☆みかんな追跡者☆
龍輝「悪い、ちょっと俺トイレ行ってくるから待ってて」
そう言って足早にその場を去る龍輝。
大河「ホント、男ってこうもデリカシーがないものなのかしら?そもそも、こんなとこにレデ
ィーを置いてくなんて」
蜜柑「あれぇ~大河さん。まさかおトイレまでついて行きたかったんですか?」
大河「ちょっ、そんなわけないでしょ!そそそそんな、おトイレまでなんて!」
蜜柑「冗談ですよ、冗談♪」
大河「もう、びっくりするじゃない」
蜜柑「えへへ♪」
大河「あはは♪」
そんな女子2人の会話だが、みかんの大河いじりとも取れる質問はまだ続いた。
蜜柑「お2人はお付き合いされてるんですか?」
大河「そそそそんな!付き合うってあんたねぇ!まさかそんなわけないでしょ!・・・でも、
なに、あんたには、っていうか、周りから見たらそう見えるのかしら・・・?その、私
と龍輝が、こ、こい、恋人同士・・・みたいな・・・」
蜜柑「う~ん・・・微妙ですね」
大河「・・・え・・・?・・・微妙・・・なの・・・?」
心なしか、ちょっと残念そうな大河。
蜜柑「ていうかですね、恋人以上にも見えなくもないって言うか、ですね」
大河「そっ、それってつまり、ふ、ふっ、夫婦・・・」
その瞬間、突然背後から、
??「うりゃっ!!」
??「チッ!クソッ!離しやがれっ!!」
男共の声。
1人は聞き覚えのある声で、大河もみかんもすぐに誰だかわかった。――龍輝だ。
だが、もう1人はわからない。大河にはわからない。が。
蜜柑「もしかして!」
大河とみかんは振り返る。そこには。
蜜柑「やっぱり、ウジさん!・・・でも、どうしてこんなところに・・・?」
その光景とは、まさに龍輝がストーカーを取り押さえた瞬間だった。
ウジ「い、いやぁ、たまたま散歩してて、だなぁ~へへ」
いかにも嘘くさい台詞を、目玉を斜め上に泳がせながら吐きやがる。
龍輝「嘘つくんじゃねぇ。お前、俺達が万事屋にいる時からすっと覗いてたよなぁ。その後も
ずっと後つけてきやがって。バレバレなんだよなぁ!」
大河「って事は龍輝、あんたずっと気付いてたの!?だから車じゃなくて歩きだったの!?」
龍輝「まぁな」
そうなのだ。万事屋で3人で話している時からずっと、この男・ウジは店の中を覗いていた。物陰に隠れるように。通りすがりながら。万事屋を出た後も、コソコソコソコソと、龍輝達の後ろをついてきていたのだ。
大河「じゃあなんで教えてくれなかったのよ!あっ!もしかして、トイレって言うのも嘘ね!」
龍輝「まぁな」
大河「まぁな。じゃないわよ!私達は仲間外れなの・・・!?」
怒った表情とは裏腹に、大河の瞳は潤み始めている。
龍輝「別に仲間外れじゃないだろ。寧ろ俺が1人だ」
大河「うっさあい!そんなの関係ないの!あんたが私達に教えてくれなかった事が・・・悔し
いの・・・!」
蜜柑「・・・大河さん・・・」
龍輝「いや、信用してないとかじゃないんだけど、ほら、敵を騙すには味方からって言うだろ?
それに、お前はその、演技とか苦手そうだから、な?」
大河「つまり、信用してないじゃないのよ・・・」
ヤバイ。こうなったら大河はいけない。上手く言い包めないと、怒りが爆発する。1人で帰ってしまう。そんな奴なのだ。
だが、その窮地を救ってくれる者が、今の龍輝にはいた。
蜜柑「大河さん!それは違いますよ。私達が2人で騙されてあげたんですよ!そのおかげで龍
輝さんは無事に行動ができたんです。なので、私達のおかげなんですよ!」
でも、さすがにそんな子供を相手にするような言い訳が、十七歳の大河に通用するわけもなかった。そう龍輝も思った。
大河「そ、そう言われればそうね。うん、そうなのよ。聞いた?龍輝。あんたがその人を捕ま
える事ができたのは、私達のおかげなんだからね!」
――思ったよりも、単純でガキのようだった。
ウジ「おめぇも苦労してんだなぁ」
龍輝「ほっとけっての」
男共は、そんなやり取りをしていた。
そして、
蜜柑「でも、どうしてウジさんが・・・?もしかして、ストーカーって・・・」
大河「そうよ!白状なさい!」
この場で一番怖い大河が一喝する。
ウジ「チッ、そうさ。俺はみかんの事が好きなんだよ。でも、さすがに大人が女子中学生が好
きですぅ、なんて言えねぇだろ。だからつい遠くから見てる事しかできなかったんだよ。
それをストーカーなんて言いやがってよ、堪ったもんじゃねぇぜっ」
半ば開き直り不貞腐れたように、そう言い捨てる。なんて腹立たしい奴なんだ。
するとその時、雷でも落ちるかのように夜空が眩く輝いた。いや、まさに今、落ちようとしているのだ。大河の怒りによる雷が。
大河「飛んで反省しなさい! スターボルトォォォ!!!」
龍輝「ヤべッ!」
龍輝は間一髪というところで、その剣魔術をかわす事ができた。
ウジ「クソがァァァアアア!!!」
そして、ウジさんは光の粒となって、一撃で再生エリアに飛ばされてしまった。
ただ問題なのは、謝罪も無しで、反省の色も無し。そんなウジを飛ばしてしまったのだ。今後、ストーカーをやめるかどうかさえもわからない。そんな状態になってしまったのだ。今後、過激な事をしでかさなければ良いのだが。それにみかんも、きちんと解決しておかないと、ギルドに顔を出しづらいだろうに。なにも、はっきりとは解決できなかった。
ただ1つはっきりした事は、大河の技は威力が圧倒的だという事だった。
龍輝「おい、危ねぇだろ!それに、もうストーカーしないって約束もできなかったぞ。これじ
ゃあみかんがギルドに行きづらいじゃないか」
大河「あ、ごめん。ついカーっとなっちゃった。本当にごめんなさい」
珍しくもこんなに素直に謝罪されると、もう龍輝は怒る事はできない。逆に励ましてしまうのだ。もちろん、甘やかず、今後に繋がるように。
龍輝「まぁ、ちゃんとわかったんならいいよ。次からは気をつけような。俺も次からはちゃん
と伝えるべき事は伝えるから」
大河「うん」
そう言い瞼を落とす大河は、儚くレアな姿だ。
龍輝はポンポンと頭を撫でてやる。が、
大河「そ、そもそも、あんたがきちんと指示出したりしないのがいけないいんだからね!マス
ターなんでしょ!あんたの下らない指示なんて聞いてあげるのは、私くらいしかいない
んだからねっ!!」
と、恥ずかしさのあまりツンモードに入ってしまった。
龍輝「へいへい、次からは気をつけますね。それから、みかん、ごめんな。なんかちゃんとし
た解決ができなくて。本当はまだ捕まえるつもりはなかったんだけどな。ただ、なんか
捕まえなきゃって思っちゃって。俺もまだまだだな」
大河「ホントよ。デリケートとか言ってたくせに」
龍輝「すみません」
蜜柑「あの、大丈夫ですから、お気になさらないでください。その大丈夫な理由はもう1つの
相談と一緒にしたいんですけど、いいですか?やっぱり欲張りすぎですかね?」
龍輝「いや、全然いいよ。それが仕事でもあるし、なんたって友達からの相談だからな」
大河「そうよ。どうせ暇な店なんだし、いつでもいいわよ」
蜜柑「よかった。でしたら、明日なんてどうでしょう?」
大河「うん。ぜひ来てちょうだい。ホント暇なのよ」
龍輝「おいおい、勝手に決めるなよ。確かに暇だけれども」
蜜柑「あはは♪じゃあよろしくお願いしますね!」
――この日は、こうやってみかんを自宅まで送ってあげた。
その帰り道。大河と別れるまでの会話。
龍輝「みかんを不安にさせるといけないと思って黙ってたんだけど、あのウジって奴、ただの
ストーカーじゃないと思う」
大河「どういう事よ?」
龍輝「なんかこう、みかんの事を女性として見ていないっていうか、全然好きじゃないと思う
んだよな」
大河「好きでもない相手をストーカーしてたっていうの?」
龍輝「あぁ、だからなんか引っかかるんだよな」
大河「確かにそうだとしたら引っかかるわね」
龍輝「なにか良くない大事にならなきゃいいけどな」
大河「ちょっと、怖い事言わないでよね」
龍輝「いや、まぁちょっと思ったから相談したんだよ。そんなに気にするまでもないかもな」
大河「そっか。相談、ありがとね。じゃあこの辺まで来たら、後は1人で大丈夫だから。また
明日ね。バイバイ」
龍輝「おう、バイバイ」
普段は友達にも照れ臭くて、バイバイなんて言えない龍輝なのだが、大河には言えるのだ。その事が龍輝自身、嬉しかったりもする。
そして、肌寒い夜道を、1人歩いて帰るのだった。




