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★真白一家崩壊!?★

この日の夜は、真白邸にお礼を兼ねた食事会という事で、誘われている。夕方に、わざわざ大河が迎えに来てくれるらしい。龍輝と大河はパーティ登録をしたままなので、マップで龍輝の現在地確認をしながら、家まで来てくれるそうだ。

龍輝「迎えって、まさかリムジンかなぁ?初めて乗るなぁ☆やっぱテーブルとかあるのかなぁ

   ♪楽しみだなぁ♪♪」

 昼間から勝手な妄想を膨らまし、ウキウキワクワクニヤニヤ浮かれていると、珍しくもお客様が来てしまった。「早く終わる依頼ならいいのだけれど。いや、長引いたら日を改めよう。というか今日は休むべきだったかな」そう思いながらも満面の笑みで、

龍輝「いらっしゃいま・・・せ・・・・・・?」

 固まりつつ首を傾げた。だって目の前にいたのは。

大河「なによ、その作り笑顔」

龍輝「作り笑顔なのが一瞬でバレてしまった。じゃなくて、お客さん?・・・大河だった?」

 軽く混乱する。

龍輝「てかうるさいなぁ。大体お前夕方に来るんじゃなかったのか?リムジンはどこ停めた?」

大河「来て早々にうるさいわねぇ。いつ来てもいいでしょ。それにリムジンってなによ?誰も

   リムジンで来るなんて言ってないでしょ。今晩の予定が変わったから今来たの。それだ

   けよ」

 お前には言われたくない。と言いかけて止まってしまう龍輝。だって、楽しみにしていたリムジンはなくて、しかも今晩の予定まで変更らしい。もしかしたら、食事会が中止かもしれないのだ。逆を言えば、真白邸から豪華レストランに変更かもしれないが。恐る恐る訊いてみる。

龍輝「・・・・・・中止・・・か・・・・・・?」

大河「まぁ、そんなところね」

 終わった。龍輝はそう思った。ただただ遠い眼差しで地面を見つめる。

龍輝「・・・ステーキがぁ・・・ロブスターがぁ・・・・・・」

大河「あんた、お礼してもらえるのをいい事にガッツく気だったの。そもそもロブスターなん

   て出ないわよ。普通エビって言ったら伊勢海老でしょ。まったく世間知らずね」

 大河にとっては普通のエビは伊勢海老を指すようだった。生活レベルの差を感じてしまい。

龍輝「い、いやぁまぁまぁ・・・・・・。そ、それよりお前、もう1人で出歩くの許してもら

   えたんだな?」

 苦し紛れに話を変える事しかできなかった。だが、適当な話でもない。大切な事だ。

大河「まぁね」

龍輝「そりゃそかったな。俺も嬉しいよ」

大河「なんであんたが嬉しいのよ、キモ。それに・・・私の方が嬉しいし、そ、その・・・感

   謝してるんだからね」

 毒舌を放ったかと思いきや、素直さを追い討ちし、ハニカミ照れ隠す。本当に感情が忙しい奴だ。まぁ、表情がコロコロ変わる女の子に、案外男は弱かったりするのだが。実は龍輝もそうなのだ。が。

龍輝「そ、そっか。・・・・・・てか大河、お前わざわざ中止を伝えに来たのか?それだとメー

   ルでも良かったのに。・・・あっ、まさかお前。1人で出歩けるのが嬉しくて、それを俺

   に見せたくて来てたりして!」

 そういう子は、ついからかいたくもなってしまう。

大河「そ、そんなわけないでしょっバカ!もしそんな風に見えたんなら、アンタの目が腐って

   るのよ!この目腐れ!!」

 まさかのこの発言。こんな酷い事をすんなり言ってみせるのはお嬢様ではなく、必死に身体を膨らませ威嚇する、顔を赤らめた小動物なのだった。――あながちハズレでもないのだろう。

大河「そ、それに、理由ならもうすぐわかるわよ」

 なんの事やらピンと来ない龍輝が聞き返そうとしたその時、扉が開けられた。このタイミングで来てしまったのだ。お客様が。そして龍輝の反射神経が発揮される。満面の笑みで。

龍輝「いらっしゃいま・・・せぇっ!?」

 語尾がだらしなくも音程を外し上がってしまった。だって目の前にいるのは。

虎夫「突然申し訳ない。予約が必要だったかな?」

 虎夫さんと虎嫁さん。大河のご両親だったのだ。

龍輝「い、いえ、どうかなさったんですか?」

 大河も来るわ、ご両親も来るわで、さすがになにかあるようだ。

虎夫「その様子だと、まだなにも聞いていないようだね」

 虎夫はそう言いながら、落ち着いた眼差しで大河を見る。

大河「まだ話してない。い、今来たところだもん」

虎夫「そうか。てっきり朝早くに出発したのだと思っていたよ」

 えへへ・・・・・・、と大河の片方のほっぺが歪みながら苦笑している。それもそうだ。実は虎夫の言う通り、大河は朝早くに出発していた。じゃあなんで、大河に話す時間をあげようとわざと遅れて、昼頃に出発した両親とほぼ変わらない時間に着いたのか?それは簡単な理由だ。迷子になった、のではない。マップの目印に向かって進めばいいのだから、迷いようがない。遅くなった理由、それは好奇心だった。街を1人で歩く。自由に歩く。それが初体験と言ってもいいのだ。見るもの見るもの全てが、好奇心をワクワクワクワク擽るのだ。それで、ドーナツ屋さん、パン屋さん、ハンバーガー屋さん、ゲーム屋さん、目に映るもの全てにちょこちょこちょこちょこ寄り道していたのだ。ただ、龍輝と約束したカップ麺があるコンビニには寄っていない。やはり律儀なのだ。ただ、そんな子供みたいな事情は、お嬢様のプライドがあるので言えなかった。

虎夫「では、私が話そうかな。それでいいかい?たあちゃん」

大河「・・・・・うん」

 なんだか微妙な空気が流れる。空気がどんどん重くなる感じだ。

虎夫「では、単刀直入に言おう」

龍輝「は、はい」

 単刀直入。その言葉になんとなくだが覚悟を決める。軽い気持ちで言ったのではない気がするのだ。

虎夫「・・・・・・私達は今日、これから、現実に帰る事にしたのだよ」

龍輝「・・・・・・え・・・・・・?・・・え・・・・・・??」

 あまりにも突然の事で、龍輝は言葉を失う。真っ白になる頭で必死に考える。

龍輝(てことは、大河とも・・・・・・お別れ・・・なの・・・か?)

 あぁダメだ。龍輝の頭はもっと真っ白になる。ただ大河を見る事しかできない。

大河「私は違うわよ。パパとママ、あと数人の執事とメイドだけが帰るの」

龍輝「へ・・・・・・?」

 龍輝は一瞬気持ちが救われた気になるが、その反面、余計に意味がわからない。

 確かにこの世界から脱出できるアイテムはあるらしい。でもとてもレアなアイテムだそうだ。そんなにたくさんもっているのですら、驚いて言葉が出ない。それになぜ大河を連れて行かないのか?もちろんまだ大河と居られる事は嬉しいのだが、でもやっぱりおかしい。家族で一緒に帰るのが普通なんじゃないのか?大体大河はそれでいいのか?人の家庭事情は様々だが、これでいいのか?と、色々考える。というよりも、瞬間的に頭に思い浮かんだ。そして、1番早くて確実な方法を取る事にした。

龍輝「ど、どういう事ですか?」

 虎夫さん、虎嫁さん、大河。その顔を順に何度か見ながら質問した。

虎夫「驚くのも無理はないだろう。・・・実を言うとね。現実にも待っている家族がいるのだよ」

龍輝「え・・・?」

大河「そうなの。私の妹と弟よ」

龍輝「・・・そんな・・・・・・」

 新しい驚愕の情報は、龍輝の心を締め付ける。

 だって、大河よりもまだ子供なのだから、きっと、物凄く寂しい思いをしているに決まっている。もちろん、あちらにも執事やメイドはいるだろうが、それでも父や母、姉がいないと心細いだろうし、心配で堪らないはずだ。

虎夫「そこで先日、大河から言われたのだ。私も正直驚いた。眠れぬ夜が続いたよ」

 確かに尋常じゃないクマだ。マスカラでもミスったかのようだ。

龍輝「それって言うと・・・?」

 予想はつくが訊いてみる。

 だが、口を開いたのは大河だった。

大河「私がね、1人でこっちに残るから、パパとママは帰ってあげてって言ったの」

 普段は極悪な毒舌を吐いたりするが、大河にも姉妹を思いやる優しい心があったのだ。

龍輝「え・・・でも、いいのか?せっかくパパとわかり合えたばっかだろ。これからが大切な

   んじゃないのか?」

 本当は残ってくれて嬉しいが、それでもその逆を促してしまう。なぜだか自分でもわからないが、そうしてやりたいのだ。

大河「うん。私はいいの。なんだかんだでわかり合えた家族だもの。少しくらい会えなくても、

   もうダメになったりしないわ。それより、妹と弟の方が心配。まだ小さいんだし、もう

   半年以上経つし、私よりもパパとママを必要としているわ。それが、ずっと心配なの」

 そう言う優しくも儚げな表情の大河に、心を打たれそうになる気がした。こんな一面もあるんだな、と、微笑みそうになる。が、今はそんな場合でもないと、我に返る。

龍輝「虎夫さんもそれで?」

虎夫「あぁ。現実へ返るアイテムは十個程手に入ったのだが、たあちゃんはどうしても残りた

   いと言うのでな。こんなにはっきり強くお願いされたのは初めてだから断れなかった。

   それに、そんなたあちゃんを、今までしてあげられなかった分、応援してあげたいと思

   ったのだよ」

 そう言うのは、この間とは違う、すっかり父親の顔になった虎夫さんだった。

虎夫「だからせめて、有能な執事やメイドを信じて、そしてなにより、今までの分もたあちゃ

   んを、真白大河愛を信じる事にしたのだよ。・・・それから、君もな、龍輝君」

 とても素晴らしい事ではある。でも、大河がこの世界へ残る理由は、その説明にはなかった。

 というよりも、虎夫さんでさえ知らない様子だ。それでも、大河の事を信じると言っているのだ。そう思うと、その事が、もっと素晴らしいと思える。

 これが家族なのだろう。理屈ではないのだろう。

 それに、照れくさそうに唇を小さく尖らせている今の大河に聞いても、理由は教えてくれなさそうだ。

 だから、つまらないが、この質問をする。

龍輝「え?俺もですか?」

虎夫「あぁ。たあちゃんに聞いたのだが、人助けをする万事屋を始めたあそうではないか。だ

   から、大きな依頼をする事にしたのだよ。・・・・・・たあちゃんを、頼む」

 そうして頭を下げた。そして、上げる。

虎夫「もちろん、依頼料も弾もう」

 大河を頼む。その事に、龍輝は少し驚きはしたが、真面目な顔で訊く。

龍輝「い、いえ、お金は要りません。友達ですし。でも、俺なんかでいいんですか?」

 だが本当は、嬉しかった。まさかこんな、娘を嫁に出す時のような台詞を言ってもらえるとは、思ってもいなかった。こんなにも信頼される事が嬉しいのだと、とても実感できた。

 ――本当は、笑みを浮かべそうになっているのだ。

 でもここで笑えば、なんだか軽い印象になってしまう。そうすれば、娘を頼むと覚悟を決めている虎夫さんに失礼だし、なによりも不安にさせてしまうだろう。

 結婚でもなんでもないのだが、とにかく真面目に向き合うべきなのだと、そう思う。

虎夫「君だからだよ、龍輝君。男は汚らわしいが、君ならば信じてたあちゃんを任せられる。

   私はね、自分で言うのもなんだが、会社を大きくし、そのトップに立つ人間なのだ。こ

   れでも、人を見抜く目は持っている、と、思っているのだよ」

 そこまで言うと視線を落とし、

虎夫「影王達を雇った時はどうかしていたよ。・・・・・・私も焦っていたのだろう」

 そう言う。本当に悔いているようだ。

 次に視線を再び上げると、今度は力強い眼差しを龍輝に向ける。

 この一家の表情は本当によく変わるようだ。大河ほどではないが。

虎夫「だが、今は違う。本来の私に誓って言おう。君にならば任せられる!」

龍輝(すっごいプレッシャーなんですけど~!・・・・・・でも、なんだか燃えるな)

 なんて心で呟きながらも謙虚に努める。

龍輝「そんな、言い過ぎですよ。俺なんて大した人間じゃないです。それに、大河もいいのか?」

 嫌だ。なんて言われたくない。望むのはYESのみだ。自分はもちろんYESなのだから。

大河「そうね・・・・・・まぁパパが言うんだし、仕方ないわね」

 そんな冷めた返事が平坦で聞こえてくる。龍輝もイマイチ反応に困る。が。

大河「だか、ら・・・・・・任せられてあげる!それに・・・・・・、あんたのくだらないお

   仕事を手伝ってあげるのなんて、第二世界にも現実にも、どこを探しても私くらいしか

   いないんだからね!!感謝しなさいよ!蛇足な竜!」

龍輝「は、はぁ・・・そ、そうか」

 龍輝は嬉しいには嬉しいが、まさに蛇足とも言える照れに加え、蛇足な悪口まで添えられた。いや、照れはこいつにはなんだかよく似合っていて無駄ではないのかもしれないが、ご両親の前で言われると、人見知りな龍輝はツッコむ事ができないのだ。故に微妙な空気になる。

 まぁ、最近は、数日前に出逢ったばかりの大河だが。こいつの悪口は嫌でもないと、龍輝は思っているのだ。そう感じているのだ。

虎夫「では、大河愛をよろしく頼んだよ、龍輝君!」

虎嫁「たあちゃんも、あまり迷惑はかけないようにね。パパと虎子と小虎の事は、ママに任せ

   てね。心配なんていらないんだからね」

虎夫「きっとまた、現実で一緒になれる」

大河「うん、そうだよね!」

虎夫「龍輝君も、その時はぜひご馳走するよ。すまないが、それまで延期という事になるがね。

   迷惑ばかりかけているようですまないね」

 本当にその通りだ。と軽くツッコミを入れる。もちろん心の中でだ。そういう考え方もある、と思う訳だ。でも、今の龍輝は全然嫌ではないので。

龍輝「いえ、楽しみにしています。絶対に大河愛さんを、無事に現実へ返してみせます!」

 そう宣言する。自分に誓う。これが、この世界での龍輝の目標になる。

 そして、良くも悪くも真白一家は、変わる為の素晴らしい第一歩?を踏み出したのだ。


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