振り下ろした大剣を地面から抜き、肩に背負う岩鉄。
龍輝「てめぇこそ、えらくゴツイ大剣振り下ろしやがって。そりゃあ斬るっていうより叩き潰
すって感じだなぁおい。橋が壊れるぞ」
龍輝は間一髪、岩鉄の振り下ろすゴツゴツとした岩のような大剣から、その身をすり抜けさせていた。
岩鉄「ふんっ!虫けらは潰すやろうがぁっ!」
龍輝「いや、俺は案外蚊も逃がしたりするけどな」
と、そのすぐ傍で大河は胸に手を当て、目を見開き、ハァッハァッと呼吸をしながら、腰を抜かしていた。
龍輝「おい、大河。どうした?」
龍輝が駆け寄り手を差し伸べる。
大河は、
大河「あ、うん。ありがと・・・」
と言い、その手を握り・・・引き寄せた。そして、近付く龍輝の顔。その・・・お凸に・・・頭突き!
龍輝「あぁっ!痛ぇっ・・・頭が割れるぅ・・・!」
お凸を高速で摩りながらふらつく龍輝。そんな龍輝に、
大河「ちょっとあんたねぇ!急に避けないでよね!私は岩鉄から距離を取る為にあんたの後ろ
付近にいたの!あと少しで岩鉄に殺されるところだったじゃない!そしたらあんたの
せいだからね!まったく!あんたが潰されなさいよ!」
と、大河は赤く腫れたお凸と揺らぐ瞳で、龍輝を叱りつけた。
揺らぐ瞳中心で見ると、赤いお凸も含め可愛く見えるのだが、怒りの感情を中心で見ると、まるで赤鬼だった。そんな大河に龍輝は、
龍輝「バカはお前だ・・・」
言ってしまった、一瞬後悔。だから、すぐに訂正しようと思ったが、そんなの言い訳だと更にキレる事は目に見えていたので、すぐに言葉を繋げた。言い訳ではなく、指摘する。
龍輝「一直線上にいるからだろ。前衛が2人で縦に並んでどうする?受け止めきれない攻撃の
時危ないだろ・・・」
だが、効果はなかった。途中で大河の殺気が増し、
大河「バカだとおっ!」
吼えた。
龍輝「(ヤバイ!なにか最後に言える事はないか!?なにか理由は!?・・・ダメだ。どんな
正論だろうと今のこいつは聞く耳がない・・・!!)」
そして、とりあえず龍輝は意味のない事を百も承知で叫んだ。ただの配置を。
龍輝「俺の隣にいろおっ!!ずっと!ずっとだ!!どんな危険が迫ろうと、2人で並んで乗り
切るんだ!!」
龍輝は、大河の怒鳴り声なり攻撃なりを覚悟して、内心物凄く身構えていた。・・・が。
大河「・・・ずっと・・・?」
やけに大人しく、ぽつりとそう呟いた。
龍輝は、とにかくチャンスだと思い畳み掛ける。
龍輝「あ、あぁっ!そうだ!ずっとだ!ずっとだぞ!大河!」
大河「・・・隣に・・・?」
龍輝「もちろんだ!極力隣から離れるな!どうしてもって時は仕方ないけど、なるべく俺の隣
から離れないでくれ!」
大河「・・・・・・・・・・・・」
大河はしばらく沈黙した。
龍輝は息を呑み、それを見つめる。
大河の答えは・・・?
大河「・・・う、うん。でも、やっぱり、今すぐには返事ができないって言うか、こういう時
にずるいよ・・・」
龍輝「いやいや、こういう時だからだろ」
大河「で、でも・・・」
龍輝「なぁ頼むよ?きっと上手くいくし、もしお前が危なかったら、俺が守るから」
なんとか龍輝は押し切ろうとする。うまくいけば、大河も怒らないし、戦闘もうまくいくはずだからだ。
大河「・・・じゃあ、とりあえず、だけど、わかった。まずはやってみないとわからないもん
ね。でも、ダメそうだったらすぐに考え直すからね?」
龍輝「おう!」
両手でワンピースのスカート前面を掴み、頬を淡く染め、軽く上目遣いで、もじもじ理解してくれた大河。
それを見る龍輝は、少し疑問に思ったが、今は戦闘中なので深く考えなかった。とりあえず、先程の頭突きで赤い顔が、怒りの興奮で更に赤くなり、その怒りのせいで睨みつけるような目つきで、身体も落ち着いていないのだと、すばやく理解した。
蜜柑「あれ、絶対に意思疎通できてませんよね・・・」
宇治「う、うん」
みかんと宇治は、正しく理解した。大河は龍輝のそれが、戦闘の話ではなく、人生の話だと思っている事を。
龍輝「よし。俺とお前が並んで戦う。あいつらは後ろへは行かせない。その為に、この橋で戦
ってるんだ」
大河「なるほど・・・って、そ、そのくらい少し考えればわかるわよ!正面の敵にだけ集中す
れば、みかんも守れるし一石二鳥って事でしょ!」
龍輝「おう!そんじゃ、頼んだぜ!」
大河「ふん、まぁ頼まれてあげる」
龍輝と大河は剣を構え並び立つ。
そして、大河は気付く。
大河「・・・2人で並んで戦う・・・?・・・隣で・・・?・・・うん?・・・・・・て、あ
いつら、なんか唱えてるわよ?」
それは、そもそもの勘違いではなく、
龍輝「あ、あぁ・・・ヤバイ、か?」
岩鉄の幹部3人が、剣魔術を唱えている事に向いた。
宇治「龍輝さん、大河さん、注意してください!右のはマグマ使いで、左のは水流使
いです!奥のは支援系の剣魔術を使いますが、侮ってはいけません。攻撃力上昇、
防御力上昇、そして、一定時間の自動回復。好き勝手させると非常に厄介です!それか
ら岩鉄は近接タイプで、身体を硬質化させます!」
幹部3人の足元には、それぞれの魔方陣が展開される。
岩溶の魔方陣は赤色。
水菜の魔方陣は水色。
亀子の魔方陣は白色。
それぞれが発動している属性によって色が異なる。その魔方陣の光の強さや色の濃さが、発動される剣魔術のレベルに値する。
岩溶は割と濃い目だ。光も強い。さすがは高度の熱量を操るマグマ使いと言うべきだろうか。
水菜は淡い水色から察するに、レベルの低い剣魔術を発動しようとしているのだろう。
亀子は強い光に濃い白をしている。確かに厄介そうだ。物凄く敵全体を強化してくるのだろう。
そこで龍輝はふと思い出す。
龍輝「そういえば最近聞いたな。久留米には鉄壁を誇る4人組がいるって噂。なんでもダメー
ジが通らないだけでなく、即座に回復する。そしてその攻撃は止める術がないって。・・・
それって、まさにあいつらだよな・・・」
大河「え・・・ちょ、ちょっとどうするのよ・・・?それって、本当にヤバイじゃない・・・!」
龍輝の深刻な音量に、大河は顔を濁す。
龍輝「・・・いや、まだ間に合う、かもしれない」
そう言うと龍輝は構える。右手のソーディア・煌炎 ブレイズリートを前方へ突き出し、左手の長剣を後方へ向ける。
大河「龍輝?一体どうするのよ?」
龍輝「簡単な事だ。最初に亀子を倒す。剣魔術を発動する前に、一撃で叩き伏せる」
龍輝は左足を後方へ引きつつ膝を曲げ、腰を落とす。
大河「あんたまさか、炎操作で突っ込むつもり?」
龍輝「あぁ」
大河「そんなの無茶よ!もし先に発動されたら恰好の的になるだけじゃない!」
血相を変える大河に、強い眼差しのままの龍輝。
その龍輝のブレイズリートは炎を発し、熱を上げていく。
龍輝「・・・まぁ落ち着けよ」
大河「無理!」
龍輝の落ち着いた声に直様反発する甲高く強い大河の想い。
龍輝「まぁそう言わず聞いてくれ」
そんな龍輝に、些か不満そうではあるが、大河は上下の唇を一生懸命に離さないようにしてくれた。
龍輝「偉いぞ」
大河にチラッと視線を送り、再び敵を見据える。
龍輝「見てみろ大河。魔方陣の状態からして、先に詠唱が終わるのは水菜だ」
大河「うんうん」
と、口を閉じたまま頷いてみせる大河。
魔剣術とは、レベルが低い程、詠唱時間も短いのだ。
龍輝「水菜の攻撃は俺が蒸発させる。大河はその水蒸気目掛けて雷属性の攻撃をしてくれ。そ
うやって感電して動きが止まったところを俺が仕留める」
大河「ぷはぁ!はぁはぁ・・・バッカじゃないの!」
どうやら息まで止めていた大河は、呼吸も反論も我慢できなくなったようで、再び反論してきた。
大河「そんな事したらあんたまで感電しちゃうじゃない!それに、蒸発なんてできるの!?あ
んたいい加減過ぎよ!いい加減に地面に出たり、いい加減に水に入って仏様になるミミ
ズなの!?」
そんな例えは放っておいて。
龍輝「仕方ないだろ。今はそれしか策がない」
覚悟を決めた眼光を光らせる龍輝。
龍輝「・・・必ず、蒸発はさせてみせる。もうすぐ、火力も最高まで上がる。それに、感電し
ても俺は止まらない。身体は動かなくても、炎操作の惰性で突っ込める」
大河「・・・でも・・・!」
胸の前で拳を握り締め、眉を寄せる大河。怒りん坊な大河なのに、そんな困り眉毛も似合う。
龍輝「――信じてくれ。・・・俺達、友達、だろ?」
龍輝は微笑んで見せた。
大河「・・・うん、ばか。・・・もう!わかったわよ!思いっきりいくからね!」
龍輝「あぁ!心臓が止まらない程度で頼むぜ!」
大河「そんな加減知らないわよ!あんたが心臓を止めないように踏ん張りなさい!」
龍輝「へいへい」
実際、心臓が止まるかも知れないという恐怖は計り知れない。街エリアなので死なないとはいえ、物凄い激痛と苦しみに身も心も支配されるだろう。・・・でも、やるしかない。今後もみかんが少しでも安心して過ごせるように、ここでやるしかない。それに、自分がそうしたいから、やるしかない。ここで岩鉄達を見逃せば、みかんだけじゃなく大河や自分も狙われるかもしれないのだから、やるしかない。そんな想いが、龍輝の覚悟を強くする。
龍輝「――よし、準備はいいか、大河」
煌炎 ブレイズリートの炎が真っ赤になり、次第に色が変わる。そして、それは透き通るような蒼になる。
大河「・・・あんた、それ・・・」
大きな瞳を軽く見開く大河。ほんの少し驚いた、という様子だ。
龍輝「あぁ。このくらいの火力ならマスターした。これで蒸発させる」
大河「――うん。信じるわ。龍輝」
その覚悟の炎は、大河の覚悟も燃え上がらせる。
蜜柑「キレイですね、宇治さん」
宇治「うん、みかんちゃん。炎の温度が上がって色が変わったんだよ」
蜜柑「なるほどです。ちょうどイデアリアに来る前、授業でガスバーナー扱ってました。でも
比べものにならないくらい、素敵です」
宇治「懐かしいな。でも、そうだね。僕もそう思うよ」
みかんのくるんとした瞳には、清らかに煌くが映り、
宇治の弱く優しい瞳には、きらきらと輝くみかんの瞳が映っていた。
松森「そんじゃあここは任せるでぇ、岩鉄はん。みかんたんの事、よろしゅう頼むわ。うん、
たん、もええなぁ」
岩鉄「おう、任せとけ!とか言っても、すぐに終わるけどな!」
すると松森達フード3人組みは光の柱に包まれ、天へと消えた。どうやら、でワープしたようだ。
大河「ちょっと、あいつら逃げるわよ!」
追い出しそうな大河。
龍輝「まぁ待て。もう無理だ。追いつけない。今は敵が減ってラッキーって考えようぜ。それ
より・・・」
龍輝は左手の長剣にも炎を宿す。
龍輝「そろそろ発動するみたいだ。俺が突っ込んだら、頼んだぞ」
大河「う、うん。任せなさい」
水菜「深く冷たい黄昏に沈めえっ!! リバープリズン!!!」
水菜の発動した剣魔術によって発生した水流は宙をうねり、橋の下を流れる宝満川を巻き込みつつ、更に巨大化する。
龍輝「待ってました!・・・と、言いてぇところだが、デカイな・・・」
大河「あんたの予想は少し外れたみたいね、龍輝」
龍輝「あぁ。低レベルの剣魔術だと思ったけど、川を利用する事によって、高レベル剣魔術相
当にまで強化しやがった」
もっと可愛い攻撃だと思っていた龍輝。だが、ここで怖気付いていても仕方がない。
大河「・・・どうするの?」
一応魔法陣を展開しつつも、その小さなお顔に不安を浮かべ、大河は訊いてきた。が、
龍輝「――作戦に変更は、ないっ!!!」
数秒も躊躇う事なく、勇気と覚悟を乗せて返してやる。
そして、
龍輝「作戦開始だ!駆けろ蒼炎! !!」
ブレイズリートを、左下から右上へ斬り上げる。そこから放たれた蒼炎による斬撃は大気を巻き込みつつ広がる。その火力は衰えず、突き進む。
ブブォオオオッッッ!!!
という噴出音が大河の横で鳴った瞬間、龍輝は前方へ地を這うミサイルのように突き飛んだ。
次の瞬間、飛炎剣 炎龍による炎は、リバープリズンに衝突し相殺。
ここまで、龍輝が技を放ってから約1秒。
一瞬にして、岩鉄らは水蒸気に飲み込まれた。
大河「あ、いけない!私だって!・・・貫け清浄!サンダーショット!!」
あまりに速く激しい展開に呆気にとられ、一瞬遅れながらも、大河は放った。
が、手加減知らずの大河が焦り放ったのだ。その威力は少々強すぎた。
大河「・・・あ、えへへ」
大河のその可愛らしいてへぺろとは裏腹に、大気を痺れさせ鳴り響く雷鳴にも似た轟音。それが、水蒸気に触れた。
その刹那。水蒸気には電撃が流れ、目を開けていられない程眩く光り輝いた。
――最初の一手は成功。敵は感電し、岩溶と亀子の魔法陣は消えた。が、
龍輝「っ!!・・・ぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」
もちろんの如く、龍輝も敵諸共感電。身体の自由は効かず、声も出ない。
そしてそのまま――。
龍輝「(フレアチャリオットォオオ!!)」
炎操作の勢いのまま、亀子に突撃。
豪快な蒼炎を纏いし突きを食らわす事に成功。
亀子「っぅはぁっ!!」
元々打たれ弱い傾向がある支援系剣魔術使い。その理由は実に単純だ。近接戦が好きな者や得意な者が進んで剣魔術使いになる事は少ない。それだけの事。そして、攻撃系剣魔術よりも支援系剣魔術を選んだのなら、尚更その傾向が強いのだ。
亀子は龍輝の狙い通り、一撃で天へ散った。モンスターの赤い光とは違い、黄緑色の光の粒となり、天へ舞い散った。最後まで言葉を発する事なく。
が、その時。動ける者など龍輝の近くにはいない。そのはずなのに。
岩鉄「えらくやってくれたなぁ・・・!やけど、お前も動けんみたいやなあっ!!」
岩鉄が大剣を振り上げる。
龍輝「な、なんで動けるんだよっ!?」
岩鉄「さぁなあっ!!くたばれえっ!!!」
辛うじて口が動いた龍輝の頭目掛け、振り下ろされる大剣。
大河「・・・えっ?なに?どうしたってのよ!?ねえっ!龍輝ぃ!なにかあったのぉ!?」
大河の位置からは、まだ水蒸気のせいでなにも見えない。が、
大河「・・・え・・・?」
大河目掛けてなにかが飛んできた。そして、
大河「ぅえ?え?え?えぇ~っきゃあっ!」
見事命中。
岩鉄「なんでかやん!」
風に消される水蒸気の中、幹部2人と岩鉄の姿が顕になる。
――龍輝の姿は、そこにはなく。
大河「あいたたたぁ。もうなによぉ~」
吹き飛ばされた大河は身を起こす。
大河「ぅん?・・・って・・・どどどっ!退きなさいよおっ!!」
龍輝「え?・・・あ・・・あ、あ、悪ぃ!!ご、ごごめん、わざとじゃないからな!本当にす
まん!!」
大河「い、いいわよ、べつに。・・・わざとじゃない事くらい、わかってるから・・・」
頬を、いや、顔全体を、いやいや、身体全体を見事にピンクへ染め上げる大河。
そのお相手は、降ってきたのは、龍輝だった。
大河「(うそ・・・今、絶対に、む、む、胸に顔と手を置いてたぁぁぁ~~~!!・・・わざ
とではない感じだったけど、龍輝もその事に気付いちゃってるかなぁ・・・?・・・で
も、胸に触れたかなんて、恥ずかしくて聞けないけど・・・・・・いや、友達だもん!
はっきりしなくちゃ!)」
友達のいない環境で育った大河。その友達という概念は、少しレベルの高いところにあった。
大河「・・・そ、その、どうだった?」
言葉に出せる限界の単語で訊ねる大河。
龍輝「え?なにがだ?」
龍輝には思うように伝わらない。だがそれも当然で、龍輝だって大河がそんな、胸の感触なんて訊くはずもないと、思い込もうとしているからだ。もしうっかり胸の感想なんて言おうものなら、間違いなく天へ散らされると、思っているからだ。
大河「だから、そ、その・・・倒れちゃった時の、そ、その・・・か、感触っていうか・・・」
龍輝「(胸の感触なら、小振りならではの弾力と薄い柔らかさと、手の平には足りない感じが絶
妙でよかったな。開脚した大河の太ももに挟まれた感じもよかった・・・って、そんな
事聞くわけないか。あ、そうか。こいつ、俺の事、心配してくれてるんだな!)」
実際よく見ると、わかりやすく胸へ両手をクロスして当てている大河。無意識に恥ずかしさで隠しているのだろう。
そんな大河に龍輝は。
龍輝「ありがとな」
お礼を言った。もちろん、心配してくれた礼だ。
大河「な、なに言ってるのよばかっ。やっぱり変態ねっもう・・・(なんでこんな恥ずかしめを~)」
龍輝「?まぁけど、やっぱ硬くて痛かったな。けど、軽い打撲で済んだ。だから、心配すんな」
大河の言動を理解しないまま続けた龍輝。もちろん、コンクリートの事だ。その結果。
大河「・・・硬い・・・痛い・・・打撲・・・」
大河の顔面を、暗い影が支配する。
龍輝「(そんなに心配しなくてもいいのにな、優しい奴だな)あぁ、でも平気だぞ」
大河「ふぅ~ん・・・これでも平気なんだぁ・・・底なしの変態ねぇ・・・とても微妙だわぁ・・・
嬉しいような・・・残念のような・・・。・・・少なくとも女としては、終わりなのかも・・・」
いつもはこんな勘違いでも、「貧乳でも平気だぞ」みたいな事を言われ、デレるであろう大河、なのだが・・・。本日は、素直にショックを受け、膝をつきダウンした。
龍輝はただ、そんな光景に首を傾げ、理解に苦しんでいた。
岩鉄「なんで避けられたとかやん!!」
大河の電撃の影響を1番受けた水菜を起こしつつ、岩鉄が叫んできた。
龍輝は岩鉄に向き直り、とりあえず大河も立ち上がる。
龍輝「簡単な事さ。俺はゾーディアを前方に突き出したままだったんだ。だから、そのまま炎
操作で後方に飛んだ。まぁ、身体が動かない分、コントロールが効かなかったけどな。
おかげで硬い硬ぁ~い・・・」
そんな龍輝の説明を聞いていた大河が、ムッと龍輝を睨む。
龍輝「コンクリートにぶつかったぜ」
大河「・・・。・・・。・・・。・・・え・・・?・・・コンクリート・・・」
大河のムッとした表情は、徐々に解れていき、自分の勘違いに頬を染める。
大河「(私、1人で勘違いしてたんだぁうそぉなんか物凄く恥ずかしいんですけどぉ~!・・・
でもまぁ、龍輝はその事に気付いてないみたいね。鈍感で助かったわ)」
が、そんな大河に対し龍輝は、
龍輝「(なんかわかんないけど解決したみたいだな。まぁ、俺が胸の感触をしっかりを覚えてる
事には気付かないでくれよな。なんせ今もこの剣の柄が胸かと思うくらい、しっかりと
この手が、そして頬が、覚えちまってるもんなぁ、微乳・・・美乳・・・)」
内心、天国気分だった。
大河「龍輝、あんた・・・」
ギクッと硬直する龍輝。
大河「鼻血出てるわよ?大丈夫?」
ホッとする龍輝。
頭にハテナを浮かべる大河。
龍輝「お、ほんとだ。滅多に出ないんだけどな、鼻血。余程電撃が効いたのか、岩鉄の攻撃の
余波でも食らったのか、お前にぶつかった時か、だな」
大河「岩鉄よ岩鉄」
大河はコンマ何秒の世界で即答してみせた。というよりも、龍輝が、「岩鉄の攻撃の」と言った時には、もう答えていた。
岩鉄「ああ~ぎゃんしゃーしかあっ!!」
ブチギレた岩鉄は、身体を硬質化させていく。
岩鉄「お前らはくらす!いや、殺す!!フィールドに引きずり出してやるけんなあっ!!」
龍輝は考えていた。できれば、岩溶と自分、水菜と大河、という感じをメインに戦いたいと。その方が、相性がいいのだ。水には雷。マグマは蒼炎の最大火力でなんとかできる。だが、岩鉄が邪魔だ。近接戦での攻撃力と防御力は、まるで攻城兵器だ。そして、岩鉄に集中すれば水菜と岩溶の剣魔術にやられる。
それから、もう1つ考えがある。それは、剣魔術を使える大河を後衛に置く、という配置だ。だが、龍輝だけで前衛はきつい。
故に、時間を稼ぐ。
龍輝「まぁ待てよ。聞きたい事がある」
龍輝はブレイズリートを肩に担ぎながら、なるべく堂々と振舞う。
岩鉄「はあっ?黙れやん!」
龍輝「人の話も聞けないガキでもないだろ?岩鉄さんよぉ」
岩鉄のプライドを刺激して足止めする。
岩鉄「チッ!なんか!?」
龍輝「そうこなくっちゃな。じゃあさっそくだが、さっき、お前こそなんで動けた?感電しな
かったのか?それに、みかんを売るだの言う話が聞こえたんだが、あれはなんだ?」
とりあえず思いつく疑問を投げかける。
すると、苦虫を噛み潰したような顔をして龍輝の話を聞いていた岩鉄だが、不意に不敵にニヤリとした。
岩鉄「――ブワッハッハッハァ!これはなぁ、ソーディア・ロックブレイカーたい!」
岩鉄はロックブレイカーを2~3度振るってみせる。
龍輝「なんで、能力と属性を?普通はどちらか1つしか使えないはずだろ?まさか・・・・・・」
確信混じりの龍輝の言葉に大河が答える。
大河「――その、まさかね。間違いなく、闇の技術だわ」
だが2人はあまり動揺はしていない。
龍輝「闇の技術か。通りでおかしな奴らとも絡んでるわけだよなぁ、岩鉄」
岩鉄「ほう。闇の技術ば知っとるか?」
龍輝「まぁな。でも、人工的に作り出した本来存在するはずのないソーディアは、暴走するか
もしれないんだろ。よくもまぁ手ぇ出せるな」
岩鉄もロックブレイカーを肩に背負う。
岩鉄「残念やなぁ!このソーディアはたい!俺が闇の技術で手に入れたとはこの、岩属性
たい!」
人工的に作り出したソーディアは、本来存在するはずのないプログラムの為に、存在が不安定となり、暴走する恐れがある。だが、本来存在するソーディアを持ち、存在する属性を強制的に手に入れた岩鉄。その場合、どうなるのか?なにも起こらず、普通にずっと使い熟せるのか?そんな疑問が、龍輝の脳内を駆け巡る。すると傍らで、
大河「それでもリスクはあるわ!本来属性は、自分の資質に合わせてプログラムが判断するん
だもん。資質がないのに無理矢理属性を手に入れたら、いつか身体が拒否反応を起こす
可能性が高いって、パパが言ってたわ」
大河が自信気に言い放った。パパが、の部分だけは、龍輝にだけしか聞こえなかったが。
パパが言ってた!なんて子供じみた台詞は吐けないのだろう。でも、パパから教えてもらった事を、いかにも私は知ってるのよ!という感じでは、言えなかったのだ。パパの知識なのに、それを自分の手柄みたいにはしたくなかったし、龍輝には大好きなパパのすごさを知ってもらいたかったのだ。故に、真実は小声なのだった。
それを横目で感じる龍輝は、大河の子供っぽいプライドと、父を想うその心に、クスッと微笑んだ。
大河「なに笑ってるのよ?」
龍輝「別に。ただいいなぁって」
大河「意味わかんない。バカなの?」
龍輝「うるせぇ。それよりも岩鉄が厄介だな。さっきの感電攻撃じゃあいつは止まんねぇぞ。
けど、なにもせずに突っ込んだら、あの両隣りの剣魔術使いも厄介だ」
大河「そうね。どうしましょ」
龍輝と大河が話していると岩鉄がソーディアの鋒を向けた。
岩鉄「質問が途中やったやろ!闇の機関の事も知っとるみたいやけん教えちゃるたい!」
自信過剰でプライドも高く他人を見下したがる岩鉄。
龍輝「おう、ぜひ頼むぜ。裏ギルドさんよ」
龍輝はそれを理解した上で、乗ってやる。
岩鉄「裏ギルドか。惜しかなぁ」
渋く首を振る岩鉄。
龍輝「違うってのか?」
岩鉄「俺だんは斡旋しとるだけたい!裏ギルドへの人材をなぁ!」
龍輝「――斡旋、だと?」
龍輝はチラッとみかんへ視線を送った。そして、岩鉄を冷徹に睨みつける。
龍輝「――てめぇ・・・みかんを闇へ引き入れるつもりだったのか・・・!」
岩鉄「ブワッハッハッハァ!そうたい!みかんだけじゃなか!今まで何十何百という人材を育
て斡旋してきた!」
龍輝の問いに渋る事なく、寧ろ当然と言わんばかりに自信満々にドヤ顔で言い放つ岩鉄。
岩鉄「やけどなぁ、今回みたいに途中で抜けようとする奴もおるったい。そいつらはゴミクズ
のような奴なら好きにさせるばってん、みかんのような奴は闇ギルドに加入させんでも、
商品として利用できるけんな。やけんそいつは手放せんったい!」
龍輝「――てめぇ、殺すぞ・・・」
その言葉に、大河は龍輝を見上げる。
その龍輝の表情は今までに大河が見た事がないものだった。
眉間に皺を寄せ、
岩鉄「新人を鍛えてから裏ギルドに戦闘人員として売る!足軽やな!」
鋭い目つきで、
岩鉄「ウブな少女好きなおっさんには、そんままの少女ば売る!」
ゆっくりと重たく呼吸をし、
岩鉄「クセモンのおっさんには調教してから売ったりもするっちゃけどなぁ!これが俺だんも
楽しかしな!」
2本の得物を握り締める。
岩鉄「ブワッッハッハッハッハッハッハッハハッハッハッハッハァ!!」
龍輝の瞳に一層の力が宿る。それはまさに、殺気だ。
龍輝は怒り、まさに単身突っ込もうとしていた。なにも考えず。ただ無我夢中に目の前の岩鉄に襲いかかる。それだけを考えていた。アドレナリンの影響もあるだろう。割とアドレナリンが出やすい性格なのだ。そして龍輝はこんな時。芯から怒っている時。なんでもできる気になっていたりする。例え不利な状況でも。思いっきりいけば、きっとぶっ飛ばせる。
「(――と!・・・ちょ・・・ねぇ・・・ちょっと・・・ねぇってば!龍輝!!)」
龍輝は頭に声が響くと同時に、身体を揺さぶられているのに気がつく。――ふと、我に返った。
龍輝「――大、河・・・?」
龍輝を怒りの淵から引き戻したのは、傍らの大河だった。
大河は小さな身体を一生懸命に使い、怒りで力み硬くなった龍輝のしっかりとした身体を、全力で引いたり押したりしながら、必死に呼びかけていたのだ。
大河「ちょっと、どうしたのよ?気持ちはわかるけど、もう少し落ち着こうよ?ねぇ?」
不安を前面に押し出した大河の表情に、救われる。
龍輝「(・・・俺がこんな顔をさせたんだな。自分の短気さが嫌になるな)」
そう心で呟いた。割といつもの事だ。学生の頃からそうだ。でも、今は、いつもよりも、本当にそう思っていた。
龍輝「ありがとな。でも別に、大丈夫だって」
大河「うそ。どんだけ負けず嫌いなのよ?バレバレだったわよ。ひやひやしたんだからね!」
龍輝「ははは、そっか。ホント、助かったよ。感謝してる」
大河「なによ、急に素直にならないでよね、気持ち悪い(・・・リアクションに困るじゃない)」
微笑む龍輝に、目を逸らす大河。
龍輝「そんじゃ、時間稼ぎは終わりだ。来るぞ、大河!」
大河「ふん。見ればわかるわよ。あいつ、まるで戦う豚ね」
龍輝「それは牛だろ、普通」
大河「私的には豚なのよ!」
龍輝「へいへい、お金持ちは違うんだな」
大河「もう、バカにすると怒るわよ!」
龍輝「別にばかになんてしてねぇよ。でも見たいなぁ戦う豚。闘豚っていうのか?」
大河「あんたねぇ・・・!」
すると背後から、甲高い悲鳴が鳴り響いた。
きゃぁああああああああっっっ!!!
龍輝「――っ!!みかんっ!?」
大河「なんなのっ!?」
正面に迫り来る岩鉄。
背後に響くみかんの悲鳴。
岩鉄を確認しつつ振り向く龍輝と大河。
そこには、みかんに迫るフード3人組の姿があった。




