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★一件落着★

影王「・・・!?なぜだ!?」

 龍輝は全てをかわす。誰もが、影王でさえもがヒットさせたと確信するのだが、それとほぼ同時に龍輝はかわすのだ。

龍輝「知ってるか?スポーツにおける速さってやつを。特に、コートが狭いバスケにおける速

   さってのがなんなのかを」

影王「そんな子供の玉遊びなど知るか!」

龍輝「そうか。なら教えてやるよ。お前の速さと俺の速さの違いをな!」

 龍輝はバックステップで影王と距離ととる。

龍輝「バスケでは100m走が速いだけじゃ速いとは言えねぇ。必要なのはスピードの切り替

   えの速さだ。0から100になる速さ。100から0になる速さ。それが大切なんだ。

   いくら100m走が速くても、トップスピードになるまでが遅い奴は、ディフェンスを

   抜けないし、オフェンスには置いていかれる。初めの1~2歩が勝負を大きく左右する

   んだ。なんせコートが狭いからな」

影王「ふんっ。ならば私も、そのスピードの切り替えとやらをすれば良いだけという事かな?」

 大河は、はっとする。内心騒ぎまくる。

大河(なに言ってんのよ龍輝は!そんな事教えたら、あいつがもっと厄介になるじゃないの!)

龍輝「いや、そう上手くはいかないだろ。」

影王「なんだと?」

龍輝「だって俺には炎操作があるからな。つまり、お前じゃ俺には勝てねぇ」

影王「くだらん!」

 再び影王は、その鬼のような姿と形相で襲いかかってくる。が、

龍輝「確かにてめぇは速ぇよ。けど、ずっと同じ速さだ。まだまだ切り替えが遅い。それじゃ

   あ目が慣れちまう。身体もな」

影王「慣れたからなんだァ!反撃の1つも無いではないかァ!」

大河「本当だ。なんだかこう・・・・・・避けるのでいっぱいいっぱいって感じ・・・」

 実際、そうなのだ。口では強気な発言を繰り返しているが、反撃のタイミングを掴めない。所詮、龍輝は戦いの素人なのだ。避ける事はできても、連続攻撃を前に、反撃ができない。避ける事だけに精一杯になる、ドッヂボール初心者のように。その強気な発言でそれを隠し、なんとか影王の動揺を誘ってはみたものの、効果半分というところだろう。

龍輝(確かにそうだ。今の俺の火力じゃ、炎操作してもこれが限界だ。・・・・・・でも、だか

   らって、ここで諦められるわけねぇだろ)

 龍輝の顔は冷静だが、心は焦っている。追い詰められている。だが、元々龍輝は、いざという時に本領を発揮するタイプでもあるのだ。人見知りで奥手ゆえに、いざという時にしか、頑張りを見せてこなかったのが、染み付いているのだ。今ではそれが、カッコイイと思っている。

龍輝「・・・・・・一か八かに賭けるか」

 覚悟を決める。なんとなくだが、今の俺ならやれる!という自信もある。

影王「はァ?なにか言ったかァ?クソガキィ」

龍輝「見せてやるよ。俺のとっておき。まぁ、見えれば、の、話だがな」

 すると龍輝は、左手に持っていた長剣を捨て置き、ソーディアの鞘を出現させ、左に持った。そのまま、ソーディアを鞘に納めつつ、

影王「どうした。諦めるのかァ?」

大河「いや、違う。・・・あの構えはなにかあるんだ!」

 龍輝は構える。鞘に納めたソーディアを左腰に添え、左足を引き、膝を曲げ、腰を落とす。左手は鞘。右手は柄。

龍輝(膝のバネを使う。バネには自信がある。炎操作も合わせる。・・・あとはタイミングだ)

影王「居合かァ?そんなものが俺に通用するとでも思っているのかァ?」

大河「確かに、どんな攻撃かわかりきってる・・・それに・・・・・・やっぱりあいつは速い!」

龍輝「わかってても避けきれないものもある。わかってるつもりでもわかってない事もある。

   さぁ、来いよ!」

影王「言われるまでもない!全速力を持って、正面からお前の自信諸共切り裂いてくれるわ

   ァ!絶望に眠れェッッ!!」

大河「正面から!?でもそれなら、龍輝のチャンスだ!」

龍輝「なめやがって!!」

 影王は、構えた龍輝に正面から攻撃を仕掛ける。あれだけ速い影王なのだ。背後に回り込んだり、頭上から仕掛けたり、何通りでも攻撃方法はあるだろう。なのに、それなのに、居合を相手にあえて、正面なのだ。それはつまり。それが決まった時。影王の攻撃がヒットした時、龍輝はスピード、技、賭け、自信、全てにおいて敗北する、という事に、限りなく等しいのだ。

影王(全速力で正面から一瞬にして抉り殺すゥ!・・・フリをするゥ。すると奴は剣を抜き居

   合を発動する。それを寸前でかわしてやるゥ。その瞬間、奴は無防備。そこを攻めるゥ!)

龍輝(なめられんのはムカつくけど、だがいい!そのまま正面から来い!)

 影王が龍輝の正面に迫る。

影王「遅いッ!」

 影王は言葉のフェイントを仕掛ける。まだヒットさせるつもりはないくせに、龍輝に剣を抜かせる為、(いくら居合とはいえ、今から抜いても間に合わんぞォ!)と気迫を放ち焦らせる。

 大河とその父が見守る中、龍輝と影王の距離がなくなろうとしていた。

龍輝「今だっ!炎一刀流居合 紅炎爆月斬!!!」

 炎を纏った斬撃が鞘から放たれた。そのスピードは・・・見えない。

影王「なにィッ!?」

 影王にも見切れない斬撃。だが、

大河「・・・ダメッ!!」

 影王には当たらなかった。元々影王はかわそうとしていたのだ。ただの居合ではないと感じた瞬間、その刹那、減速したのだった。・・・その僅かなタイミングのズレが、影王を救った。

大河「やられちゃうっ!!いやぁあああ!!!」

 思いっきり振り放った龍輝の右腕は、ソーディアと共に右へ振られ、正面は無防備。影王の狙い通りだ。

影王「雑ァ魚がァ!!」

龍輝「うりゃあああっ!!!」

 龍輝の開け放たれた懐に、影王の鬼の爪が最接近した。もう終わりだ。もうかわせっこない。ギュッと目を瞑る大河。――そして。

 ビュゴォオオォォオオオオオオオ!!!!!

 凄まじい炎の轟音に、大河は目を見開いた。その瞳に映るものは、

大河「・・・・・・えっ?なんで・・・・・・?」

 爆炎が広がり、その中央では、影王が炎に包まれていた。

虎夫「・・・うぅ・・・どうなったのだ・・・?」

 全身が痺れ、指先一つ動かすのが苦痛な虎夫は愛娘に問う。

大河「・・・わかんない。影王の攻撃がヒットしちゃうって思ったんだけど・・・」

虎夫「・・・だけど?」

大河「よくわかんないの。私、目、瞑ちゃった。・・・でもその時になにかがあって、今は辺り

   一面が火の海みたいになってて、龍輝は見えなくて・・・その中で影王が・・・・・・」

 影王が燃えてる。なんて表現はできないようだ。それなりに残酷な光景でもあるのだから。

龍輝「ハァ・・・ハァ・・・ほら、勝った・・・」

 燃え盛る炎と立ち込める煙が落ち着きだし、ようやく龍輝の姿も大河の瞳に映し出された。龍輝も立っているのがやっとという状態で、特に両肩や腰を痛めているようだ。

大河「龍輝!!大丈夫なの!?あんたふらふらじゃない!一体何をしたのよ?」

 大河は駆け寄り、龍輝の身体を支えつつ、顔を覗き込み、見上げてくる。

龍輝「ハァ・・・簡単な事さ。俺が放ったのは、ただの居合じゃない。・・・まぁそれは、あい

   つも感じたみたいで、かわされるかと思ってひやひやしたよ」

大河「ただの居合じゃない?」

 そのまま小首を傾げ訊いてくる。

龍輝「あぁ。鞘の中で炎を噴出させて圧縮した。その勢いに乗せて居合を放ったんだ」

大河「すごい!」

龍輝「いや。それはかわされたよ」

 龍輝は首を横に振りながらそう言う。

大河「え?じゃあ・・・?」

龍輝「さっきの技はそれだけじゃなかったんだ。実はもう1つ効果があった」

大河「それっていうと?」

 更に首を傾げる。

龍輝「爆炎の追撃。斬撃を放った後、あまりの剣の速度に一瞬遅れて、爆炎による斬撃が追撃

   するんだ。ほぼわからないくらいの遅れだけど、それが効果的だった。居合と、炎によ

   る飛ぶ斬撃の二段奥義。あいつは、影王はそれに焼き切られた」

大河「だから目を瞑ったあと、あんな音が聞こえたんだ」

 納得はしたようだ。すると突然、龍輝の前に移動する。突然支えがなくなった龍輝は、苦痛に耐え、踏み止まり、

龍輝「おい!危ねぇ」

大河「よかった!」

 急に満面の笑み。大きな瞳を横に伸ばし、天使のような笑顔を見せる。でも、その瞳の端には、じわじわと涙が滲んでいる。

大河「ホント・・・心配なんかしてないけど、でも・・・でも」

 ツンな部分が邪魔をして、ここぞという時に素直になれない。今更なのに、泣きながら心配しているなんて言えない。だが、そんなのはバレバレで。

龍輝「あぁ、お前が信じててくれたからこそ、俺も勝とうって強く思えたんだ。それが勝敗を

   分けたんだと思う。ありがとな!」

 大河の頭にポンッと手を置き、2~3度撫ででやる。

 カチ~ンと大河の身体には力が入り、固まってしまったが、色は変化する。首元、首筋、ほっぺ、耳。全てが赤に近い桃色になる。まるで、ピンクにライトアップされた氷像のようだ。でも、目は泳いでいる。――すると、ぷいっと反対を向き、

大河「だから心配なんてしてないって言ってんじゃない!それに、もし・・・もし!だけど、

   私が心配してたら感謝しなさいよねっ!あんたなんて無謀なバカを心配するのなんて、

   私くらいしかいないんだからねっ!」

 と最大限の素直さを発揮する。

龍輝「おう!心配してくれてありがとな!」

大河「もうっ!・・・・・・そ、それにしても、攻撃食らっちゃったの?パパが気になるって・・・」

 やはり気にはなるので、モゴモゴとパパのせいにする。

龍輝「いや、自分の技の反動だよ。遠心力が酷くて」

大河「よくそんなの掴んでいられたわね」

 大河の言う通りなのだ。満身創痍になる程の勢いで噴出される剣を最後まで掴んでいた。その事に、龍輝も驚いていた。これも、日頃のトレーニングの賜物だろうと達成感も感じていた。

大河「じゃあ死なないのね?」

龍輝「死なないと思うよ」

大河「なんかあんたニヤついてて気持ち悪いし、頭は大丈夫じゃないみたいだけど、まぁそれ

   以外は大丈夫そうでよかったわ。気持ち悪いし頭はアレだけど」

龍輝「うっ・・・・・・。2回も言うなよぉ・・・・・・ずっと努力してきたんだし、その成

   果を感じられたから嬉しかったっていうか・・・」

 達成感を感じるあまり、龍輝はニヤニヤしてしまっていたのだ。それを大河に見られて、そこをつつかれて、急に恥ずかしくなった。利口な言い訳はできずに、素直な理由が口から出た。

大河「まぁでも本当よかった。これでようやく解決ね。さ、早くパパとママを回復させましょ」

 ほんの少しホッとした時間を感じ、だがまだまだやる事はあると、大河はそそくさと両親の元へ向かう。大河父は全身の痺れに顔を歪めており、大河母は全身麻酔されたかのように感覚はなくなり、止まりそうな呼吸に苦しんでいるのだ。

大河「ほら!あんたも早く手伝うのよ!」

龍輝「お、おう!」

 ここに来て、大河が段々逞しくなってきているというか、印象が少し変わりつつあった。

 そんな時、1番聞きたくないものが聞こえてきた。

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