☆みかんなギルド相談☆
龍輝が朝起きて、新鮮な空気を入れようと玄関に向かうと、なにやら声が聞こえてくる。
龍輝「(朝っぱらからなんだ?)」
と思いつつも、その黄色に声に惹かれるように、ドアの穴から覗いてきた。
龍輝「(・・・・・・。・・・大河とみかんだ・・・。朝早いなぁ)
と、正体はわかったものの、人見知りで引っ込み思案な龍輝は、こういう時に自分からドアを開けられない。正確には、少々心の準備がいるのだ。ちなみに、他人なら絶対に開けない。インターホンですら、居留守を使う事が多かったりもする。
大河「ねぇ、このソーシャルゲームやってる?」
蜜柑「あ!はい!してますよ!今1番のお気に入りなんです!」
なんて会話が聞こえてくる。なんのゲームなのか気になる龍輝。当然、限界までドアの穴から覗き込む。その時――。
ギギィィッ・・・ ・・・
鳴ってしまった。気をつけたつもりなのだが、ドアに体重をかけすぎた。
蜜柑「ひゃっ」
という可愛い悲鳴を小さく漏らすみかん。それに対し奴は。
大河「ちょっと龍輝!あんた、そこにいるわね!?だったら早く開けなさいよ!無理に起こす
のも悪いからって、せっかくみかんが気をつかってあげたのに、盗み聞きなんて最低ね」
と、朝から不機嫌度合いが高めな声音で語りかけてきた。ドア越しでも、少し怖い。
龍輝はどんな顔をして開ければいいのかわからないし、開けるのが少し恥ずかしい気もするし、朝から盗み聞きしていたのがバレてなんだか気まずい。が、開けないわけにもいかない。その選択肢は最速で削除しなくては、電撃猛獣タイガーに飛ばされてしまう。
龍輝「ご、ごめん、おはよう・・・。いきなり開けるのはなんかあれだったし、まだ洗顔とか
してなかったから、つい・・・な」
ドアを開けながら、そう説明した。
大河「うわ、汚いわね。息、臭わないわよね?臭うならまだ近づかないで。てか、言い訳はい
いわよ。覗き魔。あと、目脂ついてるわよ」
蜜柑「た、大河さん・・・」
龍輝の寝起きなハートは、朝から木っ端微塵に粉砕されたのだった。
そして、洗顔や歯磨きを終わらせた龍輝が戻ってくると。
大河「ねぇ龍輝。ソーシャルゲームであんたっぽいのを見つけたんだけど、ていうか間違いな
くあんただと思うんだけど、仲間が女ばかりね」
龍輝「そ、そうか?ちょっと見せてみろ・・・・・・」
龍輝は、頼むから他人であってくれ!と心の奥底から神に願いつつ、大河の持つMy‐PHONEを覗き込む。
龍輝「(・・・・・・。間違いねぇえええっ!俺だぁあああ!!)」
こんなの、龍輝にとっては悲劇でしかなかった。完全プライベート。誰にも見せたくもないし、知られたくもなかった。そんな世界、ソーシャルゲーム。それが龍輝にとってのソーシャルゲーム。
・・・でも。・・・ただ。・・・嘘がつけない。・・・つきたくない。・・・その先が、例え、罵倒地獄だとしても。
龍輝「た、確かに俺だなそれは・・・。俺は、そのだな・・・。男があまり好きじゃないから、
その、自然と女性が増えたって感じかな?・・・ゲーム内の応援も、女性アバター中心
でしてるし・・・でも、ただ仲間登録されてるだけであって、別に会話とかのやり取り
もしてない、ホント、やましい事はなんにもないからな・・・」
そう言って、覚悟した。言葉による、拷問にも似た大河の毒舌を。
大河「ふ~ん。まぁ別にいいけどね。じゃあ私も仲間申請しとくから。拒否なんてしたらただ
じゃおかないからね」
龍輝「・・・ふぇ?」
どこから出したのかもわからない声が、龍輝の口当たりから自然と漏れた。それ程意外過ぎる反応を大河が見せたからだ。
大河「ふぇ?じゃないわよ、ふぇ?じゃ。わかったの?申請許可してよね?」
龍輝「お、おう、もちろんだ。喜んでするさ。今すぐするさ」
大河「そ、そう。・・・それなら、いいわ」
なんだか、なぜか。大河は龍輝の方を1度も見なかった。
蜜柑「よかったですね、大河さん!」
大河「う、うん。ありがと」
こそこそ話す2人に龍輝は気付かない。大河の申請を急いで許可しようと必死にMY‐PHONEを、最速で扱っているのだ。
そして、大河の本当の気持ちは、龍輝の仲間が女性ばかりなのが気に入らない、のではなかった。ただ、龍輝とソーシャルゲーム内で仲間になりたかったのだ。そのゲーム内でも、繋がりが欲しかったのだ。女性が多い、なんてのは、ただの会話の口実だったのだ。
そして、軽い朝食にする。大河とみかんは食べてきたのらしいが、龍輝はまだなのだ。だから、2人の少女の為に、あまいデザート感覚な食事にした。
龍輝がさっと準備したフレンチトーストだ。
大河「あんた、料理できるの?」
龍輝「まぁ毎日自炊してるからな。料理好きなんだよ。ちなみに朝は洗い物出したくないし、
簡単ですぐに準備できるパン系のメニューが多いな」
大河「なんでも自分で熟す男は結婚できないわよ」
龍輝「2人で一緒に協力し合えればそれでいいだろ」
大河「ま、まぁそうね。・・・それもいいわよ」
龍輝「な、なんで、お前が許可してるんだよ・・・」
そんなぎこちないハニカミ具合を見せる2人の間に、
蜜柑「わぁ~これ、とっても美味しいですよ!はちみつの甘さ加減なんか絶妙です!最適な量
ですよ!」
と、入ってきた。これは天然なのか?はたまた、みかんも龍輝に惹かれているのか?
大河はそう思っていたりする。
龍輝はただ、料理を褒められた事に喜んでいた。
そして、みかんのお悩み相談タイムを迎える。
仕事というよりは、フレンチトーストを囲んでの、ファミレスでの一時に近いものがあるのだが。
蜜柑「相談というのは、今私が所属しているギルドの事なんです」
モグモグ食す大河の隣で、みかんは続ける。
蜜柑「私は元々、イデアリアには遊びに来ていたわけではないというのは、昨日お話しました
よね。それで、ある日、1人でフィールドに出たんです。もちろん、なるべく安全なフ
ィールドを選びました」
龍輝「だな。街以外でHPが尽きたら、それこそ行方不明だもんな。生死もわからないみたい
だし」
大河「ほうよ。ひをとぅけなふぁい」
龍輝「飲み込んで喋りなさい」
龍輝は自然と保護者のような口調になってしまった。お金持ちのお嬢様なのに、食事のマナーはどうなっているのか。そんな疑問が頭に浮かぶ。が。
蜜柑「あのぅ・・・」
龍輝「あ、ごめんごめん。続けてくれていいぞ」
危うくみかんの相談をそっちのけにしてしまうところだったと、龍輝は反省。がっつく大河は見ない事にする。まぁ、下品ながっつき具合ではないから良しとしておこう、という判断だ。
蜜柑「はい。私は元々、ゲームは好きなんです。小さい頃からしていました。それで、冒険も
好きで、新しい発見なんかがあると、もうワクワクドキドキでした。そんな感じで、妹
も探していたんです。・・・私、酷いですよね」
みかんはそんな自分を見つめ直し、罪悪感を感じているようで。そのあどけないお顔を、暗く俯かせた。
龍輝「そんな事ないんじゃないか?暗い気持ちや追い詰められた気持ち、強い使命感。それだ
けじゃなかなか続かないし、苦痛でみかん自身の心が病んでいったかもしれないと、俺
は思う。決して、妹の事を忘れたり、諦めたりしてるわけじゃないんだ。ただ、その中
で、自分のやり方に出会えただけだし、それによって心のエネルギーを満たしながら、
より頑張っていけてたんなら、それがいいと思う。こんな事言うのは勝手かな?」
蜜柑「いえ、そう言ってもらえて、すごく救われます。こんな私でも、いいんだって」
みかんの頬を濡らしたのは、決して悲しみの涙ではなかった。
大河「そうよ。あぁお腹いっぱい。きちんと目的を見失わずに続けていたんなら、なんの問題
もないわよ。あぁ美味しかった。その証拠に、あんた妹の事を想って、そんな顔ができ
るじゃない。ご馳走様でした」
蜜柑「大河さん・・・ありがとうです・・・」
龍輝「・・・・・・いや、食事の感想を合間に挟むなよ。みかんもツッコんでいいんだぞ」
蜜柑「えへへ、いいんですよ」
そう言って、明るく涙を拭って見せてくれた。
でも、お悩み相談は別にあるようで。ホットミルクをゆっくりと混ぜながらみかんは続けた。
蜜柑「ごめんなさい。お話が脱線しちゃいましたね。それで、結論から言いますと、そのギル
ドを抜けたいんです。先程言った通り、私が1人でフィールドにいた時に誘われたんで
す。1人じゃ危ないからギルドに入らないかって。ノルマもなしで、みんなで楽しくが
モットーで、なんでも協力し合えるギルドだって」
龍輝「聞いてる感じでは、そう悪くもない感じだけど・・・?(まぁでも、昨日の怪しいスト
ーカーもいたもんな)」
蜜柑「はい。私もそう思いました。1人じゃ確かに限界も感じていましたし、すぐに加入した
んです」
ホットミルクを混ぜるのをやめたみかんは、そのコップの中の渦を見つめる。
蜜柑「入ってみると、そこは全然想像と違いました」
龍輝「それはショックだよな」
蜜柑「はい。楽しい事なんてなにもないところでした。ほぼ毎日のように、厳しい戦闘訓練や
狩猟をさせられて、【強くなる為に、勝つ為に、きつい事をやってる、厳しい事をやって
る、楽しくなくても仕方ない!!】と、毎日聞かされて。そのおかげで妹を探す時間も
なくなって」
大河「酷い話ね。う、苦・・・」
朝だからと龍輝が苦目に入れたコーヒーに顔を歪めながら、大河も同感のようだった。
龍輝「そもそもそのギルドは、そこまでしてなにをしようとしてるんだ?イデアリア脱出か?」
蜜柑「いえ、なにもわからないんです。ただただ、命令されるだけで。ギルドマスターや幹部
の人達は、ただ支持するだけで、なんだか楽しそうにしているんですけどね。昨日のウ
ジさんも幹部の1人なんです」
龍輝は眉の中央を寄せた。嫌な予感しかしないのだ。
龍輝「(これはなんかあるな。きっと、普通のギルドじゃない)」
すると、別の意味で眉を寄せた大河が、両手でコーヒーも持ったまま、
大河「早く抜けるべきね、そんなギルド。なにも悩む事なんてないわよ」
と、軽く結論めいた事を言ってきた。
龍輝「まぁそうだな。俺もそう思うよ。残る理由はないと思う。ちなみに最近の社会問題の1
つなんだが、会社を辞めない若者がいるんだ。就職氷河期で、やっとの思いで就職でき
て。ただ、そこの環境が劣悪で、早く辞めるべき時もあるらしいんだ。けど、やっと決
まった職場だからって辞めないでしがみついて、それで心を病んでしまう。なんて事が
増えてるんだ。好きでもない事で、ただ辛いのって、ある意味拷問だもんな」
大河「そうなんだ」
龍輝「ちなみに俺も辞めた1人だ。全く後悔もしてない。給料はよかったけどな」
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・。
大河「そもそも私自身もそのギルドの方針には反対よ。やっぱり【楽しいから強くなりたいし、
楽しいから勝ちたい。楽しいからきつくても頑張れる!!】そう思うの!」
蜜柑「なるほど・・・!・・・ですよね!そうですよね!それ!すごく共感できます!」
龍輝「い、いやぁ・・・無視は辛いぞ無視は・・・。しかもそれ、俺の受け売りじゃんかよ・・・」
龍輝の心は1日に一体いくつの傷をつけられるのだろうか。
蜜柑「でも、正直言うと、今更また1人になっても、どうしたらいいのかなって思うんです。
例え、妹を探す時間が出来ても、私の力じゃたかが知れてますし・・・」
ホットミルクの湯気はもう出ない程に冷めている。
大河「みかん、あんたもおバカさんね」
蜜柑「・・・え・・・?」
龍輝「あぁ、みかん。お前はバカだ」
蜜柑「え・・・え、え・・・?」
みかんは急なバカ呼ばわりに戸惑い、左の大河。正面の龍輝。その顔を交互に何度も見返す。
龍輝「1人じゃないだろ」
大河「そうよ。あんたには私達がいるじゃない」
龍輝「俺達」 大河「私達」
龍輝『友達だろ!』大河『友達でしょ!』
蜜柑「・・・っ!・・・ぅ・・・ぅぐ・・・はぃ・・・!」
その2人の温かい輝きにも似た微笑みに、みかんはポロポロと、冷めたホットミルクの表面を揺らした。
蜜柑「ありがどうございまず・・・こんなわたじをお友達にしでくださっで、本当にあでぃが
とうございばす・・・!」
龍輝「なに言ってんだ・・・」
大河「泣いて舌が回らないのよ。まったくデリカシーがないわね」
龍輝「そうじゃねぇよ!いいからちゃんと聞けって」
大河に邪魔されかけたが、強引に続けてやった。
龍輝「なに言ってんだ。みかん、お前が最初に俺達を友達にしてくれたんだろ」
蜜柑「はい・・・そうでしたね・・・でも、嬉しいです・・・」
改めて言い直すと我ながら恥ずかしいのだが、それでも言ってやった。
大河「ふん、恥ずかしい」
ぼそりとそう呟いた大河の言葉は聞こえないふりをするしかない程に、実際恥ずかしかった。
龍輝「それにな、そういう人助けが俺の仕事でもあるんだ。でも、金は要らねぇよ。友達の為、
だからな!」
大河「そうよ、みかん。もしこいつがお金を取ろうとしたら、私が許さないんだから!」
蜜柑「はい・・・!よろしく、お願いします!!」
龍輝・大河「おう!!」
みかんは、本当にこの2人に出会えてよかったと、そう、心から感謝しているのだった。




