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☆3日目 宝満橋☆

 宝満川に架かる橋の上には、ぽつんとみかんがいる。そして前方には、聳え立つような岩鉄と、3人の幹部の姿があった。

 龍輝と大河はというと、少し離れた所から様子を見守っているのだ。なにしろ、橋の上ではさすがに身を隠す場所がないのである。他に邪魔が入ったり目撃者がいないかを容易に確認する事ができる上に、橋を渡りきればフィールドに逃げる事ができる。そんな場所なのだ。これも岩鉄の策なのか。

 そんな事を龍輝が考えていると、やはりこいつが口を大きく開いた。岩鉄だ。

岩鉄「そんじゃあ答えば聞かせてもらうけんなあっ!」

蜜柑「はぃ。・・・この3日間、私なりに、か、考えました・・・」

 さっそく怯えているみかん。岩鉄は怒鳴りビビらせて強制しようとしているのだ。もちろんみかんもそのくらいの事はわかっているが、女の子なのだ。大男に大声で怒鳴られると、いつだって怖い。それでも、みかんは勇気を出して、自分の気持ちをぶつけようと健気に奮起する。

蜜柑「・・・で、でも」

岩鉄「いいけん!はよ言わんかあっ!ブツブツやかましかったい!」

 その岩鉄の言葉はまるで、ギルドは抜けませんと言え、という意味を含んでいるかのようだ。――いや、間違いなく、そう言わせる為に怒鳴っているのだろう。

 だが、そんな脅しにもみかんは屈しない。龍輝達が見守っている。その事が、みかんにこれまでにない勇気を与えてくれる。

蜜柑「はっはい!私!このギルド抜けますっ!」

 怯え震えながらも、その瞳は恐怖に潤いながらも、全身に力を込めて、できる限り大きな声を出し、そう岩鉄にぶつけた。

 すると岩鉄は小さく溜息を吐いた。勢いに任せて怒鳴りつけてくるかと思っていた龍輝、大河、みかんは、予想を裏切られ、ただその様子を窺う。今までにない岩鉄の様子は、ある意味不気味なのだ。

岩鉄「そげなこつ、よう言えたもんやね」

 岩鉄らしくない落ち着いた低く太い小さな声。が、それはここまで。

岩鉄「俺だんに対する恩もなかったいね!じゃあよかぁ!おい!来てくれんか!」

 ブチギレ開き直り、そして誰かを呼んだ。なぜ誰かを呼ぶのか?それがまた嫌な予感しかしない。

?③「もう御用ですか?少し早いんとちゃいます?まぁ、その方がワイらもよう暇せんで済む

   んやけどね」

 岩鉄の背後、フィールドの方から、どう見ても怪しい3人組が現れた。

大河「ちょっと、龍輝あれ」

 大河に急かされるように、龍輝も口を開く。

龍輝「あぁ。俺の予想通りだ」

大河「みかん、大丈夫かな?」

龍輝「まぁ、一応怪しい奴らが絡んでる事は伝えてあるんだ。みかんならきっと察しがついて

   るはずだ」

 それは、先日、龍輝が忍び寄り様子を探っていたあの3人組なのだ。堤防でみかんを見ていた、あの3人組なのだ。

蜜柑「・・・あの、この方達は・・・?」

 そんなみかんのか細い問いに対し岩鉄は、大きく笑いながら答えた。

岩鉄「ブワッハッハッハ!喜べやん!お前を高値で買ってくれるったい!みかん!」

蜜柑「え・・・、ど、どういう事、ですか・・・?私、人間ですよ?」

 みかんは少し戸惑った様子で、そう訴えてみる。まだまだ純粋なのだ。

 その展開に、龍輝は眉間に皺を寄せ、苛立ちに拳を握りながら、ただ耐え忍ぶ。

 その様子を間近で見る大河も、お凸に血管を浮かばせつつ、必死に耐える。ただ殺気はだだ漏れなので、バレないかどうかという心配も、龍輝の余裕をなくすのだ。

?③「物分りの悪いガキやなぁ。いや、こういうもんがええのかなぁ?あのおっさん達ぃ」

 憎たらしい関西訛りの男が返してきた。

?③「まぁ簡単に言うとなぁ、君を岩鉄はんから買うて、それでワイらが一稼ぎするんや。君

   が頑張れば頑張る程、岩鉄はんにも儲けがいく。そんなシステムや。どうや?恩も返せ

   るし、ええ話ちゃうかぁ?」

 深く被ったフードのせいで顔は見えないが、さぞムカつく顔をしているに違いない。こんな下らない誘惑で、一体何人の人が騙されたのか、それを思うと龍輝の怒りも限界を迎えそうになる。

岩鉄「そういう事やけんな。お前が色んなばさら多か親父達の為に尽くせばよかったい!」

?③「岩鉄はん、まだそこまで言うたらあきまへんでぇ」

岩鉄「まぁよかやんか。どうせ遅かれ早かれ知る事たい!ブワッハッハッハ!」

 目の前で進むそんな展開に戸惑いを隠せないみかん。内股で身は縮こまり、嫌な汗も滲む。

?③「まぁせやなぁ。そんじゃぁさっそく、練習でもします?そこのキレイなホテルを確保済

   みやでぇ」

 そういうと謎のフードを被った関西弁は、久留米でもかなり目立つイルミネーションやネオンが輝くホテル街を指差す。夜景として見るには、とても素敵な場所でもある。

岩鉄「さすが松森たい!準備がよか!俺だんも行ってみるか!」

松森「勘弁してくださいよぉ岩鉄はん。ワイの楽しみ取らんといてぇなぁ」

 岩鉄の下らない冗談なのか提案なのかは知らないが、おかげでやっとフード関西弁の名前が判明した。松森というらしい。恐らく苗字だろう。そのほとんどを木が占めている、地球には優しそうな苗字だ。ただ、過去に龍輝が嫌いだった人の漢字が合わさった最悪な名前でもある。

蜜柑「い、嫌ですよそんな事!わ、私、行きませんから!」

 さすがのみかんも現状の危険さに反論をした。一歩二歩下がりながら、不安を浮かべたその表情で、岩鉄達を見る。睨んでるとは言えない表情だ。

松森「きゃひゃひゃひゃ!ええなぁその表情!でも、そんな事言うてええんかぁ?」

 そんな事を言いながら、松森はみかんの目の前まで足を進める。後退りするみかんにじりじり迫りながら、みかんの心まで追い詰めようとしてくる。

松森「自分をイかすええチャンスなんやで。君にはなんか才能はあんの?人に自慢できる事は

   あんの?なんにもないやろ!でも。ワイらにはわかる。君の才能がわかる。それはな、

   そのルックスや!」

 そう言う松森はフードを外し、気色悪い程にうっとりとした顔を顕にした。

松森「華奢な身体つきにあどけない表情!しかも本物十四歳の美少女やぁ!なんとも可愛らし

   くてしゃあないわあ!・・・そんな君と仲良くなりたい言うおじ様方がたくさんおるん

   や。・・・その才能を!チャンスを!今ここでイかさずに!いつイかす言うんや!」

 松森は両手を天へと翳し、非道な理屈を並び立てる。

岩鉄「まぁ、最初からそん為にギルドに誘ったっちゃけんな!おかげで家もわかったし、逃げ

   場はなかぞ!」

 岩鉄も、ついに暴露した。全く悪びれる様子もない。

蜜柑「・・・そんな、酷ぃ・・・」

 あまりの事に、みかんもいい加減ショックを隠せない。その場にペタンと崩れ落ち、頬を濡らし始めてしまった。

 それを見守っていた大河が口を開く。

大河「あんたの予想通りだったわね。あいつら初めからグルだった」

龍輝「あぁ、でも、なんか。・・・見た事ある光景だな」

大河「そ、そうかしら、ね・・・あはは・・・」

龍輝「ついこないだ、似た被害にあったもんな、お前」

大河「え、えへへ・・・私とみかん、モテるのかしら?なんて・・・えへへ・・・」

龍輝「(・・・そんな冗談否定できねぇよ。俺はタイプだ・・・)

 そして、龍輝と大河。その龍虎は動き出す。それは友の為に。

龍輝「んじゃまぁ大河!!」

大河「行きますか龍輝!!」

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