☆第2クォーター 逃走?☆
龍輝と大河は、近くの物陰から成り行きを見守る事にした。一刻も早くみかんを助けたいのは山々なのだが、幾分わけがわからないのだ。飛び込むには危険だと判断した。
岩鉄「なんかお前はあっ!!裏切るとかあっ!?!」
宇治「えぇそうですよ!ここ数日、みかんちゃんの様子がおかしいと思って見守ってたら、な
んなんですかこの状況は!?こんなのもうやってられませんよ!!甘い言葉に釣られ
て入ってみたら、本当になんなんですか、このギルドは!?みかんちゃんのストーカー
までさせて家を突き止めるなんて、おかしいでしょう!!」
宇治は力一杯に叫ぶ。剣を握る手をブンブン振りながら、怒りを込めて。
岩鉄「お前はおかしかコツ言うとんなあ!自分から志願したくせになんば言いよっとかや
ん!!」
宇治「当たり前でしょ!そんなストーカーなんて至福・・・ストーカーなんて真似、他の奴ら
には危険でさせられませんよ!」
岩鉄「じゃあお前ができたっちゃけんよかろうが!バカタレが!それとんなんかあ!?お前、
こんガキが好きとか!?」
すると宇治の目玉が慌ただしく泳ぎ出す。振り回す剣の動きもガチガチでぎこちない。
宇治「あ、あなたには関係ないでしょうが!みかんちゃんのままま前でなに言ってるんです
か!そもそも僕は、僕は、そんな疾しい気持ちでストーカーなんて・・・」
その様子を見ていた龍輝と大河は、容易に理解できた。
龍輝がぽつりと言葉を漏らす。
龍輝「ありゃあ好きだな」
その漏れた言葉を大河が拾う。
大河「うん。みかんに惚れてるわね」
そして、真相も知れた。
龍輝「そして・・・個人的にストーカーしてたな」
大河「・・・うん。間違いなく・・・」
すると岩鉄はふんぞり返ったように腕を組み、宇治を見下ろすかのような視線を叩きつける。
岩鉄「ふんっ!バレバレたい!そんでどげんやったか?盗撮でもしたか?ストーカーして満足
やったか?それやけんもうギルドば抜けるって事やろ!」
みかんの前で、宇治を最低変態人間へと突き落とす岩鉄。
岩鉄「そんで、抜けた後もストーカーは続けるとか?」
だが、そんな宇治を救ったのは、他の誰でもないみかんだった。
蜜柑「やめてください!岩鉄さん!」
宇治「・・・みかんちゃん」
蜜柑「宇治さんはそんな人じゃありません!ストーカーだって、きっと本心ではしたくなかっ
たはずです!」
それを聞く龍輝と大河は、
龍輝「それは違うぞみかん。確かに悪い奴ではないかもしれないけど、間違いなく望んでスト
ーカーだ」
大河「うん。間違いなく、ね」
そんな残念な真実を語っていた。
宇治「ありがとう。みかんちゃん。こんな僕を、信じてくれて」
宇治の折れかけていた心は、みかんによって支えられた。
宇治「ホント、あなたは馬鹿ですね、岩鉄さん」
宇治は鼻で笑うように、そう言い放った。
岩鉄「はあっ!?」
岩鉄はすぐに怒りを顕にする。
宇治「いや本当に馬鹿ですよ、単純ですよ。僕が、俺、なんて言ってあなたの前では別の人格
で振舞っていても気が付かないし。まぁそれはそれで、慣れない自分を演じるのは疲れ
ましたけどね」
宇治はまるでインテリのようだ。恐らく、岩鉄の前では不良やチンピラ振っていたのだろう。先日、龍輝が捕まえた時もそうだった。
宇治「そもそもですね、僕が正直にみかんさんの本当の家を教えると思いますか?いいえ、そ
れはありえないですよね、普通に」
人差し指を立て、左右に2~3回振ってみせる宇治。
そこで龍輝が大河に呟いた。
龍輝「宇治の奴。俺達に捕まったからみかんの家知らないよな?それとも、別の日に突き止め
てたのか?」
大河「う~ん・・・まぁどっちにしても、私達に捕まったりした事は言ってないようね」
龍輝「あぁ。やっぱいい奴なのかもな。ストーカーだけど」
大河「うん。ストーカーだけどね」
すると、大河がじ~っと眇めてくる。
龍輝「なんだよ?その視線は?」
大河「てか、あんたの人を見る目も信用できないわね。宇治の事、疑ってたし」
龍輝「いや、そうでもないだろ。実際にストーカーだったんだし。それに俺が引っ掛かってた
違和感はこれだな、うん。実は善人って事だ」
大河「はいはい」
大河は肩をすくめ、首を振って見せた。
岩鉄の高笑いが響く渡る。
岩鉄「残念やったなぁ!調べよったのはお前だけじゃなかバイ!」
その岩鉄の言葉に、宇治は眉を寄せる。
岩鉄「そんで、お前の言いよった場所と違ったけん、どっちかが嘘ば言いよると思いよったっ
たい!やけど、その裏切りモンば探す手間も省けた!あとはお前を始末するだけたい!
蛆虫が!裏切ったらどげんなるか!みかんの前で公開しちゃるけんなあっ!!!」
岩鉄はどんどん声が大きくなり、本格的に殺気が漂い始める。
宇治「そ、そんなぁ・・・。・・・・・・僕は、僕は・・・なにもできなかった。・・・なんて
無力なんだ。家を隠してあげる事も、ここで守る事もできない。僕は・・・なんなんだ
よ・・・。このまま殺されるのか・・・?・・・みかんちゃんだけでも逃がしてあげた
かったのに・・・それすらもできないのか・・・!・・・クソォ・・・身体が固まって、
足が震える・・・!」
宇治は、この状況に絶望した。この状況を打開できない、自分に絶望した。
蜜柑「そんな・・・しっかりしてください!宇治さん!諦めるにはまだ早いですよ!きっと助
けが来ます!龍輝さんと大河さんが来てくれます!お2人を信じてください!!」
みかんは宇治を励ます。そうする事で、自分も救われるのだ。龍輝と大河という希望を、確かに信じられるのだ。
だが宇治は完全に心が折れていた。膝を地面に付け、弱音を吐く。
宇治「みかんちゃん・・・。でも、もし助かったとしても、こんな僕なんて・・・」
龍輝「そんな事、言うなよな!」
その声の主はもちろん。
蜜柑「龍輝さん!!大河さんも!!よかったぁ!きっと来てくれるって信じてましたよ!」
みかんのそんな言葉と笑顔に、龍輝はよりやる気になる。気持ちにスイッチが入った龍輝は、己の人見知り心だって超越するのだ。
龍輝「おう!待たせたな、みかん。でも実は、少しそこの陰で見てたんだ」
大河「そうなの。ごめんね、みかん」
蜜柑「そうなんですか。ストーカーみたいですね・・・」
みかんの表情は曇っていく。が。
蜜柑「なぁ~んて、冗談です!そんなに早くに来てくれていた事が、すごく嬉しいです!」
冗談を言ってくれるみかん。素直に喜んでくれるみかん。そんなみかんに龍輝も大河も嬉しいが、少し心も痛む。
龍輝「ごめんな、怖い思いしたよな」
蜜柑「いえいえ、気にしてませんよ」
龍輝もみかんに一言謝罪する。そして、
龍輝「でも、おかげでいいもんも見れた。かっこよかったぜ!宇治!」
龍輝の思いもよらぬ言葉に、宇治は拍子抜けな顔を向ける。
宇治「・・・え?」
蜜柑「うん、そうですよ!かっこよかったです!」
みかんが天使のような笑顔で龍輝に続いた。
大河「そうよ。案外、いい奴じゃない、あんた」
照れくさそうに、大河も続いた。
宇治「・・・どうして・・・?・・・僕なんかなにも、かっこいい事なんて・・・」
が、宇治の表情は暗い。そんなに早くは復活できない程に、自分の不甲斐なさにショックを受けているのだ。
そんな宇治に、龍輝が語りだす。
龍輝「宇治、お前のおかげだよ」
宇治は、ただ黙って龍輝を見ている。なぜそんなに感謝されているのかわからないからだ。
龍輝「お前が勇気を出して剣を振るった。そんな勇気ある行動。想い溢れる勇気の剣。それは
結果としてみかんを助けられなかった」
宇治「・・・はい」
龍輝に返す宇治のか細く消えそうな声。
みかんもなぜあえてそのような事を龍輝が言うのか疑問に思っているようで、不安そうに少し首を傾げている。
龍輝「・・・でも。お前が稼いでくれたそのわずかな時間。そのおかげで俺達は追いつけた。
そしてこれから、俺達はみかんを助け出す。お前の行動が、結果的にみかん奪還に繋が
ったんだ。感謝するぜ、宇治」
その言葉にみかんは瞳を輝かせる。
蜜柑「(やっぱり!龍輝さんは意味もなく辛い現実を思い知らせる人じゃないですね!)」
が、宇治は、
宇治「・・・そんなの、屁理屈ですよ・・・」
やはり立ち直れない。
そんな宇治に大河は、呆れた眼差しを送る。
大河「あんたバカね」
宇治「・・・ぅう・・・」
涙で草花を濡らす宇治。
すると大河は、
大河「ふふっ」
と、小さく笑んで見せて、
大河「宇治、あんたがみかんの為に志願して、一生懸命に岩鉄から守ろうとしたその気持ち・・・」
そこまで言い照れくさそうに言葉が詰まる。だから、龍輝が繋ぐ。
龍輝「それが1番、大切なんじゃねぇのか。な、大河」
大河「そ、そういう事よ」
そしてそれは、みかんに繋がった。みかんは誰に言われるでもなく、宇治の前へ移動し。
蜜柑「そういう事ですよ、宇治さん。私、宇治さんがそこまでしてくれていて、とても嬉しい
んです。勇気を振るってくれて、とても嬉しいんです。ストーカーだなんて思ってた自
分がとても恥ずかしいです」
龍輝「(いや、それは間違ってないぞ、みかん)」
大河「(ストーカーなのは確実よ、みかん)」
宇治「(ごめんんさい。ストーカーしてるんです、みかんちゃん)」
龍輝、大河、宇治だけは、事実を知っていた。
蜜柑「すごくかっこ良くて勇気のある素敵なストーカーさんだったんですね!」
みかんはもっとすごい事実?を知っていた?
龍輝「(恋愛でも勇気があったらストーカーしなかったろうな)
大河「(みかん、あんたって・・・すごいわ・・・)」
そんな龍輝と大河を他所に宇治は。
宇治「みかんちゃん・・・・・・。はい!ありがとうございます!!」
悲しみから立ち直った。
龍輝「(それでいいのか!?宇治!?)」
大河「(それでいいの!?宇治!?)」
心でシンクロし、お互いを見つめ苦笑いを浮かべる、龍輝と大河だった。
そして、
岩鉄「ちょっと見よったけど面白かなぁお前達ぃっておい!!なんしよっとかあっ!!」
岩鉄の叫びが響く中、
龍輝「行くぞ大河!宇治もついてこいよ!」
大河「え、ちょっとどうしたの龍輝?・・・あ、うん!わかった!」
宇治「は、は、はい!」
龍輝の呼びかけに答える大河と宇治。
大河は、龍輝の考えに気付いたようでやる気満々の笑顔だ。
宇治は戸惑いつつもとりあえず言う通りにする。
蜜柑「なんだか、恥ずかしいですよぉ!」
と照れながらも、嬉しそうにハニカムみかん。
岩鉄「なんば逃げよっとかあお前達はあっ!!」
なにが起こっているのか?そう。そうなのだ。龍輝はみかんをお姫様抱っこして駆け出したのだ。
大河「街へ戻るんでしょ、龍輝」
龍輝「あぁ、そして」
大河「そこで迎え撃つ!」
龍輝「ほぉ~よくわかってるじゃねぇか、大河!」
大河「えへ!」
素直にドヤ顔的に笑む大河。でもそれは、みかんに対して嫉妬しているからだった。
大河「(なんでお姫様抱っこなのよ?みかんもあんなに嬉しそうにしちゃって)」
嫉妬慣れしていない大河の、無意識の抵抗は、龍輝の事を理解している事をアピールするという、みかんへ向けた笑顔なのだ。
宇治「(・・・みかんちゃんのパンツ、見えそう・・・)」
こんな宇治には誰も気付かない。と見せかけ、龍輝はしっかりと隠していた。
そして、龍輝達一行は待ち構える。街の中で。宝満橋の上で。




