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★暴走★

影王「いやいやァ、驚いたよォ・・・」

龍輝「っ!?」

大河「・・・うそ・・・よ。・・・そんな、まだ・・・立つの・・・?」

 ふらふらと立ち上がるの影。――影王はまだ生きていた。というより、飛びもしないのだ。

龍輝「やれやれ。再生エリアに飛びはしなくても、せめて大人しく寝ててくれないか?」

影王「無理な相談だなァ。クソガキにこゴまでやられてェ、私のプライドはズタズタダのだよ

   ォ。ドゥやら、皆殺しでボ満足にプライドをできるガわからんダァ」

 ダメージの影響か、言葉がおかしく、更に気持ちが悪い。ただでさえ、立ち上がっただけでもなのに。がのようにげ焦げで、見るに耐えないのに。

龍輝「皆殺しだと。そんな事で修復できるプライドなら捨てちまえよ」

影王「う・・・ヴ・・・ドゥ・・・ザ・・・・・・・イィィィ・・・・・・」

龍輝「うるさい?てかどうした?いい様子が変だぞ。ほら、続けるのは無理なんじゃねぇ

   のか?限界って感じだぞ」

 言葉による返答はなくなった。代わりに、

影王「ドゥオ、オゴゴグゥ・・・・・・ウヴヴヴゥゥウギガグガガガ・・・・・・」

 り声のようなものをし始めた。そして、その身体は見る見るうちに、

龍輝「おいおいおい、なんなんだよ・・・!?」

大河「まだ、変身するの・・・・・・!?」

 更に大きくなる。5mはあるだろうか。が人間とは思えない存在へと変化していく。すでに人ではないではあったが、ここまでくるとモンスターそのものだ。というより鬼のだ。鬼というだけでも化物なのに。2本の角、赤くギラつく眼球、岩石のような、太く重たそうな、更に鋭い、肩周りには針のようながある。

虎夫「いや、あれは違うぅ・・・ぅ・・・あいつの、影王の意思ではないぃ・・・」

 口を開くに、激しいれに顔をグシャグシャにめ、それでも口を開く。

大河「どういう事?何か知ってるの、パパ?あ、でも無理しなくていいからね」

 龍輝は大河の肩に手を置き、その顔を見る。そして、きかけ、

龍輝「虎夫さん。いでしょうけど教えてください」

大河「ちょ、でも無理には」

龍輝「静かに。お父さんの声が聞こえないだろ。それとも無理に大きな声を出させたいのか?」

大河「あんたねぇ!」

龍輝「うるせぇっつっとるやろ!なんかわかるのはお前のお父さんだけっちゃけん、少しれ」

 った状態にり出し、も飛び出す。あまり方言が好きではない龍輝は、普段は隠しているのだ。特に、相手が大河のような標準語を話す人だったら絶対標準語だ。

大河「っ・・・なによ・・・もう・・・・・・」

 大河は少し驚いたようで、小さくピクっとし、言葉が止まる。

 龍輝にも罪悪感はある。大河に対しても。虎夫さんに対しても。短気な自分も嫌いだ。普段から直そうとは思っているが、でも、遺伝なのかも、とも思う。母と祖母が喧嘩しているのは、よく見てきたし、祖父はDVまがいだったらしい。父親に関しても、母や自分に手を上げていたと聞く。遺伝なのかと思っても不思議ではないのだ。でも、それを言い訳にしないようにはしている。だって、それを言い訳にしたら、直らないのも仕方ない、という感じになってしまうからだ。それに、友達にはそこまで短気でもない。家族に対して短気になってしまう。あとは、今のように追い込まれた時だ。

龍輝「俺だって無理はさせたくねぇよ。全身がれてるなんて、想像するだけでも恐ろしい。

   でも見ろ。影王はいつが終わってまた俺達を襲い始めるかわかんねぇんだぞ。みん

   なで助かる為にも、ここはお前のお父さんに聞くしかないんだ」

大河「・・・そう、だけど」

虎夫「パパなら・・・大丈夫だよ、たあちゃん」

大河「パパ・・・」

 ぎこちなくも大河にんでみせる大河父。

虎夫「恐らくだが、あれはソーディアが暴走している」

大河「暴・・・走?ソーディアって暴走するの!?どうしてなの!?」

 大河はし、龍輝を見上げる。どうやら父に続いて、今度は龍輝を心配し始めたようだ。

龍輝「あ、あぁ・・・マジ・・・か・・・はは・・・・・・」

 龍輝も動揺していた。自分のこのソーディアもいつか暴走するのか、という不安が、をめくしていた。すると今度は、1番聞きたいものが聞こえてきた。

虎夫「いや、君のソーディアは大丈夫だ。安心していい」

龍輝「え?本当ですか!?」と、大河「本当!?でもどうして?」はほぼ同時。

虎夫「奴の、影王のソーディアは・・・いや、ソーディアも、人工的に作られたものだろう。

   闇で作られた、擬い物のソーディアだよ」

大河「そんなものまであるんだ・・・この世界・・・。でも、なんでわかるの?」

虎夫「数年前、私にも声がかかった。公にはできない研究だが、経済面でいいので協力してほ

   しいとな。だから、調べたさ。どんな研究なのかを。・・・それは想像を絶するものだっ

   た。・・・人やソーディアを使っての人体実験など、決して許されざる研究がほとんどで、

   まだ私も知らない実験が数多くなされている。この事を公にしたかったが、もし1人で

   もこの事をバラせば、家族に危害を与えると脅されてな」

龍輝「それで大河を・・・」

虎夫「あぁ。・・・元々心配性なのだ。そんな事があったから尚更、外には出せんかった・・・」

大河「・・・パパ・・・」

 軟禁の真実が、その理由が1つわかった。やはり、家族の為。大河の為、だったのだ。

 大河は理由を知り複雑な心境のようだ。そんな悪い事が起きていたのだから。パパも苦しんでいたのだから。でも、それは優しさからきた行動でもあるのだから。故に、また、涙が滲む。

虎夫「すまん。話を戻そうか。・・・やはりソーディアというだけあり、大した力を発揮する。

   だが違法武器だ。その理由は・・・・・・ノルマがない」

龍輝「なんだよそれ・・・・・・ずるいだろ」と、大河「そんなのずるいわ!」が、また同時。

 だが当然だ。普通の武器よりも、能力や属性が強い傾向にあるソーディアだからこそ、リスクとも言えるノルマが設定されているのだ。なのに、それがない。強い武器を、ただ好き放題に装備して、好き放題に使えるのだ。それは反則的にずるいのだ。故に違法武器となる。だが、

虎夫「それだけなら、そう思うのも無理はないだろうな。だが、真実は今も見た通りだ」

 龍輝と大河は、無言のままお互いの顔を見つめる。その瞳を見つめる。そして向き直り、

龍輝「暴走・・・ですか?」

 核心を求める。

虎夫「あぁ。リスクのない最強武器なんて、このゲームには本来、存在してはならない。故に、

   力は不安定となり、いつ暴走してもおかしくない状態となる。・・・そして、暴走したソ

   ーディアは人を喰らい、モンスターと化す。しかも・・・その強さはボス級に匹敵する」

 ボス級なんて、とても1人では勝てないような強さなのだ。もちろん弱いボスも稀にいるが、戦闘経験が極端に少ない、というより皆無に近い龍輝達には、それでも物凄く驚異なのだ。

大河「そんな!?」

龍輝「元に戻す方法はあるんですか?」

虎夫「・・・確実な方法は、無い。1つ可能性があるとすれば、ソーディアの力を持って倒す

   事。それで人に戻る可能性はあるが、保証はない。関わらん事、逃げる事が、最優先だ」

大河「そうね。危険すぎるわ」

 こんな危険生物を放っておくのも気が引けるが、動けない者2名、満身創痍1名、両足捻挫1名の、ボロボロな状況なのだ。とても対処はできない。今の内に逃げる事しかできない。

虎夫「そろそろ意識の侵食も終わり・・・行動を開始するだろう。その前に急ごう。・・・下に

   リムジンがある。セバスも乗っている。・・・セバスなら常に一通りのアイテムも持って

   いるはずだ。・・・早くママを回復してもらおう」

大河「うん、わかった!」

 自らも相当辛いだろうが、一刻も早く回復したいだろうが、それでも虎嫁さんが優先。やはり紳士なのだ。

 ――セバスとは、虎夫さんにメインでついている執事だ。

虎夫「龍輝君だったかな。君も行こう。すまんがたぁちゃんを手伝ってはくれないか?私たち

   夫婦はこの通りだ」

大河「龍輝はママをお願いね。ママの方が酷いから、あんたが先に行ってちょうだい」

 特に重症なママを早く回復させてあげる為、重い父を大河が、軽い母を龍輝が、と提案した。

龍輝「いや・・・・・・」

大河「なによ嫌って!パパの方がいいの!男同士がいいっての!?気持ち悪っ!!」

虎夫「私も男同士はなぁ。たあちゃんがいい・・・だがママを他の男に任せるのもなぁ・・・・・・」

龍輝「親子揃ってなに言ってんですか!?」

 なにか変な事を言い出した父と娘に、すかさずツッコむ。天然は遺伝なのかと思いながら。

大河「じゃあなによ!まさか、あいつを放っておけないとか言い出すんじゃないでしょうね?」

 牙を剥きつつ適当に予想されたが、

龍輝「その、まさか、だったらどうする?」

 意味深に質問に質問で返す。答えを含んではいるが。

虎夫「龍輝君っ!?」

大河「あんたねぇ!バッカじゃないの!?いいっ!?あいつは危険なのっ!ボス級なのっ!今

   の話聞いてたでしょっ!!1人でどうこうできるモンスターじゃないのっ!!・・・わ

   かったら早く逃げるわよ!ほら!ママを早く連れてってあげて!」

 正論だ。身体を膨らませたかのような覇気を持って怒られた。猛獣に正しく怒られた。でも、

龍輝「モンスターだと・・・?・・・どうしても逃げたいなら、お前達だけで行け」

 龍輝も苛立っていた。今にも襲い来るという焦りと、意見の食い違い。違う思いがあるのだ。

大河「はあ!?もう意味わかんないっ!!私1人でどうやってパパとママを連れて行けってい

   うのよ!?いいから早く手伝って!!あいつが襲ってきてからじゃ間に合わないっ!」

 大河も余計に怒る。こんな一刻を争う場面なのだ。焦りが冷静さを上書きする。

龍輝「考えても見ろ。ここは街エリアだ。ダメージを与えればパパもママも飛ぶじゃねぇか」

 言ってしまった。龍輝は怒りを我慢しすぎて、いや、少し我慢できなくて、辛口すぎる発言をしてしまった。龍輝は、こういう自分が嫌いだ。

 大河はビックリして黙る?娘ではなかった。こういう時は猛獣性が発揮されるのだ。

大河「ちょっと!あんたねぇっ!!いくら状況が状況だからって、言っていい事と悪い事があ

   るでしょっ!!」

 こんな時なのに、喧嘩をしている場合じゃないのに。誰かが止めなくては。

虎夫「たぁちゃん!!・・・・・・いいんだ」

 止めてくれた。無謀にも影王モンスターに挑もうとしている龍輝ではなく、大河を止めた。

大河「えっ!?パパまでどうしちゃったの?」

虎夫「彼の目を見なさい」

 言われるまま、少し落ち着き龍輝の目を見る。力強い目つきをしているが、大河の頭は?だ。

虎夫「よく覚えておきなさい、たぁちゃん。あれは、男の目だ。英雄とでも言おうか。男がな

   にかを本気で覚悟した目。決して譲れないものがある。その目だ。だからこそ、つい熱

   が上がり、時として言い過ぎる事もあるのだよ。・・・・・・見守ってあげなさい」

 決して噛むまいと痺れに耐え、大河父はそう語る。

 大河の小さなお口は、少しだけ尖り、

大河「なによそれ?意味わかんない」

虎夫「そうだな。たぁちゃんは女の子だもんな」

大河「もう、子供扱いしないでってば」

 更に尖ってしまった。

虎夫「ははは、すまんな。でも、男があの目になった時は、黙って見守ってあげなさい。決し

   て、邪魔をしてはならん。どんなに彼が傷つこうと、見ているのが辛かろうと。決して」

 大河は、こんな父の表情は見た事がない。真剣そのもの。これが父の顔なのだ。

大河「なによ、男男って。それに傷ついても放っておけって、そんなの・・・・・・」

虎夫「放っておくんではない。見守ってあげるのだ」

 大河は悲しい表情でもあり、理解に苦しむ難しい表情にもなる。

大河「もう意味わかんない。・・・・・・でも、わかったよ」

虎夫「いつかきっと、本当にわかる時がくる。それまで頑張りなさい」

大河「うん」


 久々の父と娘の会話が終わる頃、それは始まろうとしていた。

虎夫「・・・・・・そろそろだな」

 虎夫さんと大河の視線の先。暴走する者と、それに向き合う者の姿があった。

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