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★虎一家(タイガーファミリー)★

そこに登場した男性の正体は。

大河「パパッ!?」

龍輝「パ、パパだって!?」

 どうやら大河の父のようだ。よりにもよってこんなタイミングでなにをしに来たのか?いや想像はつく。大河の初の家出で、居ても立ってもいられなくなり、ファミリーリストから大河の現在地情報を頼りに探しに来たのだろう。

影王(ちっ。なぜクソ虎夫がここに)

  「これはこれはご主人様。わざわざおいでとは、どう致しましたか?いくら街エリアとは」

 影王は内心舌打ちをし、呼び捨てにもし、執事の演技をする。ここで大河の父に正体がバレては、計画実行が難しくなるからだろう。でも、やはりもう手遅れなようだ。

虎夫「くだらん演技はよすんだ。言っただろう。一部始終は聞いていたんだよ」

大河「パパ!来ちゃダメよっ!こいつは危険だわ!早く逃げて!!」

虎夫「たぁちゃん、危険だとわかっておいて、大切な娘を置いて逃げる父親がどこにいる!」

大河「でも!そうかもしれないけど!そんなの・・・・・・パパまで巻き込まれちゃうよ」

 大河は自分のせいで、龍輝だけじゃなく父までも巻き込まれると思って、悲しく、辛く、苦しくなる。

 それを、その大河から察する事ができた。

龍輝「なにも気にすんな。誰1人、お前のせいで巻き込まれたなんて思ってねぇよ。好きでこ

   こにいて、好きでこうしてるんだ。男ってのはな、か弱い美少女を守る事に憧れてんだ!」

大河「こんな時になに変な事言ってんのよ。バッカじゃないの?・・・でも。わかったかも」

 完全には無理かもしれないが、大河の不安な気持ちを少しでも消してあげる事はできたようだ。今はそれでいい。このまま放っておいたら、きっと泣き出していたのだから。これでいい。

影王「フフフ・・・フハハハハアッ!!親子揃って計画を乱してくれるなァまったくゥ。本当

   にクソみたいな奴らだ。だがまァいい。聞いていたのなら話は早い。・・・では虎夫。全

   財産を渡してもらおうか!金、宝石、もちろん全てだ!なにもかもだァ!そうすれば、

   このクソ小娘は返してやらん事もないぞォブハハハハハァッ!!」

 本性剥き出し。目剥き出し。歯茎までも剥き出しにする勢いだ。血走った目が実にキモイ。

大河「ダメよパパっ!騙されちゃダメ!こいつは誰1人生きて返そうなんて思ってないに決ま

   ってる!だから・・・だからやっぱり逃げて!龍輝!あんたもよ!いくらあんたが多少

   の才能があったとしても、あいつはやっぱり危険過ぎるよ!だから勝てない!私を置い

   てでもパパと逃げて!!」

龍輝「大河・・・お前なぁ・・・!!」

 龍輝はキレそうになった。いや、もうキレている。影王に勝てないと言われたから。信じられていないから。1番か弱そうな美少女を置いて逃げる男にされようとしているから。なにより、助けると約束したのに、それすらもできなくなるような事を言われたから。だから、言ってやろうとした。

虎夫「たぁちゃん!」

 だが、その声は虎夫さん。

虎夫「たぁちゃん。パパを心配してくれるのは嬉しい。こんなパパなのに、ありがとうよ。で

   も逃げる事はできないんだよ。・・・たぁちゃんの事が大切だからこそ、色々と不自由さ

   せているのはわかっている。悪いとも思っている。でもなたぁちゃん。だからこそ、た

   ぁちゃんの事が大切だからこそ、そうしているのだよ。そしてそれが本当だからこそ、

   たぁちゃんをここに置いては行けないんだよ。例え、パパが死ぬような事があってもね」

龍輝「・・・・・・!」

  (へっ、やっぱり大河愛なんて名付けるだけあるじゃねぇか)

 確かに、軟禁とか監禁まがいとか、やり方は間違っているかもしれない。でも、その愛情は本物だとわかった。目の前でそれを感じる事ができた。龍輝の胸は温かい感情を感じていた。故に、怒りの感情は抑えられた。

 ただ、大河は納得できないようで。

大河「パパぁ・・・お願いだから逃げてよぉ・・・・・・死ぬなんて言わないでぇ・・・!」

 大きな瞳に涙が滲む。大きな涙の粒となり頬を流れようとしている。ふるふるしている。

 虎夫さんは、その大河の顔を見届け、影王に力強い眼光をぶつける。それは覚悟の目だ。

虎夫「・・・・・・。おい中島。今回の事はなかった事にしてやろう。金が欲しいのなら退職

   金として好きなだけくれてやる。額を言いたまえ」

 お金よりも、大切な娘に危険がない方法を選んだ。父として当然ではあるが、良い答えだ。なにより、影王にも良い答えなはずだ。なかった事にしてもらえるばかりでなく、お金までももらえるのだから。双方が納得できる、良い解決方法。きっとこの虎夫さんは、会社を大きくしたやり手なのだろう。

影王「・・・足りんなァ」

 ぼそりと聞こえてきた。聞きたくない言葉だ。この場が解決しない言葉だ。

影王「それじゃア足りんなァ!」

 はっきりと聞こえてしまった。

虎夫「なんだと?じゃあなにが望みだと言うんだ?」

影王「そうだなァ。やはり。・・・娘・・・このクソ小娘をもらう事にしよう!!」

大河「えっ!?」

 とんでもないものを要求してきた。いや、やはり初めから返す気はなかったのだろうか。

虎夫「ふざけるなっ!」

 吠えた。冷静を貫く事なく、吠えた。今の虎夫さんはやり手のお金持ちではなく、1人の父なのだ。

影王「ふざけてなどいないさ。このくらいの小娘はなァ、その筋のクソ変態共から金を巻き上

   げるのにもってこいなのさァ!このクソ小娘が死なない限り、どんどん金を生むぞ

   ォ!!」

大河「ふざけるなっ!龍輝より質の悪いゴミのような変態ねっ!!」

龍輝「・・・おいおい」

 先程まで泣きかけていた大河だが、いつの間にかその顔は怒りで満ちていた。やはり大河は大河なのか。しかも、しれっと龍輝まで言葉の被害に遭っている。

 だが、影王は喜んでいる?

影王「フハハハァ!見ろォ、この強気な態度ォ!この表情が男共によって調教されていく!そ

   の姿ァ!想像するだけでイケるではないかアッ!!面白いではないか!笑えるではな

   いか!!ブゥワハハハハハァ!ゲハハハハハア!ギャハハハハハアッ!!」

 まさに下衆の極み。そんな奴が目の前にいた。

大河「・・・・・・そ・・・んな・・・の・・・い・・・いや・・・よ・・・。ひぃっ・・・」

 なにを想像したのか。大河は両手で胸の前を守るようにして、ぺたんと地面にアヒル座りしている。

虎夫「貴様!私の大切な娘で、そんな、そんな卑猥な想像をぉっ!!」

 大河父はキレる。世の中のお父さんも、その気持ちはよくわかるだろう。

影王「いくらでもしたさァ!毎晩毎晩なァ!計画を練る度に、笑い転けたさァ!!」

大河「くっ・・・!!」

 大河に意味が通じているのかわからないが、不愉快なのはわかる。それに、意味がわかる?なんて、龍輝はとても聞ける気がしなかった。

虎夫「私が直々に処分を下してやる・・・!!力づくでもな!中島!!」

 影王VS龍輝。のはずが、いつの間にか、影王VS虎夫、になりかけている。

影王「そもそも、中島なんてのは偽名ですよォご主人様ァ!私の事は、影王と呼べェクソが

   ァ!!」

虎夫「貴様の名など、覚える価値なし!!!」

 その瞬間、始まった。影王VS虎夫。虎夫さんの先制攻撃。まだ構えもしていない影王へ、怒りの斬撃。怒った父は、娘を守る為なら容赦などしないのだ。その顔は、怒りに満ちている。

 誰もが決まったと思った。虎夫さんの斬撃はクリーンヒットした・・・・・・?

影王「スナッチ オブ ヘルス!」

虎夫「ぐわあぁあああ!!!」

大河「パパぁああああ!!!」

 なにが起きたのか?とりあえず、影王VS虎夫は早くも終了するようだ。

龍輝「おい、嘘だろ・・・・・・速い」

 そう。ただ、ただ速い。それが勝負を分けたのだ。影王のそのスピードは、街中での、最初に見た早さとは違った。今は、目にもとまらぬ程、速いのだ。

大河「パパあっ!!」

龍輝「おい大河!待てっ!!」

 大河は走った。父の元へ。だが、影王はそれを見逃さない。問答無用で、素早く大河にも襲いかかる。大河の背後から、その一撃を食らわさんと。

 ブボオワアアアアアアア!!!ビュッ!!!ギィーーーーーーーーン!!!

 炎が凄まじく噴出。次に振り下ろされる刃が空を切り裂く。そして、2つの刃が激しくぶつかり合う。

影王「ほう、間に合ったか」

龍輝「たりめぇだ」

 龍輝は炎操作により限界まで急加速。そして、大河を襲う刃を、なんとか受け止めたのだ。まさに英雄のようなカッコイイ場面だ。もちろん大河に見てほしい。

大河「パパぁ!大丈夫!?どうして動かないのっ!?死んじゃやだよぉ!!」

 それどころではなかった。大河は、自分が襲われた事すら、眼中にないのだ。それよりも、目の前で倒れている父が心配だ。当然ではあるが、龍輝は少ち、いや、少し、残念だ。

虎夫「うぅ・・・大丈夫だよ、たぁちゃん・・・。どうやら、麻痺のようだ」

大河「麻痺?」

影王「麻痺か。当たりだな。まだ殺すには早いからなァ」

 虎夫さんの身体の表面には、黄色いジグザグ線が、ビリビリッビリビリッっと点滅している。いかにも痺れているといった様子だ。

 龍輝は影王の刃を弾き、距離を取る。

龍輝「てめぇ、大河の父親になにしたんだ?」

影王「聞きたいか?」

龍輝「さっさと言えよ、角刈り」

影王「角刈りではない!」

龍輝「いいから言えよ」

影王「いいだろう。その恐怖を知ってから食らうのも、さぞ恐怖恐怖恐怖だろう!!」

 ジ・オーガの刃をベロォっと舐める。そのまま舌でも切れ、と龍輝は思う。

影王「スナッチ オブ ヘルス。文字通り、攻撃を受けた者から健康を奪う技さァ。攻撃を受

   けた者は、ランダムで必ず状態異常に陥る。そして、その効果は重複するゥ。1度受け

   れば1つの状態異常。2度受ければ2つの状態異常、となァ。しかもォ、私は回復する」

 指を1本立て、次に2本立て、自信満々に気持ちの悪い嫌味な笑みを飛ばしてくる。

龍輝「モンスターの捕獲に便利そうだな。だが、人に使うには質が悪い。例え真剣勝負でもな」

影王「そうだなァ。殺す必要のないクソが猛毒になって死んだ事もある。今回は麻痺で助かっ

   たよォ。貴様らが回復アイテムを持っていない事も、実に都合がいい。やはり、神は私

   の味方なのだなァ。八ッハハハハハハアッ!!」

龍輝「神、か。それはどうだろうなぁ?周りを見てみろよ」

 影王は目玉だけを動かすようにして、周囲を確認した。

龍輝「どうだ?てめぇの手下はもういない。計画もバレた。追い詰められたんだよ、てめぇは」

影王「貴様が私よりも強ければ、だろォ?」

大河「確かに追い詰めてる。龍輝にもさっきは逃げてって言ったけど、パパが動けなくなった

   以上それは無理。戦ってこいつに勝つしかない。・・・よしっ。私も手伝うわ!龍輝!」

虎夫「たぁちゃん・・・!」

 体の動かない大河父は、それでもなんとか大河を止めようとする。やはり危険だからだ。

大河「大丈夫だよ、パパ。2対1だもん。絶対に勝つから、安心しててね」

虎夫「だが・・・・・・」

龍輝「大河。気持ちは嬉しいけど、お前はパパさんの傍にいろ」

 大河の目がぐわっと龍輝を見る。

大河「なんでよ!2人の方が」

 龍輝は最後まで言わせない。言葉を上から被せる。

龍輝「いいから!・・・そこで見てろって」

 だが大河は止まらない。更に勢いが増し、

大河「はぁ!?意味わかん・・・な・・・い・・・」

 かけたが減速。

大河「そうだ。私、両足捻挫してるんだった。これじゃ足手まといだから・・・」

 自分の状態に気付く。さっき走ったせいで、余計に痛む。思い出したから、余計に痛む。でも、今で良かったはず。戦いの最中、もし痛みで動けなくなったら。もし、また捻ったら。そう考えると、龍輝に気付いてもらえてよかった。大河は、そう思う。

龍輝「足手まといじゃねぇよ。ただ、ここは1人で戦って勝った方が、カッコイイだろ!」

大河「バカ・・・・・・負けるんじゃないわよっ!!」

龍輝「当たり前だ。これでも、喧嘩は負けなしなんだよ!」

 龍輝は、大河の状態もきちんと見えていた。大河父のところに走った時も、とても両足を捻挫している走りとは思えなかったが、それでも、1歩1歩が痛そうだった。身体がブレていた。大河本人は必死で、その事にすら気付かず、無我夢中で走ってはいたが。落ち着き痛みを思い出すのは、時間の問題だった。

 ただ、龍輝も照れ臭がりで素直じゃなかったりするから、ああいう言い方になるのだ。

虎夫「良いお友達ができたな、たぁちゃん」

大河「うん。初めてのお友達なの」

虎夫「そうか。すまなかったな」

 軟禁生活をしていた大河には、これといって友人がいないのだ。小さな頃にはいたのかもしれないが、あまりよく覚えてはいなかった。

大河「ううん。龍輝が初めてのお友達でよかったって思うから、いいの」

 その言葉に、虎夫さんは、多少なりとも救われる。思わず涙ぐみそうになるが、いい年の紳士なのだ。大河にはバレないように、涙を堪える。

虎夫「友人の為に全力を出してくれるお友達だ。大切にするんだよ」

大河「うん。わかってる。とっても大切な、私のお友達」

 小さな手を、胸の前で小さく握り、大河はとても可愛らしく微笑んだ。まるで、天使の微笑みのようだ。とても人とは思えない程、綺麗に整った、幸せを感じさせる、温かな笑顔だ。

 だが、虎夫さんの余計な一言が、その笑顔を消してしまった。

虎夫「だが、男には気をつけなさい」

 やはり、この人は過保護で心配性なのだ。

大河「もうっ。影王みたいなのには引っかからないわよ。初めから嫌いだし」

 大河の小さなお口はツンととんがってしまった。

虎夫「はははははは。それは安心だな。たぁちゃんには、人を見る目があるのだな」

大河「でしょ♪」

 大河のお口は横に広がった。頬は桃色で上がり、目も細めになり、成長してるでしょ、と言わんばかりに、笑ってみせた。

 この2人だけは、こんな状況にも関わらず、温かな雰囲気に包まれていた。

 

 そして、龍輝と影王は。

 長すぎる程睨み合っていた。龍輝は、大河親子の邪魔をしたくないし、させたくもなかった。だから、なるべく言葉を発する事なく、構え続けていた。いつでも仕掛けるぞ、という雰囲気は出し続けて、影王にも緊張を強いた。まぁ、それで影王が緊張し向き合っていたのかは知らないが。――ただ、影王はブツブツ言っていた。

 ――次の瞬間。

 影王のソーディアが不気味な紫色に輝きだす。影王はそれを、自分の胸へ突き刺す。すると、身体へと吸い込まれるように消えていく。

龍輝「・・・・・・なっ・・・!?」

 さすがにその異常な光景や不気味な紫色の輝きに大河達も気付く。

虎夫「あれは・・・まさか・・・・・・!」

大河「ちょっと・・・なによあれ?龍輝、あんたなにぼさっとしてるのよ!あいつなんかして

   るじゃないの!」

龍輝「お前、そんな言い方はねぇだろ。お前の邪魔したくなかったから静かに止めてたんだろ」

大河「誰も頼んでないわよ。それよりどうするのよ?絶対なにかしでかすわよ、あいつ」

 今回の龍輝の思いやりは、虚しくも散った。大河の猛獣性は、いつどこで飛び出てくるのか、まだ龍輝にはわかりえないのだった。

影王「・・・・・・完全にィ、一体化させてもらったぞォ」

 影王が口を開いた。見た目や声では、なにも変化は見当たらない。

龍輝「なにをしたんだ?」

影王「本当に質問が多いなァ貴様はァ。答えはやり合いながら見つけるんだなァ」

龍輝「そうかよ。その答えを見つける前にダウンすんなよ」

 2人は構える。龍輝の炎は激しさを増し、影王は、身体が不気味な紫色に光りだした。

龍輝「さっそく気味悪いな」

 どちらが初めに仕掛けるのか・・・・・・大河親子は息を飲む。

 そして・・・・・・、

??「はぁはぁ・・・やっと追いついたわぁ・・・はぁ」

 淡いクリーム色のくせ髪を、長く綺麗に下ろし、ドレスのような衣服を着こなした、とても綺麗な女性が現れた。

??「たぁちゃん、よかったぁ無事だったのねぇ」

 大河を、たぁちゃんと呼ぶこの女性。

??「・・・っ!?・・・あな・・・た・・・?あなたぁ!?どうしたのぉ!?大丈夫なのぉ!?!」

 虎夫さんを、あなたと呼ぶこの女性。

 龍輝にも、容易に予想がつく。容姿、言動、全てが物語っている。

大河「ママぁ!?ママまで来ちゃったの!?」

 やはりそうだった。大河のお母上なのだ。

虎嫁「だってぇ、たあちゃん家出しちゃうしぃ、パパだけじゃ心配だったんだもぉん」

 少しほんわかしていて、天然な雰囲気を漂わせている。虎夫さんを1人で必死にここまで追いかけてきたようで、涙目になっている。今にも泣き出しそうだ。

影王「おやおや、来客が多いなァ。勢揃いだ。まァ、手間が省けたがなぁ」

 血走った目が、虎嫁さんを殺すような眼光を放つ。どうやらここで虎嫁さんも捕えるようだ。

虎夫「来ちゃダメだ、虎嫁!」

虎嫁「でもぉ」

大河「そうよママ!早く逃げて!!」

虎嫁「え・・・えぇ・・・そんなぁ、どうしたらぁ」

 はっきりできず、現状も理解できず、もたついてしまう。そして、

龍輝「おいおいっ!マジかよっ!」

影王「やぁ奥様ァ!スナッチ オブ ヘルス!!」

虎嫁「きゃあああっ!!」

虎夫「虎嫁ぁあああ!!!」大河「ママぁあああ!!!」

 影王は速かった。今までにない速さを見せた。龍輝の前から消えるように移動し、虎嫁さんに襲いかかったのだ。変化した鬼の様な手で、その鋭く尖った長く恐ろしい爪で、虎嫁さんを背後から襲ったのだ。

 虎嫁さんはその場に倒れて動かなくなった。様子からして麻痺のようだが、なにかが違う。

影王「ついつい2度も切り裂いてしまった」

 虎嫁さんの背中は2度も切り裂かれ、衣服も大きく切り裂かれている。その背中が顕になる。血液の代わりに赤い光の粒が乱れ飛び、背中の傷も赤く光っている。

龍輝「てめぇ!!」

 龍輝は怒りで影王に斬りかかる。自分が影王を止められなかった事が、悔しくて堪らない。2度も切り裂いた事が腹立たしくて堪らない。どうしても、やはりどうしても、許せない!

影王「そうカッカするな、炎ボーイィ。熱くてたまらんよォ」

龍輝「うるせぇっ!!大河、今の内にママさんを」

 自分が影王を抑えておくからと、龍輝は大河に目配せをする。

大河「え、あっうん!お願い!」

 大河はその小柄な軽い身体を活かして、素早く母の元へ移動した。そして、素早く虎嫁さんの脇へ細い腕を通し、父の元へ運ぶ。小さな身体で一生懸命一生懸命、母を引きずりながら。

影王「1ヶ所に集めてくれるのか?助かるなァ」

龍輝「うるせぇっつってんだろ。刈り上げ」

 大河はなんとか、父の元へ母を連れきた。

虎夫「ママは・・・?」

 大河はファミリーリストから、虎嫁さんの状態を確認する。

大河「・・・麻痺2倍みたい・・・。ママ、物凄く辛そう・・・・・・」

虎嫁「はぁ・・・はぁ・・・」

 どうやら、2回の攻撃で受けた状態異常は、その2回とも麻痺だったようだ。だが2倍・・・。

影王「麻痺2倍かァ。心肺機能にまで影響をきたすぞォ。さぞ苦しいだろう!いい表情だもん

   なァ!!ダァハハハハハハア!!」

大河「ママぁ!しっかりして!もう少しの辛抱だからねっ!龍輝!!早くそんな奴倒しちゃい

   なさいよ!!ボッカーンって炎でやっちゃいなさいよ!!」

 心配する儚げな表情から、鋭い目つきの強い表情まで、よくコロコロ変わる奴だ。

龍輝「ったく。任せとけって!!」

 影王もやる気は満々だ。

影王「万が一、そのクソアマに窒息死とかされて飛ばれても面倒だァ。さっさと始めようかァ!」

龍輝「そのスナッチ オブ ヘルス。当たんなきゃいいんだろ」

影王「私の速さがあれで限界だと思うなよォ?・・・貴様に私の攻撃を見極められるかな?」

 すると、影王の身体が変化を始める。今度は片腕だけではない。全身が不気味な紫を放ち、両腕、両肩、両胸、両足、顔までもが、異形のものへと変わる。

龍輝「おいおい、えげつねぇな」

 褐色の肌、バッキバキに割れた筋肉のようなものを纏った肉体。眼光は赤い光を放っている。

影王「これはァ、とある闇の機関の研究の1つさァ。私の能力はねェ、人工的に得たものだァ。

   ゲーム面の特徴を最大限に利用し、人をデータ化する。そしてェ、そのデータを改良す

   るゥ。そうして、新たな力や能力、属性までもを得る事ができるのだァ。私は、その成

   功事例の1つだよォ!ビビったかねぇ?」

虎夫「・・・やはり・・・!」

龍輝「いや、汚ぇゴブリンで引いたわ」

 正直、龍輝はもちろん驚いている。ただ、今から戦う相手に、そんな姿は見せたくない。

影王「ブゥワハハハハ!殺すゥ!!!」

 先に動いたのは影王。その、人よりも2倍はある巨体からは想像もできないスピードで動き回る。どうやら龍輝を攪乱しているようだ。そうして確実に1撃で仕留めるつもりなのだろう。

影王「地面にへばりつくんだなァア!!スナッチ オブ ヘルス!!連ッ!!!」

 スナッチ オブ ヘルスの連続技。それは目にも止まらぬ速さで龍輝を襲う。

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