★湯けむりの先の運命(出会い)★
ここは龍輝の家。
大河はちょくちょく龍輝の家へ来るようになっていた。たまにある仕事の依頼も、手伝ってくれていた。そんな友達以上、恋人未満な関係を、自然と築いていた。
大河「あんた、趣味ってあるの?」
龍輝「俺は多趣味だぞ」
大河「そうなの!?例えば??」
大河は少し驚きつつ、瞳を大きくし煌めかせる。軟禁状態であまり趣味のない大河にとっては、多趣味というワードはすごく胸を騒つかせるのだ。
龍輝「おう、そうだなぁ。ざっと言うと、魚釣り、エギング、あぁエギングってのはイカ釣り
の事な。それから、筋トレ、バスケ、ゲーム、アニメ観賞、少女観察、読書にスノボー
と・・・・・・」
次々に龍輝の口から出てくる趣味という名のワクワクドキドキに、大河は輝くように食いついていたが、ピタッと一瞬固まり、急に冷めた表情で眇める。
大河「ちょっと待って。今、すっごく引っ掛かりができたのだけれど・・・・・・」
龍輝「・・・・・・ん?」
大河「ん?じゃないわよ!少女観察って何よ!?」
龍輝は何気に恍けようとしたが、大河はそこにも食いついてきた。
そもそも言わなければ良かったのだが、根が素直な龍輝は、なんだか訳もわからないが言わないと気が済まなくなり、もしかしたらツッコまれて笑いにもなるかと思ったのだ。が、大河のあまりにも真面目な冷めたツッコみに笑い話にはなりそうもなく。
龍輝「あ、あぁそれか。現実では団地の2階に住んでるんだけどな、筋トレとかしてたら昼過
ぎに小学生が下校してくるんだ。なんせ向かいが小学校だからな。それで気になってベ
ランダから見てたら、やっぱあどけなくて可愛いんだよな。それでついついもっとよく
見たくて望遠鏡で見るようになって、いつの間にか毎日のように見てたりして、だな」
言ってしまった。無様にも、龍輝は事細かく説明してしまうのだ。そういう性格なのだ。
大河「はあ!?」
当然呆れながらも、半分苛立ちめいた溜息混じりの心の感情が強く漏れる。
龍輝「ほら、あれと同じだよ。バードウォッチング。それにもちろん性的対象でもなければ、
下心もないぞ。ペットを愛でる感じだ」
龍輝は嫌われたくない一心で言葉を続ける。それに、嘘もついてはいない。まぁ細かく言えば、美脚好きだから太ももを見てたりはするのだが、決して下心ではないと思っているし、性的対象では、絶対にない。が、そんなのは龍輝自身の考えであって。大河に伝わるかといえば。
大河「それ以上喋らないで」
龍輝の顔の前に、小さな手をビシッと向けてくるのだ。
龍輝「な、なんでだよ。そんな事言うなよな、いや、言わないでください」
自分に非がある。そんな事はわかってはいる。わかってはいるのだ。だから言いたくなかった。本当に言いたくなかった。でも、言わないと気持ちが悪かった。言っても自分は損するし、大河の事もガッカリさせてしまう気がするのに、隠すという事もできない不器用さがあった。
まぁ、裏を返せば、大河にはそこまで素直になれる自分がいるのだが、それがいい事なのか、微妙だなぁと考える龍輝がいた。
大河も、ここまで素直に話してくれるなんて、龍輝ったら・・・・・・。なんて事はないようで。
大河「無性に身体に力が湧いてくるの。なんなのかしらねぇこれ?何度も何度も再生エリア送
りにしたい願望が込み上げてくるの」
龍輝「・・・・・・」
殺気にも似た空気を大河の方からチクチクと感じるのに気付いた龍輝はゴクリと喉を鳴らす。
龍輝「お、落ち着け。な、大河?今度から控えるから、な?それに現実にはまだ帰れそうにな
いわけだし、とりあえずは、な?」
大河「やめろって話よぉっ!!!」
次の瞬間、龍輝の身体が宙に浮き、後ろへ吹き飛んだ。大河の正拳突きだ。
龍輝は食らう瞬間に腹に力を込めたのだが、あまり意味はなかった。吹き飛ぶし、息はできないし、身体が痺れる。
恐らく大河は、無意識で電撃を纏ってしまう程の電撃使いなのだろう。ソーディアを装備した事で、本来の電撃使いとしての才能が呼び起こされたのだろう。蹲る龍輝は言葉なくそう確信していた。
その日の夕方6時頃。秋も半ばで、もう暗くなりつつある。
大河「私もう帰ろうかしら。いつか少女達と浮気しそうな変態さんなんだし、私も身の危険を
感じるわ」
なんだかんだで1日一緒にいたのだが、ずっとこの調子だ。居てくれるだけでも有難いのだが、龍輝の心は度々刺される。それでも、こういうやり取りも嫌いではないのだ。
龍輝「少女達って、おい。それに、男は半数以上が浮気してると、俺も思う。実際にかなりい
たしな」
大河「なに胸張ってんのよ。だからって自分もいいなんて思ってるんじゃないわよね?」
割と低めな声で、そう訊いてくる。YESと言えば、もう1発お見舞いされる事は目に見えているようだった。まぁ、YESと言えばの話なのだが。
龍輝「いや、俺はしないな。風俗はおろかキャバクラにも行った事ないし、一生行く気もない
からな。誘われても、全部断ってきた。行かないのがちょっとした誇りだ」
ここぞというばかりに胸を張った龍輝。
大河「それはそうよね!だって、あんたは子供好きだもんね(笑)」
数時間ぶりに見た大河の笑顔は、龍輝を蔑んだニヤつきだった。
でも龍輝だって、胸を張った以上、恥ずかしくて引き下がれない。得意なデータ攻撃を大河に仕掛ける事にしたのだ。
龍輝「あのなぁ、確かに好きだけれども。それは、性の対象ではねぇよ。それにな、ちゃんと
したデータでは、意外と女性の浮気の方が多いんだぞ」
大河「ふ~ん。例えば?」
軽く流しやがる大河。でも、龍輝は負けない。
龍輝「不倫した相手の経験人数は、女性の方が多い!」
そう言い放った龍輝に対し、大河は急に顔を赤らめる。
大河「ちょ、け、経験・・・人数、って、あんたねぇ・・・・・・」
大河は、まだまだピュアなのだ。
大河「それに、男の方が多いに決まってるじゃない。男は獣なんでしょ?」
――男は獣。聞くまでもない。間違いなく、虎夫さんにそう教育されたのだろう。ハズレでもないが。
龍輝「それが、違うんだなぁ。平均で男性1.8人なのに対し、女性は2.3人なんだ」
大河「嘘よ、そんなの」
ぷいっと反対を向く大河。龍輝は更なる追い討ちを仕掛ける。
龍輝「本当なんだよな。それにな、結婚してから浮気を始めるのも、平均で女性の方が早いん
だぞ」
大河「はいはい。それこそ嘘よ」
龍輝「じゃあ言うぞ。男性は結婚してから6年後に浮気を始めるのに対し、女性は・・・・・・」
焦らしてみる。
大河「・・・・・・早く言いなさいよ」
食いついた。
龍輝「なんと・・・5年後なんだ!」
大河「大して変わらないじゃない」
龍輝「でも、どっちが先か!?なんて話になったら、影響は大きいだろ」
大河「それが本当ならば、の話でしょ」
龍輝「本当本当大本当なんだって。それにまだあるぞ」
大河「あんた・・・・・・どんだけなのよ。・・・それで、次はなによ?」
どうやら大河もどんどん興味を持ってきているようだ。このままいけば男の誤解を解ける。自分の誤解も解ける。という大義名分は薄れつつあり、それよりもちょっと知識を話したくて、大河を驚かせたくて、そういうただのトークになりつつあった。でも、それが楽しいのだ。
龍輝「女性の方が、酔った勢いで一夜の過ちを犯しやすいってデータだ」
大河「あ、過ち・・・そ、それも信じがたいわね」
そう言い腕を組む大河。
腕を組むというのは心理学的に守りを意味している行動だ。龍輝のデータを信用した上で、共感したくない内容だ、と身構えているのか。そうなると、興味はあるが共感はしないぞという防御体制を壊したくなる。納得させたくなるのだ。
龍輝「そのデータによるとだな。酔った状態で起こす錯覚とやらを、ビールゴーグル効果って
言うんだけど、それを女性の方が起こしやすいんだと」
大河「つまりどういう事よ?」
龍輝「えっとな。男性が錯覚を起こす条件ってのがあって、それは、『ビールを3リットル飲む
+煙なんかで相手が見えにくい+女性が1.5m先にいる』、って事なんだ」
大河「は?」
わけのわからない公式に、大河の口はぽかんと開く。
龍輝「つまり、ベロンベロンに酔わないと男性は、可愛くない女性の事を、もしかして可愛い
かも!なんて思わないって事だ」
大河「そう。まぁ当然ね。ちょこちょこ錯覚しても大変だもんね。それで?」
龍輝「それに対して女性は、ちょっと酔うだけで錯覚して判断が鈍るんだってよ」
大河「そんなわけないでしょ。お酒なんて飲んだ事ないけど、絶対にそんな事ないわよ。・・・・・・
ちなみに、なんでなのか、理由だけは聞いてあげるわ」
素直に気になるとは言えないところがいじらしい奴だ。
龍輝「女性は男性よりも平衡感覚が弱い傾向にあるらしい。だから、スキー場とか斜面の上で
平衡感覚が狂いそうな場所では、恋に落ちやすいんだってよ」
その瞬間、大河の顔つきが変わった。興味津々というか、輝いたのだ。
大河「それ聞いた事ある!スキー場では恋に落ちやすいって!」
龍輝「だろ!俺もそうなんだぁって納得したよ」
やっと2人して素直に楽しめる時間が戻ってきた。そう思ったのも束の間だった。
大河「つまり、あんたはそこまで必死に調べてでも落としたい人がいるんだ?」
龍輝が必死に片思いしているかのような誤解が生まれようとしていた。しかも、なんだか悲しい奴になりそうだ。
でも、龍輝が今心配しているのは、そんな事じゃない。今、1番心配で恐ろしいのは、なぜだか殺気をプンプン放っている大河だ。
龍輝は気付いていないが、大河は無意識に嫉妬しているのだ。恋をした事がない大河は、これが嫉妬だと気付かずに、ただただ苛立っているのだ。実に危ういのだ。
龍輝は誤解されるのが嫌いなのに、再び弁明の時が来た。今度は吹き飛ばされないようにしないといけないのだが、なぜ大河が不機嫌なのかわからない。だが、だからと言って黙ってもいられない状況なので。
龍輝「いや、そういう訳じゃないよ。そもそも調べたんじゃなくて、好きなテレビ番組で見た
んだ。だから誤解だよ。それに、こういうデータって勉強にもなるし、おもしろいだろ?
いい話題作りにもなるしな。おかげで今日はたくさん話せたじゃないか!な、大河!」
大河の反応は・・・・・・?
大河「そ、そう。そうね。た、たく・・・たくさん話せてうれ・・・じゃなくて、話せたわね」
どうやら成功のようだ。龍輝は、なぜ大河が恥ずかしそうにしているのかわからないが、それでも殺気はなくなったし、とりあえず成功でいいだろうと思った。
その大河は、龍輝が今日はたくさん話せて嬉しいと言っているように聞こえて、嬉しくて照れているのだ。まぁ、実際には、アタリと言えるのだが。
なのに、大河のふとした疑問で、その空気もすぐに崩れ去る。
大河「うわ、怖」
龍輝「・・・?なにがだよ?」
大河「私でなにか試したりしてないでしょうね?」
胸の前で腕を組むように両肩を押さえ、顎を引いて上目遣いで、眇めてくる大河。
龍輝「そんな事してねぇよ」
大河「私には、そんな事する価値もないんだ」
そんな事を呟く大河には気付かずに龍輝は続ける。
龍輝「なんか、そういうデータを利用して相手を落とすのって、ずるい気がするんだよな。だ
から、好きな人には、極力そういう事はしないって決めてる」
その言葉に、
大河「じゃ、じゃあ、私の事は、す、す、す・・・好きだから、試したりしてないんだ・・・・・・!」
龍輝の知らないところで勝手に落ち込み、勝手に盛り上がる大河。そういう部分も気付けば可愛いのだが、それに気付かない龍輝は、自分の説明で忙しい龍輝は、何気に残念な奴なのだ。
龍輝「それにお前は、未成年で酒飲めないだろ」
大河「あ、そうか。だから、私には試さないんじゃなくて、試せないんだ・・・あっでも、斜面に連れて行かれる
かも!」
またもや勝手に落ち込みつつ、それでも可能性に気付いた大河は思わず声を大にしてしまう。
龍輝「それならもう一緒に行っただろ。高良大社によ」
その瞬間。大河はぽかんと龍輝を見つめたまま活動を停止してしまう。落ち込み、盛り上がり、落ち込み、騒ぎ、停止する。いつになっても忙しい感情をしている奴なのだ。
そして、行き着いた答えが、龍輝までもを騒がせる。
大河「じゃあ・・・私・・・・・・もう・・・落とされちゃってるんだ・・・・・・」
龍輝「はぁっ!?俺ってどんだけ信用ねぇんだよ!てか、なに言ってんだよ!?」
大河「さぁ、こんだけよ、じゃあ私もう帰るわね、おやすみなさい」
感情の全く籠らない平坦な口調で本日の別れを告げる大河。
龍輝「お、おう。なんか後味悪ぃな・・・・・・」
そう言い、玄関を出て行く大河をぽつんと見送った。
大河が帰った後、龍輝は冷えた身体と、すっきりしない心を温める為、お風呂に入る事にした。もうそろそろ大河も帰る頃だろうと、要領よくお風呂を沸かしていたのだ。
自室に戻り着替えを取って来て、洗面台の前で服を脱ぎ始める。
龍輝「大河も帰ったし、風呂に入ってからご飯だな」
まずは上半身が顕になる。しっかりと鍛えられており、程よい厚みと幅を兼ね備えた大胸筋、6つに割れた締まった腹筋が、その存在感を主張する。
次は下半身だ。筋肉を纏ったしなやかですらっと長い美脚。上部に集まったふくらはぎの筋肉は、瞬発力に自信がある様子であり、太ももは太すぎず軽やかなバネを自慢にしている。そして、お尻は小振りで締まっているが、その存在感は計り知れない。下半身の前面は覇気を隠しきれないとでも言っておこう。
そうして、脱いだ衣類をスーパーからこっそりと勝手に拝借した洗濯カゴへ入れ、お風呂場のドアへ手をかける。
この日は贅沢をしてたっぷりのお湯にフローラルのバスロマンスを入れてあるのだ。だから、浴室内は湯気でモクモクしている。そして、とても良い香りなのだ。
少々ワクワクしながらドアを開けると、当然の事だが、その幸せな香りと温かさが・・・・・・。
龍輝「・・・・・・!?!」
湯気の中に違和感を感じ、それに目を凝らすと、奴が居た。龍輝は、湯船に居たその生き物を見つけてしまったのだ。反射的に視線は逸らしたが。
??「きゃあああああ!!!!!!!」
その大音響は浴室内で何重にも大反響し、ドアの間にいる龍輝の耳から侵入し頭をぐわんぐわんと襲い、反対側の耳へと抜けていく。
その生き物は、膝をついた姿勢のまま、大きな目玉を更に大きく見開き、口を半開きにしたまま、ピクピクしている。
龍輝は、視線を逸らしたまま後ろを向く。なにが起こったのか?なぜこうなっているのか?どうすればいいのか?答えが見つからない。
龍輝が発見したその生き物には、ある特徴があった。それをざっとだが、無意識に思い返してしまう。
まず、小さな小さな小振りなふくらみが2つあった気がする。決して考えているわけではない。頭に浮かんでくるのだ。そのふくらみは、艶やかで、ハリのあるふくらみであり、龍輝好みだった。気がした。更にその先端部には、小さな小さな桃のような淡いピンクの果実が実っていた。・・・気がした。
その下には、細く薄いくびれが存在し、中央には、小さい穴らしきものもあったと思う。
更にその下には、・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 湯船に浸かってよく見えなかったが・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 湯の中のうっすらとした影から察するに・・・ ・・・ ・・・ ・・・ とてもとても引き締まった・・・ ・・・ 丸みを帯びぷりんとした・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 小さな小さなお尻のようなものが見えた。のだと思う。
その前面は・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 見えなかった。正確には、ギリギリ目を逸らした。はずなのだ。
つまり・・・ ・・・ それは・・・ ・・・ 少し前の事だ。
龍輝が自室へ戻り、お風呂へ入る為に着替えを準備していた頃。
大河「うぅ、寒いわね。とてもこのままじゃ帰れないわ」
帰ったはずの大河が、ぽか~んとして寒そうに戻ってきた。
大河「温かいお紅茶でももらおうかしら」
そう言いつつ姿の見えない龍輝を探し、部屋の奥へ進んでいく。そして辿り着いた場所は。
大河「あら、お風呂沸いてるじゃない。貧乏そうなのにすぐに入らないなんてもったいないわ
ね、まったく。ちょうどいいわ。身体が冷えちゃって仕方がないもの。お紅茶の前にお
風呂で温まりましょ。さすがに覗く度胸はないでしょうしね」
良くも悪くもお嬢様育ちの大河は、誰に許可を取るわけでもなく、誰かに入ると伝えるわけでもなく、人の家のお風呂に、いつも通りマイペースに、自分の家で常に沸いているお風呂に入るように、そのまま入ろうとしているのだ。
大河は鍵の無い洗面所のドアを閉めると、寒い為か躊躇無く、人の家の洗面所で許可無くそそくさと、服を脱ぎ始める。とは言えやはりお嬢様。丁寧な脱ぎ方だ。
その可愛らしいフリフリのついたワンピースの、胸から下腹部にかけてついているボタンを、1つずつ全て外す。すると、その衣はさっと足元に落ちようとするので、手で掴んであげて、次にそのワンピースから、片足ずつ足を抜く。
そこで寒い理由が判明する。ワンピースの下にはキャミソールと下着のみなのだ。この季節に上着も無しで中はそれだけで、寒いのは当然なのだ。
大河は脱いだワンピースを畳んで洗濯カゴ置くと、次にピンクのシルク素材であろうキャミソールを脱ぐ。下着も全て高品質な布地で輝くピンクという絶景だ。
上半身の下着を外し可愛らしいそれを顕にすると、下半身もそれに続く。
取り払われた下着は畳んだワンピースの中に隠され、そのワンピースの上からは、脱いだものが見えないようにタオルを被せておく。
そうして生まれたまんまの大河はお風呂場へと足を踏み入れたのだ。
大河「・・・・・・女子のお風呂場みたいね」
龍輝のお風呂場を見ての最初の一言が、それだった。
大河「パンティーンシリーズは助かるけど、男子がトリートメントまで揃えるのかしら?それ
に、DET クリスタ ブライト&ピール・・・・・・。龍輝、ピーリングまでするん
だ。なにたまご肌目指してんのよ。・・・・・・でも、確かにお肌きれいだったかも」
だが、大河は1つの疑問を持つ。ある可能性を考え始めた。
大河「いや、もしかして、彼女がいたりして・・・・・・。やっぱそれはなさそうね。洗顔も
1つしかないし、男性用だし。ニキビ予防・・・・・・、これもこだわってそうね」
その疑問や可能性は、すぐに消え去った。これが龍輝のこだわり抜いた結果だと、すぐに確信できる揃え方なのだ。
大河「・・・・・・男性用だけど、使ってみるしかないわね。女性用の洗顔はないみたいだし」
大河は全身にシャワーを浴びると、その男性用洗顔ピクシーを泡立てネットに2プッシュ取り、モコモコに泡立ててから、両手で顔に優しく円を描くように洗顔を始めた。が。
大河「うぅっ・・・・・・なによこれ?すっごくスースーするし、なんだかピリピリするぅ!」
そう言ってすぐに洗い流してしまった。
その後、顔のスースーピリピリを我慢したまま、ピーリングをし老廃物を除去。すべすべもちもちなたまご肌に更なる磨きがかかる。そして、シャンプー、しっかり洗い流し、丁寧にシャンプー、しっかり洗い流し、リンス、さっと洗い流し、トリートメントをした。奇跡的に龍輝と同じ手順なのだ。
そして、トリートメントをつけたまま、身体をたっぷり泡立てたタオルで洗う。
大河「このタオルも少し痛いわね。身体に傷がつきそう。まったく、美容まで気にしてそうで、
でもそうでもなさそうで、意味のわからないこだわりね」
そうやって身体の隅々まで、我慢しながらきちんときれいにする。お肌は若干だが、赤くなっている。きっとタオルのせいなのだが、それをわかってはいても、やはり女子としては、洗わずにはいられない。
大河は知らないのだ。たまには泡と手だけで洗った方がいい事を。
そしてもちろん、その硬めで痛いお風呂用のタオルは、龍輝の愛用品だ。でも、女の子でお嬢様の大河は、そのタオルを使う前に、何度も何度も洗ってから使用していた。男子と同じもので身体を洗いたくはないという乙女心と羞恥心の、できる限りの抵抗だ。でも、心を許しているからこそ、使えたのだろう。
そうやって、ピカピカキレイでつやつやぷるんなお身体になった大河は、フローラルなお湯へ、片足ずつ浸したのだ。そして、膝立ちのまま窓から見えるきれいな星空を眺めていた。この世界の星空は、星星が眩しい程に輝き、とても幻想的なのだ。窓から時偶入ってくる冷たい風も、風情があって良いものだ。
だが、その時が訪れた。ついでに部屋の掃除を終えし竜と、フローラルなお湯の中に座りかけし虎が、出くわしたのだ。
つまり現在。
大河「あ、あ、あ・・・・・・あ、んた、ねぇ・・・・・・。・・・・・・その・・・見た・・・
わ・・・よね・・・・・・?」
鍛えられた大きな背中と引き締まったお尻丸出しの龍輝の後姿に問う。
ドアを閉めればいいのだが、龍輝も頭の中がパニックなのだ。パイパニックなのだ。
大河は龍輝の後頭部だけを見つめている。視野には龍輝の肩から踵まで入っているのだろうが、視野に気を配る余裕はない。
龍輝「いや、そのぉ見てな・・・・・・・・・・・・くもない、でも!その、一瞬だし!その、
少ししかっ、いや一瞬しかっ!見えたかどうかわからないくらいしか!・・・だな」
ここでも、やはり嘘がつけない。どうにか誤魔化そうとはするが、意味はないようで。
大河「つまり、一瞬でも・・・・・・見たんだ」
龍輝「あ、いや・・・ま、まぁ・・・・・・」
大河「・・・・・・変態・・・・・・えっち・・・・・・」
全身真っ赤になり、大河は機能停止に陥った。ぽ~っと視線を落とし、お湯の中に肩まで沈んだ。
龍輝は、その音を耳で確認しつつ、とにかく口を開く。それしかできない。
龍輝「いや、そのだな・・・てか、帰ったんじゃなかったのか?身の危険とか言ってただろ。
なぁ?」
一生懸命に、この場を治める方法を探している龍輝に・・・・・・終わりが訪れる。その終わりとは。
大河「聖なる紫電よ かの者を裁き給え!
ホーリーライトニングジャッジメント!!!」
それは大河の使用できる術の中では最大の威力を誇る大魔法。
龍輝「うそだ・・・ろ・・・!?ヤバそうだなコレ・・・・・・!!どう見たって超大技の予
感!!防がねぇとっ・・・って、全裸じゃ無理ぃいいあああああああ~~っ!!!!!」
その瞬間、大気も揺れ動く轟音と共に、背後から凄まじい電撃大魔法を食らい、龍輝は光となって宙に舞い散った。
大河「あらやだ。再生エリアに飛んじゃった。・・・・・・裸なのにね。ガードすればギリギリ
耐えられたかもしれないのにぃ・・・。バカなんだから。まぁ~でもぉ、最後まで振り
向かなかった事だけは、褒めてあげるわぁ~」
再びぽわ~んとしている大河は気付いていない。全裸では、装備無しでは、なにも防げない事に。
そして、龍輝はその頃。再生エリアにて。
女性「きゃあああ~~~!!変態よぉおおお~~~!!!」
男性「おいっ!全裸が飛んできたぞっ!!」
男性「新手の変態かっ!?!」
男性「斬新過ぎるだろ!!」
衆人環視の中、全裸を晒す事になっていた。全裸で飛んでくる、新手の変態として。
龍輝「こっちを見ないでくださぁ~い・・・・・・勘弁してくあさぁ~い・・・・・・大河ぁ~
これは酷過ぎるぜぇ~・・・・・・。・・・大河ぁ~~助けに来てくれぇ~~!寒ぃよぉ~~
心も寒ぃよぉ~~」
半べそかきながら凍え震える声で、ここへ送ってくれた張本人大河へ届かぬ助けを請う龍輝。そんな龍輝も忘れていた。普段、防具を装備する事がないから忘れていた。装備ボタンをタップすれば、防具を、服を装備できる事を。瞬時に着られるという事を。
その頃。お風呂から上がった大河は、ある物を見つめていた。
――テーブルの上の・・・ ・・・ バナナだ。
大河「しばらくバナナは食べられないわね。まったく・・・・・・なんてもの見せてくれたのよ・・・・・・
あのバカ!」
30分後。
龍輝は無事に帰ってきた。優しくされたい。そんな気持ちなのだ。傷心中なのだ。なのに。
大河「おそぉ~いっ!!ほら、約束してたでしょ!カップ麺買いに行くって!それ、今日にす
るわ!」
先程の事を頭から消し去るかのように、少し強く当たってきたのだ。まだ龍輝の方は見ないままで。
龍輝「酷くないかぁ?今帰ってきたってのに。てか、しばらく街には行きたくねぇよぉ~。人
に会いたくねぇんだよぉ~・・・・・・お風呂・・・入りたい・・・・・・」
そんな悲しげな心の声は聞き入れてはもらえない。一切龍輝の方は見ないまま、赤いお顔で。
大河「いいから行くの!早く服着なさいよ!・・・えっちぃんだから、もう」
全裸で帰ってきていた龍輝なのであった。そのおかげで、大河の小さなお顔は真っ赤かなのだ。
龍輝「やっぱりわがままなのか?いや、わがままって言うより、なんていうか」
??「あのぅ~すみませぇ~ん!まだ開いてますかぁ~?」
龍輝「あ、開いてますけど・・・・・・」
??「きゃあああ!!!」
まだ裸で残念な事態が店の中で起きてしまった。今後の客足を左右する出来事になるかもしれない。
龍輝「いや、その、申し訳ございませぇ~んっ!!」
龍輝は急いでお客さんとは反対の方を向くが。
大河「ちょっと!急にこっち向かないでよ、バカ!!」
龍輝「あ、すまんっ!」
そして反対を向くが。
??「きゃあああ~~!!」
龍輝「ああっ申し訳ございません!!」
大河「だから、こっちに向けるんじゃないわよ!じゃなくて向かないでよね!!」
龍輝「あああああっちょっと対応頼んだっ大河っ!!」
大河「えっちょっと!接客なんてまだした事ないわよ!ねぇってば!」
逃げ場をなくした龍輝は、着替えがあるはずの洗面所へ引っ込んでしまった。
そして。
??「ああ~~~っ!!!」
大河「え、なに?・・・・・・あっ!あなたあの時の!!」
そう。このお客さんの少女は、あの少女なのだ。先日、龍輝と影王が戦っている最中に大河が助けた、あの少女なのだ。
その少女がここへ来た理由。それは、律儀にも、大河へお礼をする為に、大河探しを依頼しようとして来たのだ。――それと、現在所属しているギルドの相談もあるのだが。
こうして、次の運命という名の物語が動き出す
第1章 TALES OF TIGER 完
第2章 TALES OF ORANGE へ続く。




