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★タイガーなソーディアマスター!?★

大河の両親が帰ったその翌日。お昼頃。

 大河は万事屋を訪れた。もちろん龍輝に会いに来たのだ。なにも連絡しないで来たので、ちょっと入るのが気恥ずかしいが、恐る恐る扉に手をかける。

 だが、・・・・・・開かない。

大河「・・・?いないのかしら。せっかく来てあげたってのに、どういう事よ、もう」

 ブツブツ言いつつ、パーティリストで龍輝の位置を確認しようとする。が。

大河「・・・スノーフレーク・・・・・・どこよそれ?それになんで地名は出るのにマップに

   は表示されないのよ?」

 龍輝の位置は表示されないのだが、それも当然なのだ。だって、1度行った事がある場所でないとマップは表示されないのだから。もしくは売られている地図ならば、それを買えば表示されるのだが。それを大河はまだ知らない。だから、地名だけ表示されるのだ。

 ちなみに、スノーフレークとは、久留米を出て少し行くと存在する、雪の狩猟エリアなのだ。

 狩猟エリアとは、数多くのモンスターが存在し、アイテム探しやレベル上げによく訪れる人がいる、文字通り狩猟を目的としたエリアなのだ。

大河「・・・出ない・・・・・・返事もない」

 とりあえず電話して、その後メールもしたが、龍輝との連絡は取れなかった。

 龍輝は戦闘中なのだろうか?

 そして大河は、待つ事にした。いつ戻ってくるのかもわからないが、待つ事にした。

 その理由は、どうすればいいのかわからないからだ。

 だって、大河はこれまで、人と待ち合わせをした事がない。だから、こういう時にどうすればいいのか、みんなが普通どうしているのかわからない、のだ。

 更に、出直すという選択肢はない。

 早く会いたい。友達と遊んだ事もない。待ち合わせした事もない。待つ。その行為自体が、実に楽しい。ワクワクで、ドキドキなのだ。


 そんな一方、龍輝はと言うと――。

龍輝「クソッ!こんな雑魚モンスターに手が止まるようじゃダメだ。かわすだけじゃ勝てな

   い。見切れても、攻撃のタイミングを掴めなきゃ、攻めきれないんだ!」

 そう自分を責め立てながらソーディアを振るっていた。1人で鍛錬中なのだ。鍛えられるし、ソーディアのノルマも達成できるし、一石二鳥なのだ。

龍輝「大河を、もっともっと、もっと余裕で守れるように。この世界から、無事に帰してあげ

   られるように。そういう、俺になりたいんだ。だから、もっと強くならねぇと!!」


 その日の夕方。

 万事屋の前には、膝を抱え、小さく丸くなった小動物がいた。

龍輝「お!?・・・大河じゃねぇか!どうしたんだ?もう十月も終わりだ、寒いだろ。入るか?」

 寒いだろうと、龍輝は急いで扉を開ける。

 だがそんな時、小動物の頭がぶわっと上がり、

大河「おっっっそいっ!!!」

 獰猛な獣へと姿を変え立ち上がり、覇気を纏っている。龍輝は目の前でそびえ立つそれに、一瞬気圧される。

大河「あんたね!こんな時間まで1人でなにしてんのよっ!?人を待たせ過ぎよ!!」

龍輝「いや、すまん悪かった・・・てか、待ち合わせなんかしてないだろ!来るとか知らなか

   ったし、なんで怒られなきゃいけないんだよ!」

 あまりの大河の勢いに、なぜだかすんなり謝りかけ、我に返る。

大河「うっさぁあい!!そのくらい分かれぇっ!!」

龍輝「わ、わかったよ。悪かったな待たせて。ほら。身体冷えるだろ。女の子なんだから冷や

   すなよ」

 やはり謝った。というか、謝るしかないと思った。聞く耳を持たない獣を前に、どう反論しても終わりが見えないと感じたからだ。本当の動物だと叩く事も躾の中にあるのだが、一応人間で、しかも華奢な女の子の風貌をしているのだから、話を聞かないからといって、こんな事で手を上げるのは少し問題だ。

 それに実際、随分と待っていてくれたのだろうから。

 すっかり色を失い、紫になりかけながら小刻みに震える唇。真っ白な頬。寒さで赤くなったお耳。何度も店の前をうろうろしたであろう足跡。それらを見て、そう思う。

 そんな大河を、店兼家へ入れ、テレビをつけた。

 こちらの世界でも、現実とは違う番組がある。アニメ、バラエティー、ドラマ。多種多様だ。

龍輝「それで、なにしに来たんだ?」

 そう質問しながら大河の顔を見る。すると大河は急いで反対を見た。龍輝は・・・・・・一瞬見てしまった。テレビを食い入るように、大きな瞳をこれでもかと輝かせながら観る、眩しい大河の姿を。

龍輝「・・・・・・どうした・・・?好きな・・・番組だったのか・・・・・・?」

 沈黙の中、テレビだけが聞こえる中で、全力で照れているであろう大河に、恐る恐る訊く。

 大河自身も龍輝に見られた事に明らかに気づいているのだ。さすがにこのままなかった事のようには振る舞えないし、はっきりしないと気持ちが悪い。

大河「は・・・はじめてだったから・・・・・・。その・・・テレビ、観るの・・・初めてだ

   ったから・・・・・・べ、べつにいいでしょっ!ほっといてよ・・・もう・・・・・・」

 龍輝は言葉を失った。

龍輝(こんな事もあるのか?お金持ちのお嬢様なのにテレビを観た事がない?大きなテレビが

   あるんじゃないのか?)

 そんな疑問が脳内を慌ただしく駆け巡る。

大河「マイシアタールームならあったけど、テレビはリビングにしかなくて・・・それに誰も

   見ないから、なんか見れなくて・・・・・・」

 別の意味で、更に言葉を失う。

龍輝(マイシアタールーム!?そんなものがあるなんて・・・・・・。きっと想像も出来ない

   程に飛び抜けたお金持ちなんだろう・・・な)

 半ば放心状態だ。

大河「ちょっと、どうしたのよ、あんた?・・・・・・そっか。やっぱり私っておかしいよね?

   言葉も出ないんでしょう・・・・・・」

 なんだか違った方向に解釈された。しかもそれは良くない方向に進んでいる。とにかく悲しい顔はさせたくない。その一心で。

龍輝「なに言ってんだ。逆だよ逆!ビックリしたんだ。驚いたんだ。俺達なんか庶民とは違っ

   てすごいなぁって。確かに俺達とは違うけど、それはすごい事なんだ。俺達の憧れだよ!

   いやぁすごい。それに、子供部屋にはテレビは置かない方がいいってデータもあるもん

   な。子供が部屋に引きこもりやすくなるし、心地いい場所が、みんなが集まるリビング

   じゃなくなるって。あ、でもお前は、引きこもりじゃないもんな。軟禁だもんな。テレ

   ビも見ないで、いやすごいよ!」

大河「あんたねぇ、子供とか、引きこもりとか、なんか無理矢理じゃな・・・・・・!!」

龍輝「でも、これからは一緒にテレビ観ようぜ!だから、いつでも来いよ、俺ん家!」

 その言葉に、ドキッとする大河。大河のひしひしと湧いていた怒りという感情が逆転する。

大河「べつに・・・もうパパもママも帰っちゃったんだし、自由にしていいって言われたんだ

   し、家でも見れるもん・・・・・・」

 素直ではない。それが可愛くもあるのだが、損も多いだろう。

龍輝「そっか。でも、一緒に観ようぜ!俺はお前と観たいんだ!色んな番組、教えてやるよ!」

大河「い、一緒に・・・私と、見たいの・・・?・・・本当に?」

 視線を落とし、スカートの前を両手で掴んで、全身でもじもじな大河。

龍輝「あぁ!幼少期はバラエティー番組を観たがいいらしいけど、お前は観た事ないんだろ?

   幼少期にバラエティー番組を観ると、頭が良くなるんだってよ。笑う事で脳が活性化さ

   れて、学習能力が高まるらしいんだ」

 その龍輝の言葉に、もじもじな大河の動きがピタリと止まる。実に可愛かったのに残念だ。

大河「なに?つまりあんたは、私が幼児だって言いたいの・・・?頭が悪いって、学習能力が

   ないって言いたいの・・・?だから、教育してあげようって事・・・?」

 ヤバイ!キレる!、と思ったが・・・・・・大河の瞳は潤い始めていた。

大河「はん、そうよね!・・・どうせ私なんか、そんなもんよ。近づいてくる人はみんな、結

   局は同情なのよ・・・・・・。軟禁が解けても、結局は・・・こうなんだ・・・・・・」

 逆にヤバイ。まだキレられる方がよかった。こんな顔をさせてしまった自分の不甲斐なさに、龍輝は胸が痛む。こんな儚げな少女、今すぐにでも抱きしめてあげたいと思う。心の温もりを、その冷えていく心に、分けてあげたい。そう思う。

 でも、こんな顔をさせた張本人が、初めて自分の家に来たか弱い少女を抱きしめるのは、なにかいけない気がする。なので、少女の震える小さな肩に、そっと手を添える。

龍輝「ごめんな、言い方が悪かった。全然そんな風には思ってないんだ。素直に言うけど、子

   供の頃テレビ観れなかった分、俺が一緒に、大河と一緒に、たくさん観て、たくさん笑

   って、みんなよりもたくさん楽しい思い出とか作っていけたら嬉しいなって、そう思っ

   ただけなんだ。もちろんそれは、俺の勝手な希望だから、嫌ならいいんだ。自分家でゆ

   っくり観るのもいいと思うし。だから、決して同情なんかじゃないし、もし同情の気持

   ちが少しくらいあったとしても、9割以上は違うんだ!俺が大河といたいって、大河を

   喜ばせたいって。そしたら俺も嬉しいしいいかなって、そんな気持ちなんだ。なんか、

   わけわかんないよな。ははは、ごめんな、なんか」

大河「・・・・・・ふん。・・・・・・仕方ないわね」

 そう言う少女は、龍輝の大きめの手から解放されると、テレビの前にちょこんと座り込む。そのほっぺは、温かい部屋のおかげなのだろうか、仄かに桃色を、いつも以上に取り戻していた。

大河「それから、ここに来た理由だけど、知りたいなら教えるわ。そうね・・・・・・ただ、

   暇だったから来てあげたのよ。どうせお客さんも来なくて暇してると思ったし」

 龍輝の心臓は瞬間、音を大きくする。

 ――当たっている。まだ店を出して数日とはいえ、お客さんはおろか、店に人が入る気配すらない。チラ見してもらえれば良い方なのだ。

龍輝「た、確かにお客さんは来てないな。ここに入ったのも、大河、お前が初めてだ。で、で

   も、暇はしてない、かな?今日だって鍛錬も兼ねてノルマも達成してきたからな!」

大河「私が・・・初めて・・・なんだ。初めての人・・・・・・なんだ。・・・へへへ」

 テレビの前でなにか言っているが、そのか細い小さな声は、テレビの音量には勝てなかった。

龍輝「ん?なにか言ったか?」

大河「な、なにも言ってなんかないわよ!テレビでしょテレビ!空耳を発生させるなんて、意

   外と邪魔ねテレビって、ハハハ!」

 実に早口だ。空回り気味に、無理に笑っているような。そんな感じだ。

大河「それに、それはつまりお店が暇だったから、出掛けてたんでしょ・・・・・・!?」

龍輝「まぁなああ!?!」

 突然、振り返った大河が瞼を限界まで見開き、血走った眼球で、すごく険しい形相で、龍輝の前までドシドシと寄ってきた。そして、下から突き上げるように見上げると、驚いて仰け反る龍輝に。

大河「あんた!まさか1人で街から出たんじゃないでしょうね!?!」

 大河は確信している。それでこの怒りっぷりなのだ。そして龍輝も、大河のその言葉に確信する。

龍輝「いいいやまぁ、1人だけど、その、どうせ雑魚モンスターしか狙ってないし、な!」

 大河の機嫌が少しでも良くなるように、安心できるように、言葉を選んだつもりだが。

大河「バッカじゃないの!!狩猟エリアには行ってないでしょうね!?」

龍輝「い・・・い・・・・・・」

大河「なによ!?行ったの!?行ってないの!?」

 龍輝は嘘をつけない。正確には、人を裏切るような、傷つけるような嘘はつけない。つきたくない。この場合は、心配のあまり怒る大河の優しい気持ちを、裏切れなかった。だから、

龍輝「い、行き、行き、行き・・・・・・ました」

 言ってしまった。正直に言ってしまった。怒られるとわかっているのに。嘘はつけなかった。

 案の定、牙を剥き出し体毛を逆立てた獣と化し、怒号を乱れ飛ばす。

大河「狩猟エリアにはね!エリア内を自由に移動する大型ボス級モンスターだっているの!!

   フィールドにも最近その目撃情報があるみたいなの!!1人で行ってもしもの事があ

   ったらどううすんのよ!!」

 たった1人で危険を冒した龍輝の事が許せないのだ。心配で心配で・・・許せないのだ。

龍輝「いや、お前をこんなノルマに巻き込みたくなかったし・・・・・・。そうだな、今度か

   らせめて、連絡だけでもするよ」

 大河に危険な事はさせたくない。これが、龍輝の優しさだった。そのつもりだった。が。

大河「うっるさあああいっっ!!!巻き込んだのは、あんたにソーディアを装備させたのは私

   なの!それに、あんたがもし帰って来なかったら・・・・・・私はどうすればいいのよ!?」

 バタンッ!!力一杯に玄関を締め、大河は帰ってしまった。それを龍輝は、止める事ができなかった。

 龍輝の胸は、罪悪感で一杯だった。こんなにも大河が心配してくれていた事に、気付いてあげられなかった事。せめて、ノルマの相談をするべきだったのかもしれないという事。自分がいなくなったら、大河は初めて出来た唯一の友達を失うという事。そしてなにより。

龍輝「俺がソーディアを装備した事。・・・大河、お前は、自分のせいだって責めてたんだな」

 そう思うと、龍輝はどうしようもなく苦しかった。寂しかった。

 もしもこの最悪な事が起きたら、恐らく大河は、これ以上に寂しい思いをするに決まってる。――いや、もう感じてしまったんだ。その不安を、想像してしまっていたんだ。だから、あんなにも辛い顔をしていたんだ。

 だから龍輝は、大河にどうしても謝りたかった。追いかけようとした。だがそこで、龍輝の悪い癖が出てしまった。――考えてしまった。

 今は、とても話せる状態じゃないだろう。追いついても大河の怒りを逆撫でするだけだ。そう考えてしまった。そうして、動きだした足を止めた。

 プルルル プルルル

 龍輝は電話をかけていた。――もちろん、大河は出ない。だから最後の手段。メールをした。いつもの龍輝なら、最初にメールをする。若者の社会問題でもあるのだが、メール優先なのだ。

 会社の連絡でも、

三十~四十代など上の人は、1位 電話  2位 直接会う  3位 メール なのだが、

ゆとり世代や若い世代では、1位 メール  2位 直接会う  3位 電話 なのだ。

 でもさすがに、こんな時までメールを優先するような男ではないのだ。


宛先:大河

本文:さっきは本当にすまなかった。なにも言わなかった俺が悪かった。お前の気持ちに気付

   かなかった俺が悪かった。だから約束するよ。今度からは絶対に、黙って街から出たり

   しない。もちろん、ノルマの事も相談する。必ず、この約束は守る。だから、お前の気

   が済んだら許してほしい、と思う。それから、俺は俺の為にソーディアを装備したんだ

   から、自分を責めないでほしい。ただ、俺がカッコよくお前を守りたかっただけなんだ

   から、気にする事はないよ。それが無理でも、大部分は俺に責任があるんだから。自分

   で覚悟して装備したんだから、自己責任だ。じゃあまた、気が向いたら一緒にテレビ見

   ようぜ。その時は、カップ麺も食べような!


 すぐに送った。文章の確認もなし。ゆっくり文章を作りもしないで、その時胸の中にあった言葉を、ただ送った。

 

 その夜、大河からの返事はなかった。MyーPHONEを握り続ける龍輝。部屋からは溜息だけが聞こえていた。 


 翌朝、なんとか龍輝は寝付いていた。

 この日の天気は・・・・・・嵐・・・・・・?・・・・・・電話による呼び出し音の嵐だ。

龍輝「なんだ・・・?朝っぱらからうるさいなぁ、俺は朝苦手だってのに、はい、もしもし?」

 喉の調子を少しでも整えつつMyーPHONEを取る。

大河「おっそおいっ!!早く出なさいよ開けなさいよ!!寒いったらないわ!!」

 そのあまりの大音量に、龍輝の耳の中では、鼓膜が必要以上にボボボッと揺れ動く音がした。

龍輝「え?え?ちょっと落ち着けって、一体なにを言ってるんだ?」

大河「玄関よ玄関!!早く開けなさいよ!!」

 なんて朝から騒がしい奴なんだ。絶対に近所迷惑だ。なんて思いながらも、来てくれた事が嬉しい龍輝は、急いで玄関へ向かう。

 玄関を開け放ってやるとそこには、両腕を擦りながら、摩擦で身体を温める大河がいた。

龍輝「どうしたんだよ?こんな朝っぱらから?」

 大河は無言のままそそくさと中に入る。そして、自分のウィンドウを開くと操作を始めた。

 龍輝は、昨日のメールの事も気になるが、聞くタイミングを掴めない。

龍輝「なぁ、まだ怒ってるのか?悪かったよ」

 家に来てくれているんだし、さすがにまだ激怒中ではないだろうとは思っているが、龍輝はその事に踏み込めない。

 すると大河の方から近付いてきた。その瞬間、大河の細い腰の左側に光が集まり、形を成していく。――それは、剣になった。

大河「・・・ん」

 そう言って大河は自分のウィンドウを龍輝に見ろ、と促してくる。そこには。

龍輝「はあっっっ!?!えっ、ちょっ、どういう事だよ!?」

大河「・・・そういう事よ」

 冷めた目でそっぽを向く大河。

龍輝「いや、わかんねぇよ!色々とわかんねぇよ!なんで持ってるんだよ!?なんで装備して

   るんだよ!?」

 その逆で、龍輝の熱は上がっていく。

大河「うっさいわね・・・・・・実はあったのようちにも。飾ってあったの」

龍輝「だからってなんで装備してんだよ!?これじゃあお前まで!!」

大河「だからよっ!」

 途端に大河の声が大きく鳴った。

 思わず龍輝は息を呑む。

大河「・・・あんただけ放ってはおけないでしょ。昨日の事もあるし・・・・・・」

 儚い表情に、龍輝は自分の熱が冷めるのを感じつつ。

龍輝「いや、でもだからってお前・・・それは違うんじゃないか?」

大河「グチグチうっさいわね男のくせに!大体昨日のメールはなによ!?怒りも冷めない内に

   あんな長ったらしいメール送ってくるなんてどうかしてるんじゃないのっ!?そもそ

   も電話無視してるんだから、もう少しくらい待ちなさいよっ!!・・・嬉しかったけど」

 最後の言葉に、大河の素直な気持ちに気付けなかった龍輝は、少々ショックだった。

龍輝「それは、悪かった。ごめん。でも俺、どうしようもなくて・・・。やっぱ無視・・・し

   てたんだな。まぁ、当然だよな・・・俺の自業自得だ」

 ふいに見せた初めて見る龍輝の寂しそうな顔に、大河はキュンとしつつ、居た堪れない気持ちになり、素直な胸の内を伝える事にしたようだ。素直になるのが大河もとても苦手なので、物凄く勇気がいる。でも、頑張る。

 龍輝の顔は見れないから、顔ごと逸らす。が、チラチラと、勇気を出して見る。瞳だけで見る。両手はしっかりと拳を握って力を込める。身体はガチガチに硬直している。

大河「その、だから、ね・・・・・・次からは、その。・・・・・・一緒に・・・一緒に・・・」

 その言葉だけで十分だった。目の前にいる大河を見て。その言葉を聞いて。龍輝には大河の気持ちがわかった。伝わった。いや、伝わらない方がおかしいのだとも思える程、確信できた。

 それにもうどうせ、大河は装備してしまっているのだ。怒っても説得しても、仕方がない。それに、一緒の方が守ってやれるし都合もいい。

 それは大河の、わがままで強引な優しさだけれど、龍輝はとても嬉しかった。段々、その感情が溢れてくるのを、全身で感じていた。

 とてもそれを、裏切る事はできなかった。素直に受け入れたかった。

龍輝「そうだな。今度からは一緒にノルマ達成しような!大河!」

大河「え・・・?」

 一瞬気の抜けたぽかんとした顔を見せ、

大河「あ、うん!あったり前じゃない!!一緒に行ってあげてもいいわよ!もちろん!!なん

   なら私が守ってあげてもいいだからね!!」

 その顔は、とても無邪気でくしゃくしゃな笑顔で輝いていた。


 大河の腰に装備された細剣

    雷属性のソーディア・電雷虎撃


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