★家族の想い★
大河「私ね、もう子供じゃないよ。身体はこんなだけど。小さい方だけど。少しずつでも成長
してるし、もうすぐ大人なんだよ?」
大河は落ち着いた声で、しっとり、ゆっくりと話し出す。
虎夫「・・・・・・」
大河「だから、お願いします。ちゃんと門限も守るから、だから・・・私に自由をください!!」
それは、大河が初めて口にした言葉。今まで、胸へ仕舞っていた言葉。
さすがに虎夫も、父として、この大河の言葉を、想いを、無視はできない。――口を開く。
虎夫「駄目だ」
が、答えはNO。話を聞き、それに答えた。それだけでも、初めての事で、大きな進展なのだが、今求めているのは、その答えじゃない。それでは、大河側もダメなのだ。
大河「どうして?ここが現実じゃないから?第二世界だから?それともまだ・・・体裁なの?」
虎夫「・・・お前の為だ」
そんな曖昧な答えで済まそうとする。でも大河は納得できる訳が無い。もうそんな歳なのだ。
大河「そんな事ない!もう、このままじゃ・・・なにも私の為にはならないよ。私の知識は全
部本や人伝で、なにも経験に基づいてない。こんなんじゃ、自分に自信も持てない。こ
んな事続けてたら、本当の私が、真白大河愛が!なくなっちゃうよおっ!!」
自分が無くなる。大河も追い詰められているのだ。長年軟禁され、壊れてしまいそうなのだ。それなのに。
虎夫「なぜわからないのだ?なぜ家出なんかしたのだ?パパの事が嫌いなのか・・・大河愛!?」
その想いは伝わらない。寧ろ、自分は正しいと思っているようだ。
ここで、見ていられなくなったお節介な口が動き出す。
龍輝「わかってねぇのはあんただ、虎夫さんよぉ。」
真白親子は、えっ、と龍輝を見る。それぞれ心の内は違うようだが。
虎夫は、タメ口で意見してきた龍輝に驚き、大河は、驚きつつも自分の為に助け舟を出してくれるんだと、僅かながら期待しているのだ。
龍輝「人生の先輩としてのあんたには敬語を使うが、こんな事もわからねぇあんたには使えね
ぇ。だってそうだろ。元々軟禁状態で、最近に至ってはほぼ監禁だったんだろ」
虎夫「違う!ただ用心の為に、外出を控えさせていたのだ。ただ・・・・・・それだけだ」
ばつが悪い。そんな表情が見て取れる。やはり自分でも、気付いてはいるのだ。
龍輝「それが行き過ぎて強制になりゃぁ監禁も同じだ。特に!大河がそう感じたら、それはも
う監禁なんだよ」
虎夫「それがおかしいのだ!・・・・・・なぜそう感じる?パパの事を信じられないのか?」
パパなんて信じられない。大河がその言葉を本気で口にできない事をわかって、父はそう言う。――それに、そう言う事しかできないのだ。なぜならば。
龍輝「自分のやり方に自信が持てない。むしろ間違っている事に半ば気付いてはいる。そんな
父親の事を、娘も気付いている。その娘が、父親の事を信じられると思うのか?」
虎夫「・・・・・・」
無言。図星を突かれた事。そして、
虎夫「そうなのか、たあちゃん?・・・たあちゃんは、気付いているのに、パパの為に・・・
今までなにも言わないでくれたのか?・・・・・・言えばパパを傷つけるから。そうや
って我慢していてくれたのか?」
そんな大河に半ば気付いてはいたが、目を逸らしていた虎夫。そんな自分を認めるように、そう大河へ問う。
大河はそんな父の心を察してか、潤った瞳でじっと、父を見つめた。
龍輝「信じてねぇのも、わかってねぇのも、あんた自身だったんだよ。考えても見ろ。そんな
状態でも、今まで大河は家に居たじゃねぇか。幼い頃からずっと居たじゃねぇか。スト
レスが爆発しそうで今日家出したかも知れねぇけど、そんな精神状態になるまで、居た
じゃねぇか」
虎夫「・・・・・・っ」
虎夫の瞳が小さく揺れる。
龍輝「不満があっても傍に居てくれる。それが、愛情の裏返しなんじゃねぇのか!!」
虎夫「・・・・・・っ!」
虎夫の目が一瞬、少しだけ大きく開かれ、その後、潤う。
龍輝「それに、親と子の考えは一致しねぇが、愛情だけは一致する、らしいぜ」
虎夫「大河愛・・・・・・」
虎夫の瞳から、ボロボロと、いい歳の紳士とは思えない程、涙の奔流が溢れ出る。
龍輝「俺もまだまだ若造だし、偉いとも思ってない。とてもあなたのような方に説教じみた事
は言えないと思う。でも・・・、今のあんたが間違ってる事くらい、こんな俺にだって
わかる。・・・・・・大河の顔を見りゃぁな」
虎夫「・・・・・・私はぁ・・・私はぁぁ・・・・・・」
大河「・・・パパ・・・・・・」
龍輝「正直言うと、俺もあんたの気持ちがわからない訳じゃないんだ。俺もよく想像したりす
る。自分に娘ができたら溺愛し過ぎて、娘の友達を選んだり、遊ぶ場所を選んだり。必
要以上に手をかけ口を出しそうだなって。でもそれじゃあ、娘は本当の意味で成長でき
ないんだ。世間知らずになって、危険を回避する事もできなくなっちまう。それが、娘
の為になってる訳がない。・・・・・・本当はあなただってわかってたはずですよね?虎
夫さん」
龍輝は、正直な気持ちで事実を語り、フォローじみた事も言う。これが龍輝なのだ。例えどんなに説教しようと、最後にはフォローを入れないと、とっても罪悪感に苛まれてしまう。そんな性格なのだ。
そして、大河の父・虎夫は、長きに渡り目を逸らしてきたものを、今、受け入れる。
虎夫「すまない。パパは・・・パパは・・・・・・自分の事しか考えられていなかった。たあ
ちゃんが無事なら・・・パパ自身も安心だからと・・・・・・。だが、それは結局、自
分自身の幸せしか、自分に都合のいい幸せしか、考えられていなかったのだ・・・・・・」
大河「もういいよ、パパ。それでも、心配してくれてたんだし、そんなに悲しまないで?私は
ね、パパが私の気持ちに気付いてくれただけでも、少しでも考えてくれてただけでも、
嬉しいんだよ」
虎夫「たあちゃん・・・・・・」
虎夫は、更に悲しかった。苦しかった。辛くなった。自分が情けなくなった。愛する娘の口から、そんな事を、「パパが私の気持ちを少しでも考えてくれてただけでも、嬉しいんだよ」という事を言わせたのだから。そこまで可愛そうな思いを、父である自分自身がさせていたのだから。
大河「だからね、もう少しだけ、もう少しだけでいいから、信じてもらえると、もっと嬉しい
な☆」
そんな透き通るような美しくも可愛らしい微笑みに、その、ほんの小さくも大切な願いに、父も改心する。
虎夫「そうだな。反省するよ。こんな自分勝手なパパも、ここで終わりだ。これからは仕事よ
りも、たあちゃんやママの事だけを考えるよ」
大河「ありがと、パパ♪まぁ、それもどうかと思うけど、私も今度からはちゃんと気持ちを伝
えるね。だから、私も反省します」
虎夫「ははははは♪」
大河「えへへ♪」
そう言って2人は笑い出す。2人の間にいつの間にかできていた氷の壁は、こうやって、この時をもって、溶けてなくなるのだ。お互いを想いつつも、決して届かなかった気持ちが、やっと届きだしたのだ。いや、実は届いていたのかもしれないが、今が1番、届いているのだ。
龍輝「立派に育ちましたね」
虎夫「あぁ。遅めの反抗期が来るのかな?」
大河「もう、なによパパ、反抗期って。子供じゃないよ!」
龍輝「反抗期は必要だぞ。反抗期が無い子供は、結婚後に上手くいかないとか、青年期に引き
こもるのは反抗期が無い子供が多いとか、そんなデータがあるからな」
大河「もう!2人してバカにしてるでしょ!!」
虎夫「ははははは♪」
龍輝「はははははっうぅぅっ・・・・・・っっっ」
大河はそろそろ麻痺にも慣れてそうな父親は、一応やめて、龍輝を軽くどついた。すると龍輝は、大河の予想よりも痛そうに苦しむ。
大河「えっ?あっそうだ!いけない!早く回復しなきゃ!」
突然取り乱し、慌てふためく大河。本当にお嬢様らしい落ち着きもない小動物だ。たまに猛獣だったりするが。
龍輝「いや、これは筋肉痛だよ。それにもし回復しても、これは治らないよ。筋肉痛は回復ア
イテムじゃ治らないように、自分で設定してるんだ」
このゲームは、ゲームであって、より現実にも近い世界なのだ。故に、戦闘によるダメージや傷のみを回復対象にする設定も可能である。
大河「は?どうしてそんな意味のない事をするのよ?」
龍輝「わからないか?筋トレした日とかその翌日とか、筋肉痛になった方が達成感あるし、も
っと筋肉つくって実感できるし、強くなれるって思えるし、やった甲斐があるって満足
できるだろ」
その傍らでは、横になったままの虎夫も頷いている。
大河「ほんと・・・あんたって。そもそも男ってみんなこうなの?私わかんない」
虎夫「ははははは!」
龍輝「ははははは!」
大河「もうっ!」
そんなこんなで、本当の意味での一件落着を迎えた。影王の件も、大河一家の件も、無事、解決したと思っていいのだ。
そしてすぐに、リムジンに待機しているセバスを、虎夫の痺れた指を大河が手伝う形で呼ぼうとするが。
セバス「どうなさいましたか!?皆様!?・・・・・・!!!」
ちょうど来た。さすがにご主人様の虎夫や虎嫁の戻りが遅いので、待っていろ、と言われてはいたものの、様子を見に来たようだ。虎嫁もお花を摘んでまいります、と言って以来、リムジンには戻ってきていなかった事も、気なって気になって仕方が無かったのだろう。そして、この満身創痍な現状。当然の如く、見ず知らずの龍輝を睨みつけ、戦闘モードに入ろうと身構える。
それを止めようと虎夫は大声を出す為、痺れに逆らい大きく息を吸うが。
大河「待ってセバス!違うの!この人は私達の恩人で、私の、私の・・・・・・お友達なの!!」
より早く、大河が叫んだ。もちろんセバスも、こんなに素直に自分の気持ちを叫ぶ大河を見るのは初めてだ。幼児の頃を除いてはだが。それに、お友達という言葉にも驚く。
そんな大河のおかげで、戦闘モードではいられないセバスに、みんなで経緯を説明し、無事、大河父・虎夫と大河母・虎嫁は麻痺から回復。龍輝も重なる状態異常から回復してもらい、大河の両足捻挫も無事回復。
その後、なぜか龍輝が気絶している影王を背負う流れになり(大河に指示された)、リムジンまでみんなで行くと、虎夫にある提案をされた。真白邸で、今回のお礼をしたいという事で、後日、食事に誘われたのだ。どうやら、この少女との関係は、ここで終わりではなさそうだと、龍輝は密かに胸をふくらませる。
そうやって、この日は解散した。大河は家族とリムジンに乗り、セバスの運転で帰宅。もちろん、拘束した影王も乗っている。
龍輝は、1人寂しく、愛車を運転し、現実で行きつけだったエミエールで買い物をし、誰も待ってはいない自宅に帰宅。
この日は疲れもあり、さっそくゆっくりお風呂に入る。お風呂は夕食前に入った方が精神面にもいいし、事故防止にもなるというデータもあるのだ。そして、洗髪にはこだわりがあり、水のダメージから髪を守り、更に香りも良いパンティーンで、シャンプー、リンス、トリートメント、洗い流さないオイルまでしっかり使い、髪をケアする。
その後、ご飯を1合炊きつつ、キャベツを千切りし、小さめの鍋で毎日継ぎ足し継ぎ足しのスープを作る。その中に、ダイエットや腸内環境を整えるのに効果的で、糖分の吸収も抑える水溶性食物繊維である海草のワカメを入れ、良質な筋肉をつける為に、ささみをいつもより多く入れる。せっかく、物凄く筋肉痛なのだからと奮発して、3本入れる。最後に卵を投入。もちろん半熟だ。半熟の方が、成分が壊れず、風邪の予防にもなるのだ。ちなみにこの日はご飯を炊く日だった。毎日余ったご飯はラップに包んで冷凍しているので、ある程度溜まったら、ご飯を炊かないで、冷凍させていたものをチンして食べる日があるのだ。節約だ。
結果この日の晩ご飯は、キャベツにケチャップ、ゴマドレッシング、オリーブオイルを適量かけたサラダを丼一杯食べ、スープのワカメを食べ、スープを飲み、ささみを食べつつ、半熟卵も食べつつ、ご飯を食べる。ここにまだこだわりがあるのだが、半熟卵は、白身と黄身を別々に食べる。口の中で一緒にしては、栄養をきちんと吸収できないらしいのだ。胃の中では混ざってもいいらしい。そしてこの食べ方は、食順ダイエットにもなっている。きちんと1日の摂取カロリーの15%が炭水化物になるように、勘で食べてもいる。というより、そこまではさすがにわからない。お金に余裕はないので、現実でもこんな感じの食事が多いのだ。たまに贅沢もするが。
こんな感じでゲームらしくないところも多々あるのが、他とは違って魅力でもある。本当の身体がデータ化されこちら側にあるのだから、食事も必要なのだ。
食後、こだわりのティパールが並んだキッチンで、ジョイボーイを使い食器を洗い、適当に時間を過ごし、深夜に寝た。小学生の頃からの夜更かし癖だ。早く寝ると時間がもったいない気がするのだ。
翌日、大河からのメールによると、影王は目を覚ました後、虎夫さんと丸1日話していたらしい。そして自ら、警察ギルドへ出頭したらしい。ちなみに、その2人の会話を聞いた者は、誰もいないとの事だった。




