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★第二世界★

龍輝「同じだけど・・・違う・・・。

   基本的には同じだけど、全然違う。知っているようで、全然知らない。なんてこと

   だ。」

 そこに広がる景色は、龍輝の想像を遥かに凌駕していた。

龍輝「そうか!根本が同じなんだ。見えるものは違うけど、その基になったものが同じだ

   から、似てるのに違うんだ。」

 そう発すると、もう一度、今度はもっとよく、細かい所まで、その良く知るはずの、でも知らない景色を見る。彼が見ている景色は。

龍輝「やっぱりだ。あの道が210号線で、あれがゆめタウン。そしてあのグラウンドは久

   留米大学ので、あっちが上津バイパスだ。

   ・・・これが、この街が・・・!第二世界こっちの久留米なんだ!!」

 確かに福岡県久留米市・・・の・・・ようだった。そして、改めて見ようともせずに目に入る。見たかったもの。見るべきものが。

龍輝「ない?どうなってるんだ?」

 見えるはずのものが見えなかった。どんなによく目を凝らしても、やはり見えなかった。隣にあるはずの、いつもなら当たり前のようにあるはずの、福岡県八女市や佐賀県鳥栖市が見えなかった。というよりは、無かった。そこにあったのは、延々と続く大自然。草原や森、川や山であって、人工物など存在しなかった。第二世界に来たばかりの龍輝には、当然その理由など、わかるはずもなかった。

龍輝「なんで無いんだ?なんで見えないんだ?天気は悪くない。あるはずの景色が無いだけで、

   かなり遠くまで見えている。じゃあ本当に無いのか?この世界はこんなにも狭いの

   か?

   いくら考えても、来たばかりの世界でヒントも無しに答えがわかるはずないよな。」

 龍輝は振り返り緊張した。難しい顔もした。

龍輝「やっぱ、この世界に長くいる人に聞くしかないよな・・・。でも・・・無理だ。どうし

   ても無理だ。絶対に今俺が聞かなくちゃいけないとかいう理由で、逃げ道が無くなった

   ら普通に聞けるのに、ここで聞かなくても、どうせその内わかるだろうって気持ちがあ

   るから・・・聞けない。」

 龍輝は、何か大きな理由や義務、責任が関係する時以外は、なかなか他人に話しかける事ができない程の人見知りだった。

龍輝「しかも男しかいない。尚更無理だな。」

 そして、男嫌いだった。彼自身の家庭の事情や育ちにも関係しているのかもしれない。

 龍輝には父親がおらず、その顔も知らない。名前は一度聞いた事があるような気はするらしいが、定かではないし、その他は何も知らない、という感じだ。唯一知っているのは、身内にハゲはいないらしく、ハゲの遺伝子は持っていないという男には大切な情報と、背が低かったという残念な情報と、暴力をふるうという更に残念な情報くらいなのだ。離婚した理由も暴力らしい。龍輝の母親は我慢していたらしいが、まだ赤ちゃんの龍輝にも暴力を振って、なんと「パパァ。」と言ってハイハイして近寄った龍輝を壁へ投げ飛ばしたらしいのだ。龍輝は「カタイタイィカタイタイィ。」と泣いていたらしい。かなり酷い話だ。母親は、「私への暴力なら我慢できるけど、龍輝にも暴力ふるなら別れるって言った。やっぱ子供が一番やけんね。」と話していたそうだ。

 話は逸れかけたが、それ以降も再婚はしておらず、龍輝は女所帯で、大切に育てられた。一人っ子なのだから、言うまでもなく、あえて言うけれども、それはもう大切に育てられた。

 そういう訳で、男に接する機会が少ない、もとい、男に怒られる経験が少ない子供時代を過ごしたのだ。

 その中で、楽しく遊んでいたら伯父さんに突然怒られ号泣し部屋で泣き続けたり、仲が良くなってきて嬉しかった先輩に同じメールを送ってしまっただけで「お前もう二度とメールしてくんな!」と突然キレられたりして、怒られ慣れてない龍輝は心底傷ついた。

 そういう経験も、男嫌いに拍車をかけたようだ。

 だが本人は全く気にしていない。父親がほしいとも思った事はないし、むしろみんなのように父親に怒られたり叩かれたりする事がなく、ラッキーだと思っていた程だ。その反面、母親には再婚して幸せになってほしいとも思っていた。

 そんな訳で、大人の男への恐怖心が成長とともに、いつの間にか嫌悪感へと変わっていったようだ。龍輝ももう大人なのだから、同じ大人への恐怖心はなくなって、その代わり嫌悪感へと変化したのだろう。そもそもプライドが高い龍輝の中では、「大人の男が怖い」なんてダサい事実は有り得ないのだ。

 案の定、龍輝は誰にも話しかける事はせず、階段を下りていった。

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