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★ソーディアを持つ者たち★

一方その頃。大河はと言うと・・・・・・。

 ――ここは獣道。登山の際に使われる道だが、普段ここを通る人はほとんどいない。そんな道にいた。

 その獣道で――細くうっすら開いたそれは、次第に大きくなり、パチクリパチクリ動作を開始した。そして・・・・・・怒号が乱れ飛ぶ。

大河「ちょっとなによこの格好!?あんた達っ!こんな事していいと思ってるの!?パパにバ

   レてもいいのっ!?早く解きなさいよっ!クビになっても知らないわよっ!」

 猛獣が牙を剥き出し吠え始めた。

影王「やれやれ。まったく。相変わらずうるさいクソのような小娘だな」

 その影王の言葉に、まだ正体を知らない大河は一瞬言葉を失う。自分の聞き間違いかと、思い返す。でも、どう考えても、それはそのままの事で、

大河「・・・・・・はぁっ!?・・・・・・。えっ?ク、クソ女って・・・!?なにっ!?な

   んなのっ!?どうしちゃったのよっ!?・・・あんた、それでも執事なのっ!?頭でも

   ぶつけたのっ!?」

影王「どうもしていないさ。これが本来の私達なのだよ。・・・大河お嬢様、正直、貴様のよう

   なクソ小娘、話したくもないところなのです。だが、もう少しなのだぁ!この計画の為

   に来てもらおうかぁ!!あまり喋るなよぉ?」

 影王は徐々に感情が高ぶり、悪党の顔を大河にも見せつける。そして、喋るなと警告するが、

大河「なに?わけわかんない。計画ってなによ?本当は執事じゃないの?執事のふりしてたっ

   てわけ?・・・それなら・・・・・・許せないっ!みんなに謝れぇっ!!」

 黙るどころではなかった。吊るされたままではあるが、感情のままに命令するのだ。だが、もちろん、そんな姿では効果はない。というかもはや、こんな姿じゃなくても、効果はない相手なのだ。

影王「喋るなと言っているのが分からんのか。・・・少々痛めつける必要があるようだな」

大河「やめなさい!あとで後悔するわよ!」

影王「どう後悔するのか楽しみだなぁ」

 大河は睨みつける。が、その瞳にあるのは、いつもの獰猛な目つきだけではない。恐怖を感じている。でもそれをバレないように、怒りで必死に打ち殺している目だ。大河だって、少なからず恐怖を感じているのだ。

手下「マスター、あまり傷つけると今後の進行に影響が出るかも知れませんぜぇ」

影王「なぁに、服の下なら見えはせんさ」

 そう言うと影王は、不気味に大河へ視線を送る。

影王「さぁお嬢様ぁ、切り刻まれるか、殴り蹴られるか。どちらがお好みでございますか?」

大河「ふっふざけるなっ!いい加減にしろぉっ!!」

 大河は負けじと、必死に叫ぶ。でも、やはり効果はない。むしろ煽ってしまうのだ。

影王「あぁなるほど、そうでございますか。良い具合の加減が良いとぉ?つまり皆の慰み者が

   良いという事でございますかぁ!!」

手下「それはいいですなぁマスター!最近ご無沙汰の者ばかりですし、なんせ傷もつかねぇ・・・

   外には。ウヒヒヒヒィ」

 大河は、恐怖、気持ち悪さ、その負の感情の為に身震いする。

大河「ひっ・・・・・・最低っ」

 ガサッガザザッガサッ。ザッザッザッザザザザーザザッ!!

 草木が弾かれ揺れる音。腐葉土を踏みしめる音。それらが迫り、大河達のすぐ後ろで静止。

 その気配に、大河はもちろん、影王達も振り返る。その音の発生源を目視し確認する。

大河「・・・・・・っ!!!」

影王「貴様っ・・・・・・!?」

 それは、

龍輝「ハァッハァッ・・・やっと・・・やっと追いついたぜっ。じゃ・・・返してもらおうか、

   俺のお客様ともだちをよっ!!」

 もちろん、大河の待ち望んだ救世主だった!

大河「龍輝ぃ!!」

 思わず大河は素直に叫ぶ。

龍輝「おう!待たせたな大河!すぐに助けてやるから、もう少しだけ待ってくれな!」

大河「だ、誰も待ってなんかないわよっ。それに遅いのよ。なんで私こんな格好でこんなとこ

   ろにいるのよっ。こうなる前に助けなさいよねっ!」

 やはりどんな状況でも大河は大河なのか。一同がそう思った。

龍輝「おいおい。さっきの待ちわびた主人公が来て喜ぶヒロインの顔はどこに行ったんだ?」

大河「なによそれ?意味わかんない」

 という大河。でも、なんだかモジモジしている。どうやら本当の感情は別にあるようで、それを素直に搾り出そうと頑張るあまり、奇妙な表情になっているようだ。口はアウアウ開閉し、視線は定まらない。妙な汗が滲み出る。。そして、ふぅー、と一呼吸して、

大河「・・・・・・でも、来てくれてありがと」

龍輝「おう!」

大河「だから、お願い・・・私を・・・助けてください?」

龍輝「おい!もちろん助けるけど、その為に来たんだけど、なんで疑問系なんだよ?」

 突っ込むべき所に突っ込んだ。

大河「その、敬語なんて普通つかわないじゃない?だから・・・わかんなくて」

 どうやらこのお嬢様は、敬語も知らないというか、使い慣れていないようで、

龍輝「今更敬語なんて、俺達には必要ねぇだろ。もう友達なんだ。だからこういう時は、素直

   に助けてくれって言ってくれていいんだぜ!さっきみたいにな!その方が、助ける俺も

   燃えるしな!!」

大河「ホントに?」

龍輝「あぁ、本当だ。遠慮はいらねぇよ!」

大河「わかった」

 すると大河は大きく息を吸い、

大河「私を助けなさいっ龍輝っ!!報酬は弾むわよぉ!!」

 思いっきり伝えた。

龍輝「おいおい。友達から金とか取れねぇよ。でも、それでいいっ!任せとけ大河っ!!」

大河「えへっ(笑)」

 嬉しいのか冗談混じりだったのか、大河は笑って見せた。

 ドゴォオオオン!!

 大木に衝撃が走り、空気がビリビリと振動する。

影王「無駄話はその辺にしてもらおうか」

 影王が大木に裏拳を放ったのだ。だがそれだけではない。別の意味でも空気が震えている気がするのだ。恐らく、いや、あの顔は間違いなくキレている。

影王「ぁぁぁあのクズ共がぁっ!満足に足止めもできんのかあっ!!・・・ハァハァ・・・。

   後で始末する必要がありそうだな・・・。クズは私のギルドにはいらん!」

 影王の顔は怒りで歪みまくっている。なんとか自分で落ち着きを取り戻そうとはしているようだが、眼鏡の下のその目は、真っ赤になるくらい血走っている。極悪人であり悪魔のような、そんな恐怖絵図な顔なのだ。

大河「・・・ぇ・・・うぁ・・・う・・・ぁ・・・・・」

 大河はドン引きして言葉も出ない。龍輝も驚いている。だが、

龍輝「知ってるか?グループってのはな、必ずダメな奴がいるもんさ。けどな。そのダメな奴

   を切り捨てても、グループの成績は上がらない。しかも、その残ったメンバーの中から、

   新たにダメな奴が出ちまうんだ」

 なにかを語り始めた。

影王「・・・相変わらず無駄口が多いクソガキだなぁ・・・」

龍輝「じゃあどうやってグループの成績を上げるのか?それはな、芋づる式だ。上位の成績が

   上がれば、全体の成績も上がる」

影王「・・・なにが言いたい」

龍輝「わからねぇか?上に立つてめぇが、無能だって事だろ」

 この期に及んで、挑発するような事を言う。龍輝も負けず嫌いなのだ。特に、認めもしていないこんな年上男で最低な悪党野郎だ。絶対に負けたくはなかった。ビビッているなんて、絶対に思われたくないのだ。

 そして影王は。年下のクソガキに無能と言われているのだ。顔は更に見る見る歪み、頬はピクピク、ビクビク痙攣している。

 怒り爆発寸前。そんな顔だ。正確に言うのなら、すで怒りも漏れている。そして気持ち悪い。

影王「・・・・・・。もうやめだぁっ!邪魔はする。私を侮辱する。・・・私も随分気が長くな

   ったと思うのだがなぁ。だが、貴様は殺すとしようじゃあないかあっ!」

 その言葉に大河も口を開く。というか、さすがに黙ってはいられない。

大河「っ!?ちょっと殺すってあんたねぇ!!」

龍輝「へぇ~♪どうやって殺すんだ?ここも街エリアだ。力尽きても再生エリアで復活するぜ。

   頭に血が上ってそのくらいの事も忘れちまったか?」

大河「あんたもいい加減にしなさいよね」

 まだ神経を逆撫でするような事をペラペラという龍輝に、さすがに注意する。が。龍輝の顔は、そう余裕でもなかった。こめかみからたらりと汗を一筋流し、とても緊張した表情で影王を見つめていた。

大河(今の龍輝、私を街で助けてくれた時の龍輝だ)

 心でそう呟く。

 それに対し影王は、怒りはしているものの余裕な笑みを浮かべる。

影王「なぁに、方法は2つあるさぁ。再生エリアに飛ばされる直前まで甚振り苦しめぇ、そし

   て回復させる。そしてぇ、再び甚振り苦しめる。これを延々と繰り返すんだよぉ。貴様

   の精神が崩壊するまでなぁ!これが1つ目だぁ。どぉぅだぁ?楽しそうだろお?」

龍輝「ワイルドだろお~みたいに言ってんじゃねぇよ。いい感じにえぐいし寒いじゃねぇか。

   まぁせっかくだ。もう1つも聞いとくか。もちろん楽しいんだろうな?」

大河「ちょっと龍輝。あいつヤバイってば!あんまり挑発しない方がいいよ」

龍輝「どうせこいつは最初から、俺たちを無事に解放する気なんてなかったと思うぜ」

影王「フフフフフフ・・・いい度胸だ。ならば教えてやろう!これは1つ目と違い極々シンプ

   ルなんだがなぁ。たぁだお前を捕まえるだけぇ。そ~してぇ、フィールドに引っ張りだ

   し~殺すっ!!」

 本当に、本当に、気持ちの悪さが増していく。嫌味ったらしい物言いも、癪だ。そして、不気味な恐怖もまた鬱陶しい。

龍輝「そうか。確かにそれは簡単だな」

大河「え?どうして?無理矢理フィールドの外まで運ぶのって大変じゃないの?」

 確かにそれもある。暴れられれば運び辛いし、人目にもつく。

龍輝「お前、自分が運ばれて気付かないのか?」

大河「・・・?・・・・・・あっ、そうだった」

龍輝「だろ?なにも戦って甚振って、表示されないHPを減らさなくてもいいんだ。眠らせた

   り、麻痺らせたりすれば、あとは運べばいいだけ。街ではどうにでも隠せるだろうし、

   簡単だろ」

影王「その通り。HPが見えない以上、うっかり甚振り過ぎると飛んでしまう事もあるかなら

   なぁ。いや、あったのだがねぇ。フフフフフフフ・・・・・・」

 飛んでしまう、というのは、力尽きて再生エリアへ飛ばされた、という事なのだろう。

大河「あんた達・・・人殺しなの?」

 大河は、不安と恐怖を浮かべ問う。

 その返答はNOであってほしいのだが、

影王「似たようなものだ。人殺しが専門ではないが、殺す事も、大いにありうるかもしれない。

   というだけの話しかなぁ?」

 YESでもNOでもない。実に曖昧な答えだが、それは限りなくYESに近いと言っていいのかもしれない。そういう十分に最悪な答えだった。

大河「あんた達一体どうしたいの!?なんでこんな事するのよ!今まで半年間私の家で働いて

   たじゃない!なにか不満でもあったの!?それで、いつの間にかこんな事を始めちゃっ

   てたの!?」

龍輝「大河・・・お前」

 大河は、こんな最低な野郎で例え悪党でも、それでも原因を探ろうとしているようだった。万が一にでも、自分達のせいで、その日常の中でのストレスが原因だったら、とでも、考えているのだろうか。執事になった後に、そのストレスでこういう事を始めたのかも、とでも、考えているのだろうか。それに、軟禁されている大河にとっては、こんな奴らでも、一応は家族みたいなものなのだから、曖昧のままにはしたくないのだろう。

龍輝「・・・優しいな」

 その垣間見える優しさは、影王にはこれっぽっちも届かない。

影王「不満か。あると言えばある。いや、むしろ不満しかないな。クソ共に囲まれたクソつま

   らない日常。バカなクソお嬢様の子守。クソメイドも少しからかえば嫌な顔をする。ま

   ぁだから、チクらないように脅してやったがなぁ。私の権限でクビにする、と。そうや

   ってうまく耐えてきたのだよぉ。・・・・・・初めからなぁ」

大河「なによそれ・・・・・・じゃあなんで執事になったのよ?・・・なにが目的なの?」

 確信に迫ろうとしていた。

龍輝「あぁ、そろそろ話してくれねぇか?確か、計画とか言ってたな」

大河「計画・・・?」

 影王は眼鏡の奥で、自信気に笑み始めた。

影王「そう、計画さ」

龍輝「初めから、こうやって金でも奪い取る気だった、とかか?」

大河「最低ね」

影王「相変わらず察しがいいなぁ。お前、悪人の才能があるんじゃないのか?」

 正真正銘の悪党に、悪人の才能があるなんて言われた龍輝は、内心、傷つきかける。だが、絶対に負けるわけがないし、そんなの認めたくもない。

龍輝「そんなの真っ平御免蒙る。仮にもし悪人の才能とやらがあってとしても、それは人助け

   の為に利用するさ!」

大河「さっすが龍輝!」

龍輝「おう!」

 龍輝の前向きな人助け宣言。この場面でも臆する事無く決めてみせる。それに大河も励まされる。

龍輝「それじゃあいい加減、話せよ。その計画をよ。てめぇら、追い詰められてるんだぜ」

影王「フフフフ・・・フハハハハハアッ!貴様1人にかぁ?フッハハハハハハァ、傑作傑作だ

   なぁ!・・・まぁいい。話してやろう。死に土産にでもするんだなぁ!」

龍輝「しねぇよ。死なねぇし。お前に負ける気もしねぇしな」

影王「カッコイイなぁ英雄君♪」

 嫌な笑みを余裕で浮かべ、人をゴミでも見るような目で見てくる。こいつの態度は酷くなるばかりだ。でも、決して、街にいるチンピラとは違う、危険な雰囲気を纏っているから厄介だ。

龍輝「いいからさっさと話せ」

影王「はぁ。短気は損気だと言うのにな」

手下「マスターがそれを言いますか(笑)」

 常に無口で必要な時以外口を開かなかった手下が、ついぼそりとツッコミを入れた。だがそこは、静かな茂みの中なのだ。

影王「聞こえているぞぉ~!!」

 影王の鋭利な眼光が、それを言った手下に向けられる。

 次の瞬間。

手下「うわあああっ!!!」

 それは起こった。

龍輝「っ!?」大河「ぇっ・・・!?」

 影王が左手を振るうと、その手下が吹き飛ばされた。その手下は大木に叩きつけられ、そのまま凭れかかる。

手下「す・・・すみま・・・せ・・・ん・・・・・・」

 そして、目を閉じると、力が抜けたように倒れこむ。すると、身体が光り、弾けるように光の粒となり、天へ飛び、消えた。どうやら力尽き、再生エリアへ飛ばされたようだ。きれいだった。でもそれは、一撃でHPがなくなる程、凄まじいダメージを受けたわけだし、それ程、苦しかったはずだ。

龍輝「・・・てめぇ、仲間じゃねぇのか・・・!」

  (許せねぇ・・・でも、なんださっきの手は・・・!?)

 龍輝と大河の目に、一瞬映ったそれは、人のそれではなかった。決して、人のそれではなかった。・・・・・・攻撃の瞬間だけ、変化したのだ。それはゴツゴツしていて、岩のようで、いかにも硬そうな筋肉の塊で、褐色で。鋭利な爪も有していた。そんな腕に、変化したのだった。

影王「話の邪魔だったのだ仕方あるまい。貴様もそう思わなかったか?」

龍輝「強いて言えば、手下の言う通りだと思ったね。短気野郎さん」

 ここでビビった態度は見せられない。龍輝は驚いた様子もないように振舞う。あくまでも、こいつに負ける気はないのだから。

影王「今のを見てまだ強気とはな。無理も程程にするんだな」

龍輝「無理なんかしてねぇよ」

影王「じゃあ1つ、忠告してやろう。武器を装備しておくんだな。また、タイミングを失うぞ?」

 それは、街での最初の遭遇時の事。龍輝が装備のタイミングを見つけられなかった時の事。

龍輝「へっ。バレてたのか。それじゃあ忠告通り、装備させてもらいますか」

 そう言うとすぐに装備するわけでもなく、龍輝は大河を見る。その眼差しは悲しげに見えた。そして、罪悪感も匂わせる。

大河「え?なに?」

 大河には、なぜ龍輝がそんな目で自分を見ているのか、もちろんわからない。

龍輝「・・・ごめんな、大河」

大河「え?」

 龍輝はそう言って、ウィンドウを開き操作する。剣の形をした光が現れ、それを手に取る。右手と左手の、両手に装備する。

龍輝「俺は長剣二刀流なんだ」

 龍輝の左手には初期装備の長剣。そして、右手には・・・・・・。

大河「!?あんた・・・それ・・・・・・!?!」

 大河の瞳は大きく見開かれ、口はぽかんと開いたまま。

龍輝「・・・ごめん」

 大河の口は堅く閉じられ、瞳に力が入る。そして、口が力一杯開かれ、

大河「なんでよ!なんでソーディアなんて装備そてるのよ!約束したじゃないっ!!」

 力一杯、心から叫ぶ。

龍輝「・・・・・・ごめん」

 龍輝は、それ以上なにも言えなかった。お前を助ける為、なんて言えなかった。だってそれは、ソーディアを装備した事を、他の誰でもない、大河のせいにしてしまう言葉なのだから。だからこそ、ただ謝る事だけしか、できなかった。

 大河の瞳には大粒の涙が溜まり、ゆらゆら、ゆらゆら、大河に合わせて揺れていた。そして、

大河「なんでよぉ。なんで・・・私なんかの為に、そんなの装備しちゃうのよぉ・・・。あん

   なに言ったのにぃ。ダメだってぇ。言ったのにぃ・・・・・・。ほんとバカなんだから

   ぁ・・・。ごめんねぇ・・・でも・・・ありがとぉ・・・ほんとはダメだけど。ほんと

   にダメだけど・・・でも・・・でもぉ・・・・・・ありがとおっ!!」

 大河が俯くと同時に、瞳に溜まった涙が、零れ落ちた。

龍輝「あぁ、ありがとな。泣いてくれて」

大河「泣いでなんがだいわよおっ」

龍輝「そっか」

大河「ばか」

 お互いの意思は疎通する。その大河の優しさに、龍輝は少なからず救われた。涙ぐみそうになった。こんな状況でなければ、両手が開いていたら、目の前に敵がいなければ、頭くらい、抱きしめてやりたかった。

 そんな2人の淡い感情を、奴はぶち壊してくる。

影王「いやいや、ソーディアとは驚いた。だが、話から察するに、レベル1のソーディアのよ

   うだな。しかも、装備したばかり、恐れるに足りんな。この・・・私のソーディア。ジ・

   オーガの前にはゴミ同然っ!」

 その影王の言葉に一瞬思考が停止するが、すぐに急速回転で整理する。そして、驚いたのはこちらだと言わんばかりに言葉を投げる。

龍輝「って事はだな、つまり、さっきのアレは!?」

 影王は、皆を言わずとも聞きたい事はわかる、といった感じで、

影王「鬼の手、だとでも言っておこうかな。私は変身能力使いであり、ソーディアの使い手で

   もある。まぁ先程のあれは、ソーディアというよりも、私個人の能力と、このソーディ

   アの合わせ技、なのだがね」

龍輝「合わせ技、だと?」

影王「ん?気付かなかったか?私が変身能力を使う際、このソーディアも取り込むのだ。そう

   すれば、圧倒的なパワー、スピード、それらを発揮する事ができる。無論、それだけで

   はないがね」

大河「・・・そんな。龍輝はソーディアを装備してまで私を助けようとそてくれてるのに・・・。

   それなのに、あいつもソーディアを使うなんて・・・。しかも、格が違い過ぎるよ・・・・・・」

 その現実に、大河は動揺する。

 ソーディアを装備したばかりの龍輝。ソーディアを使いこなしている影王。もし、影王が本当に使いこなしているのだとすれば。その差は、絶望的にも思えるのだ。

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